第7話「臨時家庭教師」(脚本)
〇ショッピングモールの一階
姫野葵「・・・・・・」
小早川翠「要くんが赤点取らないように 私が勉強教えてあげる」
小早川翠「赤点は困るんでしょ?」
小早川翠「私も一緒に勉強してくれる人がいると モチベーション上がるし、助かるから」
小早川翠「どう? 悪くない話だと思うけど」
大和要「ま、まあ・・・」
なんとなく気まずくて2人の顔を見比べると、葵が何かを決意したように一歩前に歩み出る。
姫野葵「大丈夫。要くんには私が勉強を教える つもりでしたから。ね? 要くん」
大和要「えっ」
大和要(そんな話、してなかったと思うけど)
小早川翠「・・・同級生の方が同じ勉強をしてるし 効率良いと思いますけど」
小早川翠「大人って、高校の勉強とか 忘れてるんじゃないですか」
姫野葵「中にはそういう人もいます でも私の場合は心配いりませんよ」
姫野葵「一応、現役の大学生ですし 勉強は得意な方なんです」
小早川翠「遊んでばかりの大学生だって 多いじゃないですか」
小早川翠「それに勉強が得意って どこの大学なんですか?」
大和要「ちょっと、翠。さすがに失礼だよ」
大和要(なんだか2人の様子が険悪なような・・・ でも、なんで?)
姫野葵「いいんですよ、要くん 大学は透京国立大学に通っています」
小早川翠「・・・すごく偏差値の高いところですね」
小早川翠「――待って、透京国立大学の姫野葵」
小早川翠「・・・あっ」
小早川翠「あなた、もしかして『クリスタリア 幻想記』の作者の姫野葵さんですか?」
姫野葵「はい、そうです 私のことをご存知なんですね」
大和要「あー、バレちゃったか 翠、よくわかったね」
小早川翠「有名な話よ。一流国立大学の現役大学生が 鮮烈デビュー! ってネットニュースにも 取り上げられてたし」
小早川翠「・・・要くん、友達なのに知らないの?」
大和要「え!? あ、ああ、俺あんまり ネットニュースとか見ないから」
小早川翠「そう? ・・・有名国立大学の現役大学生 その上に売れっ子作家・・・」
姫野葵「小説を書いているといろいろと調べることも多くて、自然と知識が増えていくんですよね」
小早川翠「うっ・・・」
姫野葵「国語の力はもちろん 世界観に説得力を持たせるために 数学とか歴史の知識も必要で」
小早川翠「ううっ! ・・・わかりました 秀才の姫野さんが相手では勝ち目が ありません。今回は手を引きます」
小早川翠「でも──」
一瞬声を低くした翠が
目をギラつかせながら葵を睨む。
小早川翠「私、負けませんから」
姫野葵「・・・・・・」
大和要「え、何が──」
姫野葵「要くん、行きましょう」
大和要「えっ? ああ、そうだね じゃあ翠、また学校で」
翠は既にいつも通りの笑顔を
要に向けていた。
大和要(なんだったんだ? 2人のあの感じ・・・)
葵と翠の間で密かに燃え上がった闘争心に
要だけが気づかないままだった。
〇駅前広場
姫野葵「今日は楽しかったです 要くん、ありがとう」
大和要「うん、俺も楽しかった」
大和要「それでその・・・勉強を教えてくれるって 話なんだけど。あれ、本当?」
姫野葵「もちろん本当です 赤点は困るんですよね?」
大和要「うっ、それを言われると 痛いんだよね・・・」
大和要「じゃあ、ありがたくお願いしようかな 場所、どこかいいところあるかな」
姫野葵「私はどこでも構いませんよ」
姫野葵「ご迷惑でなければ 要くんのおうちに行っても良いですし」
大和要「うちかあ・・・友達連れていくと 母さんとか姉さんがうるさいからな・・・」
姫野葵「ふふ、にぎやかで良いじゃないですか」
姫野葵「でももし要くんがやりにくかったら その・・・」
大和要「ん、なに?」
姫野葵「うちに、来ますか?」
大和要「――え?」
〇綺麗な一人部屋
大和要「おじゃましまーす・・・」
大和要「おお、すごい綺麗な部屋だね」
姫野葵「ふふ、要くんが来るから 少し片付けておいたんですよ」
大和要「気にしなくていいのに、男同士なんだし」
姫野葵「・・・そうですね」
要の言葉を聞いた葵の表情が、一瞬曇る。
大和要(しまった。男同士・・・ってのは 失言だったかな)
大和要「え、えーと。じゃあさっそく 勉強教えてください。お願いします!」
姫野葵「ふふ。はい、わかりました では教科書とノートを見せてください」
姫野葵「・・・ええと 今回の試験範囲は微分積分ですね」
大和要「うん。数学ってどうも苦手で。この問題 とか、よく間違えるんだけど・・・」
姫野葵「この場合は、こちらの公式を使うと やりやすいですよ」
大和要「あ、そっか! それで、こっちは・・・」
2人は向かい合って黙々と勉強に励んだ。
〇綺麗な一人部屋
大和要(葵さんの教え方、すごくわかりやすい。俺の理解度に合わせてくれてるからだろうな)
真剣に勉強を教えてくれる
葵の顔をじっと見つめる要。
その視線に気づいた葵が
照れたように目を伏せる。
姫野葵「ええと・・・少し休憩しましょうか?」
大和要「あ、うん。そうしよう」
姫野葵「そうですね じゃあ甘いものでも食べましょうか」
大和要(そういえば カーネリア姫の部屋も綺麗だったな)
大和要(あの頃は姫だったから使用人が 掃除していたんだろうけど)
大和要(たぶん姫自身も綺麗好きだったんだろうし 転生してもそれは変わらないって感じかな)
姫野葵「何か珍しいものでもありましたか?」
大和要「いや、そうじゃないけど 本当に片付いてるなって思ってさ」
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