第3話 秘めた思い(脚本)
〇学生の一人部屋
時任一樹「はーい!」
時任一樹「ってあれ? 何で窓から?」
ギャラクシー配達員「ちわーっす。ギャラクシーからお届け物でーす」
時任一樹「う、うわっ! 何だお前!? もしかして宇宙人か!?」
ギャラクシー配達員「だからギャラクシーからお届け物ですってば」
ギャラクシー配達員「リナさん宛てにお荷物が届いてます。こちらの住所でお間違いないですか?」
時任リナ「来た来た。配達ご苦労様です」
ギャラクシー配達員「いえいぇ、これが仕事ですから」
ギャラクシー配達員「こちらに判子かサインお願いします」
時任リナ「じゃあサインで」
ギャラクシー配達員「はい、確かに。またのご利用お待ちしてまーす」
時任リナ「やっと届いた」
時任リナ「今年の覇権と噂されるアニメ〈演劇の刃〉のBlu-ray。テレビ版との違いを見比べるのが楽しみ」
時任一樹「別に何を買おうが自由だけどあいつは何なんだったんだ?」
時任リナ「全宇宙に拠点を持つ大手通販サイトの配達員さんだけど?」
時任一樹「いやそんな知っての通りみたいに言われても」
時任リナ「注文した商品を五分以内に届けてくれる超優良配達サービスが売り」
時任一樹「そ、それはマジですごいな。さすが宇宙人。俺も頼もうかな」
時任リナ「宇宙人限定のサービスだからカズくんは使えないよ」
時任一樹「そ、それは残念」
時任一樹「ていうか思春期男子の部屋にそんな恰好で入ってくるなよ」
時任リナ「これは普通の部屋着。変なところはどこにもない」
時任一樹「いやいや。ほら、生足が見えちゃってるし」
時任一樹「な、何てエッチな格好なんだ。目のやり場に困るぞ」
時任リナ「さすがは一人っ子の童貞。これくらいで意識するとか性欲を拗らせてる」
時任ミナ「あっ、お姉ちゃんいた。ギャラクシーから荷物は届いたの?」
時任リナ「たった今届いたところ。ほら」
時任ミナ「雫ちゃんだ! さすがはメインヒロイン! 扱いが良いね!」
時任リナ「テレビ放送版から作画がかなり修正されてるって話を聞いた。観るのが楽しみ」
時任ミナ「私も一緒に観ていい?」
時任リナ「そのつもりで声をかけようと思ってた」
時任ミナ「ありがとう! 部屋で一緒に観よっか!」
時任一樹「いやいや、俺をいない者のように扱うなよ」
時任ミナ「何? お兄ちゃんも一緒に観たいの?」
時任一樹「別にそういうわけではないけど」
時任一樹「ミナの恰好は──ふむ。体のラインがはっきりしててこれはこれでアリですな」
時任ミナ「お兄ちゃん他に考えることないの?」
時任リナ「思春期童貞の頭の中は大体こんな感じ」
時任一樹「失礼な! 体の他にも顔とか声とかも評価に入れてるんだぞ!」
時任ミナ「やっぱりそればっかじゃん。最低だね」
時任リナ「エロガッパ一樹の異名は伊達じゃない」
時任ミナ「お姉ちゃん行こ。この部屋にいたらいつ襲われるかわかったものじゃないよ」
時任一樹「おのれ。二人して俺をエッチマンみたいに言いやがって」
時任一樹「あとで部屋に忍び込んで脅かしてやる。にっひっひ」
時任一樹「また窓からだ。まさか他にも荷物を頼んでたのか?」
天野唯華「や、やっほー。一樹」
時任一樹「お前か。こんな時間に何しに来たんだよ」
天野唯華「何よその言い草! 人がせっかく心配して来てあげたのに!」
時任一樹「別に心配してくれなんて頼んでないし」
天野唯華「こんな可愛い幼馴染を邪険にするとか最低! 信じられない!」
時任一樹「痛いな! 一々暴力を振るわないと喋れないのかよお前は!」
天野唯華「うるさいうるさい! あんたが悪いんでしょ!」
時任一樹「だから痛いって! 俺こういうプレイは趣味じゃないから!」
天野唯華「ぷ、プレイとか言わないでよ! 気持ち悪いわね! 変態!」
時任一樹「暴力の次は暴言か? いい加減にしてくれよ。お前俺に恨みでもあるのか?」
天野唯華「う、恨んでなんかないってば! 私はあんたのことが心配で──」
時任一樹「心配してるならしてるなりの態度ってものがあるだろ」
時任一樹「ていうか本当に心配してるなら暴力振るったり暴言吐きかけたりしないだろ」
天野唯華「だ、だって! あんたが失礼なことばかり言うから!」
時任一樹「暴力を振るっていい理由にはならないだろ。心配にかこつけて俺を虐めたいだけなんじゃないか?」
天野唯華「い、虐め? 私そんなつもりじゃ──」
時任一樹「自覚がなかったのか? お前がやってるのはまんま虐めだぞ」
時任一樹「いじめっ子は無自覚だってのは本当だったんだな」
天野唯華「ま、待って、お願いだから話を──」
時任一樹「お前昔からそうだったもんな。幼馴染だから我慢してきたけどさすがに限度があるぞ」
時任一樹「そんなに俺のことが嫌いなら無視でもしてくれればいいのに」
時任一樹「それとも俺が無視したほうがよかったか?」
天野唯華「む、無視? そんなの嫌! お願いだからそんなこと言わないで」
時任一樹「何だよ、今度は泣いたフリか? それで許されようなんて甘いぞ」
時任一樹「虐めは心の殺人って言うくらい相手にトラウマを残すんだぞ」
時任一樹「これに懲りたら心を入れ替えて反省──」
天野唯華「ぐすっ、ぐすっ、うわーーーん!」
時任一樹「う、うわっ! 何だよ急に大声で泣き出して!」
天野唯華「だ、だって、あんたが私のこと全然わかってくれないから! うわーん!」
時任一樹「お、落ち着けって! そんな大声で泣かれたら──」
時任明美「ちょっと一樹! あんた部屋で何を──」
時任明美「えっ!? 唯華ちゃん!? そんなに泣いてどうしたの!?」
天野唯華「うわーん! おば様ー!」
時任明美「ちょっと一樹! あんた唯華ちゃんに何をしたの!?」
時任一樹「いや俺は何も──」
天野唯華「うっうっ、一樹が、一樹が私に酷いことばっかり言うんです」
天野唯華「それで私、私──うわーん!」
時任明美「一樹! こっちに来て正座しなさい!」
時任一樹「ご、誤解だ! 本当に俺は何も!」
時任ミナ「さっきからお兄ちゃんの部屋が騒がしいけど何か──」
時任ミナ「えっ、唯華ちゃん? どうして泣いてるの?」
天野唯華「一樹が、一樹が私に酷いことしたぁ」
時任リナ「野獣め。ついに正体を現したか」
時任ミナ「女の子を無理矢理襲うなんて最低! さすがにそこまではしないって信じてたのに!」
時任一樹「ほ、本当に違うんだ! おい唯華! ちゃんと説明──」
天野唯華「うわーんうわーん!」
時任明美「一樹! あんたって子は!」
時任一樹「た、頼むから俺の話を聞いてくれーー!」
〇学生の一人部屋
天野唯華「うっうっ、ぐすっ」
時任ミナ「それで、何でこんなことになったのか説明してくれる?」
時任一樹「い、いや、それは俺にもよくわからなくて」
時任リナ「言い残すことがあるなら聞く」
時任一樹「完全に俺を消す前提で話を進めてないか!?」
時任ミナ「そうなるかどうかはお兄ちゃん次第だよ」
時任リナ「パパとママの記憶を操作して息子はいなかったことにもできる」
時任一樹「そ、それだけは勘弁してくれ!」
天野唯華「うっうっ、記憶を操作? あんたたちさっきから何の話をしてるの?」
時任ミナ「あっ」
時任リナ「しまった。完全に油断してた」
時任明美「記憶を操作ってどういう意味?」
時任ミナ「こ、言葉の綾だよ! お兄ちゃんには私たちがきつく言っておくからお母さんは心配しないで!」
時任明美「えっ、ち、ちょっと──」
時任リナ「ミナ、こうなってしまったらもう仕方がない」
時任リナ「全員消して逃げよう」
時任ミナ「お、落ち着いてお姉ちゃん! そんなことしたら私たちも大変なことになるから!」
時任リナ「ごめん。取り乱した。さすがにそれはやり過ぎ」
天野唯華「さっきから何の話をしてるの? 一樹あんた何か知ってるの?」
時任一樹「こ、これには深い事情があるというか何と言うか」
時任一樹「それよりお前のせいで偉い目に遭ってるんだぞ。どうしてくれるんだ?」
天野唯華「ぐすっ、また、またそんなことを言って──」
時任一樹「わー! もう泣くな! 悪かった! 全部俺が悪かったから!」
時任ミナ「やっと罪を認める気になったんだね」
時任リナ「月に一度は顔を出すから塀の中できっちり反省してきて」
時任一樹「だから俺は何もしてないって! 何が何だかわからなくなってきたぞ!」
時任一樹「あーもう! この際だから訊くけど! お前何のつもりで俺を殴ったり罵倒したりするんだ?」
天野唯華「えっ、そ、それは──」
時任一樹「こんなに泣かれたんだ。お前に悪気がないことはさすがにわかった」
時任一樹「今後のためにもお前の口から聞かせてくれ」
時任一樹「お前、俺のことどう思ってるんだ?」
天野唯華「そ、そんなの言われなくてもわかるでしょ」
時任一樹「わからないから訊いてるんだよ」
天野唯華「い、言いたくない。こういうのはもっと雰囲気があるところで──」
時任一樹「何だよそれ。勿体ぶってないで教えてくれよ」
時任ミナ「ま、まさかの展開だね」
時任リナ「ここまで来たら白状したほうが楽」
時任一樹「ほらどうなんだよ。やっぱり俺に嫌がらせするのが趣味なのか?」
天野唯華「ち、違う! そんなんじゃない!」
天野唯華「わ、私は、私は、あんたのことが──」
ギャラクシー配達員「お客さんすみません。さっきの荷物判子じゃないとダメみたいで」
天野唯華「えっ? あっ、えっ!?」
時任リナ「今取り込み中だったのに」
ギャラクシー配達員「えっ、そうなんですか!? すみません本当!」
ギャラクシー配達員「申し訳ないんですけど判子だけいただけませんか?」
時任リナ「わかりました」
ギャラクシー配達員「ありがとうございます。次はこんなことがないように気を付けますので」
ギャラクシー配達員「今後とも御贔屓に!」
時任リナ「──ミナ、部屋でアニメの続きを見よう」
時任ミナ「それで誤魔化せる状況じゃないからね!?」
天野唯華「えっ? い、今の宇宙人? 一体何がどうなって──」
時任一樹「お、落ち着け! 今のはほら、コスプレ! コスプレした配達員さんだから!」
天野唯華「そ、そんなわけないでしょ! だって今UFOに乗ってびゅーんって──」
時任リナ「えいっ」
天野唯華「うっ!」
時任一樹「お、おい! いきなり何を──」
時任リナ「この子の記憶を操作する。世の中には知らなくていいことがたくさんある」
時任ミナ「そ、そうだね。そうしたほうが誰も傷付かずに済みそうだし」
時任リナ「この子もこんな形で本音を言いたくなかったはず。全部なかったことにしよう」
時任一樹「な、なるほど、そういうことね」
時任ミナ「お兄ちゃん、これからは唯華ちゃんに優しくしてあげてね」
時任リナ「カズくんのことが嫌いであんなことをしてたわけじゃないのはわかったはず」
時任一樹「いやまあそれはわかったけどさ」
時任リナ「明日何か訊かれたら上手く誤魔化しておいて」
時任ミナ「よろしくね、お兄ちゃん」
時任一樹「ま、まあ、誤解が解けたからよしってことにするか」
──散々な目に遭った唯華であった
天野唯華「ここはどこ? 私は誰?」
時任リナ「あっ、調整間違えた」
時任一樹「いいから元通りにしろって!」
──唯華の受難は続く