カルキノス

安藤・R・ゲイツ

第15話 『蕗子の告白』(脚本)

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〇水中
鎧坂蕗子「鎧坂、という入れ物が私のすべて」
鎧坂蕗子「人は私を恵まれていると言う。 事実そうだと思う」
鎧坂蕗子「けど、それは結局、鎧坂という巨大な『入れ物』の力」
鎧坂蕗子「私のことなど誰も見てはいない。 それが時々、酷く息苦しかった」
鎧坂蕗子「閉じた世界に籠らざるを得ない少女・・・」
鎧坂蕗子「他人事と思えなかった私は──」
鎧坂蕗子「気づいたら彼女に手を伸ばしていた」

〇観測室
  灯りの落とされた観測室の中で、凪はソファに腰かけて外の星空をひとり眺めていた。
鎧坂蕗子「星は好き?」
梵凪「!?」
  やってきた蕗子が凪の隣に腰かける。
梵凪「あの・・・そこ、嵐が座ってて・・・」
鎧坂蕗子「知ってるわ。少しだけ私に時間を頂戴」
梵凪「でも、私なんかと話しても面白くないです」
鎧坂蕗子「私はあなたのこと、好きになれそうな気がするわ」
梵凪「えっ・・・」
梵凪「で、でも・・・私たち、会ってから全然時間経ってないし、それにその、私、鎧坂さんのこと、よく知らないし・・・」
鎧坂蕗子「だったらこれから知っていきましょう、お互いのこと」
梵凪「・・・!」
鎧坂蕗子「家の者には話をつけておくから、いつでもいらっしゃい」
鎧坂蕗子「あなたの気が向いたときに。待ってる」
  そう言って蕗子は立ち上がり、席を離れようとする。
梵凪「あの・・・!」
鎧坂蕗子「ん?」
梵凪「あの、私、よ、鎧坂さん──蕗子さんのこと、好きになって・・・いいんですか?」
鎧坂蕗子「・・・ふふ」

〇黒
鎧坂蕗子「臆病さはそのまま凪の心の傷の深さだった」
鎧坂蕗子「時の経過と共に、その傷が癒えていく様は、不思議と私にも力を与えた」

〇観測室
  茜色の夕日が射しこむ部屋。
  絵筆を手にした蕗子の前で、凪がかしこまって木の椅子に座っていた。
鎧坂蕗子「凪、辛くなったら動いてもいいから。 無理しないように」
梵凪「私からお願いしたんだもん。頑張る」
鎧坂蕗子「・・・あまり期待しないでね。 私、人物は本当に苦手だから」
梵凪「楽しみ」
鎧坂蕗子「ほんと、生意気になったわね」
鎧坂蕗子「・・・・・・」
  蕗子は真剣な顔で画用紙に筆を走らせる。
梵凪「ふふっ」
鎧坂蕗子「なに? 急に笑って」
梵凪「蕗子さん、絵を描くの好きなんだなって」
鎧坂蕗子「ええ・・・そうね。無心になれるから」
梵凪「私も好きだよ。絵を描いてる蕗子さん見てるの」
鎧坂蕗子「・・・そう」
鎧坂蕗子「私の親が凪のように思ってくれたらよかったのだけどね」
梵凪「?」
鎧坂蕗子「私が何を好きで、何をしたいかなんてあの人たちは興味がないから」
鎧坂蕗子「私が絵を好きなことすらも知らない。 家の役に立つかどうか、それだけ」
鎧坂蕗子「本当は絵に関わる仕事に就きたいんだけどね。 これは内緒よ?」
梵凪「・・・・・・」
鎧坂蕗子「うん。こんなものかしら」
梵凪「好きなこと、したらいいと思う」
鎧坂蕗子「・・・え」
梵凪「今度は私が応援するよ」
梵凪「みんなが反対したとしても、私は絶対に蕗子さんの味方だから」
鎧坂蕗子「・・・凪」
  凪はは席から立ち上がると蕗子の元へやってきてキャンパスの絵を覗き込んだ。
梵凪「やっぱり蕗子さん絵上手だねえ」
鎧坂蕗子「・・・ありがとう。凪」
梵凪「私も学校行ったら美術部入ってみようかな。 そうしたら一緒に描けるよね」

〇観測室
鎧坂蕗子「そもそも観測会をやめることにしたのは、私が受験まで美術に打ち込みたいと言ったからなんです」
鎧坂蕗子「凪も──みんなも、認めてくれた」
鎧坂蕗子「励みになりました。 初めて自分の意志で何かを選択した気がした」
正岡きらり「待って下さい、別に凪ちゃんに憎まれるとかじゃないじゃないですか」
正岡きらり「むしろ、素敵な話──」

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