渋谷

こうたろう

渋谷(脚本)

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〇センター街
きよ「1995年 春  大学生の僕にとって、渋谷は希望の街だった」
きよ「渋谷駅から忠犬ハチ公には目もくれずスクランブル交差点を渡りセンター街に足を踏み入れると、」
きよ「正体不明の高揚感と優越感で満たされていた」
きよ「友だちとの何でもない会話で笑い、手を叩き、味のわからない苦いアルコールという液体を流し込みただ騒いで時間を垂れ流していた」
きよ「それが僕の世界のすべてで、それ以外の世界はモノクロに見えた。渋谷にはそんな小さな世界の塊が幾つもあった」

〇渋谷駅前
きよ「2021年 夏  アスファルトから小学生の時に習った温泉の地図記号の3本のゆらゆら線が肉眼で見えるような暑さの中、」
きよ「僕はマスクを付けて渋谷に立っていた」
きよ「マスクが汗を吸って、頬に張り付き、息をするのもやっとだ。世界は一変した。渋谷も変わった。僕も変わった」
きよ「忠犬ハチ公に手を合わせ、久しぶりの外回りの営業が無事に終わることを願った」
きよ「普通であることが奇跡の連続であるということ、幸せは普通であるということを家族を持った僕は毎日思う」
きよ「マスクを付けなくてもよかった時代と、マスクが当たり前の時代との狭間を、今、僕たちは生きていて、」
きよ「いつか、「マスクを付けなかった時代があってね」なんて昔話にでもなりそうな気さえしてしまう」

〇渋谷ヒカリエ
「2013年 秋  2020年東京オリンピック開催が決まり、日本が、東京が希望に包まれていた」
きよ「僕を含め誰もが明るい未来を信じて疑っていないように思えた」
きよ「大学生のようにセンター街ではしゃぐようなことはなくなり、」
きよ「2012年に誕生した渋谷ヒカリエで恋人と洗練されたセレクトショップの4桁の服を眺め、」
きよ「カフェでふたりの将来について語り合った」
きよ「日本の未来と僕の将来は、歩調を合わせたかのように幸せに迷いなく向かっているかのように思えた」
きよ「1995年は渋谷に希望があったが、2013年は未来に希望があった」

〇渋谷のスクランブル交差点
きよ「1999年 冬  世間はノストラダムスの大予言に夢中だった。信じてはいなかったが、絶対に何も起こらないとも思えなかった」
きよ「何かが起こるかもしれない。どこかで何かを期待している自分がいるように感じていた」
きよ「2000年問題が控えた中のミレニアムのカウントダウン」
きよ「昔のコンピュータは、西暦を二桁で管理していたため、1999年から2000年に切り替わるとき誤作動が起きて、、、、」
きよ「一体何が起こるというのだろうか」
きよ「5,4,3,2,1」
きよ「世界は何事もなかったかのように当たり前に2000年を迎えた」
きよ「渋谷は、街全体が何かに向かって叫んでいるかのような熱量だった」
きよ「まだ大人になりきれていない僕は、何もかもわかっていたつもりでいた小さな希望の世界が終わり、」
きよ「雑踏の中に身をゆだね、誰でもない自分でありたかった」

〇ハチ公前
きよ「2055年 春  僕は」
きよ「妻と渋谷に立っている」

コメント

  • あっけらかんとした写実主義で、突き放され、呆然とし、物語の中に閉じ込められたような感覚。あ、新感覚。

  • 色々とあっても、最終的には
    「妻と立っている」で終わり、
    読後感の良い作品でした😌
    彼の人生を上からのぞきこんでいるような、
    特別な気分になる物語ですね😊

  • 主人公の渋谷に対する思いが、昔と今とで対比されていて時代の流れがうまく反映されているところが楽しかったです、時代は変化しますね、自分の気持ちもシフトしていかなければなりませんね。

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