6.目覚めた日(脚本)
〇教室
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「──ありゃ、指切っちゃった」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「大丈夫? 絆創膏あったかしら・・・」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「いいよ、いいよ。ちょっと保健室行ってくるねー」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)(・・・真昼さんがいないと、静かに感じるわね)
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「──やあ、九冬さん。今日もかっこいい女の振る舞いを教えてほしいな!」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)(真昼さんがいない分、静かでよかったわ・・・)
〇教室
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「前から思ってたんだけど、どうしてかっこいい“女”を目指すの?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「おや、なにか気になることがあるかな?」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「性別よ」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「もっともな疑問だね!」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「そもそも、ボクがかっこいい女を目指したきっかけは──」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「あ、それは知ってるわ。田んぼに落ちたからよね?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「ちょっと待った! なんでそう思ったの?」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「え? 真昼さんから、田んぼに落ちてから変わったって聞いたし・・・」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「てっきり、その時に頭でも打ったのかと」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「違うよ!? 後遺症じゃないから!」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「そうなの? なら、なんで・・・」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「田んぼに落ちたことがきっかけなのは、まあ、間違っていないよ」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「──その時に、目覚めたんだ」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「女として?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「いやいや、そっちじゃなくて・・・」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「真昼ちゃんへの、愛に」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「頭を打ったから・・・!」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「後遺症じゃないってば!」
〇教室
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「そんなに驚くことかな・・・?」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「驚くというか、受け入れるのが難しいというか・・・」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「本当に、真昼さんが好きなの?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「うん。可愛くて魅力的だと思うよ」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「にわかには信じられないわね・・・」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「男子の中でも、真昼ちゃんは一目置かれてるんだけどな・・・」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)(真昼さんには悪いけど、ちょっと意外ね・・・)
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「そうだ、実際に聞いてみようか!」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「──明志くん、ちょっといい?」
春無 明志(ハルナシ アカシ)「・・・なんだ?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「真昼ちゃんのこと、どう思う?」
春無 明志(ハルナシ アカシ)「やべー奴だな」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「異性としては?」
春無 明志(ハルナシ アカシ)「やべー奴だな」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「・・・うん、ありがとう」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「このように、真昼ちゃんは一目置かれてるんだ」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「置かれ方が爆弾と同じだったけど・・・」
〇教室
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「まあ、真昼さんに魅力があるのは・・・否定しないわ」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「だとしても、かっこいい女を目指す理由にはならなくない?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「それは今から説明するよ」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「ボクが目覚めた、あの時と関係があるからね!」
〇田園風景
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「──晴空ちゃんって、いつも女の子の格好だよね」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「ボクは嫌なんだけど、母さんが似合うからって聞いてくれないんだもん・・・」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「私も似合ってると思うよ! 晴空ちゃんは嫌なの?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「嫌だよ。ボク、かっこよくなりたいんだ」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「あ、それ私も! 私もね、かっこいい女になりたいんだ!」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「真昼ちゃんも?」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「私、漫画のお姫様みたいな、かっこいい女の子が好きなんだ」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「だから、私もかっこよくなりたいの!」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「真昼ちゃんは・・・きっとなれるよ」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「でも、ボクはこんな格好してるし、なれないかも・・・」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「ダメだよ、晴空ちゃん!」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「かっこいいっていうのは、見た目だけじゃなくて生き様なんだよ!」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「そう、かな?」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「そうだよ! 晴空ちゃんも、まずは生き様からかっこよくなろうよ!」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「・・・わかったよ、真昼ちゃん」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「ボク、女の子の格好に負けないくらいかっこよくなる!」
〇教室
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「──真昼ちゃんは、お姫様のようなかっこいい女が好きなんだ」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「だから、ボクはかっこいい女を目指しているわけさ!」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「そ、そこなの? アプローチ間違ってないかしら!?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「本人が好きって言ったからね。間違いないよ」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「子供のころだし、改めて確認したほうがいいと思うけど」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「・・・吹雪さん」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「好きな人に、好みのタイプを訊けるかい?」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「それは──」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「ごめんなさい。私が悪かったわ」
〇教室
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「ふふっ・・・それにしても、意外と微笑ましい話だったわね」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「真昼さんに励まされて、好きになっちゃったのよね?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「ん? いや、まだ話は終わってないよ?」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「え? ここで好きになったんじゃないの?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「この後田んぼに落ちて、それから引き上げられたんだけど──」
〇黒背景
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)(──うう、重たい・・・誰かに、乗られてる?)
〇古風な和室(小物無し)
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「え? 真昼ちゃ──」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「むぐっ!?」
〇教室
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「──真昼ちゃんいわく、生きてるか心配で人口呼吸をしたらしい」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「その時に目覚めたんだ・・・」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「真昼ちゃんへの、愛に!」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「いや、それは・・・」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「それは、性の目覚めでしょ!?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「し、仕方ないじゃないか。意識しちゃったんだから・・・」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「惚れる理由が男過ぎるのよ・・・!」
〇教室
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「──二人でなに話してるのー?」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「あ、ああ! かっこいい女としての振る舞いを、ちょっとね・・・」
秋野 晴空(アキノ ハレソラ)「そろそろ着替えてくるよ。またね、九冬さん、真昼ちゃん!」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「晴空ちゃんも、真冬の姫君を狙って頑張ってるねー」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「私も指なんて切ってる場合じゃないよ!」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)(狙ってるのは、真冬の姫君ではないと思うけどね・・・)
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「ん? どうかした?」
九冬 吹雪(キュウトウ フブキ)「・・・頭を打ってた方がよかったかもって」
常夏 真昼(トコナツ マヒル)「指も切れちゃってるのに!?」