第9話 不穏な影(脚本)
〇ジェットコースター
きゃーーーー!!
時任一樹「うおおおおーー!!」
天野唯華「きゃーーー!!」
時任一樹「な、長い長い! このジェットコースター長いって!」
天野唯華「もう最っ高! どんどん行けー!」
時任一樹「うおおおおお!!」
〇遊園地の広場
時任一樹「──ひ、酷い目に遭った」
天野唯華「情けないわねー。あれくらいでそんなになるなんて」
時任一樹「お前がタフすぎるんだよ」
時任一樹「ジェットコースターなんてガキの頃以来だったからな」
天野唯華「そんなんで将来車とか運転できるの?」
時任一樹「別に運転する必要ないだろ。今の時代都会に住んでれば車なんてなくても生活できるしな」
天野唯華「そ、そんなの困るわよ! 家族でドライブ旅行に行けないじゃないの!」
時任一樹「何でお前が困るんだ?」
天野唯華「こ、この話はお終い! 次行こ! 次!」
時任一樹「だから腕を引っ張るなって! おいってば!」
〇駅前広場
時任ミナ「ダメ。お兄ちゃん全然電話に出ない」
時任リナ「唯華のほうは?」
時任ミナ「電源が切れてるみたい。デートの邪魔をされたくないから自分で切ったのかも」
時任リナ「どうする? 私たちだけでも先に帰る?」
時任ミナ「危険な宇宙人がいるってわかってるのに二人を置いていけないよ」
時任リナ「ミナならそう言うと思ってた」
時任リナ「仕方ない。パパからせしめたお小遣いでチケットを買って遊園地に入ろう」
時任ミナ「本当にせしめてるなんて思わなかったよ」
時任リナ「備えあれば憂いなし。行こう」
時任ミナ「うん!」
〇メリーゴーランド
時任一樹「この年になってメリーゴーラウンドに乗るのって何か恥ずかしいな」
天野唯華「何言ってるのよ。大人だって子供と一緒に乗ってるじゃない」
天野唯華「それにほら、カップルだってちょこちょこ乗ってるし」
時任一樹「か、カップルね」
時任一樹「やっぱり俺らもそういう風に見られてるのかな?」
天野唯華「そ、そんなの当たり前でしょ! 年頃の男女が二人で来てるんだから!」
時任一樹「そ、そっか」
時任一樹「お、お前はそういう風に見られてもいいのかよ?」
天野唯華「なになに、今更になって照れてるの?」
時任一樹「そ、そんなんじゃねえし!」
時任一樹「お前がそれでいいなら別にいいけどさ」
天野唯華「──嫌だったら来るわけないでしょ。本当バカなんだから」
時任一樹「何か言ったか?」
天野唯華「何でもない」
天野唯華「次はあんたに馬になってもらおうかな!」
時任一樹「小さい子供とか見てるのにそんなことできるか」
〇遊園地の広場
時任ミナ「この遊園地広いね。これじゃ一日かけて探しても見付けられないよ」
時任リナ「迷子の呼び出し放送をしてもらおう」
時任ミナ「最悪の場合はそれもいいと思うけど、唯華ちゃんに事情をどう説明するか考えないとね」
時任リナ「パパが浮気してママと大喧嘩。離婚のピンチとか?」
時任ミナ「そんな大嘘帰ったらすぐバレちゃうからね!」
時任ミナ「とにかくもう一回お兄ちゃんに電話してみるね」
時任ミナ「えっ、あれって!」
時任リナ「カズくんのスマホ。落としてたんだ」
時任リナ「もしもし? 私リナ。あなたのお名前は?」
時任ミナ「出なくていいってば!」
時任ミナ「どうしよう。これじゃ本当に迷子の呼び出しをするしかないよ」
時任リナ「緊急事態だから仕方ない。近くのスタッフさんにお願いしよう」
怪しい人影「見付けた! やっと見付けたぞ!」
時任ミナ「──えっ?」
〇観覧車のゴンドラ
天野唯華「ねえ見て見て! 夕日が綺麗よ!」
時任一樹「本当にな。こうやってちゃんと見るのって久しぶりかもな」
天野唯華「太陽が沈んだ先にも世界が広がってて、そっちはこれから朝になるなんて信じられないわね」
時任一樹「世界は想像してるよりずっと広いからな」
時任一樹「何せ宇宙人もゴロゴロいるみたいだしな」
天野唯華「そんなの当たり前じゃん。宇宙がどれだけ広いと思ってるのよ」
天野唯華「実物を見たことはないけど、信じられないくらいたくさんいるんでしょうね」
時任一樹「だ、だよなー」
時任一樹「危ない危ない。今のはセーフ。セーフだよな?」
天野唯華「あんたのリードの話ならセーフじゃなくてアウトだったわよ?」
時任一樹「な、何だって? それは一体どういうことだ?」
天野唯華「お化け屋敷で気絶。ジェットコースターでへろへろ。メリーゴーラウンドで恥ずかしがる。はっきり言って0点ね」
時任一樹「そこまで言うことないだろ! 何だよ、人がせっかく──」
天野唯華「でもあんたとならどこに行っても楽しいってことがよくわかったわ」
時任一樹「えっ」
天野唯華「子供の頃からずっとそう。私、あんたと一緒にいるときが一番楽しいんだ」
天野唯華「バカでエッチでどうしようもない世話が焼ける幼馴染とか最悪のはずなのに、何でかしらね」
時任一樹「ゆ、唯華」
天野唯華「あんたはどうだった?」
天野唯華「私と一緒にいて、楽しかった?」
時任一樹「──楽しかった」
時任一樹「ガキの頃からずっと一緒で変に気を遣わなくてもいいからかな。今日は自然体でいられて楽しかった」
時任一樹「リード云々言われたときは面倒臭かったけどな」
天野唯華「またそういうこと言う」
天野唯華「だけど、そっか。あんたも楽しんでくれたんだ」
天野唯華「私だけじゃなくてよかった」
時任一樹「な、何だ、今胸がドキッて」
天野唯華「どうかしたの?」
時任一樹「い、いや」
時任一樹「えっ、あれ、何だこれ──」
時任一樹「──お前って、こんなに可愛かったっけ?」
天野唯華「い、いきなり何言い出すのよ!?」
時任一樹「ま、待て! 今のはなし! なしって言うかその」
時任一樹「いや本当、何言ってるんだろうな、俺。今のは忘れてくれ」
天野唯華「わ、忘れられるわけないでしょ!」
天野唯華「もう一回。もう一回言って」
時任一樹「い、いや、でも」
天野唯華「いいから早く! 私のことをどう思ったのかはっきり言って!」
時任一樹「わ、わかった」
時任一樹「ごほん」
時任一樹「お前って、こんなに可愛かったんだな」
天野唯華「っ~~~~~!!」
天野唯華「もう一回! もう一回言って!」
時任一樹「いや何回言わせるつもりだよ!」
天野唯華「ぐずぐずしてないでほら早く! 日が暮れちゃうわよ!」
時任一樹「日暮れは関係ないだろ!」
時任一樹「お、お前ってこんなに可愛かったんだな」
時任一樹「ほらもういいだろこれで!」
天野唯華「一樹~~~~!!」
時任一樹「うわっ! いきなり抱き着いてくるなよ! 今ゴンドラがめっちゃ揺れたぞ!」
天野唯華「気付くのが遅いんだからこのバカは! どうしてくれようかしら本当!」
時任一樹「バカはお前だろ! 付き合ってもない男にこんなくっつく奴があるか!」
天野唯華「バカはあんたのほうでしょ! ここまでくるともう天然記念物ね! 保護団体に連絡しようかしら!」
時任一樹「な、何言ってんだよ。いいから離れて──」
天野唯華「好きなの!」
時任一樹「──えっ?」
天野唯華「だ・か・ら! あんたのことが好きなのよ!」
時任一樹「ほ、本気で言ってるのか?」
天野唯華「冗談でこんなこと言うわけないでしょ! あんたどこまでバカなのよ!?」
時任一樹「さっきからバカバカ言い過ぎじゃないか!?」
天野唯華「バカをバカって言って何が悪いのよ! バカバカバカバカバカ!」
時任一樹「お前いい加減に──」
天野唯華「それでもあんたのことが大好きなのよ!」
時任一樹「!」
天野唯華「こうなったらとことん言ってやるわ!」
天野唯華「あんたのことが好き! 一樹が好き! 大好き! 愛してる!」
時任一樹「わ、わかった! わかったからそれ以上言うな!」
天野唯華「本当にわかってる?」
時任一樹「ちょっと待て。気持ちを整理する時間をくれ」
時任一樹「ひっ、ひっ、ふー」
天野唯華「他にまともな呼吸はなかったの?」
時任一樹「うるさいな! これでも大真面目にやってるんだよ!」
時任一樹「ごほん」
時任一樹「──お前の気持ちはよくわかった」
時任一樹「正直びっくりしてるのが本音だ。煙たがられてるってずっと思ってたからな」
天野唯華「それについては私も謝るわ」
天野唯華「あんたを前にすると素直になれなくて、その裏返しでキツく当たってたのよ」
時任一樹「好きな子にイジワルする小学生の男の子みたいだな」
天野唯華「だ、大体あんたも悪いんだからね! 私の気持ちに全然気付いてくれないんだもん!」
天野唯華「虐めだって言われたときはどんなに悲しかったか。ぐすっ」
時任一樹「あーもう! 泣くなって!」
時任一樹「ほら、俺の胸を貸してやるから」
天野唯華「──うん。ありがとう」
天野唯華「ねえ、あんたはどうなの?」
天野唯華「私のこと、どう想ってる?」
時任一樹「本音を言ってもいいのか?」
天野唯華「ここまでしたんだもん。覚悟を決めるわ」
時任一樹「最近当たりが強くて鬱陶しいって思うことはあったけど、多分どこかでお前の気持ちに気付いてたのかもな」
時任一樹「嫌いにはなれなかった」
時任一樹「だけど、いきなり恋愛対象として意識できるかって言われると、やっぱり戸惑う」
天野唯華「うん」
時任一樹「だからさ。これからはお前のことをそういう風に思えるかしっかり考えてみるよ」
天野唯華「ほ、本当?」
時任一樹「勇気を振り絞って告白してくれたんだ。本気で向き合うのが筋ってもんだろ?」
天野唯華「か、かじゅきぃ~~~~!!」
時任一樹「お、おい! そんなにくっつくなって! 色んなところが当たって──」
天野唯華「あんたに好きって伝えたら気持ちがすっごく楽になったわ!」
天野唯華「あんたも満更じゃないってわかったし、私たちが付き合うのも時間の問題ね!」
時任一樹「わー! 頬擦りするなって! 人が変わったみたいでちょっと恐いぞ!」
天野唯華「今までずっと我慢してたんだからこれくらいいいでしょ?」
天野唯華「あっ、それともこの流れで私と付き合っちゃう?」
天野唯華「私、一樹になら何をされてもいいんだからね」
天野唯華「あっ! 今ドキッとした! わかりやすーい!」
時任一樹「か、からかうのも大概にしろよ! 俺が本気になったらどうするつもりだ?」
天野唯華「バカね。本気にさせようとしてるのよ」
天野唯華「またドキッてした! 本当単純なんだから!」
時任一樹「ち、ちくしょう! 鎮まれよ俺の心臓!」
天野唯華「こんなの私のことが好きって言ってるようなものじゃない。さっさと認めなさいよ」
天野唯華「あ、あんたが素直に認めるなら、す、すす好きなだけエッチなことしてあげてもいいんだからね」
時任一樹「そ、そんなのダメだろ! 好きって言われたからすぐに手を出すとか──」
天野唯華「本当、変なところで真面目よね、あんた」
天野唯華「まあいいわ。今日は最高に気分が良いし、あんたの煮え切らない態度も許してあげるわ」
天野唯華「これからもよろしくね! 一樹!」
時任一樹「人の気も知らないでお前って奴は」
時任一樹「で、でもまあ、お前とのことはその、前向きに考えてみるよ」
天野唯華「早く答えを出しなさいよね! でないと他の男に乗り換えるかもしれないわよ?」
時任一樹「そんなのダメだ!」
天野唯華「なら私のこと好きって言いなさいよ」
時任一樹「い、いや、それは──」
天野唯華「ほらほらどうなのよ? 好きって言えば私のこと好きにしていいのよ? 人参ぶら下げられた馬の気分なんじゃないの?」
時任一樹「何だよその例え」
時任一樹「それにしてもお前振り切れるとこんなになるんだな」
時任一樹「こ、このままだと絆されそうだ」
天野唯華「まどろっこしいわね! キスの一つでもしたら気が変わるならしてあげるわよ!」
時任一樹「な、何を言って──」
天野唯華「ここまで来たらもう我慢なんてしないんだから! ほいほい付いて来たあんたが悪いのよ!」
時任一樹「ち、近い! 顔が近いって!」
天野唯華「い、行くわよ」
天野唯華「んー♡」
時任一樹「や、止め──」
天野唯華「きゃっ! び、びっくりしたぁ!」
時任一樹「何の音だ!?」
天野唯華「ね、ねえ! 見てあれ!」
時任一樹「あ、あそこにいるのは──」
〇遊園地の広場
〇観覧車のゴンドラ
時任一樹「リナ姉とミナ!? 何でここに!?」
天野唯華「それはわからないけど、何かヤバそうな雰囲気じゃない!?」
時任一樹「もうすぐ降りられるはずだ! 行ってみよう!」
天野唯華「うん!」
時任一樹「──一体何が起きてるんだ?」