第20話「救いの一撃~クードクラース~」(脚本)
〇白
黛ましろ(あれは・・・ 私以外のタロットが融合したモノで・・・)
黛ましろ(私が加わればタリスマンになる、 モノ・・・)
???「・・・ましろ」
光の中から自分を呼ぶ愛しい声。
黛ましろ「静っ!」
ましろは喜びのあまり、
静の腕の中に飛び込む。
自分を抱きしめ返す確かな力。
その温かさと心地良さに安堵する。
黛ましろ「静が・・・勝ったんだね」
綾瀬静「ああ・・・ましろのおかげだ」
黛ましろ「あのね、静。・・・私、すごく幸せだよ。そしてこれからも・・・きっと幸せ」
黛ましろ「だって私はタリスマンになって・・・ 淡紅子さんの中で、 ずっと静に想って貰えるんだから」
綾瀬静「お前が・・・ 淡紅子の一部になることは無い」
綾瀬静「――淡紅子は生き返らせないから」
黛ましろ「え?」
思わずましろは静の胸から顔を上げ、
驚いたように静の顔を覗き込む。
綾瀬静「淡紅子の代わりに、 お前が人間として生き返るんだ」
黛ましろ「どう、して?」
綾瀬静「淡紅子を生き返らせる、 最初はそれしか考えてなかった」
綾瀬静「生き返ればきっと淡紅子は幸せになれる、そう信じていた」
綾瀬静「だが、・・・生き返ったら・・・ 淡紅子は本当に幸せになれるのか?」
綾瀬静「淡紅子は・・・ 自分の姿を見るたびに思い出すだろう」
綾瀬静「殺人鬼の兄を殺そうとした事、 俺を助けられなかった事」
綾瀬静「――そして、自分の命は多くの家畜と 人間の犠牲の上に成り立っている事を」
綾瀬静「そんな現実を淡紅子に突き付けたら・・・きっと淡紅子は生きていけない」
綾瀬静「・・・それなら俺を守ったと満足したまま 死んでいた方がきっと良い」
綾瀬静「ましろ、お前は・・・ あまりにも歪み過ぎている」
綾瀬静「だが淡紅子よりも、強い」
綾瀬静「性格っていうのはなかなか治せないが ・・・価値観や経験値を増やす事によって いくらでも軌道修正出来る」
綾瀬静「だからそれを得る為に・・・ お前は生きるんだ」
綾瀬静「辛くても悲しくても、生きろ。 お前ならきっと生き抜ける」
黛ましろ「でも・・・静は? また死霊になって地獄に戻るんでしょ? 私は静と・・・離れ離れになるの?」
綾瀬静「ああ、だから俺に釣り合うような魅力的な 女に、淡紅子以上の良い女に成長して ・・・会いに来い」
黛ましろ「嫌だよ、静がいないのに人間として生きるなんて・・・そんなの意味が無いよ!」
綾瀬静「聞き分けが無いヤツだな。 そうだな・・・もし、俺の言いつけを 守れて、ちゃんと寿命で死ねたら」
綾瀬静「その時は、俺に愛を求めて良いぞ・・・ 俺も全力でお前を愛してやる」
黛ましろ「私を・・・愛してくれるの?」
綾瀬静「ああ。俺は人を見る目が無いからな。 でも、女は見る目はあるんだって、 証明してくれよ」
そう冗談めかして告げる静の手には
赤い縄が握られていた。
綾瀬静「だから・・・お前は、 最後のカードとしてタリスマンになるんだ」
綾瀬静「普通の・・・ 人間として生まれ変わるために」
綾瀬静「――こんなゲームに巻き込まれない、 普通の、平和に暮らす人間になるんだ」
黛ましろ「それが・・・静の願いなんだね・・・」
黛ましろ「淡紅子さんには突き付けなかった現実を ・・・私には突き付けるんだ」
黛ましろ「家畜と人間の犠牲の上に、 私の命が成り立っている現実を」
黛ましろ「静は・・・ずるいよ」
綾瀬静「ああ、俺はずるい男だ。嫌いか?」
静はあえて素っ気なく肯定した。
これがどうしようもないエゴであることは分かっている。
それでも静はましろに生きて欲しかった。
黛ましろ「・・・ううん。 そんなずるい静も大好きだよ」
黛ましろ「静が望むなら・・・良いよ。 静の願いを叶えてあげる」
微笑むましろの頬を一筋の涙が流れた。
そして抵抗する事無く、
ましろは首を静に差し出す。
ほっそりとした白い首に掛かる赤い縄は
ゆっくりキリキリと喉に食い込んでゆく。
黛ましろ(本当は・・・生きたくない。 静のいない世界なんて嫌だ。 でもそれが静の願いなら・・・)
黛ましろ(それに・・・今は、幸せだから―― 最後のカードとして、静に殺される・・・ ずっとずっと憧れてた瞬間)
黛ましろ(良いよ・・・私は静の望む様に 普通に生きるから・・・だから)
恍惚とした表情を浮かべ、酸欠で震える
ましろの唇に、静はそっと自分の唇を
重ねる。
綾瀬静(ましろ。 お前は人生の全てに絶望しているが・・・)
綾瀬静(生きていればいつかは 「生きていて良かった」 と思える瞬間は訪れるはずだ)
綾瀬静(――俺がそうだったから)
綾瀬静(決して幸せな人生で無かったが、 淡紅子に出会えて、そして・・・ ましろ、お前に出会えた)
綾瀬静(だから・・・お前には生きて欲しい。 俺や、こいつらが送れなかった、 当たり前で平凡で・・・)
綾瀬静(だけど、いつか・・・ 幸せがみつかる人生を)
甘く、血の味のする口づけに浸りながら
ましろの命の灯はゆっくり消えていった。
〇綺麗なダイニング
ゲームの終了から数か月後。
黛ましろ「・・・いってきます」
ましろはいつも通りの
変わらない生活を送っていた。
〇教室
生徒A「この席って・・・ ずっと空席のままだよね?」
生徒B「そうだったっけ? なんか・・・」
生徒B「頭の良い人が座っていたような気が するんだけど・・・気のせいだね」
黛ましろ(・・・蓮の事は誰も覚えていない。 レイナという動画配信者も、 静という都市伝説の殺人鬼も)
黛ましろ(――あのゲームに参加した者は人間の 世界から忘れられるというルールだから)
生徒A「あ、黛さん! 次の移動教室、一緒に行こう!」
黛ましろ(逆に私は『普通の人間』として、 認識されるようになっていた。 これはタリスマンのおかげだろう)
生徒B「そう言えば・・・その首の包帯、まだ治ってないんだ。アレルギーって大変だね」
黛ましろ「うん・・・」
黛ましろ(生き返った私の首には赤い痣があった。 この痣はきっと治らない・・・ でもそれで良いんだ)
黛ましろ(これだけが・・・ 静がこの世界にいた証拠だから)
〇警察署の医務室
カウンセラー「黛さん・・・色々大変だと思うけど・・・ 気を落とさないでね。 お母様はきっと帰ってくると思うから」
黛ましろ(お母さんは創作に悩んで 失踪した事になっている)
黛ましろ(セルベールのお腹から脱出しない限り、 きっと一生会う事は無いだろう)
黛ましろ「はい・・・あの・・・ 心配して頂いて、ありがとうございます」
カウンセラー「ううん。お礼なんて良いのよ・・・」
カウンセラー「って、黛さんがお礼!?」
黛ましろ(きっと静なら・・・こういう時、 お礼を言いなさいっていうだろうから──)
〇綺麗な部屋
黛ましろ(私は、静やみんなの記憶がある)
黛ましろ(でもお母さんは、忘れてるのに忘れられない・・・その葛藤の中で私と過ごしたんだ)
黛ましろ(お母さん・・・死んで、 記憶を取り戻せたかな?)
黛ましろ(・・・ちゃんと地獄に行って、 お父さんと会えたかな?)
黛ましろ(ねえお母さん。 愛しても会えない・・・って辛いね。 でも、私はひとりきりでも平気だよ)
黛ましろ(だって静は言ってくれたんだ。 自分に愛を求めて良いって)
黛ましろ(だから・・・静の願いを叶えるために、 また静に褒めてもらえるために、 そして静の全てを手に入れるために──)
黛ましろ(私は今日も生き続けるよ。 そして――死んで地獄に行くんだ)
黛ましろ(大丈夫、きっと地獄に行ける。 だってあんなに人を殺したんだし・・・)
〇荒れた倉庫
スケープゴートの男「やめろっ! やめてくれええ!!!」
黛ましろ「――世界発動(オープン・ワールド)」
男の首が血しぶきをまき散らしながら
地面に転がる。
黛ましろ(――そして・・・ 今もこんなに人を殺しているんだもの)
セルベール「相変わらずエゲツナイ殺し方をするわぅ~」
黛ましろ「――セルベール、来てたんだ」
セルベール「マシロのそばにいれば新鮮な死体に ありつけるわぅしね」
セルベール「もっとじゃんじゃんやってくれ~わぅ!」
男の体から浮かび上がったカードを手中に収めながら、ましろは再び“牧羊犬”と再会した日を思い出していた。
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