第8話 「帰還」(脚本)
〇二階建てアパート
───────8月13日──────
〇整頓された部屋
穴倉圭「このくらいしか出来ないですけど、 1日だけ実家に帰りますんで・・・」
マヨルガ「「お盆」てやつか」
穴倉圭「ええ。 マヨルガさんも一緒にどうすか?」
マヨルガ「これからマッドドッグ以上の連中を 送り込んで来る可能性がある」
マヨルガ「その場合、この程度の魔除けでこの部屋を 飛び出したら・・・」
マヨルガ「アパートどころか街が終わる」
マヨルガ「留守には出来ない」
穴倉圭「そうっすよね・・・ 愚問でした」
マヨルガ「早く行って来い!」
穴倉圭「はい!!」
〇商店街
〇スーパーの店内
常連客 嶺貞「こんな普通の豆で良いのか?」
客1「大丈夫っしょ。 全てはマスターの腕で決まるんですから」
〇リサイクルショップの中
常連客 嶺貞「ロウソク? これは何でじゃ?」
客1「普通の火よりも 豆の香ばしさが増すらしいすわ」
常連客 嶺貞「なるほど。あの柔らかく芳醇な香りは ロウソクで焙煎していたからか・・・」
〇廃ビルのフロア
常連客 嶺貞「どうじゃ? これで大丈夫か?」
マスター加賀「完璧です。 それでは今から至高のコーヒーを お作りいたします」
常連客 嶺貞「もう一度聞く。 こんなどこにでもあるもんで、 俺らが満足するもんが作れんのか?」
マスター加賀「そのお気持ち、30分後に覆してみせましょう」
常連客 嶺貞「ほう、こりゃみものだな」
マスター加賀「確かにこの豆はスーパーで売っている ごく普通の豆です」
マスター加賀「しかし挽き方で、ただの豆が私にしか作れない唯一の豆へと変わっていくのです」
常連客 嶺貞「そもそもコーヒーミルも無えのにどうやって挽くんだ?」
マスター加賀「フフッ」
常連客 嶺貞「何がおかしいんだ?」
マスター加賀「私が通常のコーヒーミルやフィルターで豆を濾していたら、あなた達を夢中にするものは作れなかった」
マスター加賀「まあ今この状況を考えたら、 夢中にしなければ良かったとも思いますが・・・」
常連客 嶺貞「何だって?」
客1「ずいぶん嫌味な口ぶりですね」
常連客 矢崎「嶺さん!マスターの言葉に 期待しようじゃねえか!」
常連客 矢崎「もうすぐこの手の震えがおさまるんだぜ?」
常連客 嶺貞「そうだな・・・ 苦しさから解放されるんだもんな・・・」
マスター加賀「それではみなさん、 少し離れていただけますか?」
常連客 嶺貞「ああ」
マスター加賀「それでは嵯峨根さんに大事に保管して頂いた メーカーを使わせていただきます」
マスター加賀「このアイスの棒で袋ごと豆を砕きます」
マスター加賀「これで挽き豆は完成しました」
常連客 嵯峨根「ちょ!そ、そんなワイルドなやり方なの!?」
常連客 黒岩「ふざけてないですか?」
常連客 黒岩「ひ。挽き豆を地面にばら撒いた!!」
常連客 嵯峨根「何で投げ散らかすの?」
マスター加賀「この豆の円が重要なのです!!」
常連客 黒岩「豆の円?」
マスター加賀「カフェインサークルと呼んでください」
常連客 嵯峨根「カ、カフェインサークル!?」
マスター加賀「この粉々になった豆の香りがほんのりと 漂うサークルの中心で焙煎を行うのです」
常連客 黒岩「理解しかねますな・・・」
客2「黒岩さん、しばらく見届けようよ」
常連客 黒岩「いや、しかし・・・」
客2「俺だって早く飲みたくてうずうずしてんだよ」
客2「懐疑的になる気持ちは分かるけど、 マスターを信じるしか無いじゃない」
常連客 黒岩「そ、そうですね。 ちょっと取り乱してしまいました」
常連客 黒岩「マスター、すいません。 続けてください」
マスター加賀「残りの豆は、挽く前にロウソクで炙ります」
〇廃ビルのフロア
マスター加賀「炙った豆をメーカーに入れます」
マスター加賀「ここからは出来るだけ静かにお願い致します!」
マスター加賀「美味しくなーれ。美味しくなーれ」
客1「ん?神頼みか?」
常連客 嵯峨根「気持ちを込めたら味も変わるのかしら?」
マスター加賀「/;)&&&&&/6¥?!;:,?!¥):/)¥@&,;:;&99)(;:/()(;43;?899(;・・・エッサイム」
客1「呪文みたいだな・・・」
客1「おっ!こ、この香り!!」
常連客 嵯峨根「懐かしい!!」
常連客 嶺貞「これを待ってたんじゃ!!」
マスター加賀「みなさん、もうすぐ出来ますので そこまで興奮しないでください」
「中毒こそ我が人生ぞ!!」
マスター加賀「完成です!」
マスター加賀「ずいぶんと皆さんには 待たせてしまいましたんで、 今日はいつもより多めに 楽しんでいってください・・・」
常連客 嶺貞「これだ!!もう1杯!いやあと3杯!」
常連客 黒岩「腹がタプタプになっても飲み尽くす!!」
常連客 矢崎「一生分飲んでやるぞ!!」
常連客 嵯峨根「ちょっと順番守りなさいよ!! 私が先でしょうが!?」
常連客 嵯峨根「このメーカーを私が大事に保管してたから 今があるのよ!!」
常連客 嶺貞「うるせえ!!」
客1「いい歳こいてくだらない喧嘩やめましょうよ」
常連客 嶺貞「何だてめえ!歳下のくせに生意気な口 ききやがって!!」
客1「あ?ジジイ!!やんのかコラ!!」
マスター加賀「お2人とも興奮して疲れましたでしょ?」
マスター加賀「もっと強めのコーヒーで 身体を落ち着かせてくださいませ」
常連客 嶺貞「マスター、あんたって人は・・・」
〇豪華なリビングダイニング
常連客 嶺貞「久しぶりだな・・・」
マスター加賀「あ、あなた達は!?」
常連客 嶺貞「忘れたとは言わせ・・・」
マスター加賀「常連のお客様じゃないですか!!」
常連客 嶺貞「お、覚えてたか」
マスター加賀「当然ですよ!」
マスター加賀「嶺貞様に黒岩様、お久しぶりです。 いかがいたしましたか?」
常連客 黒岩「ドアの鍵が開かないんで、 ベランダから入り込んだ事はゆるしてくれ」
常連客 嶺貞「ちょっと来てもらおうか」
マスター加賀「いや、こんな強引なやり方をされて ほいほいと着いて行く事は承服しかねます」
常連客 嶺貞「おい、黒岩」
常連客 黒岩「はい」
常連客 黒岩「ちょっと壁借りますわ」
常連客 嶺貞「行こうか?」
マスター加賀「は、はい」
〇廃ビルのフロア
常連客 嶺貞「あの時は手荒なマネしちまって悪かったな」
マスター加賀「お気になさらず」
マスター加賀「ささ、まだまだございますよ。 みなさんももっと飲んでくださいませ」
常連客 嶺貞「あ、ありがとうな・・・」
常連客 嶺貞「何杯飲んでもうめえわ!!」
常連客 黒岩「生き返りますな!!」
常連客 矢崎「こりゃまた寿命が延びちまうわ!!」
客2「はあー、こりゃ身体に染み渡るねえ!!」
常連客 嵯峨根「極楽気分だわ!!」
「ん!!!!???」
常連客 嶺貞「な、何か胸が気持ち悪りいな・・・」
常連客 矢崎「お、おいらも・・・」
常連客 嵯峨根「気分が・・・沈んでくわ・・・」
マスター加賀「あれれー?みなさん? どうしました?」
マスター加賀「ちょっと飲み過ぎましたかね?」
マスター加賀「そうだ!私のコーヒーは摂取量を間違うと バッドトリップが襲いながら昏睡してしまうという副作用があったんだ!」
マスター加賀「なにぶん、久しぶりなもんで忘れてました」
マスター加賀「今頃、みなさん悪夢の中でしょうねえ」
マスター加賀「黒岩さん? 大事な物落としましたよー?」
マスター加賀「なるほど。 これで極楽に行きたいと言う事ですね!」
マスター加賀「てめえら手荒なマネしやがって・・・」
マスター加賀「ふん、このダニ共が!!」
マスター加賀「地獄でくだらねえ会話でもしてな!!」
〇山間の集落
〇平屋の一戸建て
穴倉圭「母ちゃん。ただいまー!」
穴倉美江「おかえりなさい」
穴倉剛斗「圭、お疲れさん!」
穴倉圭「おう、兄ちゃんもおったんか!」
〇古めかしい和室
穴倉圭(親父、ただいま。 何とか東京で頑張ってるから、 見守っててくれや)
穴倉剛斗「ずいぶん長く手ぇ合わせとったな?」
穴倉剛斗「何か願い事でもしてたんか? 他力本願はあかんぞ?」
穴倉圭「そんな事してへんよ。 近況報告してただけや」
穴倉美江「茶でも飲んでゆっくりしいや」
穴倉圭「ありがとう」
穴倉美江「東京の生活は、どうや?」
穴倉圭「もうだいぶ慣れて来たわ」
穴倉美江「ちょっと太ったんちゃうか?」
穴倉圭「まあ一人暮らしやから、そりゃ栄養も偏るで」
穴倉美江「ちゃんと自炊せなあかんで」
穴倉圭「たまにしとるけど、仕事終わってから 自炊すんのはしんどいって」
穴倉剛斗「相変わらず胆力が無いのう」
穴倉圭「炒めモンくらいしか作れんしな」
穴倉美江「何事も健康やないとあかんで」
穴倉圭「そんなん百も承知や」
穴倉美江「お父さんも、酒さえ控えたらこんな早う 逝かんかったんや・・・」
穴倉剛斗「身体も動かさんと酒浸りやったからな」
穴倉圭「もう5年も経つんやな・・・」
穴倉圭「あ、そや!」
穴倉圭「土産買うたん忘れてたわ。 これ仏壇にお供えしてな」
穴倉美江「何や?オシャレなスイーツか?」
穴倉圭「赤坂で2時間並んで買うたんや」
穴倉剛斗「また生意気な。こんなど田舎の山猿が 赤坂で洋菓子買うようになったか」
穴倉圭「ええやんけ別に」
穴倉美江「こんなオシャレなもん、お父さん好かんやろ」
穴倉美江「天国で「また糖尿なった」言うて 怒って来るで?」
穴倉圭「・・・・・・・・・」
穴倉美江「何や?どないしたん?急に黙って・・・」
穴倉圭「俺、東京行く前に言うたやろ?」
穴倉美江「何て?」
穴倉圭「俺はこの村が好きやから東京なんて 行きたないって」
穴倉圭「村の役場に勤めたいって」
穴倉圭「この村から出て行ってくれ言うたん 母さんやからな?」
穴倉圭「何で上京させたんや?」
穴倉圭「何してんの?」
穴倉剛斗「まあ、すぐに分かるから待っとれ」
穴倉美江「これな、納屋の奥掃除してたら みつけたんや」
穴倉圭「何やこれ?相当古いもんやな?」
穴倉美江「曾祖父ちゃんの時代に使ってた台帳や」
穴倉圭「凄いやん!めっさ貴重なもんちゃうんか?」
穴倉美江「こんな台帳はどうでもええねん」
穴倉圭「どないやねんな?」
穴倉美江「それより、この台帳に曾祖父ちゃんの 写真が挟んであってん」
穴倉圭「ホンマに!? 今まで一切見た事無かった曾祖父ちゃんの 写真かいな!?」
穴倉美江「そや。寿命が減る言うて写真撮った事ない 言うてたけど、あれ嘘やったみたいやで」
穴倉圭「ちょっと見せて!!」
穴倉美江「その前に圭、よう聞きや」
穴倉圭「何や?どないしたん?」
穴倉美江「うちらの一族は、曾祖父ちゃんの代から ずっと一族の中で結婚を繰り返して来たやろ?」
穴倉圭「ああ・・・そうやな・・・」
穴倉美江「昔、先祖の火葬が原因で村が大火事にあった」
穴倉美江「あの火事で、村人の多くが巻き込まれた」
穴倉美江「それだけやなく、村人の中には祟りにあったように荒れ狂った人もおった」
穴倉美江「極めつけは牛、馬、犬、鳥、猫。 村の動物達が興奮して人間を襲い出したんや」
穴倉美江「それからうちら一族は「祟りを巻き起こした悪魔の一族」と言われ、 他の村人たちとの結婚は出来へんようになった」
穴倉美江「お父さんは、従兄弟や」
穴倉剛斗「俺の嫁も従姉妹」
穴倉圭「その話は何度も聞いとるし分かっとるよ」
穴倉圭「いつまでそんな迫害を受けんと いかんのや?」
穴倉圭「俺と兄ちゃんは、まだ若いしそんな過去の 事を知らん」
穴倉圭「そんな過去なんて気にせんと 仲良くしとる友人も沢山おった」
穴倉圭「そやから俺たちの代で終わらせる事が 出来ると思っとるんや」
穴倉圭「俺はこの村で一生生きて行こうと思っ・・・」
穴倉圭「・・・・・・・・・」
穴倉圭「・・・・・・誰や?」
穴倉剛斗「分かったか? まだまだ根深いんや・・・・・・」
穴倉剛斗「うちらの代になってもな・・・」
穴倉美江「圭は幼い頃に神童言われてたやろ?」
穴倉美江「圭はどこへ行ってもやっていける子や」
穴倉圭「そんな事・・・」
穴倉美江「そやから圭だけは一族の辛さから 解放されて羽ばたいて欲しかったんや」
穴倉剛斗「俺らは先祖に背を向けれんのや。 悪魔の一族だろうが何だろうが・・・」
穴倉剛斗「その姿を日々の行いで、 村の人達に理解してもらう責任があるんや」
穴倉圭「俺にも・・・背負わせて欲しかったわ」
穴倉美江「湿っぽい話してすまんのう」
穴倉美江「これが曾祖父ちゃんの唯一の写真や」
穴倉美江「山火事の少し前に曾祖母ちゃんと 2人で撮った写真や」
穴倉圭「へえー、これが曾祖父ちゃ・・・」
穴倉圭「はっ!!マ、マジかよ!!!!!」
穴倉美江「気づいたか?」
穴倉剛斗「うちら、ホンマに悪魔が 取り憑いてるんかもしれん・・・」
穴倉圭「いや、それもそうやけど、 こ、ここに写ってんのって・・・まさか!?」
「どないしたんや!?」
穴倉圭「え?い、いや、な、何でもない・・・」
穴倉圭(マヨルガさん・・・・・・)
〇整頓された部屋
第8話 「帰還」
おわり
マスターはなんだかんだ普通の人だと思っていたので、一線を超えてしまったのがなんだか悲しいです
穴倉は先祖の代の騒動が原因で疎ましく思われていた一族の子だったのですね。マヨルガさんが意外なところで穴倉と繋がるとは思っても見なかったので驚きました🫢
宍倉くん意外にヤバい村に住んでいたんですね。ていうか大人になるまで村八分だったから出されたって知らないでいられるのかな。なんとも陰湿ないじめ。
それより気になるのは曾祖父さんとマヨルガに関係があったことですね。眷属も並んでハイチーズしてんのシュールです。