推しが残してくれたもの(脚本)
〇黒
──結局俺は
〇車内
安藤 卓「ふぅ。今日もやっと終わったな」
カチッ
うぉううぉういえーっ♪胸ぐらを掴んで〜♪強烈なキックをかます〜♫
安藤 卓「今までミーナの曲しか聞かなかったけど、今時の曲もパンチがあっていいな」
あれから俺は、ミーナのファンを辞めた。
安藤 卓(俺はきっと、理想を彼女に押し付けすぎていたんだな)
〇遊園地の広場
アイドルは、言わば着ぐるみと同じだ
中に人がいることを、本当は知りながらも
その真実を知らないフリをして、自分を騙して楽しむ。
〇車内
安藤 卓(アイドルも同じだ。あんなに可愛い子たちに相手がいてもおかしくないのに)
安藤 卓(「アイドルなんだから」 「俺たちに夢を見せてるんだから」と)
安藤 卓(自分の都合の良い様にだけ見て、必死に夢から醒めない様にしていた)
〇ライブハウスのステージ
〇車内
安藤 卓(愛想や愛嬌を振り撒くのが仕事で、俺たちのことをお金としか思ってなくても)
安藤 卓(今回の行為が、最低なものだったとしても)
安藤 卓「──楽しかったな」
安藤 卓「本当に楽しかった」
〇渋谷駅前
──次のニュースです。
元アイドルの舞姫ミナミさんですが、
〇撮影スタジオ
彼女はトレードマークのオレンジの
髪の毛を黒に染め、会見の中では
舞姫 ミナミ「アイドル、並びに芸能界からも引退いたします」
と、涙ながらに訴えていました。
一方、街の声はというと
〇商店街
キャスター「アイドルが不倫とのことですが、どうお考えになりますか?」
道行く人「アイドルうんぬんじゃなく、普通に人としてどうかと思います」
道行く人「てか夢を売るのが仕事なんだから、そこら辺ちゃんとしろって感じですね」
moimoi「相手お金持ちだし、結局ファンよりお金が大事なんじゃないですか」
moimoi「引退なんて所詮、責任逃れですよ。 涙もお得意の嘘泣きなんじゃないですか」
道行く人「確かに、許されないことだとは思います。でも」
道行く人「彼女なりに、誰にも言えない様な葛藤とかはあったんじゃないですかね」
〇渋谷駅前
──『この事について、
芸能コメンテーターの
実瑠出ポンさんはいか』
〇本棚のある部屋
安藤 卓「ふぅ」
安藤 卓「好きだった人があんな風になるのは、流石に居た堪れない気持ちになるな」
安藤 卓(新しい誰かを推す気力もなく、 ミーナのグッズも未だに捨てきれない)
安藤 卓(心にぽっかり穴が空いたまま、 こうしてコンビニのお弁当を貪っている)
安藤 卓「この穴を埋めるにはどうしたら良いんだ」
〇本棚のある部屋
安藤 卓「・・・ご馳走様でした」
安藤 卓(ライブに行かなくなってから、運動しなくなったし太ったな)
安藤 卓(──そういえばミーナ、料理番組に出た時すごく上手だったなぁ)
安藤 卓「作って・・・みようかな」
安藤 卓「料理を新しく始めるのも良いかもしれない」
〇ライブハウスのステージ
自分の理想が崩れる時、
すぐに対応できる人も、
できない人もいる
〇撮影スタジオ
その事実に、なかなか感情が
追いつけなかったとしても
〇ライブハウスのステージ
あの時の自分が
「幸せだった」と言えたのなら、
少なからずその時間に
価値があったのだと思いたい
〇アパートの台所
〇ライブハウスのステージ
〇黒
好きなアイドルが、結婚してて、
不倫してたとしても
あなたは俺の
最高のアイドル【だった】