異界狂騒 ~世界が終わるまでは、諦めることのない~(脚本)
〇体育館の外
晴「色々とやってくれたみたいね。学生達に凶器を売っている元締めもあなたでしょう?」
仮面「力が欲しいと願うものに、相応しいものを与えただけだが?」
晴「そいつらが暴徒化して暴れまわったり、凶器を求めた生徒が奪い合いをしたりしてるのよ」
晴「おかげで全部の委員会を巻き込む一大事よ」
仮面「楽しんでもらえているようで何よりだ」
晴「やっぱり、あなた、イメージ通りの悪者みたいね」
晴はそう言うと、仮面へと槍の切っ先を向ける。隙のない構えと射程の長さは、剣士なら間合いを詰めがたい威圧感に襲われるだろう
しかし、仮面はわずかの動揺も見せない。彼の斬撃は流星群の如く、高速の連撃である
絶え間なく襲い来る斬撃は、まさに物量の壁。攻撃は最大の防御を体現するそれは、敵に攻める余裕すら与えない
故に、仮面にとって間合いの差など、些末な問題
晴「第三抜剣」
晴「ゾディアック・ドライブ『スピカ』」
はずだった──
槍と剣、学園最強と最強勇者の攻防。それは1秒の間に数度の接触を持って終わりを告げた
仮面「なんだ・・・と」
晴「自信があったみたいだけど、単なる驕りだったんじゃない?」
異界にて歴代最強の勇者にして、魔王の力を奪った仮面の男は、女子高校生を相手に、ただの一撃も放てずに手傷を負わされた
着ぐるみ「な、何がどうなってるんだ? 仮面の野郎が一方的にやられたぞ」
白「あの者、彼奴の攻撃の初手を確実に潰している」
白「確かに理論上なら、どんな強い剣士であろうと、構えから剣を振るうタイミングを潰されれば、技を放てぬ」
着ぐるみ「そんなの理想論だろ。出来るなら、みんなやってる」
玲緒「晴は、それが出来るんですよ」
玲緒「あらゆる攻撃の起点を潰して、相手を倒す。学園での平均試合時間は、玲緒やぬりかべを除けば、約10秒」
玲緒「その初手潰しによる一方的な試合運びから、つけられた名は『予見の女王』」
着ぐるみ「マジかよ。何なんだ、あいつは」
仮面(単に速さで言えば、先ほどの小娘の足元に及ばない。なのに、なぜ!)
仮面「何故、私の攻撃を潰せる?!」
晴「自分で考えたら? あなたも最強なんでしょ」
仮面「くっ!」
仮面(私の動きに反応してるわけではないな。こちらが動くより先に、奴は既に動いている。私の攻撃を読んでいるのか?)
仮面(予知か? それとも読心か?)
仮面「試してみるか」
〇黒
玲緒「真っ暗になった?!」
???「未来視なら、闇に包まれた中での攻撃は読めまい」
???「読心なら、無心の攻撃は読めまい」
晴「安心したわ」
晴「あなたは、あの時から何も変わってなくて」
仮面「暗闇の攻撃を・・・見切っただと?!」
〇体育館の外
仮面(心を読むでも、未来を見てるわけでもないのか?)
仮面(馬鹿な! 身体能力も、技術も、魔族の術も使えない娘一人に、なぜ私が押されている?!)
白(先読みか。人が何かを見てから行動に移す速さには限界がある。それを越えられるのは、攻撃のタイミングを読むこと)
白(身体能力でいえば、晴は3人の中で一番劣っている。だが相手の動きを予測する頭脳で、それを補っているのか)
白(しかし、なぜ見知らぬ術にまで対応できた?)
晴「冷静さを欠いているわね。それでも元勇者?」
仮面「異界の娘如きが!」
晴「暃点に発せよ──」
仮面「その呪文は!」
晴「シズ・ドゥーク!」
仮面「くっ!?」
仮面「ただの、槍撃・・・だと?」
晴「何がくると思ったのかしら?」
白「今のは!」
着ぐるみ「あぁ、間違いねぇ」
玲緒「え? なに?」
晴「そろそろ決着といきましょうか」
仮面「こんなところで、終わってたまるもの──」
玲緒「な、なんですか?」
白「空を見よ!」
〇沖合(穴あり)
着ぐるみ「そ、空に穴が開いて? な、なんだありゃ!」
〇体育館の外
白「影が空を食らっている・・・」
ぬりかべ「あれは異界転送装置の暴走だ」
玲緒「17年前の?」
ぬりかべ「間違いねぇ。展示用の資料をまとめてるときに、何度も見たからな」
玲緒「事故があってから、転送装置は廃棄されたはずじゃ」
仮面「くくっ、どうやら、運命は私に味方したようだ」
晴「何をしたの?」
仮面「知らないのか。機械は壊されたが、核となるエネルギー結晶は、この土地の地下に隠してあったのさ」
仮面「それが魔王の魔具那の欠片とも知らずにな」
仮面「探し当てるのに、随分と苦労したみたいだがね」
晴「まさか、暴徒を集めたのはこのために・・・」
仮面「あぁ、彼らのおかげで、魔王の魔具那本体を呼び寄せることが出来たよ」
仮面「空を見たまえ」
玲緒「か、怪獣が空から降ってきた?!」
晴「嘘でしょ?」
仮面「恐れるべきは魔獣だけではない」
玲緒「晴!」
晴「動きが、段違いに早くなった?!」
仮面「仕留め損ねたか。魔王の魔具那が体に馴染むまで、まだ時間がかかりそうだな」
仮面「さて、これで形成逆転だ。このまま貴様らを倒すのは容易いわけだが・・・」
仮面「それでは、この世界の終末を彩るには、少し物足りないだろう」
仮面「なぁ、白金」
白「貴様、何を考えている」
仮面「なに、異界終末の前座として、お前たちに喜劇を演じてもらうだけさ」
〇文化祭をしている学校
風紀委員・後輩「お、落ち着いて、こちらへ避難してください!」
風紀委員・後輩「こ、今度はなに~?」
〇中庭のステージ
仮面「私の催した混乱はお楽しみいただいているかな、異界の人間達よ」
仮面「分かっていると思うが、君達に残された時間はもう僅かだ」
仮面「だが、それではあまりに無為な命じゃないか。つまらない、つまらなすぎる」
仮面「だから、君らが生き残る方法を提案しようじゃないか」
仮面「なに、簡単な二択だ」
仮面「私を倒して全員、生き残るか」
仮面「魔具那・・・。君らが凶器と呼ぶ、この武器を手に入れた者だけが生き残るかだ」
仮面「そうそう、特別に勇者の持つ聖剣、剣聖の持つ妖刀でも良しとしよう」
着ぐるみ「勝手なこと言ってんじゃねぇ!」
仮面「おやおや、早速ボーナスキャラが登場か。そいつは魔具那と聖剣の両方を持っているぞ」
仮面「さあ、選ぶがいい」
着ぐるみ「は? そんな口車に誰が──」
着ぐるみ「ちょ、なんで、こっちを殴るんだよ! 殴んじゃねぇ!」
風紀委員・後輩「こ、こっちです!」
着ぐるみ「助かる!」
仮面「この地に落ちた魔具那は数えるしかない。生き残る為に、命を天秤にかける正義を見せてみろ」
〇体育館の舞台
どうでもいい風紀委員「も、持ってねぇよ! 俺達はもう取られたよ!」
性格悪そうな風紀委員「た、助けて~!」
〇文化祭をしている学校
副風紀委員長「みなさん、落ち着いてー! 暴れないでー!」
副風紀委員長「玲緒ちゃーん! 私だけじゃ無理だよ―!」
〇体育館の裏
晴「学校中が大混乱ね」
玲緒「風紀委員長として、止めにいかないと・・・」
ぬりかべ「馬鹿! そんなことに時間を取られてる場合じゃないだろ!」
玲緒「そんなことってなんですか!」
玲緒「あの仮面の人に、唆された人も、暴動に巻き込まれた人も、困ってる人はたくさんいるんですよ」
玲緒「平穏を壊しちゃいけません」
ぬりかべ「その平穏を守る為には、こんな諍いに構ってる暇ないだろ! 真っ先にあの仮面を倒さねぇと!」
玲緒「でも!」
晴「残念だけど、どっちも却下よ」
ぬりかべ「あん? 晴、てめぇ、このまま全滅を待てっていうのかよ?!」
晴「仮面に手も足も出なかったくせして、何故、勝てると思ってるの?」
ぬりかべ「だからって、このままやられるのを待てるかよ! 最善を尽くすべきだろうが!」
晴「あなたのいう最善は、ただの玉砕じゃない」
ぬりかべ「戦わなきゃ、勝つ負けるの前だろうが!」
玲緒「もう、やめてください!」
玲緒「今、身内で言い争っても何にもなりませんよ!」
白「玲緒の言う通りだ。今、戦うべきを見誤るな」
晴「異界の争いを持ってきたあなたに言われたくないのだけど」
玲緒「晴、そういうことをいうのは」
晴「玲緒は黙ってて」
白「返す言葉もない」
白「彼奴は、我と勇者が命と引き換えにしても止める・・・」
白「と、言いたいところだが、既に一度負けた身だ。説得力などないだろう」
白「だが、それでも──」
晴「一つだけあるの」
白「む?」
晴「一つだけあるのよ。仮面を倒す策が」
白「ほ、本当か? それは一体──」
晴「勇者が聖剣の力で、魔王を倒すこと」
晴「仮面の無尽蔵な力の源は、魔王の力よ。その繋がりを断てば、人間対人間の戦いに持ち込めるわ」
玲緒「さっすが、晴です。ちゃんとそこまで先を読んでいたんですね」
ぬりかべ「なら、最速最短で魔王をぶっ倒して──」
白「無理だ」
玲緒「え?」
骨「魔王は何か甦ってるっぽいが、今の俺は聖剣を使えねぇ」
白「聖剣に選ばれた者でなければ、魔族を浄化することは出来ぬ以上、我らが出来ることは・・・」
晴「いるのよ、ここにもう一人。勇者が」
晴「玲緒、あなたよ」
玲緒「え?」