第7話 大切なものは目に見えない(脚本)
〇オフィスのフロア
広瀬純一郎「よし、こんなところか」
広瀬純一郎「それにしても母さんには困ったな」
広瀬純一郎「エステサロンだって? そんなの初耳だぞ」
広瀬純一郎「母さんがいつも綺麗なのはエステサロンのおかげだったんだな」
広瀬純一郎「そういえば、母さんに綺麗だって最後に言ったのはいつだったかな?」
広瀬純一郎「俺への当たりがキツいのはそういう気遣いが足りていないせいかもしれない」
広瀬純一郎「よし、こうなったら母さんを褒めて褒めまくってみよう」
広瀬純一郎「そうすればお小遣いも増やしてくれるかもしれない」
広瀬純一郎「頑張ってみるか!」
〇開けた交差点
戦闘員「お疲れー。このあとどうする?」
戦闘員「駅前に新しい居酒屋ができたらしいから飲みに行こうぜ」
戦闘員「それ知ってる。トドの肉とか食える変な店だろ?」
戦闘員「カエルの肉もあるらしいぜ。どんな味がするんだろうな?」
戦闘員「お前好き物だな」
〇玄関内
広瀬純一郎「ただいまー」
広瀬桃香「あっ! パパおかえり!」
広瀬純一郎「それ新しい洋服か? よく似合ってるじゃないか」
広瀬桃香「えへへ。お兄ちゃんが買ってくれたんだ」
広瀬純一郎「そうか。パパも今度何か買ってきてあげるよ」
広瀬桃香「ありがとう! 楽しみにしてるね!」
〇おしゃれなリビングダイニング
広瀬久美子「親父おかえり。今日は早かったんだな」
広瀬純一郎「そういう久美子こそ。これから走り込みか?」
広瀬久美子「おうよ! 日頃から鍛えておかねえといざってときに戦えねえからな」
広瀬純一郎「お前のおかげでいつも助かってる。感謝してるよ」
広瀬久美子「何だよ、改まって。気持ち悪ぃな」
広瀬純一郎「お前は強いし、頼りになる。だけどあまり無理はするなよ」
広瀬久美子「わかってるよ。そんじゃちょっくら行ってくるぜ!」
広瀬英雄「おう親父。今日は残業なかったんだな」
広瀬純一郎「今日は早めに切り上げてきたんだ」
広瀬純一郎「ところで母さんはどこにいるんだ?」
広瀬英雄「あー、確かネイルサロンに行くとか言ってたな」
広瀬純一郎「ネイルサロン!? エステサロンじゃなくて!?」
広瀬英雄「今日はママ友と飲みに行くんだと。飯は適当に何か買ってきてくれって言ってたぜ」
広瀬純一郎「そ、そうなのか」
広瀬純一郎「せっかくだ。たまには男二人で飯でも食べに行かないか?」
広瀬英雄「あー、悪い。俺これから知り合いと飲みに行く約束してるから」
広瀬純一郎「そ、そうか」
広瀬英雄「最近知り合った人でさ。親切にしてくれるんだぜ」
広瀬英雄「四人の娘に懐かれてる良いお父さんなんだ。親父も見習ったらどうだ?」
広瀬純一郎「俺としてはお前たちとは上手くやれてると思ってるんだけどな」
広瀬英雄「肝心のおふくろとはダメダメじゃねえか」
広瀬英雄「たまには夫婦水入らずでデートでも行って来いよ! 喜ぶと思うぜ!」
広瀬英雄「それじゃ俺もう行くわ」
広瀬純一郎「英雄の言う通りだな」
広瀬純一郎「俺はいつから母さんに怖気づくようになってしまったんだ?」
広瀬純一郎「頼りない姿ばかり見せているから夫の威厳が損なわれているんだろうな」
広瀬純一郎「お小遣いアップのためにも俺が頼れる男だってことを改めて証明しないとな!」
〇川に架かる橋
〇繁華街の大通り
広瀬純一郎「何て言って出て来たは良いが、具体的にどうすればいいのかさっぱりだな」
広瀬純一郎「いいや、落ち着け。今はああでも昔の母さんは俺にべったりだったんだ」
広瀬純一郎「そうだ。あの頃の母さんは──」
〇ゲームセンター
――2×年前
西園寺静流「ああもう、そこじゃないってば!」
広瀬純一郎「黙って見てろって。俺に任せておけば全部上手くいくんだからよ」
西園寺静流「そんなこと言っていくらつぎ込んだと思ってるのよ」
広瀬純一郎「バーカ。こういうのは失敗して学ぶもんだろ?」
広瀬純一郎「めげずに努力すりゃ最終的には上手くいくんだ。俺を信じろって」
西園寺静流「まったくもう、その自信はどこから来るのかしら?」
〇ゲームセンター
西園寺静流「あんなにお金使ったのに取れたのこれだけだったわね」
広瀬純一郎「これだけなんてことねえだろ」
広瀬純一郎「そいつにはお前のために使った金と俺の努力が上乗せされてんだ」
広瀬純一郎「他の同じ奴より価値があるってことだ! 大事にしろよな!」
西園寺静流「う、うん。ありがとう」
広瀬純一郎「おう! やっぱお前といると退屈しねえな!」
西園寺静流「ちょっと、止めてよ。こんなところで」
広瀬純一郎「そんなに恥ずかしがるなよ」
広瀬純一郎「おうお前ら! こいつ俺の彼女なんだぜ! 超可愛いだろ?」
西園寺静流「ば、バカ! もう!」
西園寺静流「本当にバカなんだから」
〇イルミネーションのある通り
西園寺静流「わー、綺麗ね」
広瀬純一郎「だろ? お前に相応しい場所を探して見付けたんだぜ!」
西園寺静流「もう。何言ってるのよ、バカ」
広瀬純一郎「照れんなって。俺は本気で言ってる」
西園寺静流「わかってるから困ってるのよ」
広瀬純一郎「困らせたくて言ってんだよ」
広瀬純一郎「俺はお前の全部が見てえんだからよ」
西園寺静流「本当、思ったことはすぐに言っちゃうんだから」
広瀬純一郎「そのせいで単細胞だってよく言われるけどな!」
西園寺静流「そんなの言わせておけばいいのよ」
西園寺静流「私は純くんの良いところ、たくさん知ってるから安心して」
広瀬純一郎「おう! これからも俺のことを見ててくれよな!」
広瀬純一郎「俺もお前をずっと見てる。退屈になんてさせねえ。約束するぜ」
西園寺静流「純くん」
広瀬純一郎「おっと、キスはまだお預けだぜ」
広瀬純一郎「今はお前のことを見ていたい」
西園寺静流「バカ」
〇可愛い結婚式場
「二人ともおめでとう!」
「末永くお幸せに!」
「静流を泣かせるんじゃねえぞ!」
広瀬純一郎「泣かせるかよ! 俺を誰だと思ってる?」
広瀬静流「みんなありがとう! 私たち幸せになるからね!」
広瀬純一郎「式って良いもんだな! やらなくていいと思ってた俺がバカみたいだぜ!」
広瀬静流「私もやらなくても良いかなって思ってたけど、まさかこんな大掛かりにやるなんて思わなかった」
広瀬純一郎「やるからに派手にやりてえからな! バリバリ働いて稼いだ甲斐があるってもんだ」
広瀬静流「あまり無理しないでね。あなたに何かあったら私──」
広瀬純一郎「おいおい、せっかくの結婚式だってのにそんなシケた顔すんなよ」
広瀬純一郎「笑っていろよ。俺はお前の笑顔に惚れたんだ」
広瀬静流「うん。ありがとう」
広瀬純一郎「約束する。俺はお前を一生離さねえ」
広瀬静流「私も。あなたの傍を絶対に離れないわ」
広瀬純一郎「俺が幸せにしてやる。だからお前は俺を信じて付いて来い」
広瀬静流「もう。今そういうのは時代遅れだって言われるのよ?」
広瀬純一郎「関係ねえよ。俺たちには俺たちの在り方があるんだ」
広瀬純一郎「それともそんな俺のことは嫌いか?」
広瀬静流「ううん。そんなわけない」
広瀬静流「頼りにしてる、ずっと」
広瀬純一郎「おうよ! 俺にどんと任せておけ!」
〇繁華街の大通り
広瀬純一郎「──そうだ。そうだった」
広瀬純一郎「俺はいつからこんなに弱気になっちまったんだ?」
広瀬純一郎「子供が三人できて、家計に余裕がなくなってきた辺りから俺は自信を失くすようになった」
広瀬純一郎「それでも母さんは、静流は嫌われ役を買って俺の尻を叩いて前へと押し出してくれた」
広瀬純一郎「あいつは俺と子供たちのために色々考えて尽くしてくれている」
広瀬純一郎「家のことだけじゃない。ファミリ―レンジャーのこともそうだ」
広瀬純一郎「多分リーダーを買って出てくれたのは、これ以上俺に負担をかけさせないためだ」
広瀬純一郎「エステサロンとネイルサロンもそうだ」
広瀬純一郎「俺のために綺麗でいようって努力をしてくれてるんだ」
広瀬純一郎「それなのに俺と来たら、クソ!」
広瀬純一郎「てめえの小遣いがどうと小せえことをうだうだと言いやがって!」
広瀬純一郎「ケツの穴が小せえにもほどがある! 愛想を尽かされなかっただけ感謝しろって話だ!」
広瀬純一郎「大切なモノほど近くにあるって話は本当だな」
広瀬純一郎「失ってから気付くのじゃ遅せえんだ」
広瀬純一郎「てめえの思いを言葉に、行動にしなきゃ相手には伝わらねえんだ」
広瀬純一郎「昔の俺にはそれができてた! それを何故今やらねえ!?」
広瀬純一郎「あいつが、静流が一番頑張ってるときに何で俺はてめえのことばかり考えてやがるんだ!?」
広瀬純一郎「今思い出した!」
広瀬純一郎「今更かって呆れられても構わねえ!」
広瀬純一郎「俺には、静流! お前が傍にいてくれればそれだけでいいんだ!」
〇川に架かる橋
広瀬静流「すっかり遅くなっちゃった。パパちゃんとご飯食べてるかしら?」
広瀬純一郎「静流!」
広瀬静流「ぱ、パパ? どうしたの急に?」
広瀬純一郎「悪い。お前を見てたら居ても立っても居られなくなっちまった」
広瀬静流「もう、何よそれ」
広瀬静流「それにしてもその喋り方、昔を思い出すわ」
広瀬純一郎「その通りだ、静流。俺は昔のことを思い出したんだよ」
広瀬純一郎「どうしようもなくお前に惚れてて、それは今も変わっちゃいないんだってことをな」
広瀬静流「じゅ、純くん」
広瀬純一郎「すまなかった。最近の俺はどうかしてた」
広瀬純一郎「小遣いがどうだの、お前のエステサロンがどうだの、つまらねえことばかり言っちまった」
広瀬純一郎「俺にはお前がすべてだってことを、すっかり忘れてたんだ」
広瀬静流「もう、止めてよ。こんな場所で。ご近所の人が通るかもしれないのに」
広瀬純一郎「昔の俺なら構わねえと言ってたところだが、今は世間体があるからな」
広瀬純一郎「お前を可愛がるのは他の場所でする」
広瀬静流「本当、昔の純くんに戻ったみたい」
広瀬静流「──ねえ、純くん」
広瀬純一郎「何だ?」
広瀬静流「私、今日は帰りたくない」
広瀬純一郎「俺もだ」
広瀬純一郎「今夜は寝かさねえからな」
広瀬静流「うん」
〇おしゃれなリビングダイニング
――翌日
広瀬静流「もう、純くんってば。そんなにくっついたら料理ができないでしょ」
広瀬純一郎「そう言う割りには全然嫌がってねえじゃねえか」
広瀬静流「だって、昨日あんなに逞しいところ見せてくれたんだもの」
広瀬静流「──すっかり惚れ直しちゃって」
広瀬純一郎「俺もだよ。昨晩のお前は可愛かったぜ」
広瀬静流「だからダメだってば。子供たちが見て──」
広瀬純一郎「口答えする口はこうしてやらねえとな」
広瀬静流「こ、こら、純くん」
広瀬静流「あん♡」
広瀬英雄「何だ親父の奴人が変わったみたいに。気持ち悪ぃ」
広瀬桃香「パパがママにあんなオラオラしてるの初めて見たよ」
広瀬英雄「おふくろもおふくろだぜ。いつもは親父に口煩えのにされるがままじゃねえか」
広瀬桃香「昨日何があったんだろうね?」
広瀬久美子「ああ、そういやお前らは親父がああなるのを見るのは初めてなのか」
広瀬英雄「その口振りだと前にも似たようなことがあったのか?」
広瀬久美子「あたしがガキの頃にな」
広瀬久美子「丁度お前が生まれる前くらいだったか? 喧嘩したかと思ったら急に仲良くなってよ」
広瀬久美子「それからしばらくあんな感じで、気付いたときにはお前がデキてたんだぜ」
広瀬英雄「そ、その話初耳だぞ!」
広瀬英雄「ていうかその話の流れだとまさか──」
広瀬久美子「四人目が来るかもな」
広瀬英雄「おいおい冗談だろ!?」
広瀬英雄「いや待て。桃香のときはあんな感じじゃなかったぞ」
広瀬英雄「偶然って可能性もあるんじゃないか?」
広瀬久美子「それについてはアタシに仮説があるんだよ」
広瀬桃香「仮説って?」
広瀬久美子「つまりだな」
広瀬久美子「──男が生まれるときだけあんな感じになるってことだ」
広瀬桃香「それって私に弟ができるってこと!?」
広瀬久美子「可能性大だぜ」
広瀬桃香「ど、どうしよう。もしお兄ちゃんと弟が私を取り合って喧嘩なんてしたら」
広瀬桃香「あ、あんなことや、こんなことに──」
広瀬桃香「きゃー!」
広瀬英雄「絶対そんなことにはならないから安心しろ」
広瀬久美子「次の弟は早いうちから鍛えてやらねえとな」
広瀬久美子「デカい弟のほうはやる気無さそうだしよ」
広瀬英雄「ガキの頃から姉貴に散々ボコられたおかげで強くなったんだから良いじゃねえか」
広瀬久美子「良くねえ! こういうのは積み重ねが大事なんだよ!」
広瀬久美子「今日と言う今日はジムに来いよな!」
広瀬英雄「冗談じゃねえ」
広瀬桃香「ふ、二人ともダメ。そんなにされたら私、私──」
広瀬桃香「らめえええ!!」
広瀬英雄「らめえじゃねえよ」
広瀬久美子「そういや弟が生まれたらレンジャーとしての名前はどうなるんだろうな?」
広瀬桃香「ベイビーシルバーとかかな?」
広瀬英雄「それなら俺も色に変えてくれよ」
広瀬純一郎「今日から毎晩覚悟しろよ」
広瀬静流「こ、こら」
広瀬静流「まったくもう、仕方ないんだから」
広瀬英雄「──俺しばらくダチのところに泊って来るわ」
〇塔のある都市外観
広瀬英雄の受難は続く!
広瀬英雄「勘弁してくれ」
親父のオラオラ時代に笑ってしまいました😁
社会人になって何があったのか気になります😊