最終話 これからの日常(脚本)
〇遊園地の広場
ぐおおおおおお!!
MIB日本支部エージェント「困ったねえ~。やっこさんタフ過ぎないかい~?」
MIB日本支部エージェント「てやんでぇバーローちくしょう! 若い衆はまだかってんだ!?」
MIB日本支部エージェント「ロートル二人を扱き使うなんてとんでもないブラック企業だね~」
MIB日本支部エージェント「それで上手いこと言ったつもりかってんだ! 座布団くれてやるにはちょいと不足だバーロー!」
ぐおおおおおお!!
「ぐはっ!」
時任ミナ「ど、どうしよう! MIBの人たちが!」
時任リナ「あなたは一体何者?」
高橋雄基「やっと俺に興味を持ってくれたみたいだね」
時任ミナ「高橋くん、だったよね?」
時任リナ「あなたの噂は聞いてる。女子トイレで昼ご飯を食べてた変態だってこと」
時任ミナ「それだけじゃない。MIBの人たちを相手にこれだけ戦えるなんて」
時任ミナ「あなた、地球人じゃないでしょ」
高橋雄基「正解! うーん。美少女二人に睨まれるなんてこの上ない快楽だね」
高橋雄基「こっちに来てから俺好みの美少女に出会えなくてね。どうしたものか困っていたんだ」
高橋雄基「そしたら君たちが現れてくれた! まさかこんな辺鄙な星でお目にかかれるなんて思わなかったよ」
時任ミナ「私たちの正体に心当たりがあるみたいな言い方だね」
時任リナ「ここまで生理的に無理と感じさせる相手は滅多にいない。どこの星から来たの?」
高橋雄基「答えてあげてもいいけど、まだゲストが到着していないんだ。もう少し待ってもらえるかな?」
時任一樹「リナ姉! ミナ!」
天野唯華「な、何これ。人が大勢倒れて──」
時任ミナ「お兄ちゃん! 唯華ちゃん!」
時任リナ「無事で良かった。心配してた」
時任一樹「それはこっちの台詞だって! 爆発がしたかと思えばリナ姉とミナが見えたから何が起きてるのかと」
天野唯華「ね、ねえ、あいつ高橋よね? 女子トイレで昼飯食べてたって有名な──」
高橋雄基「やあ、ようやく来てくれたね。ようこそ本日のナイトパレードへ。歓迎するよ、お二人さん」
時任一樹「高橋! これは何の真似だ!? MIBの人たちをやったのはお前なのか!?」
天野唯華「め、MIB? さっきから話が全然見えないんだけど」
高橋雄基「おや、唯華ちゃんは何も知らなかったのかい? 素敵な時間をプレゼントしようと準備をしてきたんだけどな」
高橋雄基「まあそんなことはもうどうでもいいか」
はあああああああああ!!
べロリアン星人「この姿になったからには容赦はせんぞ!」
時任ミナ「あの姿はまさか!?」
時任リナ「ベロリアン星人!」
べロリアン星人「知っていてくれて嬉しいよ! さすがはお姫様! 博識のようだね!」
時任一樹「お姫様だって!? 一体何の話だ!?」
べロリアン星人「本当に何も知らないんだな。恵まれた環境に身を置いていながらお前って奴はさぁ!」
べロリアン星人「この星から五十億光年離れた先にある数多の銀河系を統べるネメシス星人。その総統は音に聞く暴君」
べロリアン星人「──二人はその総統の娘なんだよ」
時任一樹「何だって!?」
天野唯華「えっ? 何? 何の話? ねえってば」
時任リナ「そこまで知ってて私たちに手を出そうなんて愚かにもほどがある」
時任ミナ「私たちは平和に暮らしたいだけなの! お願いだから邪魔しないで!」
べロリアン星人「平和だと!? 笑わせるな!」
べロリアン星人「ネメシス星人がどんな蛮行を働いて栄えたか知らないとは言わせないぞ!」
べロリアン星人「圧倒的な力を背景に侵略戦争を仕掛けて付近の銀河系を丸ごと植民地化し、支配領域を広げてきた!」
べロリアン星人「俺の星はネメシス星人に抵抗し、そして敗れ、俺を含めた生き残りは散り散りとなって宇宙を彷徨った」
べロリアン星人「やっとの思いで辿り着いたこの星で俺は腐りに腐ってしまった」
べロリアン星人「この星の人間は弱すぎる。子を為したとしても宇宙の勢力争いに参入できるほどの力は得られないだろう」
べロリアン星人「打ちひしがれた俺は怠惰に怠惰を重ねて愚物に成り下がってしまったんだ」
時任一樹「自分の変態性を境遇のせいにして誤魔化そうとしてないか?」
天野唯華「ね、ねえ、あの人誰なの? 高橋はどこに行っちゃったの? ねえ」
べロリアン星人「だがそれも今日までだ」
べロリアン星人「ネメシス総統の娘が二人もいる! お前たちのあいだに子を為し、べロリアンの復興を成し遂げてみせる!」
べロリアン星人「そして我々のあいだに生まれたネメシスの血を引く者がネメシスを滅ぼすのだ! ふはははは!」
時任ミナ「説得するのは無理そうだね」
時任リナ「やるからには相手になる。これ以上の騒ぎは起こさせない!」
時任リナ「覚悟!」
べロリアン星人「来い! その力を見せてみろ! ネメシスの姫よ!」
時任一樹「な、何て戦いだ! これが宇宙人の力なのか!」
天野唯華「ねえ! ねえってば!」
時任一樹「こんな戦いに割って入るなんて無理だ! だからって黙って見てるわけにもいかない!」
天野唯華「聞こえてるわよね!? もしもーし!」
時任一樹「クソ! 俺はどうしたらいいんだ!」
天野唯華「もーーー! いい加減私の話を聞きなさいよ!!」
時任一樹「い、痛っ! こんなときに暴力を振るう奴があるか!」
天野唯華「みんなして私をそっちのけにして話を進めるからでしょ!」
天野唯華「何がどうなってるのか説明してよ! 高橋はどうなったの? リナとミナは何なの? 宇宙人って何の話!?」
時任一樹「いやそんないっぺんに訊かれても答えられないから!」
天野唯華「いいから答えなさいよ! せっかくのデートを台無しにされて黙ってなんていられないわ!」
時任一樹「わ、わかった! 帰ったら全部説明するから今はおとなしくしててくれ!」
時任一樹「今はそれよりリナ姉とミナのことだ! 今は何とか戦えてるけど高橋のほうが優勢だ!」
天野唯華「た、高橋って、あのマッチョが高橋だって言いたいの? 信じられないんだけど!」
時任一樹「それには俺も驚いてる」
時任一樹「そんなことよりこのままだと二人がやられる! 何とかしないと!」
天野唯華「何とかってどうやって?」
時任一樹「それを今考えるんだよ!」
MIB日本支部エージェント「そういうことならこいつを使いな」
時任一樹「こ、これは何ですか?」
MIB日本支部エージェント「宇宙人を無力化することができる手榴弾だぜ、バーロー」
MIB日本支部エージェント「当てようにも隙が無くてできなくてね~。しかもこの通りやられちまって身動きが取れないんだよね~」
MIB日本支部エージェント「お上から話は聞いてる。監視対象のお前さんに頼むのは筋が通ってねえが、このままじゃあの嬢ちゃんたちがやられちまう」
MIB日本支部エージェント「ここいらで男を魅せちゃいなよ~。少年」
時任一樹「わかりました。俺が何とかします」
MIB日本支部エージェント「その意気だよ~」
MIB日本支部エージェント「情けねえ大人ですまねえ。後は頼んだ、ぜ」
時任一樹「任せてください。二人のことは一生忘れません」
天野唯華「この二人普通に息してるわよ?」
時任一樹「俺がやるんだ。他ならない俺が! 俺がリナ姉とミナを助ける!」
天野唯華「すっかりその気になっちゃってるし」
天野唯華「まあいいわ。何が何だかよくわからないけど、全部あんたに任せるわ」
天野唯華「ちゃんとカッコイイところ見せなさいよね!」
時任一樹「任せておけって!」
〇遊園地の広場
時任ミナ「この人思ってたよりずっと強いよ、お姉ちゃん」
時任リナ「わかってる。ただの変態だと思って油断した」
べロリアン星人「ふむ。噂に聞くほどではないが、俺の子を産むに相応しい強さだ」
べロリアン星人「もっと遊んでやりたいところだが、そうも言っていられない。MIBが集まってきたら面倒だ」
べロリアン星人「君たちの調教は帰ってからにしよう!」
時任ミナ「あの人こっちに来るよ!」
時任リナ「久しぶりに戦ったから思うように体が動かない」
べロリアン星人「これまでだ! 観念しろ! ネメシスの姫たちよ!」
時任一樹「どころがどっこいそうはいかねえぜ!」
べロリアン星人「なっ──」
時任一樹「これでも食らえ!」
べロリアン星人「バカめ。こんな物で俺がどうにかなると思ったのか?」
べロリアン星人「そういえばお前には無視されていた恨みがあったな! あまつさえ美少女を囲んでいてムカムカしていたんだ!」
べロリアン星人「縊り殺してやるぞ! 時任ぉ!」
時任ミナ「お兄ちゃん!」
時任リナ「カズくん逃げて!」
時任一樹「そう。丁度いいんだぜ。この距離がよぉ!」
時任一樹「さっきの石はよぉ、お前を誘き寄せるために投げたものなのさ」
時任一樹「あっさり引っ掛かってくれちゃってよぉ。ルアーを餌と勘違いした魚みてえによぉ!」
べロリアン星人「な、何だと? 何を言っている!?」
時任一樹「お前はもう網にかかった魚だ。もう逃げられねえぜ!」
べロリアン星人「なっ──」
べロリアン星人「ぐわあああああああああ!!」
べロリアン星人「こ、この俺が、エロガッパ一樹なんか、に」
時任一樹「ダイエットは成功しても心は贅肉でたぷたぷだったみたいだな」
時任一樹「しっかり削ぎ落としてきな。ムショの中でよ」
時任ミナ「お兄ちゃん!」
時任リナ「カズくん!」
天野唯華「一樹!」
時任一樹「おいおいハニーたち。そんなにくっつかなくても俺は逃げないぜ?」
天野唯華「何がハニー”たち”よ! ハニーは私一人で十分でしょ!?」
時任ミナ「その様子だと上手くいったみたいだね」
時任リナ「そのせいかカズくんがいつも以上に調子に乗ってる」
時任ミナ「活躍したばかりだしこれくらいは許してあげようよ」
天野唯華「そうだったわ! 一体全体これはどういうことなのよ!? あんたたちは何なの!? 全部説明して!」
MIB日本支部エージェント「それについては私が説明します」
時任一樹「あっ、いつかの恐いMIBの人」
MIB日本支部エージェント「到着が遅れてしまって申し訳ない。外に避難してきた人たちの記憶を消すのに時間を取られてしまった」
MIB日本支部エージェント「これほどの規模の被害は珍しい。後始末に苦労しそうだ」
天野唯華「何この人たち? さっき戦ってたスーツのおじさんの仲間?」
時任一樹「そういうことになるな」
MIB日本支部エージェント「天野唯華さん、だったね? こうなってしまっては仕方がない。君にも事情をすべて説明しよう。構わないね?」
時任ミナ「はい」
時任リナ「いつかこうなる日が来るような気はしてた」
MIB日本支部エージェント「実は彼女たちは──」
〇遊園地の広場
天野唯華「──話はわかったわ」
天野唯華「いや本当は全然わかってないし、全部信じられないけど、この目で見た以上は信じるしかないわね」
時任一樹「やっぱりそういう反応になるよな」
時任一樹「てか俺もリナ姉とミナがどっかの星のお姫様だなんて知らなかったぞ! 何で教えてくれなかったんだ?」
時任ミナ「姫と言っても元だしね」
時任リナ「私たちの星は滅んだ。それを機に無茶な侵略をしてた本当のパパも恨みを買っていた人たちに捕まって処刑された」
時任ミナ「繁栄の恩恵にあずかっていた私たちにも罪はある。いざというときは死ぬ覚悟もできてたけど」
時任リナ「パパと同じ過ちを繰り返さないのを条件に見逃された」
時任ミナ「ネメシス星人としての力の大部分は宇宙の泉に封印してきたし、戦える力はほとんど残ってないんだ」
時任リナ「本気で戦ってたらべロリアン星人なんてワンパンだった。ワンパン」
時任一樹「そ、そっか。封印されてる状態で本当によかった」
MIB日本支部エージェント「では我々は後始末がありますので」
MIB日本支部エージェント「てやんでえバーローちくしょう! 一丁前に吠えたときは男だったぜ、坊主!」
MIB日本支部エージェント「仕事に困ったらうちに就職するといいよ~。歓迎するよ~」
MIB日本支部エージェント「それでは失礼します。何か困ったことがあれば連絡を」
MIB日本支部エージェント「頑張ってね、時任一樹くん」
時任一樹「行っちまったか」
時任ミナ「怪我人がいなくて本当に良かったよ」
時任リナ「私たちもうちに帰ろう。パパとママが待ってる」
時任一樹「だな!」
時任ミナ「あっ、そういえば今日の夕飯はハンバーグだって言ってたよ! ママが作ったハンバーグ大好物なんだ!」
時任リナ「ママの手料理は本当に美味しい。今から楽しみ」
時任一樹「お姫様の舌を唸らせたって知ったらおふくろもびっくりするだろうな!」
時任ミナ「でもいいのかな。こんなことがあったあともお家にいたりして」
時任リナ「カズくんは恐くないの?」
時任一樹「何言ってんだよ」
時任一樹「──俺たちはもう家族だろ?」
時任ミナ「そうだね! お兄ちゃん!」
時任リナ「物分かりが良い弟ができて嬉しい」
時任一樹「俺もこんなに美人な姉と妹ができて嬉しいよ」
時任一樹「帰ろうぜ、俺たちの家に」
時任ミナ「うん!」
時任リナ「行こう」
天野唯華「ちょっと待ちなさいよ! 私最期までこんな扱いなわけ!? さっきまで勝ち確みたいな感じだったのに! ねえってば!」
こんなの納得がいかないんだけどーーー!!
〇学生の一人部屋
――その後
時任一樹「お、おい! いつの間に俺のベッドに潜り込んだんだ!?」
天野唯華「昨日の夜からよ! しっかり見張っておかないとあんた何仕出かすかわからないし!」
天野唯華「あ、あんな、血が繋がってない美少女の姉と妹と一緒に暮らしててあんたが我慢できるわけないし!」
時任一樹「俺たち別にまだ付き合ってるわけじゃないのにこんな──」
天野唯華「遅いか早いかの違いでしかないんだからもういいでしょ! 腹を決めなさい!」
時任一樹「ま、待てって! 朝っぱらからこんなところ見られたら!」
天野唯華「うるさいわね! あんたが観念して私と付き合えば丸く収まるのよ!」
天野唯華「私のこと好きって言いなさい! そうすればあんたが毎日考えてるようなえ、エッチなこともしてあげるんだから!」
時任一樹「こ、こんなの横暴だ! そういうのはもっと雰囲気があるときに自然な流れでするものだから!」
天野唯華「あんたがそういうこと言うと私が野獣みたいに聞こえるじゃないのよ!」
時任一樹「この状況はどこからどう見てもお前が野獣だろうが!」
時任ミナ「あっ、唯華ちゃんおはよう。お兄ちゃんも」
時任リナ「朝から大胆」
時任一樹「二人ともこいつを何とかしてくれ!」
時任ミナ「何で? 両想いならそういうことしても問題ないでしょ?」
時任一樹「いや両想いっていうか、まああながち間違いではないけど今はそういう感じじゃないというか」
時任リナ「スケベなくせにいざというときにヘタレるとか甲斐性なし」
時任リナ「やっちゃえ、唯華」
天野唯華「合点承知!」
時任ミナ「二人とも仲が良さそうで何よりだよ」
時任リナ「この家に来てよかった。賑やかで楽しい」
時任明美「みんなー、ご飯できたわよー」
時任茂雄「唯華ちゃんも一緒に食べていきなさい」
天野唯華「ありがとうございます! 一樹を食べたらすぐに行きますね!」
時任一樹「お前正気か親の前で!?」
天野唯華「ここは人目が多いから私の家に行くわよ。ほら早くして!」
ら、らめえええええ!!
時任ミナ「一件落着だね」
時任リナ「私たちの騒がしい日常はこれからも続いて行くのだった」
時任リナ「いえい」
〇空
――宇宙人姉妹に居候された時任家は末永く幸せに暮らしたとさ
――めでたしめでたし
時任一樹「スケベはされるよりするのが好きなのにいいぃぃい!!」
Fin
お疲れさまでした。
高橋は本性を表しても高橋だった件。