蛇地獄

YO-SUKE

第2話 『モリー』(脚本)

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〇まっすぐの廊下
  『中学入試面接会場』

〇教室
面接官「あなたの長所を教えてください」
坂下道雄「僕はみんなから真面目だと言われてきました」
坂下道雄「嘘の嫌いな母の影響です」
坂下道雄「だから自分に正直で、人に嘘をつかない自信だけはあります」
面接官「それは立派ですね」
坂下道雄「ありがとうございます」
  中学生の坂下は、担任の教師に向かって自信満々の笑みを浮かべた。

〇黒
  俺はどこで人生を間違えたのだろう

〇綺麗な一人部屋
  モリーを探して部屋を散々調べたあと、七瀬は空になったゲージの前で項垂れていた。
坂下道雄「俺が帰ったときには、もうモリーはいなかったんだ」
坂下道雄「散々探したんだよ」
片岡七瀬「わかってる。道雄は悪くない」
坂下道雄「・・・・・・」
片岡七瀬「モリーは前にも脱走したことがあるし」
  七瀬はようやく立ち上がると、吊るしてあるコートに手をかけた。
坂下道雄「外、出るの?」
片岡七瀬「部屋にいないなら外かもしれない」
坂下道雄「雪がだいぶ積もってきたよ。 もう遅いし、探すなら明日でも――」
片岡七瀬「モリーが死んじゃう!」
坂下道雄「七瀬ちゃん・・・」
片岡七瀬「蛇は寒さに弱いの」
片岡七瀬「こんな寒空で一晩外にいたらどうなるか・・・」
坂下道雄「わかった。なら手分けして探そう」
片岡七瀬「ごめんね・・・」
坂下道雄「気にすんなって。行こう」

〇中規模マンション
坂下道雄「悪かったな、モリー。 生まれ変わったら幸せになれよ」
  そう言って、坂下はモリーの死骸が入ったビニール袋をゴミ置き場に捨てた。
坂下道雄(すぐ帰ると感じ悪いし、ネカフェでも行って時間潰すか)

〇通学路
  七瀬は凍える手を温めながら、モリーを探して寒空の下を歩きまわった。
片岡七瀬「モリー、お願い。帰ってきて・・・」

〇ペットショップの店内
増田忠司「それじゃあ、二人で朝までモリーを探してたのかい?」
坂下道雄「はい。七瀬ちゃんはそれで体調崩して」
増田忠司「お気の毒に・・・」
増田忠司「まあ昨日新人の子も入ったし、しばらくゆっくりしてもらっても大丈夫だから」
坂下道雄「すみません」
増田忠司「でもそれをわざわざ言うために、ここまで来てくれたの?」
坂下道雄「買い出しの途中だったんで。 七瀬ちゃんの職場も気になったし」
増田忠司「そう。まあゆっくりしてって」
坂下道雄「ありがとうございます。 ちょっと見学させてください」

〇ペットショップの店内
  坂下は爬虫類コーナーのゲージに並ぶ様々な蛇を見て回った。
坂下道雄「ダメか・・・どれも微妙に色や大きさが違うもんな」
店員「何かお探しですか?」
坂下道雄「いや、探しているというか──」
店員「これなんかどうですか?  値段もお手頃ですけど」
  店員が指差したゲージには『三万円』の値札が付いている。
坂下道雄「これでお手頃なんですかね?」
店員「カリフォルニアキングスネークは個体差ありますから」
店員「これは色つやもいいし、他の店ならもっとしてもおかしくないです」
坂下道雄「そう、なんですね・・・」
店員「あれ、もしかして自分で飼うんじゃない感じですか?」
坂下道雄「え?」
店員「彼女さんへのプレゼントだったりして」
坂下道雄「は? いや全然そんなんじゃなくて」
店員「いま多いですからね。爬虫類好きな女性」
店員「それに先ほど、まるで指輪を選ぶみたいに、真剣な顔をしてらしたので」
坂下道雄「いや、あの──」
店員「女性の方が羨ましいなぁ」
店員「私だったら、こんなプレゼントくれる男性、すごく好きになると思います」
坂下道雄「あ、あの! 失礼します」
  坂下は慌ててお店を出ていった。
店員「・・・私、変なこと言っちゃったかな?」

〇住宅街の公園
坂下道雄「はあ・・・どうすっかな・・・」
上野毛信子「この世の中で、一番怖い生き物を知ってるかい?」
  坂下が振り返ると、上野毛(かみのげ)がベンチの後ろでカラスたちに餌を与えていた。
坂下道雄「あなたは──」
上野毛信子「それはね、執念深い雌だよ」
坂下道雄「・・・・・・」
上野毛信子「女には気を付けることだね」
坂下道雄「はあ・・・」
上野毛信子「ところであんたの彼女、大丈夫かね?」
坂下道雄「?」
上野毛信子「ブツブツ言いながら、あちこち徘徊してたよ」
上野毛信子「しまいにはゴミまで漁ってた」
坂下道雄「ゴミ?」
上野毛信子「さっきゴミ置き場で見かけたんだ」
坂下道雄「!?」

〇中規模マンション
坂下道雄「ハァ・・・ハァ・・・」
  坂下は大慌てでゴミ置き場に戻ると、片っ端からポリバケツを開けて中身を確認した。
  ゴミは業者が既に回収したらしく、モリーの死骸も残っていなかった。
坂下道雄「良かった! 回収されてた・・・!」
  坂下はホッと息をついて七瀬の部屋に戻っていった。

〇綺麗な一人部屋
坂下道雄「ただいま──」
  坂下が部屋に戻ると、七瀬が嬉しそうに坂下の元にかけてきた。
片岡七瀬「いたの!」
坂下道雄「え?」
片岡七瀬「モリーが帰ってきたの!」
坂下道雄「いや、ちょっと言ってる意味が」
片岡七瀬「泣き疲れて寝ちゃったの」
片岡七瀬「それで目を覚ましたら、ゲージの中でいつもみたいに遊んでるのを見つけて」
  七瀬に無理やり引っ張られて、坂下はゲージの中を覗き込む。
  するとそこには、モリーとは似つかない黒い蛇がゲージの中を蠢(うごめ)いていた。
坂下道雄「!」
片岡七瀬「ねっ! モリー元気そうでしょ?」
坂下道雄「・・・これ本当にモリー?」
片岡七瀬「もうー。何言ってんのよ。 誰がどう見てもモリーじゃん」
片岡七瀬「モリー、もう勝手にいなくなったらダメだからね」
坂下道雄「・・・・・・」

次のエピソード:第3話 『黒い蛇』

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