第4話 仲良くしよう(脚本)
〇通学路
天野唯華「うーん。やっぱりダメ。よく思い出せない」
時任一樹「どうかしたのか?」
天野唯華「うん。昨日の夜あんたの部屋に行こうと思ったらいつの間にか寝ちゃってたみたいで」
天野唯華「でも何か腑に落ちないと言うか、変な感じなんだよね」
時任一樹「つ、疲れて寝落ちしたんだろ、きっと」
時任一樹「ほら、まだしんどいなら俺が鞄を持ってやるから」
天野唯華「あ、ありがと。何よ、あんたにしては気が利くじゃない」
時任一樹「何言ってんだ。俺はいつもこんな感じだろ?」
時任一樹「困ったことがあったらいつでも言えよ。力になるからさ!」
天野唯華「何か妙に優しくて気持ち悪いけど、わかったわ」
時任一樹「気持ち悪いは余計だろ」
天野唯華「あっ、そっか。ごめんごめん」
天野唯華「えへへ。こう見えてあんたのことは結構頼りにしてるんだからね」
天野唯華「何かあったら私のことちゃんと守ってよね」
時任一樹「お、おう」
時任一樹「な、何だ? 急に唯華が可愛く見えて──」
天野唯華「どうかしたの?」
時任一樹「い、いや! 何でもない!」
時任ミナ「あの二人良い感じみたいだね」
時任リナ「昨日の今日で反省してなかったらカズくんは本物のバカ」
時任ミナ「ああやって素直になれば喧嘩なんてしなくて済むのにね」
時任リナ「記憶操作の弊害が無さそうで安心した」
時任ミナ「唯華ちゃんの記憶が全部消えそうになったときはどうなるかと思ったよ」
時任リナ「あの様子なら心配ない。以後はボロを出さないように気を付けよう」
時任ミナ「本当にね。私たちの正体がバレたら大変なことになっちゃう」
時任一樹「二人ともそんな遠くにいないでこっち来いよ!」
天野唯華「えっ──」
時任ミナ「まったくもう。お兄ちゃんってば何もわかってないんだから」
時任リナ「私たちのことは気にせずにイチャイチャしてていい」
天野唯華「い、イチャイチャなんてしてないし!」
時任一樹「そ、そうだぞ! 誰が唯華となんか!」
天野唯華「何よそれどういう意味!?」
時任一樹「い、いや! 今のは悪気があったわけじゃ──」
ぎゃふん!
時任ミナ「唯華ちゃんがもっと素直になるには時間がかかりそうだね」
時任リナ「カズくんの今時流行らない鈍感属性も重症」
時任ミナ「唯華ちゃんの恋が実るように全面的に協力してあげようね! お姉ちゃん!」
高橋雄基「お、おい広瀬! このあいだからずっと声かけてるんだけど? おーい!」
〇教室
――昼休み
天野唯華「購買奢ってくれるって本当!?」
時任一樹「あ、ああ。昨日は泣かせちゃったし、二人にも優しくするように言われて──」
時任一樹「いやいや、その記憶は消えてるんだったな」
時任一樹「あれだ、お前いつもたくさん買って食べてるだろ? 昼飯代すごそうだからたまにはって思ってな」
天野唯華「な、何よ! 人を食いしん坊みたいに! 女子にそういうこと言うなんて本当デリカシーがないんだから!」
時任一樹「その点に関しては俺も反省してる」
天野唯華「や、やっぱり今日のあんたちょっと変ね。調子狂うわ」
天野唯華「そ、それに、たくさん食べてるのはむっちりしてるほうが好きだってあんたが言ってたから──」
時任一樹「何か言ったか?」
天野唯華「な、何でもない!」
天野唯華「あんたのお小遣いが無くなるまで食べるから覚悟しなさい!」
時任一樹「うっ、奢るなんて言わなきゃよかったかも」
「ち、ちくしょう! 何で一樹ばっかり美味しい思いするんだよ!」
「義理の美少女姉妹だけじゃなくてクラスのマドンナ唯華ちゃんまで!」
「殺してやる! 殺してやるぞ一樹ぃぃいぃ!」
時任ミナ「男子たちの嫉妬がすごいことになってるね」
時任リナ「実際カズくんは恵まれてる。あれで文句を言ったら本当に殺されても文句は言えない」
時任リナ「あっ、今私上手いこと言ったかも」
時任ミナ「言うほど上手くなかったよ?」
時任一樹「そうだ! リナ姉もミナも一緒に来いよ! 四人で飯食おうぜ!」
天野唯華「えっ──」
時任ミナ「本っ当お兄ちゃんってばもう」
時任リナ「私たちはこれから早退してイケメン大学生とコンパに行ってくるから気にしないで」
時任ミナ「そんな予定ないよお姉ちゃん!?」
時任一樹「な、何!? そんなの許さないぞ! リナ姉もミナも俺の物なんだ! 誰にも渡さないぞ!」
「何贅沢言ってやがんだ一樹てめえ!」
「唯華ちゃんだけじゃ足りないってのかよ!?」
「血祭りだ! 一樹の生首を校庭に晒すぞ!!」
時任一樹「や、やべ! 逃げろ!」
天野唯華「ちょっと一樹! 購買奢るって話はどうなったのよ!?」
時任ミナ「騒がしいクラスだね、ここ」
時任リナ「おかげで退屈しなくて済みそう」
時任ミナ「私たちもご飯食べに行こっか」
高橋雄基「クソぅ! 何でみんなして俺を無視するんだよ! クソぅ!」
〇学校の屋上
――学校の屋上
時任ミナ「屋上の空気って新鮮な感じがして気持ち良いね!」
時任リナ「この星の空気は本当に綺麗。私たちの星じゃこうはいかなかった」
時任ミナ「酸素マスクないと歩けなかったもんね」
時任リナ「この星が太陽に飲み込まれて消滅するのは五十億年後。それまでは安心して暮らせる」
時任ミナ「その頃には地球人も私たちもいなくなってるね」
時任リナ「人類は滅んで違う生命体がこの星を支配してると思う」
時任一樹「ふー、酷い目に遭ったぜ」
時任ミナ「あっ、お兄ちゃん」
時任リナ「追いかけっこはもういいの?」
時任一樹「好きでやってたわけじゃないから」
時任一樹「二人ともここで昼飯か? 丁度よかった。購買に行きそびれたから俺にも何か分けてくれよ」
天野唯華「ちょっと! 私を置いて行くなんて酷いじゃない!」
時任一樹「おう唯華。悪いな、ほったらかしにしちゃって」
時任一樹「今から行っても良いのは売り切れてるだろうし、購買奢るのはまたの機会でいいか?」
天野唯華「ふ、ふん。しょうがないわね。約束はちゃんと守ってよね」
時任一樹「わかってるって」
時任ミナ「唯華ちゃんお腹空いてるなら私のお弁当分けてあげようか?」
天野唯華「げっ! な、何であんたがここに──」
時任リナ「私がいるのも忘れないで」
天野唯華「ひぃ!」
時任ミナ「お姉ちゃんすっかり恐がられてる」
時任リナ「立場をわかってるようで何より」
天野唯華「そ、そうだったわ! 昨日はあんたたちのことを訊こうとして一樹の家に行こうとしてたんだった!」
天野唯華「義理の姉妹ってどういうことなのよ? 一樹の両親からそんな話一度も聞いたことないんだから!」
時任ミナ「それには複雑な事情があって──」
時任リナ「待って、ミナ。ここは私に任せて」
時任ミナ「お、お姉ちゃん? 恐いことしないよね?」
時任リナ「しない。どうすれば納得してもらえるのか名案を思い付いた」
時任ミナ「ほ、本当? 大丈夫かな」
天野唯華「な、何よ! 私とやろうっていうの!?」
時任リナ「別にそれでもいい。一生消えることのない傷を負う覚悟はある?」
天野唯華「えっ、い、いや、それは──」
時任ミナ「お姉ちゃん!」
時任リナ「今のは間違い」
時任リナ「場所を移そう。カズくんはここで待ってて」
時任一樹「だ、大丈夫なんだろうな?」
〇階段の踊り場
天野唯華「は、話って何よ! 私脅しには屈しないからね!」
時任リナ「みんなそう言って最後には命乞いをしてた」
時任リナ「威勢が良い獲物ほど良い悲鳴を上げる。あなたがどんな情けない顔をするのか楽しみ」
天野唯華「ひぃ!」
時任ミナ「恐いこと言わないでって言ってるでしょ!」
時任リナ「ごめん。この子良い反応するからつい興が乗っちゃう」
時任ミナ「お姉ちゃんってばもう」
時任ミナ「ごめんね、唯華ちゃん。お姉ちゃんこんな感じだけど悪い人ではないから」
天野唯華「そんなこと言われても全然説得力ないんだけど」
時任リナ「何か言った?」
天野唯華「い、言ってない!」
天野唯華「それで、話って何? あんたたちのことちゃんと説明してくれるっていうの?」
時任リナ「その前に一つ確認することがある」
時任リナ「──あなたはカズくんのことが好きなんでしょ?」
天野唯華「えっ、そ、それは──」
時任リナ「正直に答えて。さもないと痛い目に──」
時任ミナ「お姉ちゃんストップ!」
時任ミナ「えっとね、もしお兄ちゃんのことが好きなら唯華ちゃんに協力してあげたいって思ってるんだ」
天野唯華「き、協力?」
時任リナ「そう。よく考えて。私はカズくんの姉でミナは妹。敵に回すのは得策とは言えないはず」
天野唯華「そ、それは確かにそうだけど」
時任ミナ「私たちは唯華ちゃんのことを応援しようって思ってるんだよ」
時任リナ「姉と妹を味方に付けたら外堀を埋めたも同然。勝利は目前。勝つのは当然」
時任ミナ「お互いのためにも協力関係を築いたほうがいいと思うんだよね」
時任リナ「そうするにはあなたがカズくんに惚れているのが条件。だから答えを聞かせてほしい」
時任ミナ「私たち良いお友達になれると思うんだ」
時任ミナ「本音を聞かせてくれる?」
天野唯華「うっ、う~」
天野唯華「そ、そうよ。あんたたちの思ってる通りよ」
天野唯華「わ、私は、私は一樹のことが好きなのよ!」
天野唯華「エッチなことばかり考えてるどうしようもないバカだけど、あいつの良いところはたくさん知ってる」
天野唯華「子供の頃からずっと一緒で、昔からよく喧嘩してきたけど」
天野唯華「私が泣いたらすぐに謝ってくれるし、バカなりに気遣おうと優しくしてくれて」
天野唯華「本当はあいつに優しくしてあげたい、素直になりたいって思ってるけど、顔を合わせると全然できなくて」
天野唯華「いつも余計なことを言ってあいつを怒らせてばかりの自分が嫌になる」
天野唯華「それでも、それでもあいつのことが好きなのよ」
天野唯華「他の誰にも取られたくない! だから、だから私は──」
時任ミナ「そこまででいいよ。話してくれてありがとう」
天野唯華「うっ、う~」
時任ミナ「よしよし、良い子良い子」
時任リナ「これで決まり。私たちはこれからあなたを応援する」
時任ミナ「協力は惜しまないよ。だからいつでも私たちを頼ってね!」
天野唯華「うっうっ。頑張る。私頑張るうぅぅ」
時任リナ「これで上下関係は完全に定まった。余計な詮索はしてこなくなるはず」
時任ミナ「お姉ちゃん!」
時任ミナ「二人が上手くいったら私は唯華ちゃんの妹になるんだね」
時任ミナ「これから仲良くしようね! 唯華お姉ちゃん!」
天野唯華「うわーん! ミナぁ! 私一人っ子だから姉妹が欲しかったぁ!」
時任リナ「さすがミナ。私以上に人心掌握に長じてる」
時任ミナ「台無しになるようなこと言わないで!」
天野唯華「うわーん!」
〇学校の屋上
──こうして唯華は記憶操作をする必要もなく姉妹の手に落ちたのだった
時任一樹「うひょー! あの雲おっぱいみてぇ! 堪んねー!」
時任ミナ「何でお兄ちゃんを好きになったのかは正直疑問だけどね」
天野唯華「ほ、ほら、ああいうところも可愛いって言うかさ、何というか──」
時任リナ「惚れた弱みは恐ろしい」