壊れゆく渋谷にて

真里谷

読み切り(脚本)

壊れゆく渋谷にて

真里谷

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〇渋谷のスクランブル交差点
  渋谷が見えた。成長し続ける街。いつまでも若々しく、あらゆる輝きが詰まった街。
  今、自分はどれだけ輝いているか。そんなことを思ってみたりもする。滑稽な話だ。
「おーい」
  声をかけられた。振り返ると、そこには金髪の女の子がいた。まるで、夏の太陽のようにまぶしく輝いている。
  彼女は隣に立つと、渋谷の街を眺める。彼女もまた、この街の一部だ。というより、この街の輝きそのものかもしれない。
  どうしたんですか?
少女「別に。ただ、さっきからずっとぼーっとしてるから、大丈夫かなと思ってね」
  そんな風に見えましたか
少女「うん。まあ、私だからわかることだけどね」
  そう言って笑う彼女につられて、自分も笑ってしまう。彼女の笑顔には、不思議な力があると思う。
  それはきっと、彼女自身の魅力なのだけれど。
少女「最近、調子悪そうだよね。何かあった?」
  いえ、特に何もないですけど
少女「ふーん。そっか」
  それ以上は何も聞かず、彼女は前を向いて歩き出す。
  ああ、こういうところが好きなんだな、と思った。
  自分よりも年下のはずなのに、たまにとても大人に見えることがある。それがうらやましくもあり、そして憧れでもある。
  だが、永久に追いつくことはなく、近づくことすら許されない憧れだ。
  あの・・・
少女「ん、何?」
  ありがとうございます
少女「いきなりなんのこと?」
  いえ、なんでもありません
  本当はもっと違うことを言いたかったのだが、言葉にすることはできなかった。
  自分の感情を伝えることが、こんなにも難しいとは思わなかった。
  でも、いつかちゃんと伝えよう。この気持ちだけは嘘じゃない。
  じゃあ、行きましょうか
少女「うん」
  長い夏が、終わりを迎えようとしている。それでも、この街は変わらず輝いていた。
  もうすぐ冬が来る。寒さと共に訪れるものは、いったいなんだろうか。
  寒々しい別れか、哀悼にも似た粉雪か。
  いずれにしても、そこに秋のさみしさが入る余地はない。感傷的になるには、人類はあまりにも余裕を失いすぎた。
少女「"Today is a good day to die."」
  それは?
少女「海の向こうの賢者は、こう言ったそうだよ。『今日は死ぬにはいい日だ』ってね」
  ドキッとしちゃいますね。でも、それを今言う必要が?
少女「もちろん」
  彼女は笑った。そして、その小さな体格には似つかわしくない、大きな銃を手の中に生み出した。
少女「今日の私は、死ぬにはいい日だよ」
  渋谷の輝きが、悪魔的なぎらつきへと変わる。
  流行の最先端だったこの街は、人類社会の滅びの最先端になった。人が作り上げた街は、「人を喰う街」に変貌した。
  あるいは、もともと怪物だったものが、ついに正体を現したのかもしれない。
  このビル群に丸ごと食われた人間の数は、正確な数値を算出できていない。
  それはあっという間のことで、しかも、世界中の街が「食人都市」の本能に目覚めた。
  だが、私もまた、別の意識に覚醒したのだ。この街の怪物たるものを撃つという使命と、隣を歩く少女の存在に。
少女「準備はOK?」
  ダメな理由がありませんね
少女「ふふっ、ホント、死ぬにはいい日だね」
  私は、貴女と生きるにはいい日だと思ってますよ
少女「あら、嬉しいな」
  彼女は笑いながら、引き金を引く。
  世界の終わりを告げるような「渋谷の叫び声」が響く。
  そして、私は、「私にしか見えない金髪の少女」とともに、決死の領域へと足を踏み入れる。
  ここは渋谷。かつて絢爛に栄えた街。
  今は、壊れた私と私だけの少女がその使命を果たすため、打ち崩されるべき運命にある街だ――。

コメント

  • 会話の中の感情描写がすごく良かったです。
    少女との会話の端々に、不安とそれを打ち消すような明るさがあって、それがちょっと怖かったです。

  • 視点の使い方が面白いなぁと思いながら
    読んでおりました😌
    死ぬにはいい日、そう思えることは幸か不幸か
    難しいですね🥲

  • 死ぬ日…その時が来ないと感じることはできない気持ちなのかなぁ。
    死ぬには丁度良いって考えたことはないですが、死ぬなら苦しまず迷惑かけず死にたいなぁとかは思ったりします笑

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