エピソード17『帰還』(脚本)
〇村の眺望
【2034年、イバラキ。『言霊 みれい』】
陽の落ちゆく頃、『創』は私たちの農場へやってきた。『創』はその背後に巨大なキメラを連れている。
クマより大きなキメラだった。幾つもの腕と足を生やした骨格、それがただのキメラではない事を物語っていた。
グリーン・ブラザー「・・・懐かしいね、『緋色』 ボクたちはいつも、こんな『おままごと』をしてた」
グリーン・ブラザー「──ゲームのキャラに成りきって。オモチャの剣で、杖で戦っていたね」
グリーン・ブラザー「『緋色』、ボクは小さな頃からずっとキミを憎んでいたよ」
グリーン・ブラザー「キミが憎くて仕方なかったよ」
グリーン・ブラザー「これは父さんからの手紙だ。これは、キミがボクに勝てたら渡そう」
グリーン・ブラザー「キミが、この、『ヒト腹イノリ』に勝てたらね!」
前へと足を踏み出したソレ、『イノリ』と命名されたモノは、何をベースにしたのか解らない奇怪な合成獣《キメラ》だった。
太い腕・巨大なカマ、丸太のような脚。ソレが口から白い液体を吐き零《こぼ》す。
グリーン・ブラザー「姉ちゃんの脳を持ち、クマの骨格をベースにカマキリの腕、名馬『ディープタクト』の脚を得たモノだ。更にホーム特注の鎧を着てね」
グリーン・ブラザー「最強のキメラ『イノリ』に、お前ごときが勝てるかな?」
グリーン・ブラザー「知っているかい? 姉ちゃんはな、ボクの前で殺されたんだ」
グリーン・ブラザー「胸を一刺し。毒の塗られた刃《は》で貫通の一刺し。ビクビク震えて、ボクの前で死んでいったんだ」
・・・知らなかった。『創』と共に何処かで生きている、そう信じていた自分が居た。
グリーン・ブラザー「お前らにボクの、姉ちゃんの気持ちが解るかっ! 無残に、残酷に、あの人は毒で貫かれたんだぞっ!」
グリーン・ブラザー「死ねよ。『緋色』!」
『祈』の目をした巨大なキメラが、100mの距離から一直線に『緋色』を目指す。大きな緑色の鎌を構えて、キメラは肉迫した。
イノリ「ギィィィィィィィッ!!」
〇田園風景
『緋色』は眼を閉じ、静かに『鋼の棒』を構えた。
緋色「姉ちゃん。痛かったな。守れなくてごめんな」
〇村の眺望
イノリ「ギャッシャーー!」
キメラ『イノリ』は、恐ろしい速さで両手の鎌を振り回す。──そこに隙は無かった。
〇田園風景
待ち受けた『緋色』が、『鋼の棒』を振り下ろす。
その一撃は、キメラ『イノリ』を2つに割った。
『緋色』の後方へその別れた2つが崩れ走り抜ける。
すれ違った『緋色』におびただしい赤が掛かる。
『緋色』には踏み込んだ一歩、振り下ろした腕以外、一切の動きは無かった。
〇村の眺望
グリーン・ブラザー「──こんなバカな話があるかよ」
グリーン・ブラザー「ボクは、全てを使って、姉ちゃんの卵子、脳にまで手を付けてこんな結果? 無いだろ? 酷いだろ?」
『創』の前で『緋色』は言った。
鋼の棒を皮の鞘に戻して、『創』の近くで地に膝を付ける。
緋色「『創』。そいつは、『祈姉ちゃん』じゃないよ」
緋色「そいつは、『祈姉ちゃん』じゃない!」
緋色「それはただの、・・・『化け物』だよ」
緋色「『創』戻ってこいよ。俺たちが、皆で倒すべき相手が居たじゃないか。2人で倒す約束をしたじゃないか!」
グリーン・ブラザー「・・・・・・『歯車フォーチュン』」
緋色「ああ」
緋色「『創』、お前、俺たちの『リーダー』だろ? お前が指揮を執ってくれないと、俺たちは、きっとこのさき生き残れないよ」
タタミ「リーダー!」
楽々「総隊長――っ!」
コージ「皆さんから聞いてます。僕、ちからぶそ」
みれい「『コージ』は後でね!」
『創』は不思議そうな、幻でも見るような目つきで、・・・私たちを見ていた。
グリーン・ブラザー「ボクで、ボクなんかがここに居て」
緋色「いいだろ。当然」
グリーン・ブラザー「ボクなんかが皆の命を預かっても」
緋色「お前なら、俺たちを生かしてくれるよ。誰も疑っちゃいない」
グリーン・ブラザー「ボクの、ボクの居場所は」
緋色「お前の場所は『化けクリ』のリーダー、そこしか無いだろ!」
『緋色』の大きな胸板に『創』の細い体が納まった。『緋色』は兄のような動作で『創』の背を撫でている。惜しみなく撫で続けた。
緋色「みんな、お前の事を待っていたよ」
タタミ「おかえりなさい! リーダー!」
コージ「確か、すごく頭良かったんですよね! 今度僕に、」
楽々「総隊長、これはお給与マシマシですよー♪」
緋色「『創』、・・・『祈姉ちゃん』と『奈久留』の仇、一緒に取りに行こうぜ」
震え涙零す『創』の背をさすって、『緋色』もやっぱり泣いていた。
『創』の背、そして『緋色』の背に皆が飛びつく。
『緋色』が『創』のその耳へ語りかけた。
緋色(だって俺たち、)
緋色「・・・親友、だろ?」
『創』の懐から零れた封筒を拾い上げる。
『ブラック・ダド』の手紙、その中に入っていた便箋には、丁寧にこう書かれていた。
私の息子を、『グリーン・ブラザー』をお願いします。
って。
〇立派な洋館
【2034年、アラスカ『ホーム』。『歯車フォーチュン』】
その日、旧アラスカに在る『ホーム・ホルダー』拠点に私は居た。
朝靄の中、多くのキメラを控えさせ建屋の外で待っている。
歯車フォーチュン「『ブラック・ダド』は客をこんなに待たせるのかい? 寒いのだから、早く中へ上げてもらいたいのだがね」
しかし、
「ダドは体調を崩して出れない」の一点張り。黒髪の娘は門の外に居る私たちを、その一切の侵入を認めなかった。
歯車フォーチュン「私は、あの『フォーチュン』なんだよ? 手土産も持ってきているのに何て扱いだい」
黒髪の娘は手土産の詳細を求めた。
「──『ダド』もそれを知りたく思うでしょう」
との事だ。
歯車フォーチュン「これかい? これは時間の干渉から、全ての己を守る輝石『存在の石』。それを4つもだよ」
歯車フォーチュン「これがどれほどの宝か、『ホーム・ホルダー』の長《おさ》なら解るだろうに」
歯車フォーチュン(──まぁ、お前ごとき小娘には解らないだろうがね)
一度屋敷へ戻った娘に、更に30分待たされた。
私はその帰りを、門に尿をかけ待っていた。
パープル・マム「『歯車フォーチュン』、『ダド』からの通達です」
歯車フォーチュン「待たせたね。早く聞かせたまえ!」
パープル・マム「『勝手にしろ。名も勝手に名乗るがいい』 だそうです」
パープル・マム「アナタはこれから『ホーム・ホルダー』の技術開発主任として活躍していただきます。よろしくお願いいたします」
歯車フォーチュン「『ブラック・ダド』に伝えよ。銀髪の娘」
パープル・マム「はい」
歯車フォーチュン「我『フォーチュン』は、お前と対等の地位を望む。才能、力、影響力、実績があるのだから当然だよ」
小娘は乳臭くは見えなかった。後で夜の相手をさせたいと思う。私は腕を広げ己の力を誇示して見せた。
歯車フォーチュン「そして名乗ろう。新しい我が名は」
歯車フォーチュン「『フォーチュン・ファーザー』、・・・小娘、お前たちの上に君臨する者の名だよ」
自身のカッコよさに笑みが抑えられない。雪の大地を転げまわる。地の汚れも『ホーム・ホルダー』の本拠地を前にしたなら勲章だ。
転がりながら今から夜が楽しみで身体が疼く。
我『フォーチュン』は、その日晴れて『ホーム・ホルダー』の一員となったのだ。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭
あとりポロさんの世界に帰ってこれた!よきところですが🌿まだ必ず伺いますね🌿元気いっぱいもらえまきた🌿感謝です🌿