第20話 『託された結末』(脚本)
〇高い屋上
鎧坂蕗子(逃げるわけには・・・でも、どうすれば!?)
黒いなにか「ふふっ。消えちゃえ」
梵凪「・・・蕗子さん」
黒い蓮介「あはは」
蕗子が振り返ると、背中には屋上を囲んでいる手すりがあった。
鎧坂蕗子(端まで追いつめられた・・・!)
黒いなにか「無様。どうしたの、助けるんじゃなかったの?」
梵凪「ね、ねえ。 さっき消すって言ってたけど、どういうことなの?」
梵凪「別にこんなことしなくても──」
黒いなにか「あんなヤツ、いない方がいいんだよ。 大丈夫、私に任せて」
梵凪「でも・・・」
黒いなにか「いい子だから黙って!」
梵凪「・・・・・・」
黒いなにか「・・・蕗子、あんたのせいよ」
鎧坂蕗子「・・・え?」
黒いなにか「あんたがそそのかすからこの子は迷うようになった!」
黒いなにか「私の手の中で静かにしてれば、こんなことにならなかったのに!」
鎧坂蕗子「どういう──」
黒いなにか「黙れ!!」
黒いなにか「そう──そうよ、私、元からあんたが気に喰わなかったのよ蕗子!」
鎧坂蕗子「・・・『蕗子』?」
鎧坂蕗子(やっぱり、なにか変)
鎧坂蕗子(凪は私のことを『蕗子』なんて呼ばない──)
蕗子は凪を守るようにしてその前に立っている黒いなにかを見つめた。
鎧坂蕗子「──あ」
鎧坂蕗子「まさか・・・いえ、でも」
鎧坂蕗子(蓮介君──大志君──正岡さん──そのいずれもが、黒いなにかとして蘇った──けど)
黒いなにか「さあ、自分の無力さを噛み締めて、私の中から消え失せろ!!」
鎧坂蕗子「!」
一斉に襲い掛かってくる黒い影たちを、蕗子は真横に飛んで間一髪で逃れる。
鎧坂蕗子「あなた」
黒いなにか「・・・・・・」
鎧坂蕗子「あなた、本当は──」
黒いなにか「ふふっ、残念!」
鎧坂蕗子「!!」
見ると、黒いガラス質に変貌した正岡の手が長く伸びて蕗子の腕を掴んでいた。
鎧坂蕗子「うそ・・・手が、伸びるなんて」
次の瞬間、捕まれた箇所から蕗子の腕が黒ガラスへと変わっていった。
鎧坂蕗子「ぐ・・・ああッ!!」
梵凪「えっ!?」
黒いなにか「そのまま砕けちゃえ」
梵凪「なんで身体が──!? やめてあげてよ!!」
黒いなにか「駄目。これはあなたの為なの」
梵凪「私の、ため・・・!?」
黒いなにか「あなたの無念は私がはらす。 そのために邪魔なものは全部切り捨てる」
梵凪「な、なに言ってんの? わかんないよ。 そんな、私、こんなのやだ・・・やだぁ!!」
鎧坂蕗子「凪! 落ち着いて」
梵凪「ふ、蕗子さ──」
鎧坂蕗子「ひとつ、答えて。 あなた『二万海里の孤独』という本、知ってる?」
梵凪「知らないよそんな本! 今、そんなことどうだって──」
鎧坂蕗子「ありがとう凪・・・これではっきりした」
梵凪「・・・え?」
鎧坂蕗子「私たち、大きな・・・勘違いをしていた」
黒いなにか「・・・・・・」
鎧坂蕗子(ずっと、黒いなにかは、凪の死にたいという想いだと思っていた)
鎧坂蕗子「でもそうじゃない。あなた本当は──」
黒いなにか「・・・・・・・」
鎧坂蕗子「嵐、なのね」
黒いなにか「ふふっ・・・ふふふっ・・・あはははっ! そうよ、その通りよ」
黒い嵐「で? 今更わかったところでどうしようって言うの?」
鎧坂蕗子「うあああッ!!」
蕗子の右腕全体が黒いガラスに侵食された。
梵凪「やめてぇぇ!!」
黒い嵐「もうあなたたちに私は止められない。 バレたところでどうということもない」
鎧坂蕗子「・・・くっ」
膝をつき、床に倒れ込んでしまう蕗子。
鎧坂蕗子「凪・・・凪!!」
梵凪「・・・!!」
黒い嵐「ふふっ・・・ほんと、見苦しい。 凪、あんな奴の所なんて、二度と行っちゃ──」
黒い嵐「!?」
凪は嵐の言葉を無視して、蕗子の元へと駆け寄った。
梵凪「蕗子さん!!」
鎧坂蕗子「・・・凪」
梵凪「蕗子さん、私・・・」
鎧坂蕗子「・・・時間がない、よく聞いて」
鎧坂蕗子「ここは嵐の心の世界・・・。 今、現実の嵐は何かを選択しようとしている」
鎧坂蕗子「私たちは、それを止めるために呼ばれた」
梵凪「選択・・・? 止める・・・? なに、それ」
鎧坂蕗子「私たちが全員消えたら、あの子は選択を下すわ」
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