4話(脚本)
〇綺麗なダイニング
千花「・・・・・・これでいいの?」
鈴木「ほん・・・とぉーに!ありがとう姉さん!! 助かったぁ」
千花「こんなものどうやって撮ったのよあんた。まるで魔法じゃない」
鈴木「まぁ、今だけは魔法が使えるというか何というか」
千花「はぁ? あんた・・・・・・もう子どもじゃないんだからさ」
千花「変な夢見るのはやめときなさいよ」
鈴木「分かってるって」
千花「分かってないわよ! 配信者で食べていけるのなんて全体の何パーセントなのか知ってるの?」
鈴木「それは・・・・・・」
千花「3%よ? 動いてないチャンネルや再生数も入れるともっと割合は低くなるんだから」
千花「あんたに、その覚悟があるの?」
鈴木「うぅ・・・・・・」
千花「答えなさい!」
アパートでの火災の後、鈴木とパンドラは無事姉の住むアパートへ着いていた
姉である『千花(ちか)』はパンドラの存在を鈴木から聞いていたため二人は快く出迎えられた
鈴木は軽くパンドラの紹介をして、すぐに千花に頼み事をした
まだ彼はドラゴンブレスを実現したデータを投稿出来ていなかった
それが千花の助けでやっと完了した
パンドラ「千花よ、まぁいいではないか。そんなに詰め寄る必要もあるまい」
鈴木「パンドラさん!」
パンドラ「こいつは自分の身をわきまえておる」
パンドラ「どうせ大衆の人気などは出ん。自分の生活が賄えなくなったら働きだすだろう」
鈴木「パンドラさぁぁぁん!」
千花「パンドラちゃんも苦労してそうね」
千花「うちの弟が何か粗相をしたら言ってね。私がいつでも力になるから」
パンドラ「ふむ。それはありがたい申し出じゃ」
パンドラ「ワシもあれやこれやと分からない事を男に聞くのは忍びなかったからの」
鈴木「・・・・・・」
鈴木(・・・・・・どの口が言うんだよ)
鈴木(パンドラさん。常に命令口調で遠慮なんて1ミリもなかった気がするけど)
鈴木「何というか・・・・・・今気づいたんだけど」
鈴木「二人は・・・その、気が合いそうだね」
千花「そうかもね。私、可愛い女の子は好きだし」
パンドラ「ワシもお前のような腑抜けと違って千花とは仲良く出来そうじゃ」
パンドラ「アッハッハッハ」
鈴木「あははははははは・・・」
鈴木(それはよかったですね)
鈴木(そのまま僕に被害がなければ何よりなんですが・・・・・・)
鈴木「おっと、それより今はこっちだった」
鈴木「パンドラさん見て下さいよ」
パンドラ「ん?」
鈴木「さっき投稿した動画、再生数の上がり具合が凄いんです!」
パンドラ「当たり前じゃろ。なんせワシの作った薬じゃからな」
鈴木が語った通り
動画の再生数は10、100、200と今まで鈴木が投稿した動画とは比較にならない程のスピードで増えていった
同時に登録者も投稿してからすでに10人増えている
鈴木「これなら近いうちに登録者数1000人突破も夢じゃないかも」
鈴木はこれで願いにまた一歩近づけると、気持ちを高めていた
千花「・・・・・・ねぇ、その動画についてもう少し詳しく聞きたいんだけど」
そんな二人の様子を見て、姉が目を輝かせて近づいてきていた
〇綺麗なダイニング
千花「・・・・・・つまり、パンドラちゃんならどんな薬も作れるって事?」
パンドラ「まぁワシにかかれば作れない薬はないな」
千花「作れない薬はないって・・・またまたぁ、そんな事言って基本は治療するためのお薬なんでしょ」
千花「でも、そうするとあの動画はなんだろ?」
千花「もしかして・・・弟がパンドラちゃんに無理言って何かさせたんじゃない?」
千花「きっと『このゲームが凄いから炎を出したい』とか一人で語り出してさ」
パンドラ「おぉ、よくわかったの」
パンドラ「この炎はアイツの希望じゃ。意味はよくわからん」
千花「パンドラちゃん薬剤師にしては奇抜な格好だし若いけど」
千花「外国の人だから、こういう天才もいるんだね・・・・・・」
鈴木「姉さん・・・ずっと説明してるでしょ」
鈴木「そもそもパンドラさんはこの世界の人じゃないんだって」
鈴木「だから、僕たちの常識にはない力を持ってるんだよ」
千花「うーん、そうは言ってもねぇ」
千花「あんたの動画は確かに凄いけど、流石にあんな火が出るのは・・・・・・」
千花「ほら、今は映像の加工もすごいって言うじゃない」
千花「だからちょっと現実感がないというか・・・全部疑ってるわけじゃないんだけど」
パンドラ「ならお前、千花のために炎を出してやれ」
パンドラ「薬ならまだあるぞ」
鈴木「嫌ですよっ!! あれ加減出来ないんですから」
鈴木「姉さんの家を燃やしちゃったら二人だって困るでしょ」
パンドラ「家を盾にするとは姑息な奴じゃ」
パンドラ「お前も実験体として、力は使いこなす必要があると思うんじゃがな」
鈴木「ちょっと! 僕はいつから実験体になったんですかっ!!」
鈴木「勘弁してくださいよぉ」
千花「・・・・・・・・・・・・」
千花「じゃあさ例えば、あくまで例えの話よ」
千花「人の心を操るみたいな薬も作れたりするのかな?」
鈴木「え?」
鈴木「人の心をあやつるってそれはさすがに」
パンドラ「──出来るぞ」
鈴木「パンドラさん!?」
パンドラ「金、愛、地位、力、それらを手に入れるのはかなりの労力が必要になる」
パンドラ「地道上りつめ、相手の裏をかき手に入れるのにどのくらい時間がかかるのか・・・・・・」
パンドラ「だがそんな事をせずとも薬に頼ればよいのじゃ」
鈴木「いくらなんでもそんな・・・意識や精神に干渉するなんて」
パンドラ「鈴木、お前は本当に出来ないと思ってるのか? このワシに」
鈴木「それは・・・・・・」
鈴木は押し黙ってしまった
すでにあり得ない現象の数々を目にしている彼は否定する事が出来ない
千花「パンドラちゃん。そこまで自信があるなら折り入って頼みがあるの」
千花がパンドラの前に正座し膝の上で手を合わせた
千花「私には心を掴みたい相手がいるの」
〇綺麗なダイニング
鈴木「・・・・・・・・・」
鈴木「はぁ・・・・・・」
鈴木は一人部屋でため息をついていた
千花とパンドラは別行動をしているため今家にはいなかった
鈴木「姉さんも急に何を言いだすんだかなぁ」
鈴木「まさか、こんな事になるとは思わなかったよ」
鈴木は一人ぼやきながら、もう一度姉の言葉を思い出していた
〇綺麗なダイニング
千花「じ、実はねっ」
千花「その・・・ずっと気になってる人がいて・・・・・・」
千花「でも、まだ告白してなくてさ」
千花「ほらっ私ってさ。あんまり恋愛するようなタイプに見られないっていうか」
千花「だから・・・その、苦手なんだよね」
千花「告白って」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
パンドラ「・・・・・・・・・・・・」
千花「ほらっ、二人とも黙らないでよっ!」
千花「なんか私が恥ずかしいじゃん」
鈴木「いや、うーん何て言ったらいいんだろう」
鈴木「姉さんって恋したことなんてあったん」
鈴木「──ぼふぇっ!!」
瞬間、千花の鉄拳が鈴木の顔面に炸裂する
そのまま鈴木は気を失ってしまった
パンドラ「・・・相変わらずバカなやつじゃ」
パンドラ「鈴木は女心という物がわかっとらんのう」
千花は殴った手を払ってパンドラに向き直る
千花「ねぇ、どうかな?」
千花「パンドラちゃんなら何とかならない?」
千花「私、真剣なの」
パンドラ「・・・・・・なるほどな」
パンドラ「よく聞くんじゃ、千花」
パンドラ「薬を使って千花は恋を実らせたいという事じゃろ」
千花「うん・・・・・・」
パンドラ「薬で心を操るというのは、相手の意思を無理やり変えるという事じゃ」
パンドラ「そこまでしても、お前はその相手を手に入れたいんじゃな」
千花「・・・・・・うん」
千花「それが出来るなら」
パンドラ「そうか」
パンドラ「それなら分かった」
パンドラ「千花はワシの大事な友じゃからの」
〇綺麗なダイニング
鈴木「それで薬作りに関する仕様も買い出しも僕が担当なんだもん」
鈴木「なんなんだよそれ・・・・・・」
鈴木「まぁ・・・いいけどさ」
鈴木(にしても、姉さんが恋ね・・・・・・)
鈴木「恋の事は正直サッパリだけど・・・・・・薬は面白い物が出来るかもしれない」
鈴木(薬を使って姉さんの告白が成功すれば、きっといい動画のネタになりそうだな)
鈴木(なんなら姉さんの顔にモザイクをかけて、薬を使用するシーンを撮影させてもらったりして)
鈴木(こんなに協力してるんだからそれくらいはいいでしょ!)
鈴木は自分を鼓舞するため、一人で様々な想像を膨らませていた
〇綺麗なダイニング
鈴木「・・・・・・よしっ、とりあえず薬の仕様は完成っと」
鈴木「後は二人が戻ってくる前に買い出しにでも行ってくるか」
鈴木は頭を掻きながら立ち上がる
鈴木(なんだろう・・・何度か作ってるからかな)
鈴木(今回の薬の仕様は完璧に出来た気がする!)
鈴木は自分の作った仕様書を自画自賛していた
気分がいい彼の足取りは軽く、早足で買い出しに向かって行った
〇綺麗なダイニング
千花「・・・・・・っで、それが出来上がった薬ってわけね」
千花「何かやけに色が派手というか、ピンク強くない?」
鈴木「姉さん・・・何か文句でも?」
鈴木「言ったでしょ」
鈴木「僕が薬の仕様を考えて材料を用意すれば、後はパンドラさんが何とかしてくれるんだから」
千花「それは聞いたけどさ・・・・・・私がこれをホントに飲むの?」
鈴木「そのために作ったんだから。ねぇパンドラさん?」
パンドラ「いや鈴木、まずはお前が飲め」
鈴木「えぇっ!? またっ!?」
パンドラ「ワシと違ってお前はまだ未熟じゃ」
パンドラ「錬金術は願いの具現化、正確な材料、そして調合、すべての力が揃って初めて最適な薬が出来上がる」
パンドラ「それは修行をしてこそ会得できる技術じゃ」
パンドラ「鈴木、お前はもっと力を付けるべきじゃ」
パンドラ「ワシと共に歩むからにはな」
鈴木「もっと力をって、そんな事言ったって」
鈴木「パンドラさんいつもなぁーんにも教えてくれないじゃないですか!」
鈴木「『感覚で材料は用意しろ』とだけ言って・・・そんなんで力が身に付くんですかね・・・・・・」
鈴木「──んっっーー!!」
鈴木「ぷはぁ!! ごほっごほっ」
鈴木「・・・・・・なっ・・・何するんですか!!」
パンドラ「どうじゃ鈴木、薬の効果は?」
パンドラ(相変わらずコイツはとろいの・・・・・・図体はデカいくせに赤子のようじゃ)
千花「あんた・・・・・・大丈夫、なの?」
千花(いきなり倒れたりしないよね? そんな事になったら正直困るな・・・・・・)
鈴木「・・・・・・」
鈴木「あっ・・・・・・あの・・・・・・」
鈴木(これってもしかして 二人の声が・・・聞こえてる?)
鈴木(本当に・・・・・・そうなのか?)
鈴木「パンドラさん・・・僕よりあなたの方が赤子っぽい見た目ですよね」
パンドラ「なっ!?」
パンドラ(コイツ・・・まさか心を?)
鈴木「姉さん。せっかく僕が飲んであげたのに自分の心配?」
鈴木「ホントは歓迎なんかしてなかったりして・・・・・・」
千花「え・・・うそ、どうして?」
千花(私、言葉に出てた?)
鈴木「いや、姉さん。別に言葉に出てないから」
千花「はい?」
鈴木「この薬・・・どうやら読心術が出来るみたい」
パンドラ「なるほど読心術か・・・それは今も聞こえとるのか」
鈴木「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
鈴木「・・・・・・うーん、もう効果は切れたのかな。聞こえないみたいです」
パンドラ「なるほど。これは・・・・・・」
パンドラ「失敗じゃな」
「え?」
パンドラ「効果が短いのはもちろんじゃが、鈴木。この薬には大事なものが足りていない」
鈴木「大事な・・・もの?」
パンドラ「千花は薬を使って相手の意思を操作し、心を奪う事を望んでいる」
パンドラ「だがこの薬は心が読めるだけで、意思を操作する力はない」
パンドラ「それでは駄目だ」
パンドラ「そうだろう、千花?」
千花「それはっ・・・・・・そうです」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「・・・姉さん。本当にいいの?」
千花「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「僕はさ、ずっと恋愛シミュレーションゲームに不満を抱いてきた」
千花「急にあんた・・・なんの話よ?」
〇ポップ2
鈴木「会話の途中で急に現れる選択肢」
鈴木「無数の選択肢の中からたった一つの答えを見つけなければ、目当ての女の子のルートには行けない」
鈴木「そんなのって理不尽じゃない」
鈴木「相手の心なんて分からないんだから、間違った選択をすることだってあるでしょ?」
千花「それはっ・・・・・・」
鈴木「それなのに一つ選択を間違えただけでゲームオーバーみたいなさ」
鈴木「そんなの酷いなぁってゲームをやって思ってた」
鈴木「でもあれってさ。繰り返し遊べるからそういう仕様になってるんだよね」
鈴木「何度間違ったってやり直せる」
千花「何度も・・・・・・間違う・・・・・・」
鈴木「でも現実には何度も・・・なんて、そんな事ありえないじゃない」
鈴木「どんなに好きな人だって、相手の事を分かってると思ってたって選択を間違える事だってあるでしょ」
鈴木「・・・僕はゲームをやってて『またやり直せばいいじゃん』て安易に納得できなかったんだよね」
鈴木「だから今回は、好きな人の気持ちが姉さんに読めればいいかなって思ってたんだ」
鈴木「姉さんは僕より強い」
鈴木「でも好きな相手を攻略するのに気持ちが分からないのは怖いと思う」
鈴木「姉さんだってまさか、心を強引に奪うなんてそこまで本気で考えてないんでしょ?」
鈴木「そうなんでしょ?」
千花「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
〇ゆるやかな坂道
薬が出来る前、別行動していたパンドラと千花
パンドラ「のう千花よ。化粧品とは面白いのぉ」
千花「でしょ? でもまだパンドラちゃんにはちょっと早いかもね」
パンドラ「まるで魔術のようじゃ。これで姿形を変え相手を誘惑するのか」
千花「誘惑ってそんな・・・そんな事まで考えてないよ」
パンドラ「考えておらんのか? 千花はずっと考えてきたんじゃないのか?」
千花「え?」
パンドラ「想い人を手に入れるためありとあらゆる術を試したんじゃろ?」
パンドラ「それでも想い人は手に入らんかった」
パンドラ「だからワシとあいつに頼んだんじゃろ?」
千花「・・・・・・あはは、パンドラちゃんって子どもなのに大人みたいに鋭いんだね」
千花「でもね、それは違うの」
千花「実はね・・・・・・」
〇綺麗なダイニング
千花「私は・・・・・・・・・」
千花「見た目を良くしたって、想いがあったって・・・・・・それだけじゃ駄目なの!」
千花「私だって努力したよ」
千花「でも好きな人の前だと・・・一番伝えたい事が言えなくなっちゃうのよ」
千花「距離をおきたくなんかないのに」
千花「意識すると顔が真っ赤になって、呼吸が激しくなって胸が苦しくてしょうがない」
千花「私だって向き合いたいと思ってる!」
千花「でも・・・・・・こんな気持ちになったの生まれて初めてだから」
千花「いつも・・・・・・」
千花「あと一歩が踏み出せない」
千花「私は・・・・・・あの人の心をどうしても手に入れたいの」
千花「これだけ思いが強くなったら、失敗するのが怖くて耐えられない」
千花「この気持ちがあんたにわかるのっ!?」
鈴木「・・・・・・姉さん、それは」
パンドラ「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「・・・・・・・・・・・・分かる」
「は?」
鈴木「めちゃくちゃわかるよっ!」
鈴木「それはあれだ・・・・・・恋愛シミュレーションゲームでいう」
鈴木「『友達だと思って接してたのに、いつの間にか好きになってて、意識したら近くにいるのが辛いから距離を置いちゃうキャラ』だ!」
千花「えっと・・・・・・何が?」
鈴木「なるほどぉ・・・うん。なるほどねぇ」
鈴木「わかったよ姉さん。全部分かったから」
千花「ええぇ・・・あんた、ホントに分かってる?」
鈴木「もちろん。分かってるよ」
鈴木(まさか・・・姉さんがここまで追い詰められてるとは)
鈴木(こんな余裕のない姿・・・・・・生まれて初めて見たかも)
鈴木「傍から見てると姉さんのキャラは恋に慣れてない感じでかわいいと思うけど」
鈴木「本人としては辛いよね」
鈴木「だから僕に任せて! 絶対に良い薬を作ってあげるからっ!!」
鈴木(そうだ)
鈴木(ここまで言ってくれたんだ。今の僕ならきっと・・・・・・)
鈴木(きっと姉さんを助けるための薬が作れる。今度こそ)
鈴木「ねぇパンドラさん?」
パンドラ「おっ、おう。まぁ鈴木がわかったなら・・・・・・とりあえずよい」
パンドラ「だがお前・・・その気持ち悪い顔は止めろ」
鈴木「いてて・・・だからぁ、なんで殴るんですかぁ!」
・・・・・・かくして鈴木のさらなる薬作りが始まった
千花のデートまで残り3日
鈴木は何かに閃いたようで、一心不乱に仕様を作成していった
残り少ない時間の中、パンドラに相談しながら材料を吟味していく
そして・・・3日後の朝がやってきた