第6話 何気ない変化(脚本)
〇通学路
天野唯華「うーん。何だかなー」
時任一樹「朝から景気が悪そうだな。何かあったのか?」
天野唯華「うん。ほら、昨日の夜あんたの部屋に行ったでしょ?」
時任一樹「あ、ああ。それがどうかしたのか?」
天野唯華「ベランダが隣り合ってるからあんたの部屋に遊びにいくのは昔からじゃん?」
天野唯華「だから今更遠慮とかはないんだけど、気付いたらあんたの部屋にいるってことが最近多いような気がして」
天野唯華「自分が深夜徘徊する認知症のお婆ちゃんみたいになってるんじゃないって思うと恐くて恐くて」
時任一樹「ま、まあ、誰にでもうっかりってあるし。そんなに気にする必要ないんじゃないか?」
天野唯華「そうかな? 最近何でか世の中には知らなくていいことがたくさんあるような気がしてならないんだよね」
天野唯華「そんなの当たり前なのに近頃は特にそう思う。何でだろ?」
時任一樹「そこまで真面目に考えなくても大丈夫だって!」
時任一樹「お前が深夜徘徊するようなことがあったら俺が絶対に連れ戻してやるから安心しろ」
天野唯華「えっ、そ、それって、私がお婆ちゃんになっても一緒にいてくれるってこと?」
時任一樹「? まあそうなんじゃないか?」
時任一樹「俺らの家は親の持ち家だから将来は自分の物になるし。わざわざ引っ越す理由もないだろ?」
天野唯華「そ、そっか。そうだよね」
時任一樹「だから安心して深夜徘徊していいぞ!」
天野唯華「な、なるべくそうならないように気を付けるけど、そのときはよろしくね」
天野唯華「ずっと一緒かぁ。えへへ」
時任リナ「今朝も良い感じですな、奥さん」
時任ミナ「何そのキャラ」
時任ミナ「でも良い感じなのは確かだね」
時任リナ「唯華の奥手には困りもの。さっさと胸を揉ませておけば向こうから押し倒してくるのに」
時任リナ「さくっと既成事実を作って「あなたの子よ」って言えばいいだけの話。まどろっこしい」
時任ミナ「せっかくのムードを台無しにするようなこと言わないで!」
時任ミナ「それにお兄ちゃんいつもあんなこと言ってるけど意外にピュアだよ?」
時任ミナ「すっごいセクハラされるんじゃないかって思ってたけどされたことないし」
時任リナ「生足見たくらいで興奮するヘタレ童貞だから裸なんて見たら倒れそう」
時任ミナ「私としては一安心だけど、唯華ちゃんにはもう一押ししてほしいところだよね」
時任リナ「いっそのことあの子から押し倒せばいいけどそんな度胸はなさそう」
時任ミナ「もう、お姉ちゃんってば。そういうときは男の子からリードしてほしいって思うのが普通でしょ?」
時任リナ「どっちにしてもやること変わらないから私はどっちでもいいと思ってる」
時任ミナ「お、お姉ちゃん」
時任ミナ「それはさておいて! 最近良い感じになってる二人を私たちが後押ししてあげないと!」
時任リナ「確かに協力すると言っておきながら具体的なことは何もしてないかも」
時任ミナ「でしょ? 実は私に名案があるんだ」
時任ミナ「あとで唯華ちゃんを呼び出して作戦を伝えないと!」
時任リナ「体育館裏であの子に焼き入れるなら私も協力する」
時任ミナ「そういう意味の呼び出しじゃないから」
「一樹の奴! 毎朝毎朝見せ付けやがって!」
「リナちゃんとミナちゃんくらい分けてくれてもいいだろうに!」
「あっ、そういや最近あいつ見掛けなくなったな」
「高橋のことか? 何だお前知らないのか?」
「何の話だ?」
「あいつ学校辞めたんだよ」
「マジで!? 何でまた急に?」
「別に急ってわけでもないだろ」
「あいつ女子トイレで昼飯食ってるのバレてから全女子に無視されてたもんな」
「あいつと話した男子も自動的に嫌われるから男子からも相手にされてなかったし」
「情状酌量の余地がなさすぎるから同情なんてしてないけど」
「そうか。ムショに入れておかないとダメだな、あいつ」
〇大きな木のある校舎
〇教室
時任一樹「やっと昼休みか。今日は何食おうかな」
天野唯華「ちょっと一樹! いつになったら購買奢ってくれるのよ!?」
時任一樹「あー、そうだった。悪い悪い」
時任一樹「今から買いに行くか?」
天野唯華「うん! いっぱいご馳走してよね!」
時任ミナ「邪魔したら悪いね」
時任リナ「作戦は伝えなくてもいいの?」
時任ミナ「別にあとでもいいかなって」
時任ミナ「でもあれだよね。事前に連絡先を聞いておおけば簡単に伝えられるって話だよね」
時任リナ「そんなちょっと抜けてるミナも可愛い」
時任ミナ「もう! からかわないでよ!」
〇学校の廊下
〇学食
天野唯華「ふんふんふーん♪」
時任一樹「何だやけに機嫌が良いな」
天野唯華「あんたの奢りでご飯が食べられるんだもん! 当然でしょ?」
時任一樹「自分の懐が痛まないからってお前は」
時任一樹「まあいつもみたいにかりかりされるよりはそっちのほうが良いな」
天野唯華「短気な女みたいに言わないでよ!」
時任一樹「いやいや、いつも怒って──」
時任一樹「待て待て、これじゃダメだ」
時任一樹「二人に仲良くするように言われたからな」
時任一樹「こういうときはどっちかが大人にならないと。唯華が大人になるのは無理だから消去法で俺が大人になるんだ」
天野唯華「さっきから一人で何ぶつぶつ言ってるの?」
時任一樹「何でもない」
時任一樹「それより早く列に並ぼうぜ。目当ての物が売り切れるかもしれないぞ」
天野唯華「あっ! 本当だ! ほらほらあんたも列に並んで! 早く早く!」
時任一樹「お、おい押すなって! そんなことしなくても並ぶから!」
時任リナ「今朝から良い感じの雰囲気を保ってる模様」
時任ミナ「邪魔にならないように私たちはあっちで食べよっか」
時任ミナ「唯華ちゃんと話すのはあとでいいから」
時任リナ「あの空気をブチ壊ししたらあの子がどんな顔するのか興味がある」
時任ミナ「お姉ちゃん!」
時任リナ「い、今のは冗談」
「あ、あの! 俺も二人と一緒に食べていいかな?」
時任リナ「消えて」
「は、はい」
「ざまあみろ! 抜け駆けするからだ!」
「ちくしょう! エロガッパ一樹があんな美少女二人と暮らしてるとか許せねえよ!」
「あの二人がパンイチで家の中をうろうろしてるのを毎日見られるんだろ? 何て羨ましいんだ!」
「キモ。男子色々拗らせすぎなんだけど」
高橋雄基「は、放せ! 俺はこの学校の元生徒なんだ! 最後にあの二人のことを広瀬に教えてもらいたいだけなんだ!」
「退学したお前はもう部外者だ!」
「これ以上暴れたら警察を呼ぶぞ!」
高橋雄基「ち、ちくしょう! ちくしょう!!」
「一番キモいのはあいつだったわ」
〇教室
――放課後
時任一樹「やっと終わったか。帰ってゲームでもするか」
天野唯華「またゲーム? あんたたまには勉強しないと赤点取るわよ」
時任一樹「もう取ってる俺に隙はないぞ」
天野唯華「隙だらけじゃん! 留年したらどうするのよ?」
時任一樹「開き直ってまたもう一年高校生活を楽しむ!」
天野唯華「そんなのダメだってば!」
天野唯華「──そんなことになったら一緒に卒業できなくなるじゃない」
時任一樹「何か言ったか?」
天野唯華「な、何でもない!」
天野唯華「それよりあんた進路のことちゃんと考えてる?」
時任一樹「まだ二年生なんだから気にする必要なくないか?」
天野唯華「二年生だからでしょ! もうみんな卒業したあとのこと考えてるんだからね!」
時任一樹「卒業したあとか。自分がどうなってるのか全然想像つかないな」
天野唯華「そういうのあんただけじゃないし、特に何も決まってないなら取りあえず進学してみたら?」
時任一樹「やっぱそうなるよなぁ」
時任一樹「でも受験面倒臭いよなぁ」
天野唯華「何言ってるのよ! 将来を左右する大事な時期なんだから真面目に考えないと!」
天野唯華「何も思い付かないんだったらさ。わ、私と同じ大学に行くなんてどう?」
時任一樹「お前どの大学に行くかもう決めてんの?」
天野唯華「あんたと違ってね!」
天野唯華「そ、それで、どうなのよ?」
時任一樹「うーん」
時任一樹「それもいいかもな!」
天野唯華「ほ、本当?」
時任一樹「お前の言う通り何も決めてないし、大学に入ってから考えたほうが無難だしな」
天野唯華「へ、へえ、意外」
天野唯華「私と同じ大学に行くのは嫌だって言うかと思った」
時任一樹「そんなわけないだろ」
時任一樹「お前とは切っても切れない腐れ縁で繋がってるからな。こうなったらもうやけだろ」
天野唯華「やけとは何よ! やけとは!」
時任一樹「まあまあ。そんなに怒るなよ」
時任一樹「もしそうなったらそのときはよろしくな!」
天野唯華「し、しょうがないわね。そのときはまた私が世話を焼いてあげるわ」
時任一樹「それはこっちの台詞だ。お前変なサークルに引っ掛かりそうだから心配だし」
天野唯華「引っ掛からないし!」
天野唯華「で、でも、私のこと、心配してくれてるんだ」
時任一樹「あとから泣き付かれても困るからな」
天野唯華「な、何よそれ!」
時任一樹「あっ、悪い。俺小便行ってくるわ。お前先帰ってていいぞ」
天野唯華「そういうことははっきり言わないでよね」
天野唯華「だけど、一樹と同じ大学かぁ」
天野唯華「えへへ」
時任ミナ「うんうん。二人が良い感じみたいで嬉しいよ」
天野唯華「きゃ! び、びっくりしたぁ!」
天野唯華「あんたいつからいたのよ?」
時任ミナ「赤点のくだりだったかな?」
天野唯華「最初からいたってことね」
天野唯華「私に何の用?」
時任リナ「将来の姉と妹になるかもしれない私たちに素っ気ないのは減点」
天野唯華「ひぃ! あ、あんたも、じゃなくてリナもいたのね」
時任ミナ「邪魔したら悪いと思って離れたところで様子を見てたんだ」
天野唯華「べ、別に邪魔とかそんなんじゃなかったし!」
時任ミナ「もう、強がっちゃって」
時任ミナ「話を戻すけど、お兄ちゃんとの仲を取り持つ約束をしたのに全然協力できてないなって思ってさ」
時任ミナ「だから今日は私から提案があるのだ!」
天野唯華「て、提案?」
時任リナ「これを見て」
天野唯華「何よそれ?」
時任リナ「遊園地のチケット」
時任ミナ「私からの提案というのは──」
時任ミナ「次の週末お兄ちゃんとデートに行こう大作戦だよ!」
天野唯華「え、ええええええぇえーーー!?!?」