エピソード1(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
電車の音、人々が話しながら行き交う街、
夜は明かりで溢れ、眠ることを知らない。
ここは東京"渋谷"
〇公園通り
里中 綾「お願いしまーす」
忠犬ハチ公の像が皆を見守る中
私はティッシュ配りのバイトをしていた。
配り切ることが容易でない量が入った段ボール箱を見つめ溜息をつく。
私、里中 綾(さとなか あや)は
20歳の専門学生だ。
数々のバイトがある中で、
地味にキツイこのバイトをするのには
理由がある。
七瀬 誠「あやー!大丈夫?配りきれた?」
走り寄ってきたのは、同じ専門学生の友人、七瀬 誠(ナナセ マコト)。
元々先に誠がここのバイトをしており、
私に紹介してくれた人でもある。
里中 綾「んー、今日はなかなか もらってもらうの厳しいねー」
七瀬 誠「そっかー、場所変えれば多分すぐ配り切れると思うんだけど、、、」
七瀬 誠「私もう自分の分終わったから手伝うよ!」
里中 綾「いや、大丈夫だよ! それに誠はこれから講義でしょ?」
里中 綾「私、午後は何もないし自分でやりたいから」
里中 綾「気持ちだけもらっとく。ありがと、誠」
七瀬 誠「そっか、綾は早く配れば良いってワケじゃないもんね・・・」
七瀬 誠「見つかると良いね...」
七瀬 誠「じゃあ、私はお先にあがっちゃおっかなー!!」
七瀬 誠「綾、明日は一緒の講義あるよね?! 楽しみー!」
七瀬 誠「またあとで連絡するね!さらばだー!」
そう言って誠は渋谷を後にした。
里中 綾「ふぅ、、頑張るか!」
こうして配りながら、
頭の中で考えることは
一つだけ。
〇公園通り
この1ヶ月半このバイトをして成果はなし。
もうあと少しで2ヶ月になろうとしている。
里中 綾「やっぱり無理だったのかなぁ」
よっこいせ、とティッシュ1束分を
配る為のカゴに移して配り始めた。
里中 綾「お願いしまーす」
里中 綾「お願いしまーす」
里中 綾「お願いしま、、、」
里中 綾「!」
咄嗟に相手のスーツの袖を引っ張った。
相手はこちらに気が付き驚いている。
?「・・・綾・・・?」
里中 綾「お父さん・・・」
見つけた。
私のずっと、探していた人・・・ー。
〇ファミリーレストランの店内
カラカラカラン
店員「いらっしゃいませー!! デ◯ーズへようこそー! お客様、2名様でいらっしゃいますか?」
里中 綾「はい」
店員「喫煙か禁煙どちらになさいましょう?」
里中 綾「あ、きつえ」
父「禁煙で」
店員「かしこまりましたー!ご案内致します!」
里中 綾「タバコ吸わなくなったの?」
父「・・・・・・。ああ」
里中 綾「ふぅん」
席について、適当にドリンクを頼む。
里中 綾「っやー!それにしてもグーゼンだねー、」
里中 綾「まさかお父さんに会えるなんて思っても見なかったなぁー!」
父「・・・・・・」
里中 綾「渋谷で働いてるって話は聞いてたし、 もしかしたらーとは思ってたけどっ。 何してたの?」
父「取引先との商談後で、直帰するとこだった」
里中 綾「へぇ〜!今どんな仕事してるの? アタシはねー、」
父「綾、・・・母さんは」
里中 綾「え?」
父「母さんは、大丈夫か」
里中 綾「・・・」
里中 綾「うん。新しい旦那さんが付いてたし。 穏やかな顔して半年前に逝ったよ」
父「・・・そうか・・・」
父「綾も・・・大きくなったな・・・」
里中 綾「そりゃ、7年も経てばね」
里中 綾「あの日、お父さんが出て行って、 私はずっと、疑問だったし、 正直お父さんに対して怒ってたよ、」
里中 綾「なんでこんな状態のお母さんを残して出ていくのって」
父「・・・」
沈黙が流れる。
里中 綾「でも、分かったの」
里中 綾「あの時のお母さんにとっては、 新しい旦那さんが必要だった」
里中 綾「お父さんには、それが一番分かってたから、 出ていったんだって。決してお母さんのことを愛せなくなったんじゃない」
里中 綾「逆だってことに気づいたの」
父「・・・」
里中 綾「その証拠に毎年、私の誕生日にお金の振り込みと、花束が必ず送られてきて」
里中 綾「その花束に一輪だけ混ざって毎回同じ花が入れてあるの」
里中 綾「"ハナニラ"だった」
里中 綾「これが何を意味するか。調べたの」
里中 綾「星に願いを・・・」
里中 綾「でしょ?」
父「・・・」
里中 綾「これは私にでもあり、お母さんへのメッセージだよね」
父「・・・母さんは、自由奔放な人だったんだ。 俺もそれが好きだった、彼が母さんの隣にいてくれて良かったと思ってる」
父「・・・でも、ずっと愛していた。俺は母さんの1番にはなれない、」
父「でも俺は母さんと綾の幸せを1番に願っていた」
里中 綾「うん・・・」
父「綾、一緒にいてやれなくて、すまなかった」
父「母さんに、、会いたかったなぁ」
そう言った父に生前の母の写真を見せると
静かに泣いた。
それから、父とは
今まであったことを話して店を出た。
〇公園通り
父と一緒に渋谷駅へ向かう。
里中 綾「ねぇ、今度私が休みの日 手料理作ってもいいかな?」
父「お、おお。わかった」
そう言って、父は優しく笑う。
里中 綾「何作ろう・・・」
父「毒盛らないでくれよ」
里中 綾「あの時よりは上達してるよ」
里中 綾「そうだ!あとさ〜・・・・・・」
〇黒
2ヶ月前・・・。
〇講義室
七瀬 誠「ねぇ、綾ー! この間聞いてほしいって言われてたバイト! 面接◯月◯日だってー!」
七瀬 誠「まぁ、私の紹介だし、 絶対受かるから大丈夫!!」
里中 綾「ありがとう、誠」
七瀬 誠「にしても、このバイト いつも人が集まり悪いから綾がやりたいって言ってくれて助かるよー」
七瀬 誠「何か探してるって言ってたよね?」
七瀬 誠「渋谷で見つかりそうなの?」
里中 綾「うーん。分からないけど・・・」
里中 綾「探さなきゃ」
七瀬 誠「・・・そっか」
〇黒
お父さん、私は貴方を見つけるよ。きっと。
馬鹿みたいだけど、信じてるの。
〇渋谷の雑踏
"渋谷に願いを"
ティッシュ配りって結構大変なのに、
それでも見つけたいという彼女の意思の強さを感じました🥲
みんなが幸せになってほしいです😌
彩と父親の、不器用ながら情深いふるまいに心が打たれました。どちらも自身の心情を伝えるのにもっと簡便な方法があるのに、と思いながら読んでいました。とても読後感が良い作品ですね。
離婚した両親との距離の取り方にリアリティを感じました。人混みの中から一人を見つけようという決意にも感動しましたし、お父さんの家族愛にもぐっときました。二人とも思っていたことが言えてよかったですね。お友達の明るさがいいエッセンスでした。