追う恋は追われる恋に勝る!

びわ子

番外編「夏の山 声涙俱に下る 夜」(脚本)

追う恋は追われる恋に勝る!

びわ子

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〇白い校舎

〇学校の廊下
  三年生が卒業した次の日は
  騒がしかった学校も
  いつもより人気がなく
  取り残されたようで
  少し感傷的になってしまう──
高校生「桃先生、さようならー!」
海野 桃(うみの もも)先生「はい、さようなら」
  一人
高校生「先生また明日ね──!!」
海野 桃(うみの もも)先生「はい、また明日よろしくね──」
  また一人と生徒が帰っていく
  私の名前は海野 桃(うみの もも)
  高校教師
  童顔で若くみられるが
  20代後半の年齢である
海野 桃(うみの もも)先生(窓の閉め忘れは、ないかな・・・)
  次々に結婚していく
  親友達に焦りを感じる
  ────
  ことはない──
海野 桃(うみの もも)先生「これでヨシっと!」
  何故なら
  私は過去に
  結婚経験があるからだ──

〇階段の踊り場
海野 桃(うみの もも)先生「フン、フ、フン、フ、フーン♪」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「おーっとっとっと!」
海野 桃(うみの もも)先生「あわわ・・・大変、大変!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「すいません海野先生」
海野 桃(うみの もも)先生「こちらこそ、前をよく見てなくて・・・」
海野 桃(うみの もも)先生「私も拾います、・・・ん!? 何だこれ?」
海野 桃(うみの もも)先生「これは卒業生からの一言メッセージ?」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「ハハハ・・・、そうなんですよ」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「アイツら『山田先生はクラス持ってないから寂しいだろって・・・』」
海野 桃(うみの もも)先生「ウフフ・・・、山田先生の人徳ですね!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「いや──、 やっぱり、こういうのありがたいですよ」
海野 桃(うみの もも)先生「気持ちでも嬉しいですが」
海野 桃(うみの もも)先生「カタチであらわされると嬉しいですよね!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「正直、先生って職業は、 辛いことばかりで挫けそうになるんです」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「でも・・・、アイツらが卒業した時の一言で」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「何とかここまでやって来れた気がします」
海野 桃(うみの もも)先生「はい・・・、救われますよね・・・」

〇渡り廊下
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「ありがとうございました!」
海野 桃(うみの もも)先生「いえいえ・・・」
海野 桃(うみの もも)先生「────」

〇テクスチャ
  山田 山東火
  教師の間では評判は悪く
  粗暴な性格で
  関わり合いたくないという人も多い
  ────しかし、
  生徒達の評判は逆に良く
  見た目が怖そうだけど、生徒思いの
  実は優しい先生だと好評である

〇渡り廊下
  私が初めて金輝高校に来た時
  山田先生がいて驚いた
  ────
  山田先生は覚えていないだろうけど
  中学生のあの時
  ”私を救ってくれた人”だからだ──
  ────
  それは、まだ私が
  旧姓、星野 桃(ほしの もも)の時に──

〇街中の道路
  あの頃──
  中学生の私は
  太っていた事もあり
  少し歩くだけでも
  疲弊してしまう
  ひ弱な体力のために
  コンビニに行くだけでも
  息切れをしていた

〇小さいコンビニ
星野 桃(ほしの もも)「ハァ、ハァ・・・!」
星野 桃(ほしの もも)(入口汚い・・・、 ゴミ箱あるんだから ちゃんと入れればいいのに・・・)
星野 桃(ほしの もも)(見なかったふりして入ろう・・・、ん!?)
星野 桃(ほしの もも)(なんか怖そうな人がいる、 目を合わせないでいよう・・・)
???「汚いな、ちゃんと捨てろよ・・・」
星野 桃(ほしの もも)(あの人、誰にも言われていないのに)
星野 桃(ほしの もも)「自分から進んで掃除していた・・・」
星野 桃(ほしの もも)(あれ?これって、さっきの人の・・・!?)

〇コンビニのレジ
???「ねぇ、見てたでしょ?」
店員「はい、見てました」
???「間違えてさ、入れちゃったのよ」
店員「申し訳ありませんが無理です」

〇コンビニの店内
一般人「どうしたんです?」
一般人「なんか募金箱に寄付したお金が 500円玉だったらしく」
一般人「お会計したら1円足りないから」
一般人「戻して欲しいって言ってるみたいですよ」
一般人「あらまあ・・・、」
一般人「さっきからずっと待ってるんですが・・・」
一般人「私、少し先のコンビニに行きますわ」
一般人「私も・・・」

〇コンビニのレジ
???「いや、だからよく見てよ!」
???「大体この募金箱、 今入れた500円玉しか入ってないじゃん?」
店員「お気持ちはわかりますが・・・」
???「返してもらわないと 金足りないんですよ!」
店員「はぁ・・・、すいません」
???「なんかポケットに 穴空いてたみたいでさぁ──」
店員「はぁ──、お客さん、 いい加減にしてください」
星野 桃(ほしの もも)「あの・・・、」
星野 桃(ほしの もも)「これ・・・、落としてませんか?」
???「え!?どこに落ちてた?」
星野 桃(ほしの もも)「さっき入口の ゴミ掃除されてた時に・・・」
店員「え?ゴミ掃除・・・!?」
店員「あっ!掃除用具だけ出して忘れてた・・・」
???「助かったよ!サンキュー!」
???「これで足りますよね?」
店員「あぁ、はい、ありがとうございます──」

〇小さいコンビニ
???「いやぁー、ありがと!マジ助かったわ」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「俺、金輝高校三年、 山田 山東火って言うんだ!」
星野 桃(ほしの もも)「・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「君は・・・、中学生かな?」
星野 桃(ほしの もも)「・・・はい」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「名前だけでも良かったら教えてくれる?」
星野 桃(ほしの もも)「星野 桃です・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「ありがとう、桃ちゃん」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「君がピンチの時、今度は俺が助けるから」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「いつでも呼んでね!じゃ!」
星野 桃(ほしの もも)(山田 山東火・・・)
星野 桃(ほしの もも)(私とは別世界の人だ・・・)

〇ボロい校舎
  中学生の記憶は
  思い出したくない事ばかりだ
  忘れたいのに
  頭の中にずっとへばりついている
  やーい、デブデブ!!

〇教室
同級生「星野、デブすぎ──!」
同級生」「ははは」
  加害者本人が悪い事と思っていない、
  自覚のないイジメの日々──
星野 桃(ほしの もも)「うわ──ん!」
同級生「泣くな、デブが感染る──!!」
同級生」「あははは」
  彼等の中では、
  自分達が楽しければ、それでいいのだろう
  他人をどれだけ傷つけているのか
  気づいてない分、一番タチが悪い
同級生「わぁー、揺れる──!!」
同級生」「ハハハ・・・腹いてぇ──!!」
  毎日、死にたいって思ってたけど
  死ねなかった──

〇川に架かる橋
同級生「星野さ──、デブリンピック一位じゃね?」
同級生」「あははは、マジウケる」
  軽いイジメはエスカレートしていく
  それは、
  より強い刺激を欲しがる麻薬のように
  学校だけではおさまらず、
  帰り道でさえも──
  我慢の限界
  この世界から消えてなくなりたい
  今日こそ、全てお終いにしようと
  何度、思ったことだろう──

〇簡素な部屋
星野 桃 (ほしの もも)「う、う・・・、うわぁぁぁ────ん!!」
  身体的な暴力はない、
  決して先生に見つからないように
  人気のない所での陰湿なイジメ
  私には戦う勇気は、なかった──
  友達も先生も家族ですら
  一緒に悩んでくれる人が
  いなかった──
星野 桃 (ほしの もも)「じゃあ・・・」
星野 桃 (ほしの もも)「私は・・・、どうしたらいいの・・・?」

〇和室
  誰もいない部屋で
  毎日毎日、泣いていた──
星野 舞子(ほしの まいこ)「スゥ、スゥ・・・」
星野 桃(ほしの もも)「お母さん・・・お母さん・・・」
星野 桃(ほしの もも)「お母さん・・・、起こしてごめん 学校のプリントにサインお願い・・・」
星野 舞子(ほしの まいこ)「ごめんね、 こんなとこで寝ちゃって・・・サインね」
  書類受け取る母親の手は
  お世辞にも綺麗とは言えない
  ザラザラして傷だらけの手をしていた
  ────
  三交代で深夜も働いている母親には
  これ以上迷惑かけたくないと
  イジメの事は何も言えなかった──
星野 舞子(ほしの まいこ)「はい・・・、 また机にお金置いとくから・・・」
星野 桃(ほしの もも)「うん・・・、いつもありがとう」
  ほとんど会うことなく、
  テーブルの上に
  千円札一枚を置く人と、
  受け取る人の関係
  ────
  誰も私を見ていない──
  ────

〇空
  ────
  部屋の窓から外を眺める
  その日の月は、とても綺麗だった
  月の光が影を濃く浮かび上がらせる
  その影を見ていると
  今まで他人事のフリをして
  流していたことを
  現実に映し出されたように思えて
  私の中で──
  何かが弾けた

〇アパートの前
  その夜、そっと家を抜け出した
  橋の上から
  ”飛び降りよう”と考えて──

〇橋の上
星野 桃 (ほしの もも)「つ、着いた・・・」
星野 桃 (ほしの もも)(この高さからなら痛くないよね?)
星野 桃 (ほしの もも)「ひっ!た、高い!!」
星野 桃 (ほしの もも)「怖い・・・怖いよ・・・」
星野 桃 (ほしの もも)「でも・・・でも、」
星野 桃 (ほしの もも)「・・・これで・・・楽になれるなら!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「よう・・・、桃ちゃんだよな?」
星野 桃 (ほしの もも)「や、や・・・、山田さん・・・?」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「何やってんの?」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「チラッ・・・」
星野 桃 (ほしの もも)「・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「・・・なぁ」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「天国に行きたい?」
星野 桃 (ほしの もも)「えっ・・・!?」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「自殺はさ──、必ず地獄なんだってさ」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「知ってた?」
星野 桃 (ほしの もも)「・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「もう一度聞くけど」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「天国に行きたい?」
星野 桃 (ほしの もも)「・・・か、可能なら」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「・・・なら、俺が連れてってやるよ」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「俺の後ろに乗りな」
星野 桃 (ほしの もも)「で、でも・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「どうした?天国へ行きたいんだろ?」
星野 桃 (ほしの もも)「ヘルメット・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「ハハハ・・・!!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「天国へ行くのに メットかぶってどうすんの?」
  この人は・・・
山田 山東火(やまだ さんとうか)「さあ乗りな」
  私が・・・
  私が見えてるの・・・?
  さぁ行くよ──
  裸足のシンデレラ
星野 桃 (ほしの もも)「・・・は、はい!」
星野 桃 (ほしの もも)「お願いします!!」

〇黒背景
「星野 桃『怖い!怖いです!』」
「山田 山東火『 大丈夫だよ、ゆっくり目を開けてみな』」
「え!?何これ!!」

〇高速道路
星野 桃 (ほしの もも)「綺麗──」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「しっかり俺を抱きしめろ!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「振り落とされるなよ!」
星野 桃 (ほしの もも)「は、はい!」

〇開けた高速道路
「山田 山東火『 ココからは林道だ! 喋るな!舌噛むぞ!!』」

〇林道

〇黒背景
「山田 山東火『良く頑張ったな・・・着いたぞ』」
「山田 山東火『さぁ、目を開けな・・・』」

〇街の全景
「星野 桃『こ、ここは──!?』」
「山田 山東火『俺が知っている天国だ』」
星野 桃 (ほしの もも)「綺麗・・・」
星野 桃 (ほしの もも)「────」
星野 桃 (ほしの もも)「──」
星野 桃 (ほしの もも)「山田さん・・・」
星野 桃 (ほしの もも)「私・・・、あの橋で・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「話さなくていい・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「俺は向こうにいるから」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「ここから気の済むまで 景色を眺めてればいい──」
星野 桃 (ほしの もも)「────はい」
星野 桃 (ほしの もも)「────」
星野 桃 (ほしの もも)「──」
  綺麗だった
  中学生の行動範囲なんて
  たかが知れてる──
  今まで、見たこともない景色に
  心を奪われ、ここが本当に──
  天国だとさえ思えた──
  ────
星野 桃 (ほしの もも)「う、う・・・、」
星野 桃 (ほしの もも)「う、う・・・、うわぁぁぁ────ん!!!!」

〇アパートの前
星野 桃 (ほしの もも)「あの・・・」
星野 桃 (ほしの もも)「今日は・・・、ありがとうございました」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「なぁ・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「知らないだけでさ」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「案外、天国も近くにあったろ?」
星野 桃 (ほしの もも)「はい・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「今度は桃の天国を見つけなよ」
星野 桃 (ほしの もも)「────はい」
星野 桃 (ほしの もも)「や、山田さん・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「じゃ、俺行くよ」
星野 桃 (ほしの もも)「あの・・・、また会えますか?」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「そうだな、生きてたら必ず会えるさ」
星野 桃 (ほしの もも)「山田さん!!」
星野 桃 (ほしの もも)「山田さんには・・・」
星野 桃 (ほしの もも)「私が・・・、見えていますか?」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「もちろんさ──」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「裸足のシンデレラ」
山田 山東火(やまだ さんとうか)「じゃあな!」
星野 桃 (ほしの もも)「あ!待って・・・!!」
星野 桃 (ほしの もも)「────」
星野 桃 (ほしの もも)「──」

〇簡素な部屋
  帰ってきても、誰もいない家
  何も変わらない
星野 桃 (ほしの もも)「生きていたら会える・・・」
  でも何かが違う・・・
  あの人に出会えて良かったと
  ──心から思った
  生きよう──
  生きていれば又、会えるかもしれない
  たった数時間の出来事なのに
  私の中で大きく、何かが変わった──

〇学校の校舎
  母親に学校でされていることを
  悩んでいることを感情的にぶちまけた
  お互い話さなかっただけで
  母親は理解してくれて
  二人でイジメと戦う決意をした──
  ────
  ICレコーダーによる録音は効果的だった
  会話の録音を公表すると学校に伝えると
  手のひらを返したように
  先生は話しを聞くようになり
  加害者の生徒の親は
  お金で解決しようと必死になっていた
  それもこれも献身的に
  働いていた母親の会社から
  信頼できる
  弁護士を紹介してもらえたからである
  本当に──、
  母親には頭があがらない──
  ────
  少しでも母親に楽をさせなければと
  給付型奨学金を利用して高校に入学

〇装飾された生徒会室
  部活動や友達と遊ぶ事は
  とても魅力的だったけど
  私は、ある職業になろうと決意し
  高校生活を全て勉強に集中した──

〇古い大学
  ────
  念願が叶い、教育学部のある大学に入学

〇講義室
  進路を聞かれた時にすぐ答えた
  『私、学校の先生になるんだ』と
  私のように、
  つらい思いをしてる子を見つけて
  寄り添える先生になるために──
  ────
  必死で勉強した甲斐あってか
  大学での教員免許は目前に見えてきた
  心にゆとりが出来たのかも知れない
  ポジティブな性格になった私に
  それとなく異性からアプローチを
  されるようになると
  男性と過ごした経験のない
  私の気持ちは止まらなくなり
  大学4回生の頃、同級生と付き合い始めた

〇二階建てアパート
  誰かがそばにいる──、
  それだけで私は満足に思えた
  そのまま同棲生活をして
  お互いが教員免許を所得した頃に結婚
  これで、母親には楽をさせて
  あげられると喜んだ──

〇明るいリビング
  ────しかし
  ──人を見る目がなかったのか
  私が甘やかした結果か、彼は教師を辞め家でゴロゴロする様になり
  次第に横柄な態度を
  取るようになっていった──
海野 弦一(うみの げんいち)「なぁー、飯まだ──?」
海野 桃(うみの もも)先生「もうちょっと待ってね」
海野 弦一(うみの げんいち)「早くしてよね! ほんっと何でも遅いんだから」
海野 桃(うみの もも)先生「ごめんなさい・・・」
海野 弦一(うみの げんいち)「もういいや、お金ちょうだい」
海野 桃(うみの もも)先生「えっ、何で・・・?」
海野 弦一(うみの げんいち)「外で食べてくるから」
海野 桃(うみの もも)先生「そんな・・・」
海野 弦一(うみの げんいち)「何だよ、もういいよ!」
海野 桃(うみの もも)先生「え?何これ・・・!?」
海野 桃(うみの もも)先生「誰のピアス?」
海野 弦一(うみの げんいち)「し、しらねぇーよ!お前のじゃないのか!!」
海野 桃(うみの もも)先生「私はピアスしていないよ・・・」
海野 弦一(うみの げんいち)「なんか間違えて くっ付いてきたんじゃないの?」
海野 弦一(うみの げんいち)「お、俺ちょっとコンビニ行ってくるから!!」
  違う・・・
  何かが違う・・・
  これは私が望む天国じゃない──

〇学校脇の道
海野 桃(うみの もも)先生「ここが私が働く金輝高校か・・・」
海野 桃(うみの もも)先生「う、うそ・・・!?あのバイク!!」
海野 桃(うみの もも)先生「ま、まさかね・・・」

〇白い校舎

〇散らかった職員室
高校の先生「この間言ったじゃないですか!」
高校の先生「山田先生!近所からバイクの騒音が酷すぎるとクレームがきてるんですよ!!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「あー、はい・・・、すいませんでした」
高校の先生「乗るなとは言いませんが、 今度からもっと静かに走ってくださいね!!」
高校の先生「新しい先生も来るので 見本になる行動してください!」
「まったく、何回言わせるんだ・・・(ブツブツ)」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「結構、控えめにしてるんだけどな・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「はぁ──、今日はついてない日だな──」
海野 桃(うみの もも)先生「あの──、」
海野 桃(うみの もも)先生「あの──、こんにちは──!」
海野 桃(うみの もも)先生「お仕事中にすいません・・・ 今度働く、海野 桃と言いますが・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「んー、ああ・・・、」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「はいはい・・・、新しい先生ね──」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「どうも生活指導担当の 山田・・・山田山東火です」
海野 桃(うみの もも)先生「・・・え、あ、あっ!? 山田・・・山東火!?」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「どうしました?」
海野 桃(うみの もも)先生「い、いえ何でもないです! 宜しくお願いします!!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「こちらこそ・・・」
海野 桃(うみの もも)先生「────」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「あの──、何か?」
海野 桃(うみの もも)先生「いえ、あの、失礼します!」
「およよっ・・・!」
海野 桃(うみの もも)先生「いたた・・・、すいません・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「あ──、大丈夫? 廊下は走らないでね──」
海野 桃(うみの もも)先生「は、はい」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「あっ、スリッパ忘れてるよ!」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「────」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「裸足の・・・」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「シンデレラ・・・か・・・」

〇学校脇の道
海野 桃(うみの もも)先生(ど、ど、どうしよう・・・!)
海野 桃(うみの もも)先生(あのバイクにあの名前!)
海野 桃(うみの もも)先生「絶対あの人だ!」
海野 桃(うみの もも)先生「うふふ・・・」

〇二階建てアパート

〇明るいリビング
海野 桃(うみの もも)先生「ただいま──」
海野 弦一(うみの げんいち)「げっ!何でもう帰ってきてんだよ!」
海野 桃(うみの もも)先生「だって今日、顔あわせだけだし・・・」
「こんばんは──」
海野 桃(うみの もも)先生「はーい!」
海野 弦一(うみの げんいち)「待て俺が出るから!」
海野 桃(うみの もも)先生「いいよ私いくから」
海野 弦一(うみの げんいち)「待てって!」

〇玄関の外
海野 桃(うみの もも)先生「はい、お待たせしました」
アゲハ「あれ?202だったはずなんだけどな」
海野 桃(うみの もも)先生「えーっと、どちら様でしょうか?」
アゲハ「弦ちゃんの家、ここだったよな?」
海野 桃(うみの もも)先生「弦ちゃん・・・?」
アゲハ「あーん、弦ちゃんいた──!!」
海野 桃(うみの もも)先生「そ、そのピアス・・・!!」
アゲハ「あれ?もしかして修羅場・・・?」
アゲハ「ごめんね──、またよんでね──」
海野 弦一(うみの げんいち)「違うんだ、桃・・・」
海野 桃(うみの もも)先生「信じられない・・・」
  天国につれてってあげるよ
海野 弦一(うみの げんいち)「聞いてくれ・・・!!」
海野 弦一(うみの げんいち)「俺はお前が好きなんだ! ちょっとした過ちなんだよ!」
  ただ誰かと一緒にいるだけでは
  幸せにはなれない
  こんな事、分かってたのに
  母親を楽にさせる為だと
  自分に嘘をついて──
  また見て見ぬ振りをしていた
海野 弦一(うみの げんいち)「くそ!バイクうるせーな!」
  今度は桃の天国を見つけなよ
海野 桃(うみの もも)先生「うん、わかった・・・」
海野 弦一(うみの げんいち)「わかってくれたか!」
海野 桃(うみの もも)先生「離婚しましょ」
海野 弦一(うみの げんいち)「ごめん!悪かった! 今、お前と別れたら借金誰がかえすんだよ!」
海野 桃(うみの もも)先生「うるさい!ふざけないで!!」
海野 桃(うみの もも)先生「地獄には一人で落ちて!」
海野 桃(うみの もも)先生「後は弁護士の方と話をしてください!」
  こうして私の数ヶ月の結婚生活は
  呆気なく終わった──
  この結婚で、一つだけ学んだ事がある
  結婚するなら
  ”好きな事が同じの人”を
  選ぶのではなくて
  ”嫌いな事が同じ人”を
  選ぶのが大事だということ
  人を気付けたり、馬鹿にしたりしない、
  嘘をつくのが大嫌いな人──
  山田山東火さんの様な人を──

〇白い校舎

〇散らかった職員室
海野 桃(うみの もも)先生「先日、挨拶した方もいらっしゃいますが」
海野 桃(うみの もも)先生「あらためてもう一度」
海野 桃(うみの もも)先生「今日からお世話になります!」
海野 桃(うみの もも)先生「海野 桃です!」
海野 桃(うみの もも)先生「宜しくお願いします!」
高校の先生「じゃあ山田先生、 海野先生に学校を案内してください」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「は──い」
海野 桃(うみの もも)先生「宜しくお願いします」
山田 山東火(やまだ さんとうか)先生「こちらこそ」
  私と出会った事
  山田先生は気づいてない
  でもいいんだ
  私、今──
  生きてて良かったと思うし
  そして──
  私の天国を見つけたと思ってるから──

次のエピソード:第十四話「逃げた夏 恋忘れ貝 友ぞ知る」

コメント

  • 山田先生の一方通行の恋愛かと思っていたけど、こんないきさつがあったんですね☺️
    あの桃先生にも暗い過去があり、そこで山田先生と運命的な出会いを果たしていたなんて、素敵です😭
    山田先生、昔から相変わらずで、素敵過ぎるな😊

  • 山田→→→桃 だと思っていたら、意外にでっかい←矢印が立ってた!?!?😳ほんわかおっとりに見えて、波乱万丈だったんですね。
    二人とも、深く生徒に寄り添える先生なんだなと伝わってきました。
    サポートコメントのは、「あれ?」と思ったけど、誤字だと思ってました💦途中で設定変えた名残とかかなー、と😅

  • 今回もおもしろかったです〜!
    どんどん先が気になっていって、あっという間に読み終えちゃいました!山田先生、イイ人過ぎる✨海野先生には幸せになってもらいたいですね😊

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