化け物クリエイターズ

あとりポロ

エピソード10『誕生』(脚本)

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〇小さな小屋
  【2033年、イバラキ。『言霊 みれい』】
  クリスマスのその日、職務室として使わせてもらっている一室へ『タタミ』が駆け込んできた。真剣な面持ちで、私へ頭を下げる。
タタミ「『みれい』、お願いがあるの!」
  『創』が残していった資料に目を通していた私へ、その大きな瞳は強い意志を持って訴えかけた。
タタミ「わたしの、卵細胞を取り出してほしいの」
  時が止まったような錯覚を覚えた。その中で、『タタミ』の瞳だけがチカラを示すように私を見ている。
みれい「『タタミ』、私がそれをするならアナタの安全を保障出来ないよ? アナタがハンディを背負う可能性だって否定できない。それなら」
  『創』に頼んだ方が・・・・・・。思わずそう言いそうになる。
  
  思わず目を背けても『タタミ』の意思は頑《かたく》なだった。
タタミ「ごめんね『みれい』。 わたし、すぐに取り出してほしいの。早くしないと何かに間に合わない! そんな予感がするの」
  結論から言って『タタミ』の願いは強行された。
  『タタミ』の意思を『楽々』が尊重したことが大きかった。
  2人に押し切られるように、朝を待つことなく、その手術は始められた。
  手術は女性メンバーだけで行った。
  
  他のメンバーには『タタミ』の『盲腸手術』とだけ伝えた。
  朝の光が差し込もうとする中始まった手術。執務室を殺菌してこしらえたそこは、戦場になった。
  血が散乱するそこで、苦しむ『タタミ』をマスク越しに『楽々』が応援する。
楽々「私もさ! 実は子供欲しいんだよ! 相手居ないけど! 『タタミ』私を導いてよ! 私に道しるべをお願い!」
  ・・・手術は奇跡的に完全な結果で終わった。取り出せた卵細胞は2つ。『タタミ』にも後遺症は残らないと思う。
タタミ「ありがとう『みれい』。実は『みれい』に、もう1つお願いがあるの」
タタミ「取り出した卵細胞で、わたしの『クローン』を造って!」
みれい「『タタミ』それは本当に、本当に無理だよ!せっかく取り出した可能性を無駄に捨てるようなものなんだよ!」
みれい「これだけは本当に違う誰かに頼んだ方が! それこそ、『創』なら!」
  ・・・『創』なら、完璧なのに・・・。
タタミ「大丈夫。・・・・・・大丈夫だよ『みれい』」
タタミ「『みれい』は、あの『先生』が信じた1人だもの。きっと大丈夫! 『みれい』にだから、わたしはお願いしたいの」
タタミ「わたしは『みれい』にお願いしちぃの。か、噛んじゃった」
  滅菌しすぐに行う事となったその執刀にも女性である『楽々』と、『タタミ』本人が立ち会った。
  可能な限り清潔にした台の上、オペを執る私へ電子ナイフを渡しながら『楽々』は自身の夢を語ってくれた。
楽々「私ってほら、昔で云う『キラキラ』な名前じゃん? だからさ子供にはもっと気楽な名前をあげたいのよ」
楽々「まだ、『楽々ちゃん』の白馬の王子様来てないけどね」
タタミ「ううん。・・・・・・大丈夫」
  『タタミ』が穏やかな笑みで『楽々』に応える。自身の卵細胞をプレート台の上に見、オペを続ける私の汗を拭ってくれた。
タタミ「相手居なくても、『みれい』が、リーダーが創ってくれるよ。わたしたちの子供」
  脳が研ぎ澄まされる。
  腕と指に流れる血流が、多くの酸素を宿していく。それは結果を伴うものだと自身の指先が教えてくれた。
  ──そして、その時が来た。
みれい「――出来た。・・・・・・奇跡だ。 私、『ドリー』を越えた」
  それは本当に、奇跡の手術だった。
  
  『タタミ』の『体細胞クローン』が私、『言霊みれい』の手で誕生したのだ。
タタミ「よく生まれてくれたね!」
タタミ「アナタにはわたしのたった1つの宝物、わたしの『名前』をあげるから!」
  小屋の隅、私の手から移った奇跡の結晶を『タタミ』がずっと見ている。自身の分身を眩しそうに眺めていた。

〇田園風景
タタミ「『みぃちゃん』! 『しまちゃん』! ほら頑張って! 『パブロフ』もふぁいと! だよ!」
  農場を延々と走るキメラを『タタミ』が愛用の鞭を振り回して追いかける。
  
  これが『タタミ』なりの教育法だった。
緋色「こいつらの名前いったい誰が付けたんだ? 『パブロフ』とか『しまちゃん』とか、かなり個性的だよな」
みれい「名前を付けたのは『タタミ』」
みれい「名前無いとダメ、なんだって。個性なんだって。その生き様を表すもの、なんだって」
緋色「・・・・・・そっか。・・・・・・あいつらしいな!」
  『タタミ』のクローン作製後、数日を経て私たちは『キメラメンバー』総員の強化を行った。
  『緋色』の美味しいご飯を糧《かて》に、体力を、チカラを、瞬発力を上げていく。
  もう2度とあいつに、
  
  ──『歯車フォーチュン』に負けない様に。

〇田園風景
  一方で『タタミ』はやたら『コブタ』に構っていた。
  
  それが『タタミ』の優しさなのは分かる。本当に世話焼きな女の子なのだ。
  悲しいかな、それでも『緋色』には振られてばかりだった。
タタミ「『コブタ』って名前、なんか可哀そう」
コブタ「しょうがねーじゃん。名前、俺には無いからな」
  小太りの『コブタ』を前に『タタミ』が眉をひそめる。いつもの世話焼きだ。
タタミ「な、ならわたしが『コブタ』に名前を付けてあげようか? 仮の、だけど」
コブタ「ふ、ふん。どうせ大した名前じゃないだろうけどな。い、一応聞いてやるよ」
タタミ「す、『スズキコージ』とか、ど、どう!」
コブタ「・・・・・・わ、悪くねぇじゃねぇか。少しだけ見直したぞ。す、少しだけ」
  『コブタ』は仮に付けられた名前に顔を真っ赤にしている。耳の先まで真っ赤だった。
  
   あれ、・・・『コブタ』もしかして?

〇田園風景
  冷えた夜『緋色』と『タタミ』は、いつも農場の庭から空を見上げていた。
緋色「この空にはいったい幾つの星があるんだろう。 いったい幾つ、どれだけの光があるんだろうな」
  頭を押さえしきりに悩む『タタミ』を眺めながら、『泉農場《いずみのうじょう》』の電源から引いた線でPCを打つ。
  私のパーソナルスペースに
  
  『コブタ』改め『コージ』が入ってくる。
  
  視界に映る『タタミ』をちらちら見やっていた。
コージ「あ、あの、『みれいさん』。た、『タタミ』・・・・・・『タタミさん』て、好きな奴居るんですかね? 居ないなら、お、俺」
  藁の上、夜空を見上げる2人の声が聞こえる。
  顔を真っ赤にしていつものように『タタミ』が告白しそれを『緋色』が切り捨てる。
  1人項垂れる『タタミ』を眺め『コージ』が頬を染めていた。
  それはとても残酷で、とても愛しい日常。
  
  『コージ』はいつも影から『タタミ』をずっと、じっと見つめていた。

〇古民家の蔵
  皆が鍛えに鍛えられ育っていく。
  
  迎えた新年、その日を跨いだ頃に『タタミ』秘蔵のお茶が振舞われた。
タタミ「これは、運の授かる飲み物として、大事に、大事に我が家へ伝わってきたの」
  「『タタミさん』て、ジャンクじゃないんですか?」
  
  という『コージ』の問いを顔を真っ赤にして『タタミ』が否定する。
タタミ「ま、まぁそういう話もあったかなぁ、と。 みんなぁ、美味しく飲んで幸せにな~れ♪」
  会場となった泉農場の台所の隅、小声で『緋色』が訊ねていた。私にはしっかり聞こえていたけれど
緋色「父さん、どんな人だったんだ?」
タタミ「お父さんはかなりの変人。嫁さんラブいの」
  こくこく、と美味しそうに秘蔵のお茶を口に運ぶ『タタミ』がちらちらと隣の『緋色』へ視線を送る。それはかなり『ラブい』ものだ
  『緋色』は優しく微笑んでいる。その目はやっぱり、悲しいかな、・・・妹を見るような眼差しだった。
「あけまして、おめでとうございま~す!」
  防災無線からの鐘の音に、そこそこ広い敷地へ即席の畳を敷いた皆が膝を付く。頭を下げ・・・一様にお腹を鳴らした。
緋色「おい『タタミ』・・・俺、腹痛くなったんだが・・・」
楽々「『楽々ちゃん』も! 何でぇ!」

〇田園風景
  それから朝日が生まれようとする中、皆が厠へ走った。たった1つの厠は夜明けを前に行列だった。
  特に『楽々』の必死さは凄まじいものだった。ちなみに私は秘蔵のお茶を嗜んでいない。
楽々「『みぃちゃん』! 『パブロフ』! あんたらデカいんだから『楽々ちゃん』に先を譲りなさいよっ!」
楽々「『スバリナ』! あんた飛べるんだから『楽々ちゃん』に先を譲りなさいよ! っと!」
  『スバリナ』は、伝令用の鳥キメラだ。
スバリナ「ワタシショセン『スバリナ』ダカラ。イワユル『スバリナ』ダカラ♪」
  と、知能の高い赤い尾羽のその子は厠の前を譲らない。
  
   結果その日運が付いたのは『スバリナ』だけだったと云うけど。
  ただ『タタミ』だけは腹を壊す事無く酔ったようにのぼせていて、幸せそうに湯呑みを掲げていた。
  職務室に入《い》り浸り自身の分身へ話しかけている。そのガラスの筒を愛しそうに撫でていた。
タタミ「『真衣《まい》ちゃん』。わたしのたった1人の妹。アナタは絶対わたしの手で、幸せにしてあげる、・・・からね♪」
  その緑の瞳は誰よりも優しい光を宿していた。『タタミ』は私の書く『独りの戦士』の聖女、──きっとその人だったんだと思う。

〇空
  【2034年、某国上空。『グリーン・ブラザー』】
  年を越したその日、某国の統治者官邸はその色をとても醜い『ミドリ』へ変えた。
グリーン・ブラザー「まがりなりにもお前らが強国なら、何故『ジョーカー』に勝ちえる札を持たない?」
  元が白だったその建物は毒液に覆われボロボロと形を崩している。
グリーン・ブラザー「スペードの3《とっておき》を用意しておかなかったお前らが悪い。全て、何もかもな」
  遥か下方に流れていく緑へ唾を吐く。
  
  大地のそこかしこを家族『ボーイ』の放った無人機が駆け巡っている。
  辺りは炎と毒に塗《まみ》れていた。聖火掲げる女神も毒の緑で朽ちている。
  
  赤と緑に侵されるその姿は実に扇情的だ。
  ボクは背をのけ反らせて謳った。無人機『イースター』を駆り家族の歌を。ボクら『ホーム・ホルダー』による新たなる秩序を祝って
グリーン・ブラザー「ハッピーニューイヤー。・・・『父さん《ダド》』♪」
  𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭

次のエピソード:エピソード11『ネーム・ポーカー』

コメント

  • 今回はいつもより少し長尺で🌿読み応えがありました🌿いくつかの興味深いエピソードの中でも。私はタタミが名付け親になる件に惹かれるのです。これ物語上私は大切にしています。自身が書いているお話でも。核になりえるかなと。たくさんの興味は尽きず。次話も楽しみにしています🌿

  • ドキドキしながら楽しく読ませてもらってるよ🎶

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