第9話「嫉妬」 (脚本)
〇商店街
翠とデート中、不意に名前を呼ばれて
振り返った先には、美女と連れ立って
歩く葵の姿があった。
姫野葵「要くん・・・」
大和要「葵さん・・・」
しばし見つめ合ったまま固まる2人の間に割って入るように、美女が一歩前に進み出る。
美女「あら、ずいぶんと可愛らしい子たちだけど ・・・こちら、葵クンの弟さん?」
姫野葵「あ、いや──」
大和要「違います! 弟なんかじゃ」
美女「あら、そうなの? ごめんなさいね 葵クンにこんな可愛いお友達がいたなんて 知らなかったわ」
大和要(可愛いお友達って、俺のことか? なんなんだ、この人・・・)
年齢は、葵よりもいくつか上だろうか
長い黒髪と切れ長の目、細くて長い手足がまるでモデルのようだ
小柄で可愛らしい翠とはまた別の
『綺麗な大人の女性』
――自分とはまるで
生きる世界の違う存在だ
姫野葵「まあ、僕にもいろいろと交友関係があるんですよ。さあ、浜崎さん。そろそろ・・・」
大和要(僕? そうか、葵さんは普段、自分のことを僕っていうんだ。・・・知らなかったな)
葵が要の前で自分を「私」と呼ぶ理由は
なんとなく察しがついた。
大和要(カーネリア姫のイメージをなるべく壊したくない、ってことなんだろうけど・・・)
それでも、自分が知らない葵を
この浜崎という女性は知っている
そう思うと、無性に苛立つのを
抑えられない。
浜崎「そうねえ、行きましょうか。若い子の可愛らしいデートの邪魔しちゃ悪いものね?」
大和要「デートじゃないです! 全然違います」
大和要「・・・勘違いしないでください」
小早川翠「っ・・・」
思いのほか強い口調になってしまい、隣の翠がびくりと肩を震わせたのがわかる。
しかし当の浜崎はゆったりとした笑みを
崩すことなく、隣の葵に腕を絡ませる。
浜崎「あら、そうなの? ふふ、そういうのが まだ恥ずかしい年頃なのかしら」
浜崎「ごめんなさいね デリカシーのないことを言って」
浜崎「じゃあ葵クン 私たちは大人のデートといきましょうか」
姫野葵「浜崎さんっ・・・! あまり悪ふざけは・・・」
大和要「――失礼しますっ! 行くよ、翠!」
小早川翠「あ、ちょっと・・・っ」
すり寄る浜崎の腕を葵が振り払ったのと
要が翠の手を乱暴に引いて、その場から
走り去ったのは同時だった。
〇田舎駅のロータリー
小早川翠「・・・・・・」
大和要「・・・・・・」
葵と浜崎の前から逃げるように立ち去った後、2人はひと言も会話せずに熱海の街中をとぼとぼと歩いている。
大和要「あ、ごめん 手・・・つかんだままだったね」
小早川翠「え、あ、ううん。いいよ ・・・嫌じゃ、なかったし」
大和要「・・・・・・」
翠の照れたような小さなつぶやきは
要の耳には入らない。
その態度もまた、翠の心を深く抉った。
小早川翠「・・・あの、要くん。さっきの──」
大和要「ごめん。・・・俺、もう帰る」
小早川翠「えっ」
大和要「今日は楽しかった、ありがとう」
小早川翠「でも、この後まだ花火が・・・」
大和要「ごめん、ちょっと色々考えたくて じゃあ、また」
小早川翠「あっ、要くん──」
引き留めようとする翠に気づかないふりをして、要はその場を立ち去った。
〇古めかしい和室
部屋に戻ると、バイトを終えた雫と紫が
花火大会へ行く用意をしているところだった。
黒須雫「あれッ? 要、もう帰ってきたのかよ」
江西紫「てっきり、小早川と一緒に花火大会まで 見てくるものと思っていたが」
江西紫「・・・どうかしたのか?」
大和要「・・・街で葵さんに会ったんだ」
黒須雫「は? マジで? こんなところで偶然 会うなんて、運命ってヤツじゃね?」
江西紫「良かったじゃないか。なのに、お前は なぜそんな仏頂面をしているんだ?」
大和要「女の人と、デートしてたんだよ。葵さん」
大和要「・・・だからって別に 仏頂面なんてしてないけど」
黒須雫「・・・お前、マジで言ってる? その顔を仏頂面って言わないなら、どの 顔を言うんだってレベルの仏頂面だけど」
江西紫「ふうん、それでか。要、お前 その女性に嫉妬しているわけだな」
大和要(嫉妬? まさか、そんな)
大和要「そんなわけないでしょ」
大和要「俺と葵さんはあくまで友達なんだから 友達がデートしてたってだけで なんで嫉妬なんて」
黒須雫「まァ、それが普通の反応ではあるけどな」
黒須雫「現に、要だって翠チャンと デートしてたわけだし?」
大和要「そうだよ! 俺は俺で、翠とデートしてたんだ」
大和要「女の子とデートだよ すごく楽しかったんだから」
江西紫「そうか? じゃあなぜ途中で切り上げて 帰ってきたんだ」
大和要「それは・・・ 葵さんとあの女の人を見てたら すごくイライラして」
大和要「ムカムカして・・・ その場にいられなくなって」
江西紫「だから、それを嫉妬だと 言うんじゃないのか」
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