或る英語教師の偏愛

たぴおかしんたろう

卒業(脚本)

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たぴおかしんたろう

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〇教室
わたし「えー、このホームルームをもちまして解散となるわけですが・・・」
わたし「諸君らは、今年度はまだわが校に在籍している 生徒であるという自覚をもって・・・」
  ざわざわざわ
  私の話など誰も聞いていない
  今日は卒業式
  学校という束縛から解き放たれる彼らに
  
  私の話を真面目に聞こうなどという
  
  殊勝な心掛けはない
  私はいら立ちを抑え話し続けた
  ざわざわざわ
わたし「・・・であるが・・・」
  二次会はどこにする?
わたし「・・・つまり・・・」
  最後の最後まで話が長いんだよ
わたし「・・・ えー、これにて解散とする」
わたし「積もる話もあるだろうが さっさと教室から出ていくように!」
  クラス中に歓声が響き渡るのを合図に
  私は教室をはなれ
  
  生徒たちを見送るために
  
  玄関へと向かった

〇学校の昇降口
  廊下は卒業生のざわめきに満ち溢れている
  玄関前は卒業生を見送る在校生や父兄
  
  教師たちであふれかえっていた
  私は、しばらくその喧騒を見守った
  ・・・
  次第に人もまばらになってきた
  受け持ちのクラスの生徒たちが
  
  粗方、外に出ていくのを見届けると
  私は、暗い気持ちで教室へと引き返した
わたし(彼女が来ない・・・)

〇教室
  静まり返った廊下を引き返し、教室のドアを開けると
  一人の少女が
  自分の席に座って天井を見上げていた
麻宮みさき「あっ、やっと来た」
  彼女が嬉しそうにこちらへ視線を向けると
  
  私は足早に彼女のもとへ向かった
麻宮みさき「この教室に来るのは もうこれで最後でしょ?」
麻宮みさき「だから・・・」
  と言って、彼女は慣れた手つきで
  スマートフォンを私に差し出した
  スマートフォンを受け取ると
  私はカメラを起動した
  カメラのレンズ越しには
  卒業証書の入った筒を片手に
  かわいげなポーズをする彼女が映っていた
  私は彼女を撮影すると
  スマートフォンを返した
麻宮みさき「・・・」
  彼女はしばらく写真を眺めると
  その出来栄えに満足し笑った
麻宮みさき「・・・ じゃあ、お母さんを待たせているから・・・」
麻宮みさき「『またねっ』」
  そう言って出ていく彼女を見届けると
  私は深いため息をついた

〇桜並木
  彼女、麻宮みさきとは
  
  かれこれ3年近い付き合いになる
  3年前、私は何度目かの卒業生を送り届けると
  早速、入学したての麻宮に目を付けた
  彼女は学年でも
  特別目立つようなところはなかったが
  すらりとしたきゃしゃな体に
  高校生になりたての
  無理をして背伸びをしたような
  大人びた雰囲気が
  
  私の琴線に触れた
  何より彼女は勉強ができた
  私は彼女の気を引くように
  
  ときに親身に、時にそっけなく
  世界に彼女の「存在しかない」かのように
  
  世界に彼女は「存在しない」かのように
  
  特別に扱った

〇散らかった職員室
  そして次第に彼女は私に・・・
  もちろん、それほど物事は簡単に動くわけはないのだが・・・
  用は確率の問題だった
  教師のような大人の男と
  恋愛願望のある生徒は
  どの学年にもそこそこいて
  彼女は私が網を張った生徒のうちの
  一人だったというわけだ
  母子家庭の彼女が私に惹かれたのは
  
  必然だったのかもしれない
  彼女は私に興味を持ち始めると
  
  徐々に自分から距離を縮め始めた
  彼女は勉強熱心な方だったから
  
  授業の終わりに、授業の内容の質問をすることはまれにあったが
  ある時から、その頻度が目に見えて増えた
  そのうち、彼女は職員室にも足を運ぶようになった
  次第に彼女は、私を挑発するかのように
  
  授業の範疇を超え、やや踏み込んだ内容の
  質問をするようになった
  私にとってはたわいのない質問だったのだけれど
  彼女が職員室の常連になると
  次第に、学問の範疇を超え
  
  軽い世間話、プライベートな内容も
  話のタネになっていった
  彼女が入学して半年ほどたったころには
  
  私は完全に
  
  狙いを彼女一本に絞っていた

〇おしゃれな住宅街
  ある日の休日、私が車で街を散策していると
  
  偶然、私服の彼女を見つけた
  私が声をかけると
  ラフな格好の普段着を見られた
  気恥ずかしさからなのか
  彼女のほほは紅潮していた
  私は意を決して、彼女をお茶に誘ってみた
  少し間をおいて、彼女がうなづくと
  
  彼女は車の助手席へと駆け込んだ
  教師と生徒の禁断の恋が始まった

〇海岸線の道路
  禁断の恋であることは彼女も承知していた
  密会は必ず私の車で移動できる場所でした
  
  学校関係者に目撃されるなどもってのほかだった
  スマートフォンを利用したやり取りも
  避けさせた
  
  記録は残したくなかった
  約束は学校で取り付ければよかった
  二人で撮影した写真などもってのほかだった
  彼女はそんな恋愛に不満を持つどころか
  
  二人だけの秘密の関係に酔いしれた
  密会先での写真には
  
  常に私が撮影した
  
  彼女の笑顔だけが映っていた

〇教室
  彼女は次第に私に大きく依存していった
  そんな中でも
  私は彼女の成績が落ちることは許さなかった
  むしろ、入学当時中の上程度だった彼女の成績は
  
  私と付き合うようになってから、トップクラス
  学年で一目置かれる存在にまでなった
  彼女に私という
  専属の教師がついているのだから当たり前の話だった
  3年の三者面談
  彼女とよく似た母親に
  志望校合格への太鼓判を押してやると
  二人は顔を向き合わせて笑った

〇黒背景
  私の誤算はここにあった
  彼女は私の期待とは裏腹に
  
  合格できなかったのだ
  そして、彼女は進路指導の教員に相談すると
  
  あっさり地元への就職を決めた
  彼女の成績は折り紙付きだったので
  
  斡旋は容易だったのだ
  それから、3年生は自由登校になっていたし
  
  彼女は就職の準備で忙しかったので
  連絡手段の乏しい私たちは
  
  この間疎遠になっていた

〇教室
  そして、卒業式での彼女との別れ際
  彼女の
麻宮みさき「またねっ」
  の一言で
  
  私は確信した
  彼女はわざと大学に落ちたのだと

〇古い大学
  私と「彼女たち」の関係は
  「彼女たち」の卒業をもって終わる。
  新生活は私たちの関係性を忘れさせるほど
  多忙を極める
  麻宮とも、就職のいざこざで
  数週間ほど顔を合せなかったほどだ
  まして、「彼女たち」の志望大学は県外に設定してある
  当然、麻宮もそうだ
  「彼女たち」はどこかで
  私たちの関係性が終わること
  この火遊びが
  いつまでも続かないことは知っていて
  関係性が自然消滅していくことは
  承知しているはずだったのだ

〇大きいマンション
  だが、麻宮は違った
  入学式が終わり、今後の準備ため残業して遅くに帰宅すると
  私のマンションの入り口の前に
  麻宮がうずくまって
  座っているのを見つけた
  この日は雨が降っていた
  私はずぶ濡れの彼女を
  家の中へ招き入れるほかなかった
  彼女を家の中へ入れることなど
  これまで一度たりともなかった
  それから、数か月ほどたって
  彼女は19になった
  私は、彼女への興味をすっかり失っていたが
  彼女の存在は、そのまま私の教員生活の足かせになっていたので
  付き合いを続けていくほかなかった
  高校を卒業した彼女は、色気づいてきた
  私との距離を縮めるかのように
  無理に背伸びし始めた
  職場の大人たちを見習って
  彼女が私の期待に応えようとするほど
  
  私の気持ちは、手の届かない果実たちに注がれるようになった
  そんな私を見て、彼女は次第に情緒不安定になっていった
  私のために、大学生活をなげうったのだから当たり前だ
  麻宮が麻宮でなくなっていくのに耐えきれなくなった私は
  彼女の殺害を決意した

〇山中の坂道
  わたしは久しぶりに
  彼女をデートに誘うことにした
  登山だ
  私は登山が趣味だったので
  彼女が高校生だったころ
  
  軽いハイキング程度の登山に連れていくことがあった
  彼女は喜んで承諾した
  今回の登山は少しきつめの山を選んだ
  やっと肩の荷が下りると解放感にあふれた私と
  登山の装いで高校時代の面影を少し取り戻した彼女は
  昔のように気さくに会話をしながら山を登った

〇山並み
  しばらくして、山頂にたどり着くと
  彼女は、人気のない美しい風景の広がる撮影スポットを選ぶと
  いつものようにスマートフォンを私に差し出した
  私はその習性に笑みを浮かべ
  満面の笑顔の彼女を撮影した
  彼女がその出来栄えを確認すると
  私は帰り道も撮影してやるからと
  半ば強引にスマートフォンを
  奪い取ると
  下山を促した

〇岩山の崖
  彼女の背中と周囲をうかがいながら歩を進め
  周囲に人がいないのを確認すると
  わたしは彼女を崖から突き落とした
  そして、彼女の母親に
  
  無事、登頂したとのメッセージを送ると
  スマートフォンも崖に投げ入れた。

コメント

  • 初コメです❣️
    読みやすかったし、
    楽しませて頂きましたありがとうございました❤️
    目も疲れないし。
    まさに短編小説、
    tapnovelとは
    本来このような
    感じのコンテンツだったはず
    (私もこんな小説が書きたかった)
    今、私の作品も含めて技巧に凝り過ぎなんですよねw🤣ノシ⭐︎⭐︎

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