第3話 「忘れていた運命」(脚本)
〇花火倉庫
用具倉庫の扉は、
ノブを何度も捻るが開かなかった。
八王子拓馬「嘘でしょ⁈」
早乙女夢姫「八王子・・・さん?」
彼女が恐る恐る聞いてくる。
八王子拓馬「閉じ込められたっぽい・・・」
早乙女夢姫「へっ⁈」
八王子拓馬「他に出口は・・・」
上の方に換気用の窓を見つけたが
さすがに小さ過ぎる。
早乙女夢姫「き、きっと大丈夫ですよ! この後も体育はありますし、 誰かは来るはすです!」
八王子拓馬「まあ、まだ昼休みだし・・・」
待て待て。助けが来た時、
二人っきりの現場を見られたら
どんな噂が流れるかは明白。
それは絶対避けないと!
八王子拓馬「かくなるうえは・・・」
俺は中身を出し、
サッカーボールを入れる鉄籠に入った。
赤のカラーコーンを被って。
早乙女夢姫「あの・・・どうされたんですか?」
八王子拓馬「いや、誰か来ても 変な誤解されないようにと思って」
すると彼女はしゃがみこんで
床をいじりだす。
早乙女夢姫「そう、ですよね・・・。私なんかと 噂されたら、ご迷惑ですよね・・・」
八王子拓馬「いや、そうじゃなくて! 嫉妬されて命を狙われるというか・・・」
早乙女夢姫「・・・ふふっ。ごめんなさい、冗談です」
八王子拓馬「な、なんだ」
早乙女夢姫「やはり拓馬さんは優しいのですね。 昔と変わらず」
八王子拓馬「昔?」
早乙女夢姫「はい。実は私達、幼い頃に 会っているのですが、 憶えていらっしゃいませんか?」
八王子拓馬「え⁈ 全然」
早乙女夢姫「そう、ですよね。中学からは 別々になってしまいましたし・・・」
八王子拓馬「え、待って。どういう事?」
早乙女夢姫「・・・初めてお会いしたのは 小学校の時でした──」
〇女の子の部屋
幼い頃の彼女は、絵本が大好きで、
母親に読んでもらいながら
眠りに就くのが日課だったらしい。
そのうち、
自分で物語を書くようになった。
〇教室の教壇
男子「おまえなにかいてんの?」
早乙女夢姫「や、やめて!」
男子「『きっとまたあえる、 やさしいわたしのおうじさま』 ぶふっ! おうじさまなんていねーよ!」
早乙女夢姫「かえして!! おねがい!!」
男子「『だってこれはきっとうんめいなのだから』ってばっかじゃねえの?・・・」
早乙女夢姫「かえ・・・して・・・」
そこへ俺が現れたらしい。
八王子「オウジならここにいるぜ!!」
早乙女夢姫「へ・・・?」
〇花火倉庫
何となく思い出した。
俺、昔は結構ヤンチャだった気がする。
八王子拓馬「はあ・・・。ガキの俺恥ず過ぎ・・・」
早乙女夢姫「そんな! 拓馬さんは私の支えでした! いつも明るくて、一緒に居ると楽しくて」
ただの目立ちたがりだった気もする。
早乙女夢姫「先生が学芸会の台本制作を募集した時も、私を推薦して下さいました」
大方、彼女を推薦すれば、自分が芝居の
主役になれるとでも思ったのだろう。
早乙女夢姫「そのおかげで自分の表現に 自信をもつことができました。 賞を戴いたのも拓馬さんのおかげです」
八王子拓馬「まあそれは早乙女さんの 努力の賜物じゃ──」
早乙女夢姫「そんな事はありません!!」
彼女はグッと顔を近づけた。
早乙女夢姫「拓馬さんが居たから 私は書く事を辞めずにいられたのです!」
近い!
埃臭い倉庫内にふんわりと
石鹸の良い香りが漂ってくる。
顔面が熱くなるのを感じ、
俺は顔を背けた。
八王子拓馬「ま、まあ・・・。なら良かったけど」
早乙女夢姫「は、はい・・・」
彼女も気づいたらしく反対を向く。
だがすぐにこちらを振り向いた。
両手を胸の前で握りしめている。
早乙女夢姫「あ、あの! 拓馬さん!!」
八王子拓馬「拓馬さん!?」
早乙女夢姫「その・・・、拓馬さんは 心に決めた方はいらっしゃいますか⁈」
八王子拓馬「い、いや! 今のところは・・・」
早乙女夢姫「わ、私ではだめでしょうか!」
八王子拓馬「ぇえええええ⁈」
早乙女夢姫「あの頃からずっと お慕いしておりました・・・」
彼女の瞳が潤む。
八王子拓馬「そんな・・・早乙女さん、美人だし、 俺なんかには釣り合わないよ・・・」
そうだ俺、勘違いするな・・・!
早乙女夢姫「そんなことはありません! 拓馬さんはカッコいいですし立派です!」
彼女はただ幼い頃の気持ちを
忘れられないだけだ!
早乙女夢姫「以前は夢に向かって演劇を 頑張っていらしたではありませんか!」
八王子拓馬「え・・・」
早乙女夢姫「何度か学園祭に伺いましたが、 とても素晴らしかったです!」
八王子拓馬「やめ・・・」
呟いたつもりが声にはならなかった。
ぶつ切りにされた
映像(トラウマ)がノイズとなって甦る。
卒業アルバムの夢の欄に書いた
『人気俳優』という単語が
頭に浮かんだ――。
〇生徒会室
中学の頃、俺は本格的に
演技を覚えようと演劇部に入った。
告白で失敗した俺は周りから弾き出されたけれど、まだ自分には演技がある。
そう信じて演劇に打ち込んだ。
現実から逃れるように。
でも――。
〇学校のトイレ
男子中学生1「そういやオウジが告白したって話聞いた?」
男子中学生2「聞いた。真由ちゃんとか絶対無理っしょ」
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文化祭は割と思い入れは有ったりします。学芸会も割と思い入れは有ったりします。