エピソード1(脚本)
〇空
まいごいぬBIRTHDAYプレゼント
メロディーバード
〇教室
―千歳は、気がつくと歌っている、ちょっと変わった奴だ。
海老川まお(また歌ってる.......)
海老川まお(止まった)
人目はあまり気にならないらしく、気が済むまで歌うと、何事もなかったように、ふらふら歩き出す。
海老川まお「はぁ、これがお決まりのパターンなんだよな」
海老川まお「.......千歳ー。どこ行くんだー?」
藤代千歳「え?あれ?次って、体育館じゃなかったっけ?」
海老川まお「.......それは合ってる。けど、お前が行こうとしてた方向にあんのは体育館じゃなく、音楽室」
藤代千歳「あれ〜????」
一度聞いてみたことがある。
海老川まお「千歳は、なんでいっつも歌ってるんだ?」
藤代千歳「.........ん〜.............」
藤代千歳「なんとなく。 その方が、遠くにいる人にも、届いてくれる気がするんだよ」
海老川まお(.....なんだそりゃ。 不思議な答えだな)
海老川まお「.....でも、まあ、その歌声のおかげで、迷子になった奴を見つける手がかりになったこともあるけどな」
藤代千歳「うん。でしょ?遠くにいるまおちゃんに、ちゃんと届いてる」
海老川まお「でもだからって、毎度毎度心配させんなよ!」
藤代千歳「はぁい」
海老川まお「ったく。んっとに、わかってんのかねえ? しょうがねえ奴」
〇アパートのダイニング
―あれは、小学六年の夏。
海老川まお「.....え。 なんだよ、それ。どういうことだよ.....」
まお父「だから、言っているだろう。 お前が学校卒業するのと同時に、この町から引っ越しすると」
海老川まお「俺、そんなのイヤだ!!!聞いてねえよ!!!!」
海老川まお「.....だって、だって、ここは、小さな田舎町だから、あいつらと、学校の奴らと.....、一緒の中学に通うって.....」
まお父「.....もう決まったことだ。 我が儘言うんじゃない、まお」
まお母「まお。こういう考え方もできない? 新しい中学校で、新しい友達作れるのよ?そう思ったら、なんかワクワクしてこない?」
海老川まお「してこねぇ!!!!そんな能天気な考え方できんのは、アホな母さんだけだよ!!!」
まお父「まお! 母さんに向かって、なんて口の聞き方してるんだッ!!!!!謝りなさい!!!!」
海老川まお「イヤだ!!!!!謝らねぇ!!!!」
まお父「まお!!!!!」
海老川まお「父さんも母さんも、大っ嫌いだッ!!!!」
まお母「!まお......!!」
「......................」
〇男の子の一人部屋
海老川まお「......................」
海老川まお「......................」
海老川まお「っ......................」
海老川まお「〜〜〜〜っ...................!!!!」
その日は自室に閉じ籠って、次の日どんな顔で、学校の皆に会えばいいのか、考えて、考えて、考え疲れて、寝てしまった。
〇教室
海老川まお「......................」
特に体調が悪いわけでもなかったから、翌日は普通に学校に行った。
ただ、一晩考えても友達への伝え方がわからなくて、少なくとも今日1日は黙っていようと思って、普段通りの自分を演じた。
海老川まお「.....でさぁー、トイレ行ってる間に、昨日のサッカーの試合、大事なとこ見逃しちゃって」
木村「ははっ!なんだそれ!だっせぇ〜!まあ、まおらしいよな!」
藤代千歳「......................」
〇教室
「起立!礼!」
「「さようなら〜!」」
あっという間に放課後になった。
海老川まお「......................」
木村「まお!サッカーやろうぜ!千歳も誘ってさ!」
海老川まお「......................あ。えっと.....」
海老川まお「.........お、おう!いい、」
藤代千歳「ごめん、木村君。 おれ達、今日用事があって帰らなきゃいけないんだ」
海老川まお「!?」
藤代千歳「ね?まおちゃん」
海老川まお「......................」
藤代千歳「......................」
海老川まお「........え?あ、うん。ごめんな、木村」
藤代千歳「用事があるのは今日だけだから、次は誘ってね!また明日!」
木村「おー!またなー!」
木村「千歳がまおを引っ張ってんの珍しいな!いつもは逆なのに」
〇街中の道路
藤代千歳「......................」
海老川まお「......................」
〇ゆるやかな坂道
藤代千歳「......................」
海老川まお「......................」
俺の手を握ったまま、先導するように歩いていたが、やっぱり何かに気を取られて通学路から、どんどん外れていく。
海老川まお「......................」
こいつは本当に生粋の方向音痴だ。
それでも、山深いところに入りさえしなければいいや、と好きにさせた。
〇住宅地の坂道
藤代千歳「......................」
海老川まお「......................」
〇山間の田舎道
藤代千歳「......................」
海老川まお「......................」
そのうち、またいつものように千歳は歌い出した。
海老川まお「......................」
いつものように歌詞があって、いつものように耳に馴染む声。
海老川まお「......................」
歌の中には、不安を抱えた相手を見守る、優しい人。
ちょっと掠れた「大丈夫」の声。
海老川まお「......................」
海老川まお(そっか。千歳は、俺の不安な気持ちに気づいてたんだな)
海老川まお(そういえば、学校にいる間、千歳は俺に話しかけてきたっけ? .....俺が話すのを待っててくれたのか.....)
海老川まお「っ......................」
気が付いたら、もうダメだった。
涙が後から後から、込み上げてきて、止まらなかった。
海老川まお「......................」
涙がようやく落ち着いた頃。
俺は千歳に転校のことを打ち明けた。
藤代千歳「.........!!!!!」
千歳も俺と一緒で、当然同じ中学校に進むとばかり思っていたから、初めは言葉が出ないようだった。
藤代千歳「......................」
それから、視線をさ迷わせたり、ちょっと考えたりしてから。
藤代千歳「........そっか。.....うん、だから、まおちゃん、元気がなかったんだね.....そっか.....」
藤代千歳「......................」
海老川まお「......................」
「......................」
それきり、千歳も俺も黙ってしまい、しばらく野山を眺めていた。
藤代千歳「.....まおちゃん、そろそろ帰ろ?お母さん達、心配するよ」
5時の鐘が鳴って、千歳が言う。
俺は、大泣きしたのが妙に照れ臭くて、ちょっと茶化してみる。
海老川まお「.....帰ろって、千歳、帰り道分かんの?」
藤代千歳「ん?まおちゃん、ここどこ?城跡公園近く??」
海老川まお「真逆だ!超絶方向音痴!!!」
いつものやり取りに二人で笑って、その後は、またいつも通り、千歳を引っ張って、帰路に着いた。
〇通学路
海老川まお「あ。そうだ千歳。 さっきの歌、なんて題名?」
藤代千歳「ああ、うん。 さっきの曲はね.....」
〇学校の部室
あれから2年。
思わぬ形で所属することになったサッカー部。
謝本 健一「......................」
安城 光一「......................」
桐水 硬牙「......................」
雲丹 黒針「......................」
五ツ星 一紫「......................」
平坪 虚「......................」
田胡島 昌二「......................」
海鳥 白十「......................」
潮風 京「......................」
平田 永二「......................」
外道なやり方を厭わない部員達。
状況を変えられない自分。
海老川まお「......................」
不安に押し潰れそうな時、いつも聴く歌がある。
海老川まお「......................」
プレイヤーから流れるのは、芯のある男性ボーカルの声。
海老川まお「......................」
〇山間の田舎道
でも、聴きながら思い出すのは、ちょっと掠れた、子供っぽい、あの声。
〇学校の部室
海老川まお「.....今も、俺の心に届いてるよ。 千歳からの、「大丈夫」の声」
海老川まお「俺、どうにか頑張ってるから! 笑顔で再会できる日が来るようにって、俺、いつも願ってるから!」
だから、俺も小声で口ずさんだ。
さぁ 羽ばたけ
メロディーバード
〇空
〇通学路
藤代千歳「?」
藤代千歳「.....まお、ちゃん?」
藤代千歳「.............うん、そっか。頑張ってるんだね、まおちゃん」
「千歳ー!!帰り道こっちだゾー!!」
藤代千歳「はぁーい!」
メロディーバード
―完
〇学校の部室
甲山 紅「........あんた、なに一人でブツブツ言ってんの。気持ち悪っ!」
海老川まお「.....千歳.....俺は.........がんばってるよ.........(今まさに、押し潰れそうになってっけど)」