第1話「蘇った記憶」 (脚本)
〇闇の要塞
オニキス「すまない・・・ あなたを1人にしてしまうな」
???「いいえ、いいえ・・・! あなたは立派でしたわ・・・!」
オニキス「ありがとう、姫・・・」
オニキス「俺は生まれ変わっても 必ずあなたを探しあてる」
オニキス「今度は平和な世界で共に結ばれよう」
オニキス「だからそれまで、待っていて、くれ──」
???「オニキス?」
???「オニキス・・・っ!」
〇学生の一人部屋
ピピピッ、ピピピッ
大和要「ふぁ・・・」
大和要(またあの、ファンタジーみたいな 世界の夢か・・・)
大和要(やっぱりそれ以外は何も思い出せないな 誰か大切な人を忘れている気がする)
大和要(すごく申し訳ない気持ちだけが 俺の中に残ってる)
大和要(何を忘れてしまったんだ? 俺は・・・)
〇教室
大和要「おはよう」
黒須雫「チョリーッス! 要、遅刻ギリギリじゃん つーかなに、その寝癖。やばくねえ?」
江西紫「やれやれ、ひどいな」
江西紫「どうせまた夜中までゲームして 寝坊したんだろう。お前らしいことだ」
大和要「うるさいなあ。紫、俺の母ちゃんなの?」
江西紫「お前みたいな息子を 生んだ記憶はないんだが」
黒須雫「ははっ! 朝から絶好調じゃねーの」
大和要(紫とは幼馴染だけど 雫とは高校から知り合った)
大和要(3人とも全然性格が違うのに やけに馬が合うんだよなあ)
黒須雫「んー? なにニヤニヤしてんだ?」
大和要「なんでもないよ」
江西紫「気味が悪いな。言っておくが 金なら貸さないぞ」
大和要「違うって!」
大和要(高校生活は順調そのものだ)
大和要(・・・なのに、何か大事なことを忘れてるような気がするのは、なんでなんだろう?)
大和要(いつもの夢といい、なんなんだろうな このモヤモヤした感じ・・・)
小早川翠「要くん、おはよ」
小早川翠「ねえねえ、これ知ってる? 最近流行ってる小説なんだけど」
クラスメイトの小早川翠――
男子連中からは結構人気のある美少女だ
大和要「いや、小説ってあんまり読まないんだよね 活字読んでると眠くなってさ」
大和要「で、その本がどうかしたの?」
小早川翠「私、昨夜読み終わったんだけど すごく良い話だったから」
小早川翠「要くんにも読んで欲しいと思って 持ってきたんだ」
大和要「俺に? 最後まで読めるかなあ・・・」
小早川翠「すごく流行ってるから、タイトルくらいは聞いたことあるんじゃない?」
小早川翠「主人公がね なんとなく要くんに似てて・・・」
大和要「ふーん? どれどれ・・・」
大和要「『クリスタリア幻想記』?」
小早川翠「うん、そ ファンタジーものでね」
小早川翠「勇者と魔王が戦う話なんだけど お姫様とのロマンスもあって~・・・」
大和要(なんだ・・・? クリスタリアって どこかで聞いたことがある)
大和要(クリスタリア、クリスタリア・・・)
大和要(――っ!)
〇闇の要塞
オニキス「俺は今日 クリスタリアに平和を取り戻す!」
オニキス「魔王ラピス、覚悟っ!」
魔王ラピス「死ぬのは貴様だ、勇者オニキス!」
2人は吠えると同時に剣を振りかぶり
大地を蹴る。
一筋の閃光が走った次の瞬間、両者は
向かい合ったまま完全に静止していた。
カーネリア姫「あ、あぁ・・・」
魔王ラピス「ふ、ふふ・・・っ。見事よ」
オニキス「・・・お前もな、ラピス」
カーネリア姫「オニキス!」
オニキス「すまない・・・カーネリア姫 あなたを1人にしてしまうな」
カーネリア姫「いいえ、いいえ・・・! あなたは立派でしたわ・・・!」
オニキス「ありがとう、姫・・・」
オニキス「俺は生まれ変わっても 必ずあなたを探しあてる」
オニキス「今度は平和な世界で共に結ばれよう」
オニキス「だからそれまで、待っていて、くれ──」
カーネリア姫「オニキス?」
カーネリア姫「オニキス・・・っ!」
〇教室
大和要(そうか、そうだった。俺は前世で 異世界クリスタリアの勇者オニキスだった)
大和要(この本に書かれてるのは、俺の物語だ!)
大和要(なんで・・・)
大和要(こんな大事なこと なんで今まで忘れてたんだ)
小早川翠「要くん? おーい、聞こえてる?」
大和要「えっ!? あ、ごめん。なに?」
小早川翠「しばらく貸してあげるから ゆっくり読んでいいからねって」
小早川翠「そんなに気に入ってくれたなら 持ってきた甲斐があったよ」
大和要「う、うん。ありがとう、翠」
大和要(ここに書かれてるオニキスが死の間際に カーネリアに伝えた言葉・・・)
大和要(間違いない 俺の記憶にある言葉と一言一句同じだ)
大和要(でもこれを知っているのは カーネリアだけのはず)
大和要(ということは、これの作者は・・・)
――作者:姫野葵
大和要(間違いない。彼女・・・姫野さんは カーネリア姫の生まれ変わりなんだ!)
〇街中の道路
黒須雫「要の前世が異世界の勇者だったって?」
大和要「うん。まあ、いきなりこんなこと言っても 信じてもらえないだろうけど」
大和要「2人には隠し事をしたくなくて」
黒須雫「いや、うーん。でも要がオレらに 嘘つくなんてありえねーしなあ?」
江西紫「そうだな。にわかには信じがたい話だが 要が俺たちを騙す理由がないし」
江西紫「そもそもそんな器用な奴じゃないだろう」
大和要「紫、言い方!」
大和要「・・・でも、ありがとう。嬉しいよ」
黒須雫「トーゼンだろ! にしても 何がきっかけで記憶が戻ったんだ?」
大和要「それがさ、今日翠が貸してくれた 『クリスタリア幻想記』って小説なんだよ」
大和要「小説の中には、勇者だった頃の俺と、恋人だった姫しか知らないことが書かれてる」
江西紫「つまり、『クリスタリア幻想記』の作者が姫の生まれ変わりだと考えているんだな?」
大和要「うん。姫野葵さん・・・どうにかして 彼女とコンタクトを取れたらいいんだけど」
黒須雫「SNSとかやってねーのかな? ちょっと調べてみっか」
黒須雫「・・・って、おいおいマジか!? 要、これ見てみろよ!」
大和要「えっ、姫野葵先生の握手会・・・」
大和要「って、これ今日じゃないか!」
江西紫「この会場なら、今から急げば間に合いそうだな。・・・要、どうするんだ?」
大和要「・・・どうするもこうするもないよ」
大和要「こんなの、何かのお導きとしか 思えないじゃないか」
大和要「――俺、行ってくる!」
2人の力強い頷きに背中を押されるように
要は握手会の会場に向かって駆け出した。
〇ショッピングモールの一階
大和要「はあ、はあ、はあ・・・う、嘘だろ・・・」
大和要「あの、すみません 姫野葵さんに会いたいんですが・・・」
スタッフ「残念ですが、握手会は終了しました」
大和要「そこをなんとか! まだ控え室とかにいるんでしょう?」
スタッフ「ちょっと、困りますよ・・・!」
大和要(せっかくカーネリア姫に会えるチャンス なんだ! 絶対に諦めてたまるか・・・!)
???「僕は構いませんよ」
スタッフ「あ、姫野先生・・・」
大和要「――え?」
スタッフ「すみません。じゃあ私は片付けが ありますので、後はお願いします」
姫野葵「はい。――こんにちは 来てくれてありがとうございます」
目の前には、すらりと高い身長
広い肩幅、がっちりとした胸板
穏やかな笑みを浮かべるその人は
まぎれもない”男”だった