蓬莱事変(4)(脚本)
〇刑務所の牢屋
「バロン吉宗。面会である」
義孝「・・・」
義孝「・・・ほう」
義孝「ようやく見つけだしてくれましたな」
義孝「それとも止めを刺しに参られたか?」
義孝「実朝叔父」
実朝「バロン君かね?」
実朝「なるほど。確かに我らが来栖川家元当主によく似ている」
義孝「三文芝居はその辺りで」
義孝「お人払いを。無理矢理しかめ面を保つのも疲れるでしょう」
義孝「私を思い切り嘲笑いたいのでは?」
実朝「構わん。二人きりにしてくれ」
憲兵「しかし・・・」
実朝「君に責任は負わせない。大泉司令にも」
憲兵「畏まりました」
実朝「・・・」
実朝「ふふふ・・・」
実朝「ははははは・・・」
実朝「ヒャハハハハーーーーーーーーーーッ!」
義孝「それが本当のお前の顔か。来栖川実朝」
義孝「いや・・・裏日本は卸問屋の穀潰し」
義孝「長門屋善三」
実朝「ふん。そう名乗った時期もあったっけなァ」
義孝「山縣公爵から色々と伝え聞いてはいた」
〇武術の訓練場
『遊び半分で討幕運動に加わり、金の力で傍若無人に振る舞い』
『上役が定めた規律を軽んじ、身分の低い仲間を虐め抜き』
『挙句同胞を見捨てて逃亡した奇兵隊最悪の隊士』
〇刑務所の牢屋
実朝「ケッ!維新英傑の尻馬に乗っただけの棒切れ野郎が言ってくれるぜ」
実朝「アイツがもっと早くにクタバってくれりゃ日本はもっと自由な国になれてたんだ」
義孝「『金が全て』の世の中か?」
実朝「『暴力が全て』の世の中よりゃマシだろ」
義孝「ユートピア―ド計画が暴力でないとでも?」
実朝「軍人が押し付ける秩序と商人が押し付ける秩序のどこが違うんだ。ああ?」
実朝「仁義礼智忠信孝悌。八徳を盾にしてお前らモノノフとやらがどれだけの暴虐を強いてきた?」
義孝「それは・・・」
実朝「・・・ククッ」
実朝「なんてな。綺麗ごとは無しで行こうか」
義孝「貴様・・・」
実朝「次は俺の番だ」
義孝「ユートピア―ド計画か」
実朝「ああ、その利権の全て。いや計画そのものが来栖川家の意思という所まで来た。お前がいなくなってくれたおかげでな」
実朝「全く。よくもこんな金の生る話をながい間断ってくれたもんだ」
義孝「当然だ。人間を十把一絡で機械の如く扱う都市計画など協力出来ん。秩序は然るべきだが血の通わぬ徹底した管理社会は国家ではない」
義孝「国家・・・」
義孝「家の如き国・・・家族の如き民・・・」
義孝「・・・」
義孝「そうか。家族であったのだ」
義孝「俺が虐げた者達もまた、家族だったか」
実朝「ククッ・・・幼稚な答えに行きついたもんだなァ」
義孝「・・・」
実朝「幼稚。浅慮。綺麗事。売り言葉に買い言葉で手前の矜持もあっさり捨てちまったか」
義孝「ああ。お前の言う通りだ」
義孝「俺は馬鹿になった」
義孝「あの瓦礫の街で作った偽りの家族が、俺を馬鹿で弱い男に変えてしまった」
〇廃倉庫
『だが守ってやらねば』
『あの者達の最後の自由を』
『健やかに笑っていられる自由を』
〇刑務所の牢屋
実朝「自由・・・自由・・・自由・・・」
実朝「反吐が出るぜ」
実朝「俺は商人。お前は華族」
実朝「地べた這いつくばってる虫のような連中に寄り添うなんざ出来やしねえ。そんなもの幻想だ。夢想だ。錯覚だ。幻覚だ」
実朝「山縣も最後は俺の様に故郷も奇兵隊も捨て帝都の元老に成り上がったじゃねえか」
実朝「今度は俺の番なんだよ」
実朝「俺に足りなかったのは貴族の名だ。だから来栖川一族に目をつけ分家の婿として潜りこみ、分家筆頭になって勢力を伸ばした」
義孝「ふん。来栖川一族の富を乗っ取る気だったところまではいい」
〇王妃謁見の間
『何もかも、獅子身中の虫を甘く見た我が油断の招いた仕儀だ』
『許せんのは母を失った桜子に近づき堕落させる為にデモクラシーを植え付けた事』
〇刑務所の牢屋
実朝「次代を担う若き当主に世界標準の価値観を教えただけさ。親戚として当然の行為だったと思っているよ」
義孝「根室の如き鼠輩を近づけたのも貴様だろう!」
実朝「そりゃあまあね。若い男女の、勢い余った心中までは慮れないさ」
実朝「いや、すっかり『あの女の娘』だって事を忘れてたよ」
実朝「ククククク!カカカカッ!」
義孝「貴様ああああああ!」
実朝「お~怖。檻が無かったら大怪我じゃねえか」
実朝「まるで猿だぜ」
義孝「クッ・・・」
実朝「ケダモノ親父と尻軽娘に一族の行くすえを任せられん故、この私が来栖川家を導いてゆく」
実朝「新たなる時代。お前の娘も番号つけてしっかりと管理してやる。安心してくたばれや」
実朝「じゃあな。男爵閣下」
実朝「あ、そうそう」
実朝「もうすぐ蓬莱街で武力蜂起が起こるよ」
実朝「君がけしかけ桜子が火をつける、貧民達の反乱がね」
義孝「・・・」
〇荒廃したセンター街
活動家「帝都最大のスラム蓬莱街は今や自由主義者最後の砦だ」
活動家「志あるものは是非集うべきだと思うよ」
活動家「ここだけの話だがね、デモ活動に加わっている間は食事も支給されるらしい」
活動家「とにかく元老と官憲の横暴を打倒する機会は今しかない!」
活動家「さあ集え!蓬莱街に!」
活動家「・・・え?僕?」
活動家「僕はまあ、色々と忙しい身分だからね」
活動家「期待してるよ。一般の方々の底力に」
〇レトロ喫茶
活動家「いい?私達、婦女子の時代はすぐそこまで迫ってるのよ」
活動家「このまま男の時代が続いたならこの国が、世界が、人間全体が滅びてしまうわ」
活動家「女が全てを取り仕切る優しい世界を作る」
活動家「その為の最後の戦が蓬莱街蜂起なの」
活動家「新時代を生きる女はこの波に乗るべきよ!」
活動家「・・・え?私?」
活動家「私は子育てとか忙しい身だから」
活動家「期待してるわよ。若い貴女達に」
〇崩壊した噴水広場
伝八「飲むか?」
最上「・・・」
伝八「蓬莱街に集結してるのは貧民だけじゃない」
伝八「最早、チンピラだけでもねえ」
伝八「どこにでもいる市井の人々すら混ざってる」
最上「己の手を汚さない扇動者。新種の革命家とやらの仕業か」
伝八「秩序統制の仮想敵に加えてブルジョワの暇潰しにまで利用されてるとも知らず。全く飢えた人間ってヤツは始末に負えねえ」
最上「腹の飢えと心の飢え。震災はそれを完全に炙り出してしまった。もう誰にも止められない」
伝八「まあ、官憲側としてはせいぜい利用させて貰うさ」
伝八「来栖川桜子を逮捕し、せめて無責任に大衆を煽った高等遊民共に責任を取らせてやる」
伝八「・・・飲めよ。こっから先は正気じゃ乗り越えられねえぞ」
伝八「俺達もアイツらもな・・・」
最上「・・・」
〇古い競技場
ロン「なんだか全員同じ顔に見えちまうな」
マネ玄人「革命とはそういうものだ」
クラムぼんぼん「ああ、もうお祭りじゃない」
タジマ七郎「・・・お」
バリトン豊「どうも」
タジマ七郎「田舎に帰ったと思ってたぞ」
バリトン豊「僕にはここしかないから」
タジマ七郎「俺もだ。だから戦うしかねえ」
ダリア(御堂組も、ジュン君もいなくなった)
ダリア(結局一人ぼっちか・・・)
ゴザエモン「なんだそのガラクタ?」
ゴザエモン「どうやって遊ぶんだ?」
ケン「・・・」
トラ「同志諸君!」
トラ「我らが盟主!来栖川桜子氏より最後の演説がある!心して御清聴されたし!」
桜子「来栖川桜子です」
桜子「ご存じのように私の父は憲兵司令でした」
〇西洋風の駅前広場
『民権思想を否定し自由活動家を弾圧した封建主義者でした』
『その抑圧は自分の家族にもおよび、結果として妻を自殺へと至らしめ一人娘は大和撫子とはかけ離れた不良娘と化しました』
〇古い競技場
桜子「どうぞお笑い下さい。これが、華族来栖川男爵家の辿った末路です」
桜子「ですが盟主と呼ばれ同胞の頂きに立つ身となった今、私は少しばかり、父の気持ちが理解できるような気もします」
桜子「あの人はあの人なりに自分が正しいと思った道を・・・誰しもが幸せになれるような未来を願っていたのだろうと」
桜子「故に私もこれから私が正しいと思った道を突き進みます」
桜子「まずこの鎧は誰かに危害を加える為のものではありません」
桜子「覚悟の象徴」
桜子「これより蓬莱街を出て声高らかに叫び続ける覚悟の証」
桜子「私はこれより叫び続ける」
桜子「思想の自由。芸術の自由。婦女子の自由」
桜子「恋愛の自由。結婚の自由」
桜子「歌う自由。踊る自由」
桜子「闘う自由。戦わぬ自由」
桜子「叫ぶ!進む!叫ぶ!進む!叫ぶ!進む!」
トラ「叫べ!進め!叫べ!進め!」
デンキ「叫べ!進め!叫べ!進め!」
ケン「・・・」
ゴザエモン「どうした?さっきから考え込んで」
ケン「・・・う~ん。何か違う気がするんだよな」
ゴザエモン「・・・?」
『足りないわ』
桜子「・・・え?」
未来子「全然足りてない」
未来子「叫ぶ・・・進む・・・それだけ?」
未来子「道を阻まれたらどうするの?」
未来子「口を塞がれたらどうするの?」
桜子「・・・そ、それは」
未来子「答えは簡単よ。もう覚悟は出来ているんでしょう?」
未来子「だったら私が勇気と力を与えてあげる」
未来子「アナタに」
桜子「・・・」
未来子「アナタに」
トラ「・・・!」
未来子「アナタに」
デンキ「・・・」
未来子「みんなに」
未来子「闘うチカラを」
未来子「戦う力を」
未来子「邪魔なもの全部、やっつける力を!」
〇炎
だって仕方ないじゃない・・・
キミがアタシを壊すから・・・
だって仕方ないじゃない・・・
セカイがアタシを壊すから・・・
これはキミが点けた炎・・・
これはセカイが握らせた拳・・・
もう戻れない
もう引き返せない
悲しみが止まらない!
憎しみが止まらない!
怒りが止まらない!
止まらない!止まれない!
止まらない!止まれない!
もう止まらない!もう止まれない!
もう止まらない!もう止まれない!
未来子「全部壊すまで!全部変わるまで!」
未来子「アタシは止まらない!」
未来子「絶対に絶対に絶対に止まりはしない!」
〇古い競技場
モヒカンズ「オラァ!邪魔するヤツはぶっ殺せ!」
モヒカンズ「革命だぞコラ!かかってこいやーーッ!」
ロン「お・・・おい」
チンピラ浮浪者「何が憲兵だ!何が戒厳兵だ!」
チンピラ浮浪者「目にもの見せてやるぞクソ軍人が!」
バリトン豊「ひ・・・ひいっ!」
未来子「さあ、号令を。私達の盟主さま」
桜子「貴女という人は・・・」
未来子「だって仕方ないじゃない」
未来子「せっかく手に入れた『神の声』をあんな」
未来子「・・・あんなクソガキに委ねたんだから」
桜子「・・・」
未来子「全部全部、アンタのせいよ」
未来子「いいわ、私が言ってあげる」
未来子「・・・さあみんな」
〇黒
帝都をぶっ壊しちゃえ
つづく