鈴木は人気配信者を目指し最強の錬金術師と契約する

司(つかさ)

7話(脚本)

鈴木は人気配信者を目指し最強の錬金術師と契約する

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〇池袋西口公園
  降りしきる雨の中
  鈴木、そして柊は誰もいない公園で対峙していた
柊「君は・・・確か千花ちゃんの弟さんだね」
柊「僕に用っていったい何だい?」
鈴木「柊さん。姉さんと話してて違和感を覚えたことはないですか」
柊「違和感? 何の事だかわからないな」
柊「それよりも千花ちゃんは大丈夫かい? 僕もそろそろお見舞いに行きたいんだけど」
鈴木「姉さんは大丈夫です」
鈴木「でもお見舞いは僕との話が終わってからにしてもらえますか」
柊「もったいぶるね。そんなにその違和感とやらが気になるの?」
鈴木「柊さん。僕は姉さんが倒れているのを最初に発見したんですよ」
鈴木「ホテルの一室でね」
鈴木「僕の言っている意味が柊さんなら分かりますよね?」
柊「なるほど、君は僕たちのストーカーだったわけだ」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
柊「千花ちゃんもしっかり弟さんの教育はしてほしいなぁ」
柊「千花ちゃんが良かったとしても僕にとってはプライベートなんだ」
柊「君の行為は感心しないね」
  柊がニヤリと笑ったと同時に遠くで雷が落ちる
鈴木「確かに僕がやったのは良くない事です」
鈴木「でも、だから分かった事もある」
鈴木「柊さん。あなたは僕が今日呼んだ理由に気づいてるんじゃないですか」
柊「・・・・・・・・・・・・」
柊「・・・・・・違和感か」
柊「僕はね、弟君。ずっと恋愛はしないと思ってたんだ」
柊「いや言い方が違うか」
柊「恋愛はしないと決めていたんだよ。相手が誰であろうとね」
鈴木「相手が・・・誰であろうと・・・・・・」
柊「それならどうして千花ちゃんと付き合ったのか・・・・・・」
柊「君が言いたいのはそういう事かい?」
鈴木「──やっぱりあなたはわかってっ!」
柊「おっと、そこで止まるんだ。妙な真似はしない方がいい」
柊「余計なお喋りはもういいはずだよ」
柊「だって、君が欲しがってるのはこれだろ?」

〇綺麗な病室
  3日前
  千花が入院している病室内
パンドラ「鈴木、ワシへの差し入れはないのか?」
鈴木「ないですよっ!」
パンドラ「なんじゃ。お前あの日は結局寿司は無しになったじゃろうが」
鈴木「当たり前です」
鈴木「あんな状況で、外食なんてする気になれませんって」
鈴木「それより・・・姉さん目は覚ましました?」
パンドラ「いや、千花は相変わらずじゃ」
鈴木「そうですか・・・・・・」
鈴木「お医者さんには特に異常はないと言われてるんですが、なんでですかね」
パンドラ「鈴木・・・・・・話がある」
鈴木「なんですか、急に改まって」
パンドラ「ワシ、そしてお前は今やただの人間ではない」
パンドラ「錬金術が持つ力には終わりがなく、その力は錬金術師の修練によって進化していく」
鈴木「パンドラさん。何が言いたいんですか」
パンドラ「千花が目を覚まさない。その原因が医者には分からないと言ったか」
パンドラ「つまりそこには医者には分からない力が働いているという事じゃ」
鈴木「それって・・・・・・もしかして」
パンドラ「千花は何者かに魔術を掛けられている」
パンドラ「それ故に目を覚まさない可能性が高い」
鈴木「魔術!? 姉さんがそんな・・・・・・」
パンドラ「鈴木落ち着け、お前の悪い癖じゃ」
パンドラ「魔術という事は、これは病ではない」
パンドラ「つまり魔術であれば解決する方法が見つけられるはずじゃ」
パンドラ「であれば、焦る必要はない」
鈴木「でもっ! 魔術を使う奴がどこかにいるならほっとく訳には──」
パンドラ「大丈夫じゃ。ここにはワシとお前がおる」
パンドラ「そう簡単に向こうから仕掛ける事は出来ないはずじゃ」
鈴木「・・・・・・・・・・・・・・・」
鈴木「パンドラさん・・・・・・僕、どうしても確認したいことがあるんです」
パンドラ「わかっておる」
パンドラ「・・・・・・薬の事じゃろ」
鈴木「僕たちがホテルで姉さんを見つけた時、すでに薬は無くなっていた・・・・・・」
鈴木「それが何を意味するのか、確かめなきゃいけないあの人」
鈴木「・・・・・・柊さんに」
パンドラ「そうか。ならワシも」
鈴木「──パンドラさんは姉さんの近くにいてあげてください」
鈴木「姉さんが目を覚ますかもしれない」
鈴木「パンドラさんが近くに居てくれれば安心なので」
パンドラ「鈴木、無茶はするなよ」
パンドラ「お前にとって千花が大事であるように」
パンドラ「千花にとってもお前は大事な存在じゃ」
パンドラ「それを忘れるな」
鈴木「・・・・・・はい」

〇池袋西口公園
鈴木「やっぱりあなたがその薬を持ってたんですね」
鈴木「柊さん!」
柊「弟くん・・・・・・なぜ僕が君にこの薬を見せたのか分かるかい」
鈴木「その薬は危険なものなんです」
鈴木「早く返してください。僕が預りますから」
柊「それは・・・・・・人の心を支配できるから、かな?」
鈴木「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
柊「どうしてそんなに驚くんだい?」
柊「君は良く知ってるはずだろ? 君が千花ちゃんのために作った薬なのに」
鈴木「・・・・・・どうして柊さんがそれを」
柊「そんなの簡単な事だよ」
柊「千花ちゃんが教えてくれたんだ」
鈴木「姉さんが? 姉さんがそんな事をあなたに話すはずがない!」
鈴木「だって姉さんは・・・あなただけには」
柊「──なぁ。君はどうしてここに来たんだ」
柊「僕を疑ってたんじゃなかったの?」
柊「疑ってたなら、そんなに動揺する必要はないと思うけど」
鈴木「僕は・・・・・・本当は」
鈴木「自分の予想は当たって欲しくなかったんです」
鈴木「何かの間違いであればいいと思ってました」
鈴木「だって柊さんは姉さんが初めて好きになった相手だから」
鈴木「そんな人を疑いたくなかったんです・・・」
柊「そうか・・・・・・・・・」
柊「でも、残念だけどそうではないんだ」
柊「僕にはね弟君。薬の力は完全に効いてなかったようなんだ」
鈴木「・・・・・・薬が、効いてない?」
柊「長くは効果が持たなかったと言った方が正しいのかな」
柊「あの薬を使われて告白された僕は、確かに千花ちゃんの告白を受け入れた」
柊「その日までは千花ちゃんを世界で一番愛していたと言ってもいい」
柊「でも、そんな歪んだ好意は翌日すぐに消え去った」
柊「記憶は消えたわけじゃなかったからね。驚いたよ」
柊「千花ちゃんは一体僕に何をしたのか・・・ってね」
鈴木「じゃあ、姉さんには上手く口を合わせて?」
柊「さっきも言ったよね」
柊「僕は恋愛はしないと決めてたんだ」
柊「それを無理やり破られた・・・・・・許せることじゃない」
柊「だから徹底的にやる事にしたんだ」
鈴木「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
柊「君は姉さんの事を考えてやったのかもしれない」
柊「でもね。恋愛にその薬を持ち込んだのはルール違反なんだよ」
柊「恋愛自体を避けている人間だっているんだから」
鈴木「・・・・・・ごめんなさい柊さん」
鈴木「でも、姉さんは純粋な気持ちだったんです」
鈴木「僕はやっぱり姉さんを責める事は出来ません」
柊「そうか」
柊「君のその答えは心底僕を馬鹿にしてるね」
鈴木「柊さんは、本当に姉さんになんの想いもなかったんですか?」
鈴木「姉さんの事、色々助けてくれてたんでしょ」
鈴木「だから僕は・・・・・・柊さんの言ってることが全部信じられないんです」
柊「・・・・・・・・・・・・・・・」
柊「君に、僕の何が分かる?」
鈴木「え?」
柊「僕がどれだけ我慢してここまでやってきたと思ってるんだ! なぜ君にそんな事を言われないといけないっ!!」
鈴木「柊さん・・・・・・」
柊「まぁいいさ」
柊「千花ちゃんへの仕返しはもう出来たからね」
鈴木「柊さん。やっぱりあなた姉さんにも薬をっ!」
柊「──もう話は終わりだ弟君」
柊「いや『鈴木創太』君」
鈴木「どうして僕の名前を」
柊「千花ちゃんに聞いたんだ。君の名前をね」
柊「薬の効果を使うには相手のフルネームを知っている必要がある」
柊「この薬、後5回しか使えないんだよ」
柊「だから『鈴木創太』君、君は僕のためにもっと薬を作るんだ」
鈴木「それは・・・・・・くっ・・・・・・頭が・・・・・・」
柊「これは命令だ」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「・・・・・・わかりました」
柊「ははは、いい流れだ」
柊「さて、やっと面白くなってきたね」

〇池袋西口公園
  雨がまだ降り続けている公園
  そこに柊の姿はなく、鈴木だけが1人立っていた
パンドラ「鈴木、柊はどうなったんじゃ」
鈴木「パンドラさん遅かったですね」
パンドラ「お前が急に呼んだせいで時間がかかったわ」
パンドラ「薬は回収出来たのか」
鈴木「はい。予想通り柊さんが薬を持っていて後ほど返してくれると約束してくれました」
パンドラ「そうか、それはよか」
鈴木「──パンドラさん」
パンドラ「・・・・・・どうした?」
鈴木「姉さんはなぜ一度だけしか薬を使わなかったんでしょう」
鈴木「あんな状態にまでなって、僕たちにも迷惑をかけて」
鈴木「それでも薬は使わなかった・・・・・・」
パンドラ「お前、何が言いたいんじゃ?」
鈴木「僕の作った薬はまだ完成してなかったんですよ」
鈴木「中途半端な力しか発揮できなかった。僕はそんな物を姉さんに渡してしまったんです」
鈴木「だから姉さんは薬を使えなかった」
鈴木「僕が姉さんを苦しめてたんです」
パンドラ「鈴木・・・・・・お前、本気で言ってるのか」
鈴木「僕は本気ですよ! だからまた作らなきゃいけない」
鈴木「あの薬をもう一度!!」
パンドラ「・・・・・・・・・・・・」
パンドラ「なるほどな・・・・・・」
パンドラ「柊とやら、ここに居るんじゃろ」
パンドラ「正々堂々出てこい」
  木陰から拍手をしながら柊が現れる
柊「パンドラさんというからどんな人かと思ったら」
柊「まさかこんな子どもだったとはね」
パンドラ「お前は思ったよりもひねくれた人間のようじゃな」
パンドラ「鈴木になにをした?」
柊「なるほど・・・・・・ただの子どもではないんだね」
柊「鈴木君よりずっと勘が鋭いし冷静だ」
柊「でもねパンドラさん。社会は頭が良くたってもどうにもならない事がほとんどなんだ」
柊「鈴木君、分かってるね」
  柊が合図を送った瞬間、鈴木がパンドラに向かって走り出す
柊「『パンドラ』さん君は動けない。いや動かず拘束されるんだ」
鈴木「パンドラさんがいないと薬が作れないんです。お願いしますよ!!」
柊「これで僕の手持ちも残り3本だ。早めに頼むね鈴木君」
パンドラ「くっ・・・・・・」
  鈴木がパンドラに全速力で突撃する
  彼の目には生気が宿っていなかった
パンドラ「ワシに挑もうなど100年早いわ」
鈴木「がはぁ!」
  パンドラは迫りくる鈴木の腕をかわし、顎に拳を突き立てた
柊「なにっ!?」
柊「薬が効かない?」
パンドラ「柊。お前はどこまで薬の事を知ってる」
パンドラ「早く返した方が身のためじゃぞ」
柊「ふふっ、面白い子だね君は」
柊「鈴木君が1人では薬を作れないわけだ」
柊「だけどね。僕だってこんな機会を逃すつもりはないんだよ」
  柊がそう言って薬をもう1本飲み干した
柊「『鈴木創太』君、君はこの世界で最強の格闘家になった」
柊「君ならあんな子どもすぐに拘束できるだろ?」
鈴木「僕は・・・さい、きょう・・・・・・」
パンドラ「ちっ、鈴木のやつ簡単に操られおって」
  倒れていた鈴木は立ち上がり、フラフラとした足取りでもう一度パンドラに近づいて行った

〇池袋西口公園
パンドラ「くっ・・・放さんか。この馬鹿者がっ!!」
鈴木「僕は・・・・・・さい・・・・・・きょうなんだ」
パンドラ「くそっ、鈴木如きにっ・・・・・・!」
  パンドラは鈴木に覆いかぶされるような形で押さえつけられていた
柊「余計な薬を消費してしまったけど、パンドラさん。君はやっかいそうだからね」
柊「この薬を作った一人・・・・・・警戒するに越したことはない」
パンドラ「お前・・・薬を作ってどうする気じゃ」
柊「僕はねパンドラさん。めんどくさい事が嫌いなんだ」
柊「恋愛だの、友情だの、家族だの、人間関係は本当に面倒でくだらない」
柊「心は簡単に崩れ、移り変わっていく」
柊「自分以外は所詮他人だ」
柊「だから僕は心を支配し富を得て、さっさとくだらない人間社会からおさらばしたいんだよ」
パンドラ「なるほど、要は金か」
パンドラ「なんとも・・・つまらない願いじゃな」
柊「つまらなくて結構。僕の世界に余計な奴は必要ないんだ」
柊「都合のいい奴だけいれば十分。そこにかける労力は必要ない」
パンドラ「お前は・・・・・・千花を助けて来たんじゃないのか?」
パンドラ「千花はいつも嬉しそうに、お前への感謝を語っていたぞ」
柊「言ったでしょ? 余計な奴は必要ないんだよ」
柊「だから、自分の邪魔になる存在を極力なくそうと思って生きてきたんだ」
柊「なのにこっちが何を思って生きてるのかも知らず、土足で他人は人の心に踏み込んでくる」
柊「それでもなんとか我慢できてはいたんだ」
柊「僕は大人だからね。自分の心は制御できていたでも・・・・・・」
柊「千花ちゃんはそれを破った」
柊「僕の心を踏み荒らすだけじゃない。無理やり思考まで変えたんだ」
柊「許せるわけないだろ?」
パンドラ「柊よ。人は思った通りになどならんぞ」
パンドラ「・・・・・・お前の気持ちはよくわかる」
パンドラ「ワシも、そういった類の人間は好きではなかった」
パンドラ「だが、ワシは・・・・・・人といる事で得られる喜びがあると知った」
パンドラ「それは一人では叶えられない物じゃ」
柊「そんな物あるわけない!」
柊「そんな物は幻だっ!」
パンドラ「・・・・・・くっ」
  パンドラを押さえる鈴木の腕に力が入る
柊「パンドラさん。君とのお喋りはそろそろ止めにしようか」
柊「そろそろ雨が上がる。誰か来たら困るからね」
パンドラ「それが本当に・・・お前の本心なのか」
  呼吸が乱れ、パンドラの視界が徐々に狭まっていく
  三人に降りそそぐ雨はまだその勢いを保っていた

〇池袋西口公園
千花「みんな・・・・・・ごめんね」
パンドラ「千・・・・・・花?」
  そこには足を引きずった千花が立っていた
千花「柊君。恨みがあるなら私だけにしてくれないかな」
柊「どうして・・・どうして君がいる!」
柊「またこの薬が効かなかったのか?」
千花「それは」
パンドラ「──違う・・・・・・違うぞ柊」
柊「なにがだ」
パンドラ「お前は千花から聞いてなかったのか?」
パンドラ「この薬の効果はその想い。心の力によって変化する」
パンドラ「お前は千花にいなくなって欲しかった・・・・・・だから目を覚まさなかった」
パンドラ「だがな、それでも鈴木は賭けたんじゃ」
パンドラ「柊はそんな人間ではないと。犯人だったとしても話せばきっとその薬の効果を・・・目覚めない呪いを解いてくれると」
柊「くっ・・・・・・」
千花「私も柊君に説明したよ」
千花「だから柊君だって、それは分かってたよね」
千花「でも、私は目を覚ました」
千花「だからもう一度、柊君に会いに来た」
柊「会いに? 君は何を言ってるんだ!?」
柊「僕は君を殺そうとしたっ!」
柊「そんな人間の前にどうしてまた来れる」
千花「・・・・・・・・・・・・」
千花「私は・・・柊君に謝らないといけない」
柊「今更何を謝るんだ。君はホテルで僕に散々謝ってたじゃないか」
柊「私はあなたをだましていたと、薬を使って申し訳なかったとね」
柊「僕は謝られても許す事はできない」
千花「薬を使った事も申し訳ないと思ってるよ。でもね、それ以上に私は甘かった」
千花「私の愛は柊君の全部を受け入れられると思ってた」
千花「でも、そうじゃなかったの」
柊「薬を使った君が今更何を言ってる!?」
柊「僕をそんなに挑発したいの?」
千花「柊君はそれは違うの。でもね・・・・・・聞いてほしい」
千花「私は告白して、あなたを私の物にしたかった」
千花「それは本当の気持ちで、柊君は確かに私を好きになってくれた」
千花「でも私を好きになってくれた柊君は、私が今まで見てきた柊君じゃなかったの」
千花「急に身体を寄せて甘えてきたり、私の頬にキスをして求めてきたり、今までそんな柊君は見たことがなかった」
千花「だから怖くなったの。今まで私を支えてくれた穏やかな柊君はもういなくなっちゃったんじゃないかって」
柊「なんだと・・・・・・」
千花「だから柊君に対する想いは小さくなっていって、薬の効果がなくなってもそれで構わなかった」
千花「柊君が元に戻ってくれれば」
千花「それに・・・私たちが恋人になった事実は変わらない」
千花「罪悪感はあったけど、恋人関係になったんだから。もっと柊君と真剣に向き合おうと思ったの」
パンドラ「千花・・・お前・・・・・・」
柊「ふふふふ」
柊「はははははははっはははっは」
柊「人を馬鹿にするのもいい加減にしてくれ。それは僕だって見たくない自分なんだよ千花ちゃん!」
柊「僕はね、街中で人目かまわずスキンシップしたり甘い声を出す奴が大嫌いなんだ」
柊「男と女の付き合いが始まった途端本能剥き出しで接する人間が自然?・・・反吐が出る」
柊「僕の人生だ。他人に委ねたり甘えたりなんてしない」
柊「それが恋人同士だっていうなら・・・そんな物はいらない」
柊「でも君は・・・・・・そんな僕も見たくない僕を、無理やり表に出した!!」
柊「許せるわけないだろ? なぁ千花ちゃん」
パンドラ「千花・・・ここから離れるんじゃ」
パンドラ「アイツの悪意が強くなっておる。このままではお前は──」
千花「パンドラちゃん、いいの」
千花「覚悟は出来てる。それで柊君の気が済むならそれでもいい」
パンドラ「千花!」
柊「なるほど、それなら話は早いね」
  柊がまた薬を飲み干す
千花「柊君の怒りは正しいよ」
千花「私はどうなってもいいからさ。弟とパンドラちゃんはだけは解放してほしい」
千花「お願いします」
柊「なるほど・・・・・・それが目的か」
柊「・・・・・・まぁいいさ。君がここで消えてくれるならね」
千花「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
柊「永遠に眠るんだ『鈴木千花』!!」

〇池袋西口公園
  雨が降りしきる公園の中で、その雨音を切り裂くような声が響き渡る
  千花の身体がスローモーションのように倒れていく
  そして
  その身体を彼は抱き止めた
パンドラ「──お前は!?」
鈴木「姉さん、どうして来たんだよ」
鈴木「ここは僕が・・・何とかする場面じゃん」
鈴木「なのに・・・・・・なんでいつもこうなっちゃうんだ」
パンドラ「鈴木、お前意識が・・・・・・」
鈴木「こんな時までカッコ良くてズルいよね。姉さんは」
鈴木「まるでヒーローみたいだ」
柊「君達は・・・・・・姉弟そろってなかなかしぶといね」
柊「だが弟君。君はヒーローにはなれないよ」
パンドラ「鈴木・・・お前、大丈夫なのか?」
鈴木「ごめんなさいパンドラさん。実はかなり無理してます」
鈴木「まだ意識が朦朧としてて」
鈴木「僕たちはすごい薬を作ったんですね」
パンドラ「薬に抗ってるのか? お前が・・・・・・そんな馬鹿な!?」
鈴木「大丈夫です」
鈴木「今度こそ柊さんを、何とかしてみせます」
柊「どうやら、身体の自由がきかないみたいだね」
柊「それでよく千花ちゃんを支えてられる・・・・・・」
鈴木「柊さん・・・・・・僕はずっと姉さんに憧れてました」
鈴木「自分でなんでもこなして、家族にはなにも相談なんかしなくて」
鈴木「でも僕が困った時、最後は必ず姉さんが助けてくれるんです」
柊「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
鈴木「だから僕だって姉さんの役に立ちたかった」
鈴木「姉さんが僕を頼ってくるなんて初めてだったんです・・・・・・」
鈴木「柊さんに許してくれなんていいません。でもっ──」
鈴木「姉さんは本当にあなたの事が好きなんです。それは嘘じゃないと思います」
鈴木「だからもう一度だけ、信じてあげてくれませんか」
柊「・・・・・・・・・」
柊「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

〇白
柊の母「ごめんなさい柊。これからは私が柊をずっと守るから」
幼い柊「お母さんの事大好きだもん。僕がお母さんを守るよ」
柊の母「柊、こんな時間まで何やってたの?」
柊の母「食事も掃除もあなたがやるって言ったのよ!」
柊の母「ホント何やってるの! 使えない子ね」
幼い柊「ごめんなさい・・・・・・お母さん」
柊の母「絶対また来てね。さみしいの・・・・・・」
柊の母「子どもなんて荷物でしかないんだもの」
柊の母「うん・・・・・・それじゃあね」
幼い柊「・・・・・・・・・・・・」
幼い柊「お母さんさっきの人は誰?」
柊の母「誰でもいいでしょ! あんたには関係ないから」
幼い柊「お母さんの新しい恋人さん?」
幼い柊「あれ? でも前は別の人が・・・・・・」
柊の母「五月蠅いわね! 邪魔なのよあんたは」
幼い柊(お母さん・・・いつになったら帰って来るんだろう・・・・・・)
幼い柊(なんで僕はこんなに悲しいんだろう)
幼い柊「・・・・・・・・・・・・」
幼い柊(そうだ。僕は一人が怖いんだ)
幼い柊(誰かがいないから怖いんだ)
幼い柊(それなら、一人でなんとか出来るようにすればいいんだ!)
幼い柊(どうしてそんなに簡単な事に今まで気付かなかったんだろう)
幼い柊「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

〇池袋西口公園
柊「愛だの恋だの無意味なんだよ!」
柊(怖い)
柊「そんな物簡単に消える。簡単になくなる」
柊(怖い怖い)
柊「僕は・・・・・・そんな物いらない」
柊(怖い怖い怖い怖い怖い)
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「柊さん・・・・・・それは嘘ですよ」
柊「なんだと・・・・・・」
鈴木「言葉では強がっていても、柊さんの心は訴えてる」
鈴木「あなたは愛情に向き合うのが怖いんじゃないですか?」
鈴木「いつか消えてしまうから、そんな記憶があるから・・・・・・怖がってるだけです」
柊「うるさい!!」
鈴木「・・・・・・偉そうに言って僕も本当の恋愛なんてした事ありません。恋愛ゲームは大好きなんですけど」
鈴木「恋愛ゲームっていつでもセーブできるから楽しいんですよ」
鈴木「告白して失敗してもセーブポイントからやり直す事が出来る」
鈴木「そうすれば、絶対に恋人同士になれるじゃないですか・・・・・・」
柊「だからなんだ?」
鈴木「恋する姉さんを見てて思ったんです」
鈴木「成功するかどうかなんて分からなくても」
鈴木「怖くて仕方なくても」
鈴木「恋してる姿は楽しそうだなって」
鈴木「柊さん。ゲームじゃない現実に絶対なんて事はないと思います」
鈴木「僕が薬に抗えてるように、姉さんがもう一度ここに来れたように」
鈴木「セーブが出来ないから必死になれるんです」
鈴木「だからお願いです」
鈴木「柊さんも、もう一度だけ姉さんと向き合ってくれませんか?」
柊「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
柊(今更そんな事が出来るわけが)
鈴木「──出来ますよ」
鈴木「柊さんは気づいてないだけで、あなたはもう沢山の愛を与えて受け取ってるんです」
鈴木「そんなあなたに出来ないわけないじゃないですか」
柊「・・・君は、君たち姉弟はなんなんだっ!!」
柊「どうしてそこまで僕に干渉するんだ!!」
パンドラ「柊・・・・・・お前が思ってる以上にコイツらは手強いぞ」
パンドラ「鈴木も千花も間違えてばかりじゃが、何度でも立ち上がってくる」
パンドラ「お前が相手にしてるのはそういう奴らじゃ」
柊「くっ・・・・・・」
柊「なるほど・・・ね」
柊「弟君、君は・・・いや君たちは、ズルいな」
鈴木「え?」
柊「僕には出来ない・・・・・・絆が見えるよ。本当にイライラする」
柊「でも、なぜか羨ましくもあるんだ」
柊「なぜだろうね。分からない・・・・・・僕には必要ない物だと思ってたんだけどな」
鈴木「柊・・・・・・さん」
柊「もうやめだ」
柊「どうせ僕が薬を使ってまた命令しても、君もパンドラさんも千花ちゃんも立ち上がってくるんだろ?」
柊「そんなの割に合わないよ」
鈴木「柊さん!」
鈴木「断ってもいいんです。だからお願いします」
鈴木「姉さんともう一度だけ話をしてください」
鈴木「お願いしますっ!!」
柊「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
柊「そろそろ、雨が止みそうだ」
鈴木「え?」
  柊はそう、一言だけ言い残し二人の前を去っていった

〇綺麗なダイニング
  数日後、千花の家
  扉の前に鈴木とパンドラが荷支度をして立っている
鈴木「姉さん、もういいの?」
千花「私はもう大丈夫だから。そんな顔しないで」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木(姉さんはあの後すぐに目を覚ました)
鈴木(柊さんが命令を解いたらしい)
鈴木(僕の身体と心を支配していた呪縛も直ぐに解けた)
鈴木(その後、僕とパンドラさんはすぐに姉さんを病院に運んだ)
千花「あんたも無理しちゃだめだよ」
千花「他人ばっかり気にかけてると、自分の事がおろそかになるんだから」
鈴木(そう、姉さんを病院に運んだら僕は安心し気を失ってしまった)
鈴木(僕とパンドラさんが作った薬の効果は思った以上に身体に負担をかけていたらしい)
鈴木(僕は自分だけ読心術の薬を使ってたから、余計に負荷が強かったのかもしれない)
パンドラ「心配するな千花」
パンドラ「鈴木一人、ワシが居ればなんとかなる」
千花「・・・・・・そうね」
千花「パンドラちゃんが居れば安心かも」
千花「あんたもその・・・なんて言ったらいいか」
千花「いいパートナーを持ったわね」
鈴木「ぱ、パートナー・・・・・・」
鈴木「あはははは」
鈴木(いやそれはまぁ・・・・・・どうだろう)
パンドラ「いいや違うぞ千花」
パンドラ「コイツはな。ワシの弟子じゃ」
パンドラ「弟子ゆえまだまだ未熟だが、思ったよりは頼りになる」
千花「ふふっ、それは良かった」
千花「ふつつか者の弟では御座いますが、これからも末永くよろしくお願いします」
鈴木「ちょっと姉さんその言い方!」
パンドラ「鈴木・・・ふつつか者とはなんじゃ?」
鈴木「あー、そのなんといいますか」
千花「──ほら二人とも、そろそろ出る時間でしょ」
鈴木「ホントだ、もうこんな時間」
千花「それじゃあ気を付けてね」
パンドラ「うむ。世話になったの千花」
鈴木「姉さん・・・・・・その」
千花「うん? なに?」
鈴木「色々あったけど、そのさ」
鈴木「久しぶりに・・・・・・一緒に過ごせて楽しかった」
千花「そっか・・・・・・あたしもさ」
千花「一人より誰かと居る方が合ってるかも」
鈴木「それでさその・・・・・・あれから──」
千花「大丈夫。その辺りはちゃんと自分の気持ちと向き合って頑張ってみる」
鈴木「姉さん・・・・・・」
千花「でももう無理しないから、何かあったらまたあんたやパンドラちゃんにも言うからさ」
千花「人の心を変えるのはもういいけど、また面白い薬期待してるよ」
パンドラ「うむ、任しておけ」
鈴木「・・・・・・わかった」
  二人はそう言って千花の家を後にした

〇走る列車
鈴木「やっと収益も出てきて、僕のチャンネルも軌道に乗っては来ましたけど」
鈴木「姉さんが次の引っ越し用のお金を貸してくれるとは思いませんでした」
パンドラ「・・・千花も色々と思う所はあるんじゃろ」
パンドラ「今のアイツは一人で考え、選択した方がいい」
鈴木「ねぇ、パンドラさん」
パンドラ「なんじゃ?」
鈴木「錬金術って誰かを幸せに出来るんでしょうか」
鈴木「何だが僕は今回、余計な事をしただけのような気がして・・・・・・」
パンドラ「いいか、鈴木」
パンドラ「どんなにいい薬でも結局は使う人間次第じゃ」
パンドラ「それは薬に限らずなんでも同じじゃ。武器でも金でもその物自体に罪はない」
パンドラ「だからワシらが見極めなければならないのは、薬以上にそれを使う人間じゃ」
鈴木「それを使う人間・・・・・・」
パンドラ「千花もまだまだ未熟じゃが」
パンドラ「ワシは千花にとって必要な薬だったと思うぞ」
鈴木「パンドラさん・・・・・・」
パンドラ「成功だけが全てというわけではない。失敗したからこそ大切な何かに気づく事もある」
パンドラ「その助けにワシらの薬がなったのなら、それは錬金術師として十分誇れる事じゃ」
鈴木「・・・そうですね。ありがとうございます」
鈴木「僕も・・・・・・そう思います」
パンドラ「なら、もうこの話はもう終わりじゃな」
パンドラ「それより鈴木、お前結局大トロはどうなったんじゃ?」
鈴木「えぇ!? またその話蒸し返すんですか?」
パンドラ「お前が食わせると言ったんじゃぞ」
パンドラ「ワシは昔の記憶こそ曖昧じゃが、この世界に来てから刺激に溢れているせいか」
パンドラ「記憶・・・・・・特に食べ物については常に鮮明に覚えておるぞ」
パンドラ「大トロのあの滴るような脂と柔らかさ、舌の上で溶けるような感覚が愛おしくいくつでも口に入ってしまう」
パンドラ「一体どんな魔術をかければ、あんな美味い物が作り出せるんじゃ?」
鈴木「あはは・・・・・・まぁ日本には料理の魔術を使える人がいっぱい居ますからね」
パンドラ「それなら、ワシらもその魔術を学ばねばならん。のう鈴木」
鈴木「学ばねばって・・・要はお寿司が食べたいだけでしょパンドラさん」
パンドラ「弟子の癖に口答えはゆるさんぞ」
パンドラ「ホレ、これがどうなってもいいんじゃな?」
鈴木「あーー! それ僕のUSB! パンドラさんいつの間に」
鈴木「ちょっと返してくださいよぉ」
パンドラ「ふっはっはっはっはっは」
パンドラ「弟子の弱点などワシにはお見通しじゃ」
パンドラ「では新しい家に着く前に寿司屋に向かうとするかの」
鈴木「もぉーーいっつもこうなんだからぁ」
  二人の談笑が車内に響き渡り、その声が次第に大きくなっていく
  パンドラもこの世界の生活に慣れ、鈴木も錬金術の扱いに慣れてきていた
  しかし、そんな平和は長く続かなかった

次のエピソード:8話

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