読切(脚本)
〇劇場の舞台
ヨージ「ところで20年ぶりに新紙幣が発行されるらしいね」
ヤス「へえ? じゃあ新渡戸稲造ともサヨナラか」
ヨージ「すでにいねぇよ それ昔の五千円札の人だから」
ヤス「あの丸メガネとチョビ髭、好きだったな」
ヨージ「昭和生まれにしか伝わってないからね!」
ヤス「で、二千円札も新しくなるの?」
ヨージ「ならねえよ 全然出回ってないんだから」
ヤス「使いづらかったのかな?」
ヨージ「そうね、二千円って中途半端だったよね」
ヤス「うんやっぱ三千円くらいなきゃね」
ヨージ「それも中途半端だな」
ヤス「今こそ三千円札を作るべきですね だって三千円のほうが千円得ですもんね!」
ヨージ「得の意味がわかんないんですけど!」
ヤス「どうですか皆さん? 三千円札好きですか?」
ヤス「ぼくはね、一万円札の方が好きなんですよ」
ヨージ「みんなそうだわ!」
ヤス「でも新渡戸稲造の方がもっと好き」
ヨージ「またそいつかよ!」
〇黒背景
お疲れ様でしたー
〇渋谷のスクランブル交差点
〇公園の砂場
ヤス「今日のお客さん厳しかったぁ」
ヤス「出番が早かったし、あんなもんか」
ヨージ「なあヤス」
ヤス「ん?」
ヨージ「俺たちあと数年で40歳だな」
ヤス「まあな」
ヨージ「いつまで続けられんのかな? 漫才」
ヤス「どうした急に」
ヨージ「この先チャンスは来んのかな?」
ヤス「それは頑張り次第だろ」
ヨージ「いつまで頑張ったらいいのか」
ヨージ「すまん、バイトなんでもう行かなきゃ」
ヤス「そっか」
ヤス「またゆっくり話そうぜ」
〇大衆居酒屋
酔っ払い「シークワーサーハイおかわり~」
ヨージ「はいよ!」
これ以上漫才つづける意味はあるのか?
チャンスは年々少なくなる一方だ
〇電車の中
アナウンス「副都心線直通、森林公園行き まもなく発車です」
ヨージ「ふぁぁ」
ヨージ(渋谷でライブのあと横浜で深夜バイト)
ヨージ(キツいなぁ 昔は何ともなかった・・・のに)
〇電車の中
ヨージ「ん?あ、寝ちまったか」
アナウンス「渋谷~渋谷~ 終点でございます」
ヨージ「しまった!寝過ごした!」
ヨージ「けど渋谷か よかった」
ヨージ「東横線で寝過ごすと 下手すりゃ埼玉行きだ」
ヨージ「あれ、でも」
ヨージ「この時間、渋谷停まりの電車なんて無いはずじゃ?」
〇駅のホーム
ヨージ「何かいつもと景色が違うな」
出発を待つ何両もの電車
〇改札口
横一列に並ぶ広い改札口
ヨージ「なつかしいな これって昔の渋谷駅??」
けど東横線の渋谷駅は、確か2013年に地下に移ったはず
ヨージ「どうなってんだ?」
〇渋谷駅前
ヨージ「懐かしい広告がいっぱいだな」
〇渋谷ヒカリエ
ヨージ「ヒカリエがオープン直後なのか」
ヨージ「う~ん これってやっぱタイムスリップ的な・・」
途方に暮れる中、自然と足が向かったのはいつもの場所だった
〇公園の砂場
昔からネタ合わせで使っている公園だ
ヨージ「ここは変わってないな 落ち着くわ」
ヨージ「さて」
ヨージ「どうしよ」
???「遅いぞ!」
ヨージ「ヤス!?」
ヤス「こんな大事な日に遅れてくるかね?」
ヨージ「大事な日?」
ヤス「何寝ぼけてんだ、準決勝だぞ! あと一歩で決勝なんだぞ!」
ヨージ「準決勝?」
ヨージ(そうか10年前か)
ヨージ(俺たちが漫才大会で初めて準決勝に進んだ年)
ヨージ(つまり、ここは10年前の世界!)
ヤス「時間が無い ネタ合わせるぞ」
ヨージ「え?もうすぐ本番ってこと?」
ヤス「だから時間ねえんだって! やるぞ!」
ヨージ「マジかよ」
ヤス「どうもボルテーズです! いやぁ今年はスポーツが熱いですね」
ヨージ(あ、このネタ あの頃一番練習したネタだ)
ヤス「ロンドンオリンピックもありましたし」
ヨージ(よし、一丁やったるか!)
〇コンサートの控室
ヨージ「緊張するなぁ」
ヤス「しない方がおかしいわ」
司会「3845番 どうぞ~!」
ヤス「いくぞ!」
ヨージ「おう!」
〇劇場の舞台
「どうも~」
〇劇場の舞台
〇劇場の舞台
〇劇場の舞台
〇コンサートの控室
〇渋谷の雑踏
〇公園の砂場
ヤス「どうだった?」
ヨージ「決まってるだろ」
ヤス「だよな!完璧だった!」
ヨージ「ああ、会場が爆発してた!」
ヤス「あんなにウケたの初めてだ!」
「気持ちよかった!」
ヤス「なあ、決勝行けるんじゃないか!」
ヨージ「ん、ああ」
ヤス「あんだけウケたんだ、行けるよ!」
ヨージ「そう、だな」
残念だが、ヤス
決勝には行けない
この年の大会、俺たちは準決勝どまりだ
決勝には行けないんだ
ヨージ「なあ、ヤス」
ヤス「ん?」
ヨージ「もし決勝行けなかったらどうする?」
ヤス「なんだよ弱気だな けどそん時は」
ヨージ「そん時は?」
ヤス「あきらめ付くわ」
ヨージ「え!」
ヤス「実は最近思ってたんだ 俺たちもうすぐ30歳だろ 人生考え直すいいタイミングだなって」
ヨージ「いや早すぎるだろ!」
ヨージ「30なんて人生の折り返しにもなってねぇじゃねえか!」
ヨージ「あきらめるの早すぎるだろ!」
ヤス「辞めるんなら早い方がいい」
ヨージ「じゃあ、辞めるな!そしたら早いも遅いもない!」
ヤス「無茶言うなよ」
ヨージ「知ってるよ!不安なんだろ?」
ヨージ「いくら頑張っても結果が出ない!」
ヨージ「だから不安に負けちまうんだ!」
ヤス「なんか決勝行けない前提になってない?」
ヨージ「決勝なんて行けなくていい!」
ヨージ「好きでやってんだから!」
ヨージ「お前と漫才やるのが!」
ヤス「俺だって同じだ」
ヤス「お前の書くネタが好きだからやってんだ!」
ヨージ「じゃあ辞めるなんて言うな!」
ヨージ「いくらでも書いてやるから! お前を唸らせるネタ!何本でも!」
ヤス「だったら」
ヤス「全部最高の間でボケてやんよ」
ヨージ「・・ヤス」
ヤス「お前の方こそ やめるなんて言うなよ」
ヤス「この先ずっとだぞ」
ヨージ「・・お、おう!死ぬまでやってやるよ! 売れなくてもな!」
ヤス「なんで売れない前提なんだよ!ハハッ」
「ハハハッ」
〇高架下
思いだした
漫才の楽しさを
〇改札口
久しぶりだ
この高揚感
〇駅のホーム
今なら何だってやれる
最高のネタを作ってやる!
〇電車の中
アナウンス「元町中華街行き発車します」
ヨージ「やってやるぜ!」
〇電車の中
アナウンス「次は渋谷~渋谷~」
ヨージ「あれ?渋谷? いま元町中華街行き乗ったんじゃ?」
アナウンス「渋谷の次は明治神宮前に停まります」
ヨージ「・・なるほど」
ヨージ「そうだよな」
ヨージ「やっぱり夢だったか そりゃそうだ」
ヨージ「けど」
ヨージ「ヤスとの話はリアルだった」
アナウンス「お忘れ物のないようにご注意ください まもなく渋谷~」
横浜から乗った東横線はもうすぐ渋谷に着く
このまま寝ていたら埼玉まで行ってしまうところだった
昔と違って渋谷が終点ではないのだ
ヨージ「まだまだ折り返し地点だ!」
ヨージ「10年前と同じ気持ちで走り続けてやる!」
高ぶる気持ちは消えていなかった
俺たちの終着駅はまだまだ先だ
きっと芸人さんを目指してる人にこういう想いをしながら続けてる人はたくさんいるんだろうなあ。諦めずに頑張って一人でも多くな人に花開いてほしいですね。
いいですね、自分の人生を全うする感じ、泣いても笑っても人生は前に進むのみです、どう過ごすかは自分次第ですよね。どうせなら満喫しきりたい。
青春ですね〜!爽やかな展開で、胸に残るものがありました。過去があって未来もあって、折返し地点って良いですね。たとえいい事ばかりではないとしても、それでも素晴らしいなと感じました。作者様のお力で年齢が魅力的に見えていると思います。この年代の登場人物で、こういうフレッシュな世界観も素敵ですね。