クードクラース

イトウアユム

第19話「バトルロワイヤル」(脚本)

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〇メリーゴーランド
小早川亜里寿「ましろお姉ちゃん、ここまでおいで」
  亜里寿は園内を楽しそうに走り、
  ましろはその後を追いかける。
  2人が行き着いた先はメリーゴーランド。
小早川亜里寿「わあ・・・なんて綺麗なんだろう。 そういえば・・・」
小早川亜里寿「ボク、追いかけっこって初めてなんだ。 お姉ちゃんは?」
黛ましろ「私も・・・初めてかも」
小早川亜里寿「じゃあ今日は思いっきり楽しもうよ! お互い、捕まったらそこでお終いの 究極の鬼ごっこ!」
黛ましろ「捕まったら・・・? あなたの間合いに入ったら、じゃないの?」
黛ましろ「一瞬で首を斬られてお終い。 合理的で画期的な処刑道具でね」
小早川亜里寿「え? なんで分かるの、 ボクのカードの効果が・・・」
黛ましろ「・・・セルベールが言ってたの」
黛ましろ「タロットの武器に拷問具や処刑具の モチーフが多いのには、意味がある」
黛ましろ「拷問や処刑は人間が作ったもの、 それで殺し合う事に意味があるって」
黛ましろ「だから推測したんだ。 世界のカードの意味は完成」
黛ましろ「つまり完成された処刑道具と言えば ――ギロチン」
黛ましろ「・・・って、セルベールなら言うかなって」
小早川亜里寿「すごいや、ましろお姉ちゃん!」
小早川亜里寿「その通りだよ、セルベールはギロチン こそ慈悲深い、完璧な処刑道具だって 言ってた」
小早川亜里寿「辛いゲームが一撃で終わる、 いわば救いの一撃のカードだって」
小早川亜里寿「そういうのってなんて言うか知ってる?」
小早川亜里寿「クードクラースって言うんだって」
小早川亜里寿「――だから、ボクがお姉ちゃんに 与えてあげるよ。最後の一撃を」

〇遊園地のプール
  ひび割れたアスファルトに、
  蒼緑の淀んだ水を湛えるプール。
篠宮青紫郎「――悪魔発動(オープン・デビル)」
  鉄製の大きな蜘蛛の鉤爪と鉄製のワニが
  牙をむいて静に襲い掛かる。
綾瀬静「――審判発動 (オープン・ジャッジメント)」
  静は斧を振り、鉄の獣たちを粉砕し、
  攻撃を防ぐ。
篠宮青紫郎「随分とふっきれたみたいだね。 もっと悩んでくれても良かったのに」
  攻撃の手を止め、
  青紫郎は皮肉交じりに静を挑発する。
綾瀬静「――悩んだところで、 お前は昔のお前に戻らないだろ」
  だが、静の瞳はもう揺らぐ事は無かった。
綾瀬静「何がお前を狂わせたのか、それとも出会ったときから狂っていたのかわからない」
綾瀬静「でも、お前の存在に、 俺が救われていた時もある事は事実だ」
綾瀬静「なによりも淡紅子と俺を 出会わせてくれた事には感謝してる」
綾瀬静「だからこそ、俺はお前を殺す―― もうお前は救えないから」
綾瀬静「そしてお前の事は、忘れる。 それが・・・淡紅子の望む事だ」
篠宮青紫郎「・・・静」
  青紫郎は静に淡紅子の姿が
  重なって見えた。
篠宮青紫郎「淡紅子が言ってたんだ。 キミの記憶にも、思い出にも・・・ 僕を存在させないって」
篠宮青紫郎「僕の思い通りにさせない、 キミを絶対に、渡さないって・・・ 憎しみを込めた目で睨んでね」
  青紫郎は頭を振って、膝を地面に付いた。
  その肩は小刻みに震えている。
篠宮青紫郎「・・・静、 僕だって本当はこんな事はしたくない」
綾瀬静「青紫郎?」
篠宮青紫郎「でも、衝動が抑えられないんだ・・・ 僕の手の中で命が消えていくたびに、 酷く後悔して、死にたくなるのに・・・」
篠宮青紫郎「人を殺したい衝動が収まらない・・・ 止められないんだ」
篠宮青紫郎「どうしたらいいかわからない・・・」
篠宮青紫郎「なのに妹にも、キミにも憎まれて・・・ 僕は、僕は・・・」
  俯く青紫郎の表情は分からない。
  しかし、その声は涙声で・・・
  しゃくりあげるようにも聞こえてくる。
綾瀬静(もしかしたら・・・ 青紫郎はずっと苦しんでいたのか?)
  地面に膝を付き、むせび泣く青紫郎。
  その背はまるで子供の様で・・・
  静は思わず近づいた。
綾瀬静「・・・お前は、後悔しているのか」
篠宮青紫郎「ああ・・・とても後悔している」
篠宮青紫郎「もっと早く、キミを殺せば良かったってね――死神発動(オープン・デス)」
  瞬間。
  静の体は斬り裂かれ、
  辺りに血飛沫をまき散らした。

〇メリーゴーランド
小早川亜里寿「あはは! やっぱりお姉ちゃんは凄いね、 同時に3つもカードを使うなんて」
  まっぷたつに切り裂かれた縄や杭、
  そしてバイクの残骸を踏み潰しながら
  亜里寿は笑う。
  彼の間合いに入った途端、これらは無残
  にも2つに切り裂かれてしまったのだ。
黛ましろ(これが世界のカード・・・ 間合いに入ったら、斬られてしまう・・・)
黛ましろ(それなら・・・)
  突然、
  ましろは亜里寿の腕の中に飛び込んだ。
小早川亜里寿「わっ!」
  驚く亜里寿を
  ましろはぎゅっと抱きしめる。
小早川亜里寿「ふふ・・・どういう意図があるか 分からないけど・・・嬉しいや」
黛ましろ(まだ発動しちゃ駄目・・・今発動したら、同時に愚者のカードで無かった事にされる)
  亜里寿は嬉々としてましろを抱きしめ返し
  耳元で囁いた。
小早川亜里寿「ましろお姉ちゃんの最後は・・・ ボクが抱きしめて迎えてあげるからね」
小早川亜里寿「――世界発動(オープン・ワールド)」
黛ましろ(・・・私の首を斬られた直後に、 きっと一瞬隙が出来る)
黛ましろ(それを突いて女教皇のカードを発動させる)
黛ましろ(・・・大丈夫、私は死なない。 だって静は絶対に・・・勝つから)
  その確信があったからこその、
  捨て身の攻撃。
黛ましろ「――女教皇発動 (オープン・ハイ・プリーステス)」
  詠唱の声と共に。
  ましろの首は大きな弧を描いて宙を飛び、地面に落ちた。

〇遊園地のプール
  血の海にうつぶせに横たわる静は
  動かない。
  死神の鎌を持ったまま、青紫郎は呟いた。
篠宮青紫郎「昔のキミは・・・自分に近づこうとする 人間全てに対して手厳しく、そのくせ 不安定で脆い硝子の様な存在だった」
篠宮青紫郎「そんなキミが僕にだけ 感情を溶かしていく姿」
篠宮青紫郎「それが僕の欲望を全て刺激してくれた」
篠宮青紫郎「・・・なのに」
篠宮青紫郎「――キミは何故、誰にでも豊かに感情を 示す、そんなつまらない男になった?」
篠宮青紫郎「挙句に僕を忘れる? 僕をこんなに固執させて?」
篠宮青紫郎「そんな事・・・許さない」
篠宮青紫郎「どうだい? 自分が見殺しにした最初の 契約者のカードで殺された気持ちは?」
篠宮青紫郎「キミは悔しんで、後悔して、僕の事で頭をいっぱいにして殺されるべきなんだよ」
綾瀬静「――そんな死に方してたまるか」
篠宮青紫郎「!」
  ゆっくりと起き上がる静に
  青紫郎は目を見張る。
綾瀬静「――まったく、 俺の人を見る目の無さは蓮を笑えないな」
篠宮青紫郎「・・・なんで生きている? 確かに致命傷を与えたはずなのに!」
綾瀬静「――節制発動(オープン・テムペランス)」
  静は答える事無く、自分の血が流れ込んだプールの水の壁で青紫郎を包んだ。
  もがきながらカードを召喚しようとする
  青紫郎に追撃の手を休めない。
綾瀬静「――恋人発動(オープン・ラヴァーズ)」
  青紫郎は水中で手枷と足枷に拘束され、
  口枷も嵌められて召喚も、カードを
  取り出す事も出来ない。
  恐怖で歪んだ表情の青紫郎に
  静は淡々と告げた。
綾瀬静「お前が最後、俺を斬りつけた死神のカード」
綾瀬静「あのカードの効果を勘違いしていたのが 運の尽きだな」
綾瀬静「あのカードでは・・・人を殺せない」
綾瀬静「死神の鎌で傷つけた傷は治る事が無いんだ」
綾瀬静「タロットカードの意味の通り、 死と再生を繰り返す」

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