秋雷

まちは

手紙(脚本)

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〇雷
  『秋雷』

〇屋根の上
  その初老の女性は、秋雷を遠くに聞きながら1枚の写真を眺めていた。

〇結婚式場のレストラン
  女性は若くして結婚したが、子供には恵まれなかった。

〇風
  子供への思いを捨て去れずにいた女性は、夫と相談し45才で養子を迎えることにした。

〇クリスマス仕様のリビング
  3才の可愛い女の子が、新しい家族として女性のもとへ来た。
母「こんにちわ、ミクちゃん」
ミク「こ、こんにちわ」
母「今日から、ここがあなたのお家よ」
  女性は、心の底から幸せというものを感じ、女の子を愛した。

〇可愛らしい部屋
  家に来た当初、女の子は女性に対し敵のような反抗を続けた。
ミク「こんなの嫌!」
ミク「なんで、こうしてくれないの!」
ミク「大ッ嫌い!」
  そんな子供の刺々しい言葉にさえ、女性は家庭というものの暖かさを感じていた。

〇学校の校舎

〇通学路
  小学校1年生の授業参観日の帰り道のことだつた
ミク「私のママは、おばあちゃんじゃない」
母「ミッ、ミク・・」
  そう言うと、ミクは走って帰っていった。
母「・・・・・」
  女性は、その姿をぼやけた視界から消えるまで見守り、やるせなさと恥ずかしさから遠回りをして家へ帰った。

〇明るいリビング
父「何かあったのかい?」
  家に帰ると、夫が心配そうな顔で出迎えた。
母「ううん、ちょっと喧嘩しただけ」
  それから、女性は何かと理由をつけ学校の行事には一切参加しなくなった。

〇時計
  思春期には、女の子からの会話は喧嘩腰になり「ババア。」と呼ばれることもあった。
ミク「この、クソババァが!」
ミク「うざいんだよ!」
  本当の家族も思春期にはこんなものなのだろうと、女性は思い込むようなった。
  そして、女の子は大学進学のため家を出ていった。
  夫も、しばらくして他界した。

〇葬儀場
ミク「・・・・」
母「・・・・」
  葬儀の日、女性は子供の泣き顔を見てこみ上げてくる嬉しさに包まれた。

〇古い大学
  大学の卒業式の日も、母親は家事の忙殺に気を紛らわしていた。

〇クリスマス仕様のリビング
  いつしか、子供の成長は写真でのみ実感するようになっていた。

〇綺麗な教会
  女の子は、半年前に結婚した。
  人々が集まれない時勢、女の子は式を挙げなかった。

〇明るいリビング
  今日、新婚夫婦の写真が家に届いた。
  女性は、一人穏やかに写真を見つめていた。
  その手には、同封されていた一通の手紙が優しく握られていた。
  子供からの初めての手紙が。

〇水たまり
  お母さんへ。
  初めて手紙を書きます。
  今まで、本当の子供になれなくてごめんなさい。
  お母さんのことを、“おばあちゃん”って言ってごめんなさい。
  お母さんを深く傷つけてしまったのをわかっていました。
  それから、お母さんに近づくのが怖くなってしまいました。
  本当は、もっとお母さんを私の物にしたかったのに。
  今、私のおなかの中に赤ちゃんがいます。
  女の子です。
  私は本当の子供になれなかったけど、
  おなかの子は紛れもなくお母さんの本当の孫です。
  生まれたら、無邪気にお母さんに抱きつくと思います。
  その時はお願いですから、抱きしめてあげてください。
  その日を心待ちにしています。
  それじゃあ、お身体を大切にさようなら。

〇サイバー空間
  ps.
  私も、もう25才になってしまいましたが、
  もう一度 お母さんの子供になりたい。

〇雷
  女性の涙を掬い取るように、微かな秋雷が通り過ぎていった。
  おしまい

コメント

  • 同じ言葉でも、口頭ではなく文字で受け取るとより深みが増しますよね。私は逆に母から結婚の際、初めて手紙をもらい、その明らかな違いを経験しました。親子の絆が作者の意図の大部分とは承知で、あえて手紙のありがたみをコメントさせて頂きました。当然、ストーリーは描写も端的で繊細で素晴らしかったです。

  • 悲しい気持ちと優しい気持ちが交差するお話でした。
    娘さんも一度お母さんを傷つけて、それ以来こんな形でしか接することが出来なかったんですね。
    終わりの手紙がすごく良かったです!

  • とってもいいストーリーでした、涙がこぼれそうになりながら読みました。複雑ですね、親としても子どもとしても。親と子の関係はどんな形であれ複雑です。

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