蓬莱事変(2)(脚本)
〇荒廃した市街地
桜子「これは・・・何ですか?」
アラハタ「ジャミング」
サカイ「通信妨害機だ」
サカイ「もともとは帝都放送局の電波を乗っ取り、オオスギの演説を全国に流す計画だった」
サカイ「これを君に譲ろう」
桜子「・・・どうして?」
アラハタ「ふん。肚の座ってない小娘だ」
アラハタ「己が主張を全国民に知らしめる夢の機械を前にただただ戸惑うだけとはな」
桜子「・・・!」
アラハタ「それとも、語る言葉を探している最中か?そんな未熟者に率いられる同志が不憫とは思わないのか?」
桜子「・・・」
アラハタ「睨みつけるだけか!議論せよ自由の女神!」
サカイ「そのくらいにしておけサンソン」
桜子「じ、自由の女神とは!」
「・・・?」
桜子「勝手につけられただけです!」
「・・・」
アラハタ「・・・だから?」
桜子「いや、そこはご承知置きいただきたいと」
桜子「自分だったら、もっとセンスのあるニックネームをつけると思いますので」
アラハタ「・・・」
サカイ「わはははは。素直ないい娘じゃないか」
サカイ「存外こういう娘の言葉が万人の心を動かすのかもしれんぞ」
アラハタ「いいか。機会は一度、電波を乗っ取る時間は五分。それ以上続けると逆探知される。使用後は速やかに破壊しろ」
サカイ「いつ、どこで使うかは任せるよ」
サカイ「ただ我々の調べた情報だと君達の武力蜂起鎮圧に合わせ、戒厳軍が己の正当性を見せる為にラジオ放送を生中継するらしい」
アラハタ「お前達の反乱は秩序の敵として、戒厳軍のプロパガンダにされる。それは覚悟してるんだろうな」
桜子「分かってます」
桜子「でも叫びます!自由を!」
桜子「私は逃げません!」
アラハタ「・・・ほう」
サカイ「聞けたな。その言葉が」
桜子「どういう意味です?」
サカイ「オオスギは一度も官憲から逃げなかった。常に正々堂々と逮捕され獄中で更なる研鑽を積んだ」
サカイ「まあ、それが災いして憲兵に殺されちゃったんだけどね」
アラハタ「気をつけろ。奴らは女とて容赦しない」
桜子「分かってます。妻と子供にも容赦しない人もいましたから」
アラハタ「なるほど。君の方が詳しいか」
桜子「有難うございます」
桜子「この機械も情報も決して無駄にはしません」
桜子「お二人は決して認めないでしょうけど私達は『美しきけもの達』の伝説を継ぐ者だと思っています」
アラハタ「ならば一つだけ覚えておいてくれ」
アラハタ「俺達が目指したものは『優しい世界』だ」
桜子「優しい世界・・・」
アラハタ「誰もが誰にでも優しくいられる世界。それが俺達の新時代だ」
サカイ「だから、あくまでも話し合いによる解決を試みた。たとえ殺されると分かっていても」
アラハタ「我らの意思を継ぐならば血を流すのは自分一人だけと肝に銘じろ。いいな」
桜子「・・・はい」
サカイ「健闘を祈るよ」
桜子「あ、あの・・・」
アラハタ「協力なら断る」
桜子「分かってます」
サカイ「そこは少しねばろうよ。伝説でしょ僕達」
桜子「この通信妨害機は一体どこから・・・」
アラハタ「信用できんなら返せ」
サカイ「疑うのも無理ないさ。彼女達も必死だ」
サカイ「実はあと一人、我々の仲間がいてね。残念ながら今ちょっと捕まってるんだが」
サカイ「その仲間が、先ごろ偉大な科学者村西実琴博士と知り合いになってね」
桜子「村西博士・・・あの人造人間測天學を開発した!」
〇研究施設の屋上
測天學「マ~ン~モ~スナ戦士ノヨウニ~♪」
村西博士「逃げちゃダメだよ」
〇荒廃した市街地
サカイ「博士も帝都の行く末には思うところがあるようで、間接的に協力してくれてるんだ」
桜子「そうなんですか。心強いです」
アラハタ「根室とはまだ続いているのか」
桜子「・・・え?」
サカイ「お、おい!」
サカイ「ああいや、すまんね。無神経な男で」
アラハタ「大事なことだろう」
アラハタ「ヤツはもうすぐ『一般人』に戻るはずだ」
桜子「どういう・・・意味ですか?」
アラハタ「己の都合で夢を出し入れし自由を弄ぶ男。それが根室、いや校倉というゴロツキだ」
アラハタ「奴には自分の将来の大きな後ろ盾がある。大事を前に必ずやケツをまくるはず」
アラハタ「その兆候が少しでも見えたら直ぐに切れ。奴の追放を以て、お前は真に革命の盟主となる」
サカイ「ごめんね。芝居がかってて。コイツ一応、作家だからさ」
サカイ「でもまあ・・・根室はいかんよ」
サカイ「本当に革命を成しえたいなら傍に置くべき人間じゃない」
桜子「・・・」
アラハタ「これくらい言わせろ。忌まわしき来栖川家に力を貸してやるのだ」
アラハタ「全く、あの奇天烈チビ女め」
桜子「・・・?」
サカイ「まあ、ああは言ってもやっぱりアレだ」
サカイ「死んじゃダメだよ」
桜子「・・・逃げてもダメ」
桜子「・・・死んでもダメ」
桜子「難しいな。革命って」
つづく