第5話 黒い服の男たち(脚本)
〇学生の一人部屋
時任一樹「ふー。ここのところ騒がしい毎日を過ごしてる気がするな」
時任一樹「それもこれもリナ姉とミナがうちに居候するようになってからか」
時任一樹「宇宙人って聞かされたときはどうしようかと思ったけど、あんな美少女姉妹なら大歓迎に決まってるよな」
時任一樹「でもラッキースケベがまったくと言っていいほど起きないのは納得がいかないぞ」
時任一樹「着替え中にうっかり扉を開けたり、お風呂に入ってると知らずに突入したりとか、そんな美味しいイベントが一回も起きてないぞ!」
時任一樹「いや待てよ。俺は大きな勘違いをしていたのかもしれない」
時任一樹「イベントは起きるのではなく起こすものなんだ!」
時任一樹「そうだよそうだよ。何も起きないならこっちから起こせばいいんだ」
時任一樹「にっひっひ。居候先をうちに選んだことを後悔しても遅いぞ」
時任一樹「同じ屋根の下で暮らしてるんだ。 う、うっかりあんなことやこんなことが起きても不思議はないよな」
時任一樹「そうと決まれば二人の部屋に突撃だ! 覚悟しろよ、二人とも!」
時任一樹「何だこれからってときに。リナ姉がまた荷物でも注文したのか?」
時任一樹「はーい!」
MIB日本支部エージェント「夜分遅くに失礼します」
時任一樹「う、うわっ! 今度は何だ!?」
MIB日本支部エージェント「こちらに宇宙人がお住まいになっていますよね?」
時任一樹「えっ、いや、それはその──」
時任一樹「ていうか誰なんだあんたたちは! 人の家にずかずかと入り込んで!」
MIB日本支部エージェント「我々はMIB日本支部のエージェントです」
時任一樹「め、MIBって! 映画や都市伝説で有名なあの!?」
MIB日本支部エージェント「お察しの通りです。あなたのお宅に宇宙人がお住まいなのは把握しています」
MIB日本支部エージェント「言い逃れはできませんよ」
時任一樹「ち、ちょっと待ってくれ! いきなり来て何なんだ!? 一体何をするつもりだ!?」
時任一樹「あれか? 俺たち家族の記憶を消して二人を連れ去るつもりか?」
時任一樹「そうはさせないぞ! リナ姉とミナはもう家族なんだ! 無理矢理連れて行こうっていうなら俺が相手になってやる!」
MIB日本支部エージェント「ふむふむ。なるほどなるほど」
MIB日本支部エージェント「そういう感じなんだな」
時任一樹「さっきから何を言ってるんだ!? やるならさっさとかかって──」
時任リナ「あっ、もう来てる」
時任ミナ「こんな夜遅くに来ていただいてありがとうございます」
時任一樹「えっ? リナ姉? ミナ? これはどういう──」
MIB日本支部エージェント「いやあ、すみません。早めに来てしまったのでもう始めさせていただきました」
MIB日本支部エージェント「この様子なら特に問題はなさそうですね」
時任一樹「な、何だ? さっきから何の話をしてるんだ?」
時任リナ「ミナ、説明してあげて」
時任ミナ「自分で言うのが面倒臭いからってもう」
時任ミナ「えっとね、この人たちは地球の入星管理をしてるMIBの職員さんだよ」
時任リナ「地球にはたくさんの宇宙人が住んでる。私たちのように日常に溶け込むのもいれば」
時任ミナ「セミリタイアして海とか山に人知れず暮らしてる宇宙人もたくさんいるんだ」
時任リナ「中には不法に密入星してる宇宙人もいるけど、それは置いておいて」
時任ミナ「この人たちはお兄ちゃんの様子を見に来てくれたんだよ」
時任一樹「俺の様子って、一体何のために?」
MIB日本支部エージェント「あなたは記憶操作するには手遅れの人物だとお二人から聞き及んでいます」
MIB日本支部エージェント「宇宙人の存在を他言するような人であればすべての記憶を消して別人になってもらおうかと思っていましたが」
MIB日本支部エージェント「先ほどの様子を見る限り問題ないと判断しました」
MIB日本支部エージェント「お二人とも、良いご縁に恵まれましたね」
時任ミナ「はい! お兄ちゃんには本当に感謝してます!」
時任リナ「パパもちょっと甘えればお小遣いを弾んでくれるからチョロくて助かる」
時任ミナ「お姉ちゃん!」
MIB日本支部エージェント「はっはっは! 上手くやれているようで何よりです」
MIB日本支部エージェント「記憶操作の影響でご両親の人格に異常は出ていませんか?」
時任ミナ「今のところは大丈夫です。二人とも私たちを本当の娘だと思って可愛がってくれています」
時任リナ「今度赤スパしてたのバラすってパパを脅して多目にお小遣いをせしめようと思ってる」
時任ミナ「何でいつも余計なことを言うのかな! お姉ちゃんは!」
MIB日本支部エージェント「わかりました。引き続き様子見するということで」
MIB日本支部エージェント「何か困ったことがありましたらいつでもご連絡下さい」
時任ミナ「お気遣いありがとうございます」
時任リナ「パパにマンションを買わせる日もそう遠くない」
時任ミナ「お姉ちゃん!」
MIB日本支部エージェント「ああ、そうだ。君にもこれを渡しておかないとね」
MIB日本支部エージェント「私の名刺だ。上に書いてあるのがMIB日本支部の番号で、下に書いてる番号は私への直通の番号だ」
MIB日本支部エージェント「困ったことがあればいつでも私に連絡してくれ」
時任一樹「こ、これはご丁寧に。ありがとうございます」
MIB日本支部エージェント「一応強めに釘を刺しておくけど、二人が宇宙人だということは決して他言しないように」
時任一樹「も、もし喋った場合はどうなるんですか?」
MIB日本支部エージェント「はっはっは。思い切った質問をするね。とてもユニークだ」
時任一樹「い、いえ、そんな」
MIB日本支部エージェント「さっきも言っただろう? そのときは記憶をすべて消して別人になってもらう」
MIB日本支部エージェント「そうだね。例えば重度な精神疾患を抱えた患者として二度と出られない精神病院で一生を過ごす身寄りのない少年、とかね」
MIB日本支部エージェント「おっと、地球人の被験者が欲しいなんて言ってる星もあったかな?」
MIB日本支部エージェント「そういうときは死刑が決まった犯罪者を秘密裏に引き渡しているんだけど」
MIB日本支部エージェント「約束を守れない悪い子も犯罪者になるとは思わないかい?」
時任一樹「そ、そうですね。あ、あははー」
MIB日本支部エージェント「もし君が口外するようなことがあったら、君の周りにいる人たちも只では済まないだろうね」
MIB日本支部エージェント「私たちとしては平和的に解決したいと思っているんだ。協力してくれるかな?」
時任一樹「も、もちろんです。リナ姉とミナのことは絶対に誰にも言いません」
MIB日本支部エージェント「うんうん。聞き分けが良くて助かるよ」
MIB日本支部エージェント「我々としても君とは良好な関係を築きたいと思っているんだ」
MIB日本支部エージェント「記憶操作を受けずに宇宙人を受け入れる地球人の前例は少ないからね。経過を観察したいんだよ」
時任一樹「す、少ないってことは前にもいたんですか?」
MIB日本支部エージェント「もちろんさ。世界は広いからね」
MIB日本支部エージェント「大体の人は秘密を墓まで持って行ってくれたと記録が残っているよ」
時任一樹「だ、大体? そうじゃない人もいたってことですか?」
MIB日本支部エージェント「おっと失礼。今のは失言だったかな?」
MIB日本支部エージェント「記録上ではみんな最後まで秘密を守ってくれたことになっているよ」
MIB日本支部エージェント「”正式な記録”ではそうなっているね」
MIB日本支部エージェント「我々も一枚岩ではないからね。管理の行き届かないところで謎の失踪──」
MIB日本支部エージェント「おっと失礼」
MIB日本支部エージェント「まったく、発言には気を付けてくれ。そんな奴は”初めからいなかった”なんてことも──」
MIB日本支部エージェント「いや何でもないよ」
MIB日本支部エージェント「この話は聞かなかったことにしてくれるかな?」
時任一樹「ひ、秘密は何があっても守ると誓います」
MIB日本支部エージェント「良い子だ。君のように話がわかる少年は実に好ましい」
MIB日本支部エージェント「困ったことがあればいつでも連絡をしておいで。まあそんなことしなくても監視──」
MIB日本支部エージェント「ごほん」
MIB日本支部エージェント「これから仲良くしていこうじゃないか」
時任一樹「こ、こちらこそよろしくお願いします。あ、あははー」
時任一樹「あっ、そういえばさっき不法入星する宇宙人もいるとか言ってましたけど、リナ姉のミナは大丈夫だったんですか?」
時任ミナ「私たちはちゃんと正式な入星審査を受けて地球に入って来たよ?」
時任リナ「移住の手続きも完了してる。然るべき機関から必要な許可は全部取ってる」
時任一樹「いや肝心の俺らに何も説明しないでしれっと居候しようとしたのはおかしくないか?」
時任リナ「記憶操作しておけば何の問題もないと思ってたから」
時任一樹「問題大ありだろうが!」
MIB日本支部エージェント「まあまあ。そう大声を出さずに」
MIB日本支部エージェント「ご近所さんにこの家に宇宙人が住んでると気付かれてしまうかもしれないよ?」
時任一樹「す、すみません! 気を付けます!」
MIB日本支部エージェント「素直でよろしい。それでは今日のところはこれで失礼します」
MIB日本支部エージェント「二人と仲良くね、時任一樹くん」
時任一樹「やっと行ったか。あの人たち恐すぎるだろ」
時任一樹「それにしても宇宙に関係した連中は窓からじゃないと家に入れないのか? まったく」
時任リナ「宇宙とは無関係で窓から入ろうとする人なら他にも心当たりがある」
時任ミナ「唯華ちゃんのことだよね? まさかこのタイミングで鉢合わせるなんてことは──」
ち、ちょっと! 何よあんたたち!? 何で一樹の部屋からぞろぞろと!?
おや、見付かってしまいましたか。これは困りましたね
彼女はまだ宇宙人の存在を知覚していない。あの装置を使えば誤魔化せるはずだ
う、宇宙人? 何の話──
時任一樹「な、何が起きたんだ?」
天野唯華「えへへー、かずきあそびにきたよ!」
天野唯華「おままごとやろ! おままごと!」
時任一樹「う、うわっ! 何か幼児退行してないか!?」
時任リナ「記憶消去の一時的な副作用だから大丈夫」
時任ミナ「数分もすれば元に戻るよ」
時任一樹「す、数分って、そのあいだ俺がこいつの相手をしなきゃいけないってことか?」
時任リナ「二人ともごゆっくり」
時任ミナ「エッチなことはしちゃダメだからね!」
時任一樹「う、嘘だろおい。ちょっとくらい協力してくれても──」
天野唯華「もー! ほかのおんなばっかりみて! かずきにはわたしがいるでしょ!」
時任一樹「あっ、もうおままごと始まってる感じなのか?」
天野唯華「うわきしたらりこんしてよういくひをはらってもらうからね! こどもにあえるのはつきにいっかいだけよ!」
時任一樹「子供がするおままごとじゃねえ」
──その後、唯華が正気に戻るまで一樹は浮気者として扱われたのだった
時任一樹「解せねえ」