ハチは今日も見ている。

たぶちきき

エピソード1(脚本)

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〇ハチ公前
  私の名前はハチ。
  皆からは忠犬ハチ公と呼ばれている。
  見ての通り今の私は銅像なのだが、そこに魂だけが残り、長きにわたって主人の帰りを待ち続けているのだ。
  ここで待ち合わせをしている人間たちのように、いつか主人が私を迎えに来てくれる日を待ち続けているのだ。
  さて、それはさておき。
  長らくここで主人を待っているだけというのも退屈なもので。
  かつては食べ物をくれる人間や頭を撫でてくれる人間もいて、退屈はしなかったのだが。
  今はただ行き交う人々を見守るばかり。
  はーあ。欠伸が出てしまいそうだ。
  欠伸が出る体ではないのだが・・・。
  さてさて、今日も主人の帰りを待ちながら退屈しのぎ。
  ここで人々を眺めて過ごそう。
  今日はどんな人間たちが待ち合わせしているのだろう。
  ん?
  あの娘。
  昨日もそこで見たなぁ。
少女「・・・」
  昨日の待ち合わせ相手は確か眼鏡をかけた優しそうな紳士だった。
  手を繋いで楽し気だったのでよく覚えている。
  なかなか仲睦まじい姿だった。
  
  まさか二日続けて逢引きか?
少女「あ!」
少年「お待たせしました! ごめんなさい、遅れちゃって・・・」
  茶髪の少年?
  昨日の男性とは違うなぁ。
少女「ううん。私がちょっと早かっただけよ」
少女「デート、楽しみだったから・・・」
少年「そ、そっか! お、俺もだよ!」
少女「うふふ。ありがとう。 じゃあ、行きましょうか」
少年「うん!」
  ・・・・・・・・・・・。
  つまりこれは、ツバメ?
  うむ。見なかったことにしよう。
  さて、お次は・・・おや?
  なんだかイライラしている女性がいるな。
女性「あいつら~! 遅い! なにしてんのよ! 待ち合わせ時間も守れないわけ!?」
  どうやら待ち合わせ相手が約束の時間になっても来ないみたいだ。
  この口ぶりからすると、どうやら相手は遅刻常駐犯のようだ。
  ──ピロリン♪
女性「LINE? え? 二人から?」
女性「はあ!? 足を挫いたから少し遅れる!? 2人揃って同時に挫くことなんてあるかっつーの!」
女性「まったく、もうっ!」
  ははっ。
  なかなか愉快な友人をお持ちの用だ。
  あぁ、怒ってどこか行ってしまったようだ。
  やれやれ、待ち合わせはいいのだろうか。
  おや?
  あそこの男性はどうやら待ち合わせ相手が無事に来たようだ。
眼鏡の男性「やっと来たな」
童顔の男性「ごめんごめん。 いやぁ、服装に迷っちゃってさぁ」
眼鏡の男性「って言うわりにはいつも通りカジュアルだけど・・・まあ・・・」
眼鏡の男性「今日も似合ってるよ」
童顔の男性「そう? えへへっ」
  ・・・。
  なんだか仲睦まじ過ぎて、見ているこちらが照れてくる。
眼鏡の男性「よし、じゃあ一緒に出しに行こうか。パートナーシップ証明書」
童顔の男性「うん!」
  あららっ。
  手まで繋いで・・・なんと仲睦まじい。
  今日見てきた人間たちの中で一番幸せそうな2人だった。
  やはり、会いたい者に会えるというのは羨ましいものだ。
  ああ、私も早く主人に会いたい。
  ・・・ん?
  おや、あそこに迷子がいるなぁ。
外国人「・・・」
  異人さんだ。
  あー、はろう?
  お困りならば向こうに警察署がありますよ?
  
  って、聞こえるわけがないか。
外国人「・・・」
  右往左往している。
  なんとかしてやりたいが、私は銅像だしなぁ。
  誰か助けてやってくれないだろうか。
  ああ、皆、板に夢中で気づいていない・・・。
  おや?
警察官「あー・・・halo?」
  よかった。
  警察官が助けてくれるみたいだ。
外国人「・・・!」
警察官「あーえっと、Do you need any help?」
外国人「I'm waiting for a friend.」
警察官「あー、えーっと・・・」
  よかった。
  何を喋っているのか私には理解は出来ないが、大丈夫そうだ。
  日本の警察は今も親切なんだな・・・。
外国人「Thank you so much!」
  どうやら無事に解決したようだ。
  よかった、よかった。
警察官「ふう・・・」
  ご苦労様。
警察官「・・・ああ。ハチもご苦労様」
  ・・・ん?
警察官「今日も見守り、ありがとうな!」
  ・・・。
  ふっ。
  いいや、こちらこそ。
  さあて──
  ──今日も私をここで、主人を待ちながら見守り続ける。

コメント

  • 待ち合わせをする人たちを見てるだけでも楽しそうですね。
    幸せな人を見てると、こちらまで幸せな気分になるのわかります。
    二人同時に捻挫ってところ笑いました。笑

  • 人間ウォッチングのハチ公お疲れ様です。人間にも色々様々種類がいますね。喜んでいる人、笑っている人、怒っている人と。ハチ公も楽しんでますね。

  • 待ち合わせでよく使われる場所だけに、色々な人間を観察できますよね。私も暇があれば一日ハチ公の銅像になってみたいくらいです。
    でもそれが永遠と続くとなると…精神が壊れそうですが…。

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