蓬莱事変(5)(脚本)
〇刑務所の牢屋
猪苗代「むむむ・・・」
猪苗代「むむむむむ・・・」
猪苗代「来たっ!」
猪苗代「このように私は自由自在に鼻血を放出することが出来ます。万が一の時は是非お役立て下さい」
蝶子「そんな事態になる事はまずないだろうし、危ないからもうやめた方がいいと思うよ」
猪苗代「そうですか?官憲なんて単純だからわりとこういうので騙くらかせたりしますよ」
蝶子「アンタも随分修羅場くぐって来たんだね」
猪苗代「え~そんなことないですよ~」
猪苗代「ウチは~まだまだ未熟な~ピチピチギャルだし~アオハルまっさなかだし~」
猪苗代「修羅場とかゆって~超エグイ~」
蝶子「それでだ」
蝶子「アンタと石塚が結託して、逮捕という名目で御堂組を戒厳軍から保護したのは分った」
蝶子「戒厳司令だの実業家だのが、この国を監視社会に作り変えようとしているのも」
蝶子「その為の危険因子ってヤツに蓬莱街の貧民や革命家を利用しようとしてるって話も」
猪苗代「はい。それが蓬莱事変計画」
猪苗代「来栖川桜子や貧民達を炊きつけた根室は、紛れもなく戒厳司令の手先」
猪苗代「事変発動に合わせ石塚警部の手引きで監獄を脱出。侠客パワーで貧民達の暴動を抑えるのがあなた方の目的でした」
猪苗代「ですがそれも天粕に読まれていた」
猪苗代「ヤツは石塚警部のいる帝都警視庁でも最上少尉のいる戒厳軍でもない、ここ憲兵監獄に私達を移送させた」
猪苗代「来栖川義孝を称するバロン吉宗までも収監されたと聞きます」
蝶子「・・・」
猪苗代「私達の命運は大泉憲兵司令の肚三寸となりました」
蝶子「手詰まりってわけか」
猪苗代「そこで私は考えました」
猪苗代「この自在に噴出できる鼻血を使って一時的に貧血状態に陥れば、看護の為に檻が開くでしょうからお蝶親分はどうにかして看守から」
蝶子「鍵を奪うなんて出来るか」
蝶子「大体檻を開けるにしたって、看守が一人でノコノコやって来くるわきゃねえだろ」
猪苗代「じゃあどうすりゃいいんですか!反論するなら代案出して下さいよ!そういうの議論の基本ですよ!」
蝶子「声が大きい!」
蝶子「全く・・・アンタ本当に『美しきけもの』の一員なのかい?」
猪苗代「フッ、弱小新聞社取材班猪苗代麻呂美とは仮の姿・・・」
猪苗代「真の姿こそ、結社美しきけもの最高の天才にしてまたの名を狂乱の淑女・・・」
猪苗代「ちょっと何よ!いい所なのに!責任者出てこいや!」
蝶子「警報・・・?一体何が・・・」
鹿沼「親分!」
蝶子「お前達、一体どうして?」
猪頭「話は後です!すぐにここを出ますぜ!」
〇刑務所の牢屋
10分前
義孝の独房
大泉「チッ・・・」
大泉「来てやったぞ」
義孝「鍵を開けて中に入れ」
大泉「馬鹿を言うな。誰がそんな真似」
義孝「聞け!みなもの!」
義孝「我は憲兵司令来栖川義孝である!」
義孝「それが証拠に現司令大泉吾一の秘密を握っている!」
義孝「奴は吉原の女を孕ませ何人もの隠し子を!」
大泉「しーっ!黙れ黙れ黙れ!入る入る入る!」
大泉「ふん。妙な真似をするなよ」
義孝「そんなに俺が目障りだったか?」
義孝「小心だが気のいい男と思っていたが」
大泉「そ、それを見下すと言うのだ!」
大泉「き、貴様の傍若無人は憲兵隊内でも問題となっていたのだ!私は義憤に駆られた若き隊員達の要望で動いたに過ぎん!」
大泉「封建主義はもう古い!全てはミカドの下に平等であらねばならん!」
大泉「全ての臣民がこの国の為に生きこの国の為に死ぬ!それが新時代の理想郷である!」
義孝「ならお前もまた率先して死ぬ覚悟を持っているのか?」
義孝「モノノフを軽んじる新時代の兵士とやらが」
大泉「と、当然である!」
義孝「・・・」
義孝「そうか」
義孝「ところで実際入ってみて分かったが」
義孝「監房内の設備が随分と朽ちている」
大泉「だから何だ?」
大泉「罪人どもに気を使えとでも言うのか?」
義孝「・・・罪人?」
義孝「俺はお前の心配をしているのだ」
大泉「・・・?」
義孝「いやお前だけではない。憲兵隊の気の緩みを憂いている」
義孝「例えばここに転がっている釘一本だけで」
義孝「貴様を拘束できる!」
大泉「ぐっ!がああっ!放せ!」
大泉「そんな釘ひとつで・・・」
大泉「撃ちぬいてやるぞ!足も手も腹も!」
義孝「やってみろ。その前にこの釘一本がお前の耳を貫く」
義孝「三半規管は破壊され、自力で飯も食えねば用も足せぬ体となる」
義孝「どれほど生きられるか分からんが、一生な」
大泉「・・・ひ、ひいっ!」
義孝「銃をよこしたほうが賢明だぞ。少なくとも楽に逝ける」
義孝「もっと無事でいたければ・・・分かるな?」
義孝「一生食事と排尿と脱糞と床ずれに苦しみ、汚物と血に塗れた余生を送りたいなら強要はせんが」
大泉「わ、分かった!分かったから助けてくれ!」
大泉「銃も渡す!も、勿論これも・・・」
義孝「結構だ」
義孝「ふむ・・・」
義孝「もう一つ、渡して欲しいものがある」
大泉「は?」
義孝「さすがにこのシマシマではな」
〇巨大研究所
軍人「クッ・・・おのれ」
軍人「この距離では大泉司令に当たってしまう」
義孝「よいか。まだ動くなよ」
御堂組組員「おい。もう少し待ってくれ」
御堂組組員「必ず親分たちも出て来るはずだ」
義孝「分かってる」
御堂組組員「親分だ!出て来たぞ!」
蝶子「急ぐよお前達!」
猪苗代「ま、待って~ん!」
義孝「良し。これで全員か?」
義孝「最後に貧民どもを大人しくさせられるのはお前達しかいない」
義孝「流れとはいえ奴らを炊きつけてしまった。尻拭いを頼む」
蝶子「全く何やってんだい」
蝶子「流れ流れて流され過ぎだよ」
大泉「こんな真似をして軍に戻れると思うなよ」
義孝「もとより戻る気はない。と言うより恐らくは戻れん」
蝶子「どういうこった?」
義孝「桜子を止める」
義孝「今度は力ずくでも。刺し違えても」
義孝「これで何もかも終わりにする」
蝶子「ばっきゃろう!死ぬんなら手前一人で死にやがれ!」
蝶子「親父が目の前で腹でも斬りゃあ、幾らボンクラ娘でも正気に戻るだろうさ!」
義孝「そうか。試してみる価値はあるな」
義孝「さて、奴らが怯んでいるうちに・・・」
『ちょっと待ったあああああああ!』
義孝「お、お前は・・・」
義孝「・・・誰だ?」
木場「帝国陸軍憲兵隊河原町第三分駐所憲兵曹長木場荘助!」
木場「因果ありて貴様を捕縛した者である!」
木場「きちんと反省しておるかと様子を見に来たがこの様はなんであるか!」
木場「直ちに銃を収め投降すべし!」
木場「フッ、何故わざわざ様子を見にきたかと?」
木場「兇徒など獄に放り込めば後は縁なき者」
木場「九時五時勤務。私生活重視。それが本官の流儀であった」
木場「だが私は変わったのだーーーーーーーー!」
木場「そんな無責任な態度で帝国を守れるかと!」
義孝「すまんがその話、長くなりそうか?」
義孝「そこそこ急いでるんだが・・・」
木場「フッ、何故生まれ変わったかだと?」
木場「全てはあの人と出会ったからだ」
木場「かつての上司、最上一真少尉」
〇カラフル
『私事を顧みることなく、ただひたすらに帝都を駆け巡り職務を遂行する姿』
『まさに帝国男子の鑑である!』
〇巨大研究所
木場「男たる者、軍人たる者、かくあるべし!」
木場「憲兵隊万歳!帝国陸軍万歳!」
義孝「・・・で」
義孝「お前ひとりでこの状況をどうする気だ?」
木場「フッ・・・所詮来栖川閣下を騙る道化師。我ら軍人の心意気など理解出来んか」
義孝「なに?」
木場「大泉憲兵司令閣下は・・・」
木場「既に銃弾に倒れる覚悟をしておられるわ ーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
大泉「えええええええええええええええええ!?」
木場「さあ諸君!司令もろとも奴らを撃てい!」
軍人「ああいや、しかし・・・」
木場「何を躊躇っている?大泉閣下は既に英霊となる覚悟は出来ているのだぞ!」
大泉「お、おい待て待て待て!何を勝手に・・・」
木場「構わん!私が許可する!」
木場「撃て!やれ!一斉放射だ!蜂の巣にしろ!」
大泉「貴様ああああ!他人事だと思って!」
木場「ありがとう閣下!そしてさようなら!」
大泉「ひいいいいーーーーーーーーーーーっ!」
義孝「・・・!」
木場「撃てーーーーーーーーーーーーーーッ!」
軍人「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
軍人「わーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
木場「・・・」
軍人「・・・え?」
木場「・・・何だ、アレは?」
大泉「弾が弾かれた・・・」
義孝「何だ・・・コレは?」
猪苗代「あ、アナタは!」
猪苗代「来てくれたんですね!」
測天學「マ~ンモ~スナ天使ノヨウニ~♪」
測天學「逃ゲテイイヨ・・・逃テイイヨ・・・」
義孝「だから何だこれは?」
コウ「砕け!測天學!」
義孝「そして誰だお前は?」
つづく