エイプリルフールの神様

あとりポロ

読切(脚本)

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〇桜並木
  春、雪の溶けた街路樹を駆ける。
  4月1日、午前6時。
  
  県内でも有名な桜並木。その並ぶ木々の間を舞うように渡る。この日の為に服も桜色に整えた。
真白(ましろ)「待ったぁ。『黒深(くろみ)ん』? ごめんね! お父さん土曜日だからってすごい寝坊助でね、」
黒深(くろみ)「良き良き。『真白(ましろ)ん』が来てくれただけで、私は嬉しいよん♪」
「今日は何処行く?」
  偶然声が重なり、2人顔を見合わす。でもほら、『くろみん』は笑ってくれた♪
黒深(くろみ)「いろいろ歩かない? ほら、桜もキレイだし、 こんないいとこ、歩かなきゃ損だもの」
  その手を取った。胸の鼓動は初めから全力で高鳴っている。
  
  このいつもとは違う私に、『くろみん』は気付くかしら。
黒深(くろみ)「今日、すごいキメてきたね! 可愛いよ『ましろん』♪ ってそれはいつもかな?」
真白(ましろ)「疑問にすな! 『くろみん』も今日は、色調が黒で可愛いではないか♪」
黒深(くろみ)「『ましろん』こそ、 『今日は』って何よ! がーっ!」
  クマみたいな真似をする、ゴシック調の服が似合う『くろみん』。彼女は今日も可愛い。
  2人手を繋いで、桜並木のアーチを歩く。
  今日は前々から決めていた2人のデートで、
  
  ある噂の真相を確かめよう! という趣旨が今回のデートの内容に含まれている。
  【エイプリルフール昼12時に嘘をつくと、その嘘が叶う!】
  というものだ。当然嘘に決まってる。
  
  けど、それを確かめたくなるのが、
  付き合ってまだ半年の、新米カップルのサガ、というものだ。
  
  違わないかな? 違わないよね!

〇桜の見える丘
  コンビニで軽くおにぎり買って、それを近場の公園でムシャる。
黒深(くろみ)「『ましろん』も梅? わたしと同じか~!」
真白(ましろ)「『くろみんさま』も同じとは! いや、私、好きなのだよ梅とか、ゆかり♪ だって、美味しいよ、」
「ねーー♪」
  桜の花びらを身体一面に浴びながら、並木道を歩く。
  それだけでいいのに。
  『くろみん』が肌を寄せてくる。彼女の香りが心地よくて、思わず眠くなる。
  せっかくのデートなのに、ここが何処か、ぼんやり曖昧になってきた。

〇外国の駅のホーム
  そして、私は目的だった場所、時刻に『くろみん』と向かい合った。
  エイプリルフールの12時ジャストの嘘が、本当に叶うかどうかを試す為に。
  県内で1番大きな駅に着く。時刻はもうすぐ目的の12時。
  
  やってきた電車が戸を開け、大量のヒトを呑み込んでいく。
  12時だ!!
  触れ合った手首が、自然と『くろみん』を求めた。
真白(ましろ)「願い事! 『くろみん』、私と行かない? どこか遠くへ!」
  嘘というか、半分は願い。『くろみん』がほぼ同時に言葉を返す。
黒深(くろみ)「えと、 『ましろん』、わたしとずっと、死ぬまで一緒に居てください!」
  嘘なのか? 私と同じ、願望の類いじゃないのか?
  
  エイプリルフールの昼12時が、私たちを試すように光の足を伸ばす。
  ・・・のだけど、変化はまだ無い。
  けど、多少の失敗で私たちの恋は崩れたりしない。
  
  繋いでいる手のかたさが、それを物語っている。・・・と思う。
  その時、
  
  電車の側面、その一部が光を帯びた。
真白(ましろ)「アレが入り口? 待ってました! この時を!」
真白(ましろ)「『くろみん』、いっくよーー!!」
  その一点に向かって足を踏み出す。
  
  半ば強引に『くろみん』の手を取って、私はその光の中へと飛び込んでいた。

〇仮想空間
真白(ましろ)「アタリ? エイプリルフールの嘘が本当になった、って事? というか、何処? ここ」
  空に浮かぶ幾つものモニター。
  
  誰かが管理しているであろう、箱庭的な空間。
  
  それは、明らかに地球のソレでは無かった。
真白(ましろ)「早速だけど、 『くろみん』一緒に行こ! どこまでも遠く、誰も知らない世界へ♪」
  一緒に、ただ一緒に居たくて、
  
  私は2人でエイプリルフールが創り出した世界?を堪能する事にした。
黒深(くろみ)「・・・・・・」
  『くろみん』が恐怖の為か、少し泣いている。
  
  その手を、自身の手で優しく包んだ。
真白(ましろ)「大丈夫だよ。怖くないって。 次のエリアへの入り口はこっちかな? 行こうよ『くろみん』! どこまでも続く未来へ♪」
  少々強引に手を引っ張る。
  
  抵抗したので、一気に引っこ抜いた!
黒深(くろみ)「いやぁーーー!!!」

〇電車の中
真白(ましろ)「って、ここは?」
  何故だろう。かつて乗ったことがある、と思う列車の中に、私たちは立っていた。
真白(ましろ)「あ! ここは、あの時の・・・」
  そうだ。ここは、
  
  私と『くろみん』が初めて出会った場所。
  
  通学の電車の中だ。
  まさに、
  
  ・・・一目惚れだった。
  
  目が合った時、思わず固まってしまったのを覚えている。
  つり革に掴まる『くろみん』との距離と、
  
  お互いに目を逸らしあった事実を、未だ色濃く覚えている。
  ・・・胸が音を立てる。
  
  私は『くろみん』の事を知りたかった。それこそ全てを。
  ・・・そして、どこまでも遠くへ、2人で行きたい。と、夢見ていた。
  
  エイプリルフールの昼12時に願った事は、
  決して、嘘なんかでは無かった。
  
  私は、隠していた本心を吐き出して、嘘と偽ったんだ。
黒深(くろみ)「わたしが一緒に居たいと願ったから、離れたくないと願ったから、こんな事に・・・」
真白(ましろ)「けど、それは嘘だったんでしょ?」
黒深(くろみ)「嘘じゃなかった! 本心だった! 好きな人への気持ちに嘘なんてつけなかった!」
  『くろみん』が熱い眼差しで見つめてくる。
黒深(くろみ)「ずっと、ずーっと一緒に居てくれる? 『ましろん』 2人で、2人だけで生きよ! 2人だけで暮らそ?」
  私はその呼びかけに、即答できなかった。
  もちろん2人でだけど、
  
  遠く、未知への世界の冒険を求めている、冒険心に溢れた自分が、自身の心の中に居たから。

〇並木道
  ──エイプリルフール昼12時の嘘は、叶ったのか、叶わなかったのか、結局のところ分からなかった──
  けど、エイプリルフール昼12時の『心を込めた願い』は、叶いそうな気配を見せた。
  ──皆が心配しただろう。
  
  ・・・その後の私たちを見た人は、誰1人として居ない。

〇魔界
  時に2人で旅に出た。
  
  異世界にも行ったし、なんか、魔界?やばいところに飛ばされた事もある。
  旅の終わりには、必ず『くろみん』を労った。
  一緒に料理をしたり、拾った種を植えたり、あの変な空間に家みたいなものを作ったり、
  
  それはそれで楽しかった。
真白(ましろ)「今度は何処行こうか? 温泉探しに行こうか? それとも、料理?」
黒深(くろみ)「私は、もう、充分まんぞくしたなぁ。『ましろん』となら、何処でも楽しかったもの」
黒深(くろみ)「この世界には誰も居ない。居るのはわたしたちだけ。 それは、いつまでも・・・」
  私たちはずっと一緒。
  
  2人、異世界の通路を、手を繋いで歩いてく。
  誰もいない土地で、
  
  『くろみん』と初めて目があった時、あの時縮められなかった距離を1歩ずつ縮めていく。
  未知の世界へと繋がる道、
  
  ・・・骨の埋まった灰褐色の通路、それはどこまでも、遠くその先へと続いている。
  ──ああ神様。もしもアナタに願い、それが叶うなら、
  ただそばに、
  
  ・・・この子が居てくれますように。
  ──ただ、バカみたいに、笑いあって、
  
  ただのキノコ?を振り回して、追いかけあって、
  ただ、この子が元気になる食事を作ってあげて、
  
  ──ただ、一緒に眠りたいです。
真白(ましろ)「新しいエリアに着いたよ『くろみん』 よーし、こ、今度こそ食べられるキノコを!!」

〇桜並木
真白(ましろ)「──え?」
真白(ましろ)「──ここ・・・、」
黒深(くろみ)「日本・・・」
  2人で出てきた穴を振り返る。
  2人揃って、思わず吹き出した。
  ・・・ああ、嘘をつく事を許してくれる神様。
  
  アナタに、本当の願いを叶えてもらい、私たちは幸せでした。
  そして、私たちが死ぬ前に、私たちが1番望んでいる事を叶えてくれて、
  
  本当に、本当に・・・
黒深(くろみ)「・・・大好きです神様! 異世界キノコ、今まで沢山食べさせてくれてありがとう!」
真白(ましろ)「もう、2度と、オマエなんて食べないからな!!」
  ・・・私たちは、天高く、袋に詰めたどす黒いキノコを投げ捨てた。
  ・・・キノコが光を浴びて消えていく。粒子となって消えていくソレは
  
  毒々しい外見に反して、意外にキレイな光を放っていた。
  おしまい。

コメント

  • 読んでの感想ですが、私の頭では理解できませんでした。笑

    _|\○_でも、いい話だと言うことだけ分かります。笑

  • 2人の関係性がめっちゃ良い💕
    なんかほっこりと心があたたかくなって癒されちゃた🍀

  • 読みながら『これはどういう事なんだろう?』と何度も頭を捻り、それでも答えが導き出せなくて、少し頭を抱えつつ思ったのが……『あ、わざと曖昧な描写にしてるのかな』と。何が起こって、どんな状況にあるのか。それを読み手の想像に委ねてるのかなぁと。幸せなのか切ないのか、不思議な読後感を残す作品でした!

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