第5話「新たな一歩」 (脚本)
〇教室
――翌日
〇黒背景
近衛尊文「姫様は、貴様との最後の約束を 守るために生涯未婚を貫き通した」
近衛尊文「貴様が姫様の未来を奪ったのだ!」
近衛尊文「姫様が男に転生したくらいで 落胆していたのだろう」
近衛尊文「そのような者が姫様に 葵さんにふさわしいわけがあるまい!」
近衛尊文「今世で男性として生きている葵さんを 男である貴様が前世と同じように 愛せるのか?」
〇教室
大和要(オニキスだった頃、俺は確かに カーネリア姫を愛していた)
大和要(でも今の俺は、男になった葵さんを 好きになれるのか?)
大和要(そんなの・・・わからないよ)
大和要(だって俺は男で、今まで好きになった子 だってみんな女の子だった)
大和要「でも・・・」
黒須雫「おーい、要ェ?」
大和要「わっ! なんだ、雫か 驚かさないでよ、なに?」
黒須雫「なに? じゃねェよ それはこっちのセリフだってーの」
江西紫「お前、気づいていないのか? さっきからずっとぶつぶつと 独り言を言っているぞ」
江西紫「気味が悪いことこの上ない」
大和要「ええっ、独り言!? そ、そうだったんだ ごめん・・・」
「・・・・・・」
大和要「えっと・・・俺、どこまで喋ってた? 2人とも、何を聞いちゃったの?」
黒須雫「あー・・・なんか、男が男を好きに なれるのか? とかナントカ?」
大和要「! そ、そっか」
江西紫「はあ・・・どうやら厄介なことに なっているみたいだな」
江西紫「ここでは誰に聞かれるかわからないから 放課後ゆっくり話そう」
大和要「うん・・・」
〇学校の屋上
黒須雫「姫野葵が男・・・って、は? マジで言ってんの?」
大和要「嘘でこんなこと言えるわけないでしょ」
江西紫「なるほど、カーネリア姫は男に転生して いた、というわけか。事情は理解した」
江西紫「それで、お前は何を悩んでいるんだ?」
目を見張る雫とは対象的に、紫は冷静な
表情を崩さず、要にまっすぐな視線を
向けた。
大和要「何をって・・・」
大和要「俺たちは、生まれ変わったら今度こそ恋人として幸せになろうって約束し合ったんだ」
大和要「でも恋人としてってさ 愛し合うってことはつまり・・・」
大和要「手を繋いだり、キスしたり その先も、するってことだよね?」
大和要「正直、俺には想像できない 男とそういうことをするって」
大和要「・・・男を愛せる自信が、ないんだ」
黒須雫「それは仕方ないんじゃねェか? いくら前世で愛し合ったっていっても 今が男なんじゃさ。あんま気に病むなよ」
大和要「・・・そう、なのかな」
黒須雫「おお。俺はそう思うけどなァ」
紫が持っていた缶ジュースを
苛立たしげに置いた。
ドン、という音は不思議なほどその場に
響き、空気がぴりりと張り詰める。
江西紫「要、お前は姫野さんのことを 『運命の相手』だと言っていなかったか?」
江西紫「それが性別がどうだなんて小さな問題で ウジウジと悩んで、情けないとは思わないのか」
大和要「小さな問題? 性別は小さな問題 なんかじゃない、大切なことだ!」
大和要「だって、恋人になるかどうかって 話なんだよ?」
江西紫「じゃあお前は、女なら誰でも良いって 言うんだな」
大和要「話がいきなり飛躍してるよ! 誰もそんなこと言ってないじゃないか」
江西紫「飛躍している? そうかな、お前が言って いるのは、そういうことじゃないのか?」
大和要「ど、どういうこと?」
江西紫「お前は姫野さんが男だという事実だけを 見て『ありえない』と決めつけている」
江西紫「それは、女なら誰でも 『あり』と同義だろう」
大和要「そ、それは・・・」
江西紫「男だから、女だから 好きになるわけじゃない」
江西紫「その人だから、好きになる そうじゃないのか?」
江西紫「好きになれないと言い切れるほど お前は『姫野葵』を知っているのか? 要」
大和要(確かに、俺はカーネリア姫のことは知っていても、葵さんのことはほとんど知らない)
大和要(なのに男だってだけで 知ろうともしなかったんだ)
大和要(・・・本当に、それでいいのかな・・・)
〇商業ビル
それから数日後──
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