読切(脚本)
〇花火
"ひと夏の恋"をした。
とは言っても、その恋が偶然夏に訪れただけで、側から見ればごく普通の日常で起こりうる恋愛模様なのだと思う。
出会いはいたってシンプルだった。
〇講義室
7月の下旬、大学の講義でたまたま席が隣になった。
その日のおれは、普段よりほんの少しだけ気分が昂っていたのだと思う。その理由はもはや思い出せないが。
隣に座った君に話しかけることは、その講義で習う複雑な公式を覚えるよりも遥かに容易で、
その日の浮かれた心緒が、普段の自分からは想像つかない類の行動を引き起こしたのだろう。
〇大学の広場
恋はタイミングだ。
おそらく当時の彼女にとっても、おれは疎ましい存在ではなかったのだと思う。
お互いに暇を持て余していたこともあり、夏の間は頻繁に遊んでいた。
〇大学の広場
ただし、2人の、相手に対する熱量が均衡を保てなくなった時、それまで築き上げてきた関係性でさえも一瞬にして崩れ去る。
今回はたまたま、おれの彼女に対する思いが、彼女のそれを上回ってしまっただけにすぎない。
そして、もう二度と戻ることはない。
しかし、その時に感じた焦燥や虚無の気持ちが大きければ大きいほど、それは数年後に笑える物語になるのだと思う。
〇花火
「ひと夏で終わってよかった」
そうでないと、おれは君のことを一生涯忘れることはできないだろうから。