蛇地獄

YO-SUKE

第5話 『猜疑心』(脚本)

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〇シックなバー
  坂下と遥香はカウンター席に並んで、カクテルを飲んでいた。
遥香「ぜっったい、七瀬さんを大切にしてくらさい」
遥香「いいれすか!?」
坂下道雄「わかったわかった。 遥香ちゃん、酔いすぎだから」
  坂下が水を差しだすと、遥香はそれを一気に飲み干した。
遥香「へへへ。ふつうですよ~」
坂下道雄「ていうか、ずいぶん七瀬のことを推すよね」
遥香「だってー、あんなに素敵な方いないですもの」
坂下道雄「そうかな」
遥香「爬虫類に真の愛を注いでる女性ですよね。 一緒に働いてすぐわかりました!」
坂下道雄「まあ遥香ちゃんから見ればそうだよね」
遥香「それでいてあんなにキレイなんだもん。 ずるいです・・・」
坂下道雄「でも七瀬の場合は時々、その・・・怖さを感じる時があって──」
  言いかけて遥香を見ると、彼女はカウンターに突っ伏して眠り始めた。
坂下道雄「ちょっと!  こんなところで寝たら風邪引くよ」
遥香「あんな女性に・・・なりたいなぁ・・・」

〇田舎駅の改札
  居酒屋を出たあと、坂下は遥香を駅の改札まで見送った。
坂下道雄「ほんとに大丈夫なの?」
遥香「少し寝たらすっきりしました!」
坂下道雄「そっか」
遥香「くれぐれも七瀬さんによろしくお伝えください」
坂下道雄「えーと、居酒屋でたまたま隣の席に座って、いつの間にか一緒になってグループで飲んでいた、だよね?」
遥香「そう! パーフェクトです!」
坂下道雄「了解」
遥香「あ、あとそうだ!」
  遥香は坂下からスマホを受け取ると、ポチポチと何かを入力していく。
遥香「えっと・・・はい、これでOKです」
坂下道雄「これって──」
遥香「私の連絡先です。 今度は七瀬さんと三人でご飯行きましょうね」
坂下道雄「・・・ああ」
遥香「それでは失礼します!」
  そう言って遥香は大げさに敬礼してから改札の中に入っていった。
  遥香は途中で振り返ると、坂下に向かって楽しそうに大きく手を振る。
坂下道雄「まいったなぁ・・・かわいい」

〇綺麗な一人部屋
  部屋に戻った坂下が電気を付けると、ゲージの前で七瀬が座り込んでいた。
坂下道雄「! 起きてたのか?」
片岡七瀬「どうしよう・・・道雄」
坂下道雄「え?」
片岡七瀬「モリーが全然動かないの!  どこか具合が悪いのかもしれない!」
坂下道雄「お、落ち着けって」
片岡七瀬「モリーが死んじゃう!!」
坂下道雄「大丈夫! 大丈夫だから!」

〇商店街

〇クリニックのロビー
  待合室で待っていると、黒い蛇の入ったゲージを抱えて七瀬が診察室から出てきた。
坂下道雄「どう、だった?」
片岡七瀬「特に何もなかった。病気とかじゃないって」
坂下道雄「良かったな」
片岡七瀬「ただストレスがかかってるかもしれないから、無理させず安静にしていろって」
坂下道雄「俺の目にはいつも通りに見えるけど・・・どっか疲れてるのかもな」
片岡七瀬「今夜は私が一晩看病するから」
坂下道雄「いや、看病って・・・お前のほうが、病気みたいな顔してんのに」
片岡七瀬「私はなんともない」
坂下道雄「でも──」
片岡七瀬「道雄は寝てていいからね」
坂下道雄「・・・・・・」

〇綺麗な一人部屋
  坂下はベッドで横になりつつも、横目でチラリと七瀬の方を見た。
  七瀬はゲージの前で体育座りをして黒い蛇をじっと見守っている。
片岡七瀬「モリー・・・大丈夫だからね。 元気になってね」
坂下道雄「・・・・・・」

〇綺麗な一人部屋
  翌朝、坂下が目を覚ますと、七瀬は昨晩と同じようにゲージの前で体育座りをしていた。
坂下道雄「ずっと起きてたのか?」
片岡七瀬「うん」
  七瀬の顔をよく見ると、彼女の頬は普段よりも赤くなっている。
坂下道雄「お前、その顔・・・もしかして熱あるんじゃないのか?」
片岡七瀬「・・・かもしれない」
坂下道雄「仕事は?」
片岡七瀬「もう病欠のお願いしてある」
坂下道雄「じゃあ早くベッドに行きな」
  坂下は七瀬の手を取るが、七瀬はゲージをじっと凝視したまま動こうとしない。
片岡七瀬「モリー。早く良くなるんだよ」
坂下道雄「・・・あんまり無理すんなよ」

〇シックなカフェ
遥香「すみません。遅くなって」
坂下道雄「いや、こちらこそ・・・急に呼び出したりしてごめん」
遥香「何かあったんですか?」
坂下道雄「それが──」

〇シックなカフェ
遥香「熱か・・・。 それで七瀬さん、三日も欠勤してたんだ」
坂下道雄「元気がないモリーを心配して、一晩中看病してたんだ」
遥香「モリーちゃん、そんなに悪いんですか?」
坂下道雄「いや、少なくとも俺の目には普通に見える」
遥香「飼い主にしかわからない変化って、色々ありますから」
坂下道雄「そうだよね・・・」

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