エピソード7『DDD』(脚本)
〇荒廃した市街地
【2033年、イバラキ。『言霊 みれい』】
歯車フォーチュン「その手をどけろ! このゴミクズが!」
『緋色』の太い腕を払い、『フォーチュン』が喚き散らす。
緋色「悪いなおっさん。妻の棺《ひつぎ》を乱暴に扱うもんだから、つい強く握っちゃったな」
みれい「・・・・・・ひ、ひいろぉぉぉ!!」
幻? ううん、幻でもいい! 私は『緋色』に懇願した。彼に願い訴えた!
みれい「そいつが! そいつが! そいつが『奈久留』を!」
炎の中、がっしりと立つ彼、『緋色』だと思う彼は『フォーチュン』の腕を押さえ、しみじみとその仮面を見下ろした。
そして、『フォーチュン』の頭を鷲掴む。
緋色「おっさんが『奈久留』に『アレ』を食わせてくれた人なのか?」
答えなんて聞かなかった。『緋色』は『フォーチュン』を掴んだ腕でその顔を地面へ叩きつける。
仮面の内側の顔がひしゃげて、『フォーチュン』が蛙のように息を零す。
緋色「1つだけ言っておく」
胸から吐き出した、『緋色』の溜めに溜めた一言だった。
緋色「次、俺の前に顔を出したら、その頭蓋、・・・木端微塵にしてやる。絶対にな!」
誰も正視できないその笑みに顔を潰された『フォーチュン』は自身が持つ全てを放りだし逃げ帰った。
『フォーチュン』配下の連中を追うチカラは、『化けクリ』の誰にも残っていない。
『剛《たけし》おじさん』も、市原家の財産も、取り返すことは出来ない。
私たちが守れたのはたった1つ、冷凍庫の中に保管されている『奈久留』だけだった。
みれい「・・・・・・『緋色』」
やっと出てきた言葉がソレだった。涙がこぼれて仕方がない。
みれい「待たせすぎだよ。・・・・・・本当に」
私の言葉に『緋色』は、この頭を撫でて応えてくれた。
撫でるその手はごつごつとしていたけれど、
・・・・・・温かい、昔と同じ『緋色』のモノだった。
緋色「ごめんな。・・・・・・『創』は?」
震えるこの声をゆっくりと聴いてくれる。頭一つ高い場所から私の全てを包んでくれた。
みれい「分からない。たぶんあいつに、ごめん! ごめん『緋色』! 私が居たのに、『創たち』を!」
『緋色』は私の言葉を否定しなかった。全てを認めてくれた。
みれい「みんな、みんな殺されちゃった! 『緋色』! 私どうしたら! いったいどうしたら!」
緋色「・・・・・・とりあえず」
『緋色』は飽きることなく、私の頭を撫でてくれる。ゆっくり時間をかけて、私を慈しんでくれた。
緋色「とりあえず飯《めし》。それからだよ、『みれい』」
〇荒廃した市街地
焼き払われた野、広がる星を前に、『緋色』を皆へ紹介した。私の幼馴染なんだ! って。
みれい「私の、私の!」
『楽々』に、『タタミ』に、キメラのみんなに、腕を広げて言い募る。私の自慢の、
みれい「ヒーローなんだよ!」
って。
『楽々』と『タタミ』は疲弊しきっていたけど、笑って、嬉しそうに頷いてくれた。
急遽焚いた焚火《たきび》の前、持参したお米で、『緋色』が雑炊を振る舞ってくれた。
『楽々』と『タタミ』、特に『タタミ』が『緋色』の話す言葉に目を輝かせた。
初めて会った『緋色』に恐る恐る、でも果敢に近づいていく。
緋色「どんな時も、」
『緋色』が、あの高い星空を指さす。
緋色「どんな事でも、」
その片方だけの腕を、この世界へ大きく開く。
緋色「どんと来い!」
最後は、その厚い胸板を叩いて言いのけた。
緋色「『剛《たけし》おじさん』、『創』のお父さんが教えてくれた言葉なんだ。世界はこの『DDD』でだいたいどうにかなる! って」
『緋色』の大袈裟なボディランゲージを見て、『タタミ』は絵本を開く子供のように、その目をキラキラと輝かせた。
タタミ「・・・・・・DDD。すごいね。ステキだね」
『緋色』から受け取ったご飯を大事そうに頬張りながら、『タタミ』は嬉しそうに微笑んだ。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭
どんな展開でも「どんと来い!」そう思っても予想を越え来る作家さんなのです🌿また読みに伺います🌿