第四話 ティアーズレイン(脚本)
〇綺麗な会議室
阿久津総合調査社
阿久津九楽「そりゃ災難だったな」
影山遊馬「災難どころじゃないですよ、殺されそうになったんです」
阿久津九楽「まぁ、おちつけ。疲れてんだよ」
影山遊馬「疲れてる?僕は全然元気ですよ!幻覚でも見たって言うんですか?」
阿久津九楽「少し眠かったって言ってたよな」
影山遊馬「そうですけど、夢なんかじゃありませんよ、車だって確かに見たし」
阿久津九楽「ドライバーは?」
影山遊馬「そ、それは・・・」
阿久津九楽「影山、性善説と性悪説って分かるか?」
影山遊馬「ええ・・・人間元の性質は善であるか悪であるかってやつですよね?」
阿久津九楽「そうだ、そして俺は性善説派の人間でね」
影山遊馬「意外ですね・・・それがなんです?」
阿久津九楽「つまり俺たちの様な稼業は・・・いや、俺たちのようなやり方で飯食ってる人間は疲れやすいって事が言いてぇんだよ」
影山遊馬「罪の意識ってやつですか?阿久津さんらしくない」
阿久津九楽「それだけじゃない、疲れやすい本当の意味はなー」
阿久津九楽「ちょっと、悪い」
阿久津九楽「・・・もうすぐ帰る・・・わかった、飯は食わずに戻るよ」
影山遊馬「女でしょ?遊びはもういいとか言ってたくせに」
阿久津九楽「遊び?そうじゃねぇよ」
影山遊馬「マジカノですか!?いよいよらしくない」
阿久津九楽「実は前からうちで働いてる子なんだ、付き合ったのは最近だがな」
影山遊馬「へ~あの阿久津さんがねぇ」
阿久津九楽「さっきの話じゃないが、こんな仕事してるとどこかで心の拠り所ってやつを求めるんだ・・・ってのはいいわけで俺も歳なのかもな」
影山遊馬「どんな子なんです?興味あるなぁ」
阿久津九楽「また今度紹介するよ、今も飯作ってるから食ってくるなってさ、もう女房気取りかっての」
影山遊馬「はは、そういう女いますよね」
阿久津九楽「栄養士の資格持ってるとかで健康にうるさくてよ、野菜ばっかり食わせるし、最近なんかハーブティーとか飲まされたよ」
影山遊馬「じゃあなおのこと仕事頑張らなきゃですね、これからも二人でガンガン稼いでいきましょうよ」
阿久津九楽「・・・実はな影山、俺、もう足を洗おうかと思ってるんだ」
影山遊馬「噓でしょ!?当たればこんなうまい仕事はないって教えてくれたのは阿久津さんじゃないですか?」
阿久津九楽「俺は長く深淵をのぞきすぎたんだ・・・わかるんだよ、自分が・・・」
影山遊馬「・・・」
阿久津九楽「いや、またゆっくり話そう」
影山遊馬「待ってください、それってどういう」
「おまえはまだ間に合う、よくよく考えてみるんだな」
影山遊馬「・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
影山のマンション リビング
貴島あおい「♪~♪~」
影山遊馬「悪いね、ご飯作りにきてもらっちゃって」
貴島あおい「いいんです、私お料理するの大好きだから」
影山遊馬「美味しそうだね」
貴島あおい「はい、これで最後」
影山遊馬「え・・・これは何?野菜?」
貴島あおい「お野菜を特製ソースにつけこんであるの」
影山遊馬「野菜はあまり好きじゃないんだよなぁ」
貴島あおい「いいから食べてみて、このソースもお野菜から作っててすごく美味しいんだから」
影山遊馬「うん・・・」
影山遊馬「あ、本当だ!めちゃ美味いよこれ」
貴島あおい「残さず食べてね」
影山遊馬「君も早く食べなよ、冷めちゃうよ」
貴島あおい「ねぇ、それで元旦那の事なんだけど、どうだった?」
影山遊馬「それがさ、君が教えてくれた住所に家なんかなかったんだよ、間違えてない?」
貴島あおい「間違いないよ!レンガ屋根の一軒家あったでしょ?」
影山遊馬「いや畑しかなかったんだけどな・・・」
貴島あおい「まさか組織が・・・私が分かったのを知ってあの人ごと消したのかも」
影山遊馬(おっと、忘れてた。普通に対応しても仕方がない、もうこの辺で手を打つか)
影山遊馬「どうかな?しばらくは事の成り行きを見てみよう、君だってこれ以上お金かかるのは大変だろ?」
貴島あおい「そうだね・・・でも不安で不安で、私不安になりだすと深みにはまる性格なんだ」
影山遊馬「え・・?」
〇シックなリビング
〇おしゃれなリビングダイニング
貴島あおい「どうしたの?」
影山遊馬「・・・いやなんでも」
影山遊馬「また雨か、本当多いな」
貴島あおい「・・・」
影山遊馬「だめだよ、雨入ってきちゃうよ?」
貴島あおい「誰かが泣いてる」
影山遊馬「え?」
貴島あおい「沢山の人が疲れて、苦しんで、泣いている」
影山遊馬(また、わけのわからない)
遊馬、悲しげに雨を見つめるあおいを後ろから抱きしめる
影山遊馬「僕が君を守ってあげるからね、絶対悲しませたりしないから」
貴島あおい「・・・」
〇黒
「はぁ・・んん・・あん・・・」
「可愛いよ、あおい」
「・・・」
(ん?首筋にうっすら痣のような跡が・・・)
(元旦那のDVは本当の話だったのか?)
「・・・」
〇豪華なベッドルーム
影山遊馬「・・・」
影山遊馬(変な時間に起きちまった・・・)
影山遊馬「う・・・」
〇清潔なトイレ
影山遊馬「うう・・・腹痛ぇ」
影山遊馬「この時期に裸で寝るのはまずかったな」
〇白いバスルーム
影山遊馬「ふー」
影山遊馬「・・・」
遊馬、鏡に映った自身の顔をじっと見つめる
影山遊馬(目が充血してる・・・クマも結構ひどいぞ)
影山遊馬「本当に疲れてるのかもな。先輩の言う事は聞いとくべきか」
影山遊馬「ともあれしばらくはAの相手をするのはやめておこう」
影山遊馬(ん?なんだ鏡に・・・)
影山遊馬「なんだ・・・これ・・・」
影山遊馬「う・・・頭が・・・」
影山遊馬「なんだ?今の変な感じは・・・」
影山遊馬「それに今鏡に人影が・・・」
〇豪華なベッドルーム
影山遊馬「・・・」
貴島あおい「すやすや」
影山遊馬(彼女じゃないのか・・・)
影山遊馬「・・・」
〇個別オフィス
阿久津九楽「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になる事のないよう気をつけなくてはならない」
阿久津九楽「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
〇綺麗な会議室
阿久津九楽「俺は長く深淵をのぞきすぎたんだ・・・」
〇豪華なベッドルーム
影山遊馬(深淵・・・怪物・・・か)
影山遊馬(上等じゃねぇか、あの時の惨めな自分に戻るくらいならなんだって・・・ん?)
影山遊馬(よく考えればこの子の事、何も知らないな)
影山遊馬(・・・)
遊馬、あおいのポーチから財布を取り出し、中身を調べる
影山遊馬(金、結構入ってんな。あとは・・・ん?)
影山遊馬(これは、整形外科の診察券か・・・)
貴島あおい「んん・・・」
影山遊馬(やばっ!)
遊馬、ポーチに財布をしまう
影山遊馬(まぁいい、目的は達成できたし、この女ともこれでおさらばしておこう)
〇黒
その晩、いやな夢を見た
〇枯れ井戸
僕は見たこともない井戸前に立っていて
その中を覗き込む
〇黒
とても安心する光景
心地よい黒の世界
そうだったのに
〇手
五話へ続く