エピソード1(脚本)
〇大きい交差点
それは、突然の出来事だった・・・
〇大きいデパート
桜「ママァ、見てみて!このランドセル、すっごく可愛いよぉ」
入学式を間近に控えていた桜は、この日母親とランドセルを買いに、デパートに来ていた。
桜の母「ほんと可愛いわね」
桜「ママ、桜このランドセルにしたい」
桜の母「えっ、けどこのランドセル、桜の好きなピンク色じゃないわよ? それでもいいの?」
桜「うん。あのね、ママには内緒にしてたんだけど、実は莉子ちゃんと一緒の色にしようって約束してたんだぁ」
桜の母「けど、このランドセルの色はピンクじゃなくて赤よ?」
桜「いいの。莉子ちゃんが赤がいいって言ってたから赤にしたいんだぁ。 ねっ?ママいいでしょ? お願い。これ買って?」
桜の母「桜がそこまで言うなら、仕方ないわ。 いいわよ」
桜「やったぁ! ママ、ありがとう」
こうして桜は、真っ赤なランドセルをデパートで購入した。
〇大きい交差点
デパートからの帰り道、桜と母親は交差点で信号待ちをしていた。
桜「あーあ、早くこのランドセルで学校行きたいなぁ」
桜は自分より大きいランドセルを、両腕に抱えワクワクしていた。
桜の母「ねぇ、桜は一年生になったら何がしたい?」
桜「桜はね、一年生になったら友達いっぱぁい作るんだぁ」
桜の母「うん。それはいいことだね。 色んな子とたっくさんお話して、いっぱい友達作るのよ?」
桜「はぁい」
桜「あっ、ママ!信号変わったよ? 早く行かなくちゃ」
桜が交差点を渡ろうとしたその時
〇大きい交差点
一台の車がスピードを上げ、交差点に進入してきた。
桜の母「桜っ!危ない!」
「えっ?」
〇大きい交差点
「桜ぁー! だっ、誰か救急車!」
桜は車にはねられ、頭から血を流し倒れた。
〇病院の廊下
桜はすぐ病院へ運ばれたものの、搬送先の病院で死亡が確認された。
「・・・桜 嘘よね?死んだなんて・・・ さっきまで、あんなに楽しそうに話ししてたじゃない・・・」
桜の母は、意気消沈していた。
桐山「あの、春川桜ちゃんのお母様でしょうか?」
「はい、そうですが。 失礼ですが、どちら様ですか?」
桐山「県警の桐山と言います」
桐山は、警察手帳を見せる。
「警察・・・」
桐山「この度は、娘さんの件で大変お悔やみ申し上げます。 我々、警察も全力をあげて犯人逮捕に努めていますので、暫くお待ち下さい」
母親は黙り込む。
桐山「お母様、因みにですが娘さんをはねた車の特徴など覚えてはないでしょうか?」
「えっ、特徴ですか?」
桐山「はい。目撃者が少なく、誰も車の特徴を見ていた人がいないんです。 なので、お母様だけでも見ていないかと思いまして・・・」
「すみません・・・ 突然の出来事でしたので、私自身もよく見ていません。 それに私は、桜を助けるのに必死でしたから・・・」
桐山「そうですよね・・・ すみません。 娘さんを亡くされた直後にこの様なことを聞いてしまって・・・」
「いえ、気にしないで下さい」
桐山「とにかく、我々も捜査を続けますので。 犯人は必ず捕まえます」
「お願いします。 亡くなった桜の為にも・・・」
〇女の子の部屋
葬儀が終わり、母親は娘の部屋で一人傷心に浸っていた。
桜の母「桜・・・ ママ、一人になっちゃったよ。 これからどうやって生きていけばいいの? 桜がいない毎日なんて耐えられないよ・・・」
桜の机には、卒園式でもらった保育園の卒業アルバムが置かれている。
母親はそれを一ページずつめくり、目に涙を浮かべながら、桜の表情を見ていた。
桜の母「もう、桜のこんな表情を見ることは出来ないのよね・・・」
母親は、喪服のポケットから一枚の紙切れをそっと取り出した。
「あの車、絶対許さない・・・ 一生恨んでやる・・・」
母親は、とある所に電話をかけた。
「もしもし・・・ 探偵屋さんですか? 依頼をお願いしたいのですが,・・・」
〇綺麗なダイニング
数日後、探偵屋から母親に電話があった。
「はい・・・」
「あの、春川様の携帯ですか? 私、早乙女探偵事務所の者ですが・・・」
「はい。 そうですが・・・」
「この度は、ご依頼有り難うございました。 ご依頼の件ですが、車の所有者分かりましたよ」
「そうですか・・・ 有り難うございます。 ・・・はい ・・・はい」
〇広い公園
母親は、公園を久しぶりに訪れた。
「・・・桜」
視線をブランコの方に向けると、一人の女の子が寂しそうにブランコを漕いでいる。
桜の母「あの子・・・」
母親は、ブランコの方に歩み寄った。
桜の母「こんにちは。 莉子ちゃん」
莉子「あっ、桜ちゃんのお母さん・・・ こ、こんにちは」
桜の母「こんな所で何してるの? もしかして一人なの?」
莉子「うっ、うん。 桜ちゃんのお母さんは、どうしてここに?」
桜の母「おばちゃんはね、桜といつもこの公園で遊んでたから、久しぶりに来てみたの」
莉子「・・・桜ちゃん」
桜の母「莉子ちゃん、ごめんね」
莉子「えっ、何が?」
桜の母「約束、守れなくて・・・ 桜から聞いたの。 莉子ちゃんと同じ色のランドセルで学校に行くんだって」
莉子「そうだったんだ・・・ 別にいいよ。 もう・・・」
桜の母「それより、莉子ちゃんはランドセル買ったの?」
莉子「ううん、まだ買ってもらってない」
桜の母「そう。 ねぇ、莉子ちゃんのお父さんって仕事何してるの?」
莉子「えっと・・・ 莉子もよく分かんない」
桜の母「そうなの。 そろそろ日が暮れるわ。 お家にはまだ帰らないの?」
莉子「うっ、うん・・・」
桜の母「もしかして、何も食べてないの?」
莉子「うっ、うん・・・」
桜の母「じゃあ、おばちゃんとこで夕飯一緒に食べる?」
莉子「えっ、いいの?」
桜の母「おばちゃんも一人じゃ寂しいから。 行きましょ」
莉子「うん」
〇綺麗なダイニング
母親は莉子を家に上げ、夕飯を作り始める。
一方の莉子は、慣れない他人の家に落ち着きを感じず、辺りをキョロキョロしていた。
桜の母「莉子ちゃん、夕飯出来たわよ?」
莉子「はぁい」
二人は無言で夕飯を食べ始めた。
桜の母「莉子ちゃん、お口に合うかしら?」
莉子「うん。 とっても美味しい。 莉子、こんなに美味しい料理食べたの久しぶりだもん」
桜の母「お家では、どんなの食べてるの?」
莉子「う~ん、カップ麺とかコンビニのお弁当とかかな。 お母さんが死んでからは、こういうのばっかり」
桜の母「莉子ちゃんも、辛い思いをしたのね」
〇団地
莉子「桜ちゃんのお母さん、今日はありがとう。 夕飯、とっても美味しかったよ」
桜の母「それはよかったわ。 あっ、このことは莉子ちゃんのお父さんには黙っててもらえるかしら?」
莉子「どうして?」
桜の母「どうしてもよ。 お願いだからね。 それじゃあ、おやすみなさい」
〇綺麗なダイニング
「桜・・・ あと少しだから待っててね・・・」
母親は、遺影の桜にそう呟いた。
〇団地
翌日、母親は莉子の家を訪れる。
幸いにも、莉子の父親は既にいなかった。
莉子「桜ちゃんのお母さん」
桜の母「おはよう。莉子ちゃん」
莉子「おはようございます」
桜の母「莉子ちゃん、今からおばちゃんの家に来ない? 渡したいものがあるの」
莉子「渡したいもの?」
桜の母「いいから。 早く着替えてきて・・・」
〇綺麗なダイニング
再び莉子は、桜の家を訪れる。
莉子「あの、渡したいものって・・・」
桜の母「莉子ちゃん、ランドセルはどうなった? そろそろ入学式が近いけど・・・」
莉子「今、お父さんがあちこち回ってランドセル探してくれてるの」
桜の母「探してる? どういうこと?」
莉子「莉子ん家、お金ないから安いランドセルでいいってお父さんに言われたの」
桜の母「そんなことだろうと思ったわ。 莉子ちゃん、これあげる」
母親は莉子に赤いランドセルを渡した。
莉子「このランドセル・・・」
桜の母「そう。 桜が使うはずだったランドセルよ。 けど、うちにはもう必要ないから」
莉子「けど・・・」
桜の母「お願いよ・・・ 桜の為にも使ってほしいの」
莉子は考えこんだ。
莉子「ほんとに、桜ちゃんのランドセル貰っていいの?」
桜の母「えぇ、貰ってちょうだい」
莉子「あっ、ありがとう」
桜の母「それから、この洋服も貰ってちょうだい。 桜が入学式で着る予定だったの。 この服・・・」
莉子「お洋服も貰っていいの?」
桜の母「えぇ。 莉子ちゃんにあげるわ。 これを着て、入学式に参加してちょうだい」
莉子「ありがとう。 桜ちゃんのお母さん」
〇市街地の交差点
入学式当日
莉子は桜の母親から貰ったランドセルと洋服を身に付け、一人横断歩道で父親を待っていた。
桜の母「莉子ちゃん」
「あっ、桜ちゃんのお母さん」
桜の母「すごく似合ってるわね。 洋服もランドセルも」
「ありがとう」
桜の母「ねぇ、莉子ちゃんは一年生になったら何がしたいの?」
「莉子はね、一年生になったら友達いっぱい作るんだぁ」
桜の母「それ、桜も言ってたわ」
「桜ちゃんも言ってたの?」
桜の母「そうよ・・・」
二人はそう言ったきり、無言になった。
桜の母「莉子ちゃんのお父さん、遅いわね。 ほんとに来るの?」
「うん。 すぐ来るから、ここで待ってろって言ってた」
桜の母「そう・・・」
桜の母「ねぇ、莉子ちゃん」
「なぁに?」
桜の母「これからも、ずっと桜の友達でいてくれる?」
「えっ?」
桜の母「あの子、天国で一人ぼっちだから・・・」
「もちろんだよ。 桜ちゃんは、ずっと莉子の友達だよ?」
桜の母「それ聞いて安心したわ」
「うん。 早くお父さん来ないかなぁ」
しばらく待っていると、見覚えのある車が猛スピードで横断歩道に進入してきた。
「あっ、お父さん来たんじゃない?」
「ほんとだ。 お父さんだ」
莉子は父親の車に手を振る。
「莉子ちゃん、桜とずっと仲良くね・・・」
母親は、莉子の背中を突き飛ばす。
その時
「りっ、莉子・・・ だっ、誰か救急車!!」
どう?
愛する娘を失った悲しみは・・・