エリシアの後悔(脚本)
〇荒野の城壁
兵士D「エリシア騎士団長殿!敵本隊が後退していきます!」
エリシア「ようやくか・・・」
レオナルド「援軍も合流し数的不利もほぼ解消、おまけに攻城塔を破壊されては敵も打つ手なしでしょう」
兵士D「それではこの戦は・・・」
エリシア「油断するな、まだ敵も完全に撤退したわけではない」
兵士D「はっ!申し訳ございません!」
レオナルド「しかし、ここから状況が変わるとも思えませんが・・・」
エリシア「同感だ、だが敵が戦意を無くしていない以上こちらが気を緩めるわけには・・・」
エリシア「う・・・」
兵士D「団長殿!?」
レオナルド「いい加減お休みください、もう何日もまともに睡眠をとられていないでしょう」
レオナルド「ここまでくれば我々だけでも充分です」
エリシア「しかし・・・」
レオナルド「団長殿、アナタは自分の部下が信用できないのですか?」
レオナルド「それとも、まだ戦況を判断するのが苦手かな?エリシア小隊長」
エリシア「副長・・・」
レオナルド「いかがいたしますか?」
エリシア「・・・すまん、少し休ませて貰う」
エリシア「暫く指揮を頼んだ」
レオナルド「承知しました」
レオナルド「宜しければ一度王都へ帰還してはいかがですか?」
レオナルド「今後の方針も含め、陛下への報告も必要でしょう」
エリシア「いや、流石にそこまでは・・・」
エリシア殿!エリシア騎士団長殿ー!!
エリシア「ん?」
レオナルド「何事だ!?」
伝令兵「し、失礼します!」
伝令兵「エ、エリシア騎士団長殿に陛下より帰還命令です!」
エリシア「陛下からだと?」
エリシア「要件は?」
伝令兵「そ、それが・・・」
エリシア「?」
レオナルド「何だ、ハッキリと言え!」
伝令兵「ラ・・・ラン・バベル殿が・・・」
エリシア「お父様が?」
伝令兵「・・・」
エリシア「何があった!父が、お父様がどうした!?」
〇謁見の間
はぁ、はぁ、はぁ・・・
エリシア「陛下!!」
国王陛下「エリシア・・・」
エリシア「陛下・・・父は・・・」
国王陛下「・・・正直、命を取り留めているのが不思議なくらいだ・・・」
国王陛下「今は懸命な治療を続けているが・・・」
エリシア「そんな・・・」
エリシア「な、なぜ・・・」
国王陛下「お主の父は息子を護ろうとした・・・文字通り命懸けでな」
エリシア「・・・!?」
エリシア「ア、アリエイル!アリエイルはどこに!?」
国王陛下「今は部屋で休んでいる、警備も可能な限りつけた」
国王陛下「しばらくは問題ないだろう」
国王陛下「誇れエリシア、お主の父は英雄として、そして父親としての使命を果たしたのだ」
エリシア「・・・」
国王陛下「少し休めエリシア、戦況については報告を受けている」
国王陛下「後は副長達に任せておけば良かろう」
エリシア「・・・いえ、そういうわけには・・・」
エリシア「そういえば、ウチの小隊長はどこに?父が到着したら合流しろと指示していたのですが・・・」
国王陛下「・・・見当たらん」
エリシア「え?」
国王陛下「ガロ小隊長の姿はどこにもない、と言うよりも・・・」
国王陛下「ガロ小隊長が事件後に現場から逃亡する姿を見た者が居る」
エリシア「そんな・・・」
国王陛下「アリエイルの所に案内しよう、まずはそこで少し休め」
エリシア「しかし・・・」
国王陛下「コレは命令だ」
国王陛下「わかったな、エリシア」
エリシア「・・・承知・・・致しました・・・」
エリシア「あの・・・父に一目会うことは・・・」
国王陛下「すまんが今はまだ延命で精一杯の状況だ、面会出来るようになったら即連絡をする」
エリシア「そう・・・ですか」
エリシア「かしこまりました・・・宜しくお願い致します・・・」
〇城の客室
アリエイル「・・・」
エリシア「アリィ・・・お父様・・・」
エリシア「お母様に何とお伝えすれば良いのだ・・・」
エリシア「何が・・・お父様は私が護る・・・だ」
エリシア「・・・私が、私がもっとしっかりしていれば・・・」
アリエイル「・・・ぅ」
エリシア「アリエイル!」
エリシア「アリエイル大丈夫か?」
アリエイル「お姉様・・・」
エリシア「どこか痛いところは?喉は乾いてないか?」
アリエイル「・・・」
エリシア「どうした?どこか痛むか?」
アリエイル「お父様は・・・」
エリシア「・・・大丈夫だ、お父様は別の部屋で休んでおられる・・・」
アリエイル「・・・」
エリシア「し、心配するな、お父様は不死身だ、何があっても・・・」
アリエイル「・・・僕のせい、なのですね・・・」
エリシア「何を言う!そのようなことは・・・」
アリエイル「聞いていました、お父様とガロさんの会話を・・・」
エリシア「・・・アリエイル」
アリエイル「変な煙で眠くなって・・・でも意識は残ってたんです、それで聞こえました」
アリエイル「僕が・・・「まもりがみ」だと」
エリシア「・・・」
アリエイル「僕を護るために、お父様は・・・」
アリエイル「僕が「まもりがみ」だから」
エリシア「アリエイルそれは違う、お父様は・・・」
アリエイル「僕が「まもりがみ」だから、だからお姉様も・・・」
エリシア「アリエイル・・・」
アリエイル「僕が居たから・・・」
エリシア「・・・」
アリエイル「申し訳ございませんお姉様、もう少し休ませてください・・・」
エリシア「あぁ、ゆっくり休むと良い」
エリシア「ゆっくりと・・・」
エリシア「・・・ん?」
エリシア「切り裂かれたハンカチ?」
エリシア「これは・・・お父様の?」
〇城の客室
エリシア「・・・」
エリシア「・・・ん」
エリシア「寝てしまっていたか・・・」
エリシア「頭が重い・・・やはり少々無理をし過ぎたかもしれんな・・・」
エリシア「・・・」
エリシア「・・・あれ?」
エリシア「アリエイル?」
エリシア「・・・いない」
〇要塞の廊下
エリシア「アリエイル!」
兵士C「ど、どうされましたエリシア騎士団長殿!?」
エリシア「弟は!?アリエイルはどこに!?」
兵士C「あ、ああ、アリエイル様は外の空気が吸いたいと・・・」
エリシア「行かせたのか!?」
兵士C「も、もちろん護衛は付けておりますゆえ、ご安心を・・・」
エリシア「できるか!相手はお父様を退けた者だぞ!」
兵士C「も、申し訳ございません!」
エリシア「・・・くそっ!」
〇養護施設の庭
エリシア「アリエイル!アリエイルー!」
エリシア「どこだ、アリエイル・・・」
エリシア(お父様だけではなく、アリエイルまでいなくなってしまったら私は・・・)
エリシア「!?」
衛兵「ぐ・・・」
エリシア「おい!大丈夫か!」
衛兵「も、申し訳ございません・・・団長殿・・・」
衛兵「力及ばず・・・ぐふっ!」
エリシア「・・・くそっ!」
「誰かお探しっすか?団長殿」
エリシア「・・・貴様」
ガロ「どーも、お疲れ様っす」
ガロ「お父様とは、もう御対面されました?」
ガロ「いや~俺もがんばったんすけどね~さすが元英雄殿」
ガロ「増援まで粘られちゃって、一時撤退せざるを得ませんでしたよ」
ガロ「まぁあの怪我じゃ長くないでしょうし、結果は犬死っすけどね」
エリシア「・・・」
ガロ「どうかされましたか?団長殿」
エリシア「・・・貴様は何者だ」
ガロ「やだな~どこからどう見てもアナタの部下、ガロじゃないっすか」
エリシア「違う!ガロは、私の部下は・・・私の戦友は・・・」
ガロ「自分を裏切らないと?」
エリシア「裏切るくらいなら正面から叱責してくる!皮肉って呆れ笑う!」
エリシア「貴様のようにコソコソ暗躍し、私の家族を冒涜などしない!!」
ガロ「・・・なるほど、それも一つの信頼の形か」
エリシア「・・・生きていたか」
仮面の男「とうぜん、あの程度で死ぬような者が敵地のど真ん中で仕事などできぬよ」
エリシア「・・・ガロは、どうした?」
仮面の男「その質問は二度目だな」
仮面の男「答えは変わらぬ・・・」
仮面の男「同じ顔が2人存在したままでは都合が悪かろう?」
エリシア「貴様ぁ!!」
仮面の男「おっと、俺に構っている暇があるのか?」
エリシア「・・・アリエイル!」
アリエイル「・・・」
エリシア「アリエイル!私だ!エリシアだ!」
アリエイル「・・・」
エリシア「アリエイル!」
仮面の男「無駄だ、アリエイル・バベルは自らの意思で「魔護神」への道を選んだ」
エリシア「嘘だ!アリエイルがそんな・・・」
仮面の男「父親が目の前で致命傷を負い、その理由が自分にある」
仮面の男「そして父親の決死の行動も、血縁からではなくただの職務でしかない・・・」
仮面の男「小児の心が折れるには充分だろう?」
エリシア「違う!お父様は父親としてアリエイルを護ろうとされたのだ!」
仮面の男「そう主張するお前もしょせん他人だろう?」
エリシア「・・・ち、違う・・・私は・・・お父様は・・・」
仮面の男「少なくとも、当人はそう思わなかった」
仮面の男「だから自らの足で俺の下へ来た・・・そうだろう?」
エリシア「・・・自らの足で、だと」
仮面の男「この状況で危険を冒して外に出るほど、お前の弟は能無しなのか?」
エリシア「なにぃ!?」
アリエイル「・・・ぅ」
エリシア「アリエイル!」
仮面の男「もう、アリエイルではない」
仮面の男「お前の弟は、もうどこにも・・・いや、初めからいやしない」
エリシア「そんなことが・・・あってたまるかぁ!」
エリシア「アリエイルは、貴様らには渡さん!」
エリシア「ぐぅっ!弾かれた!?」
仮面の男「「魔護神」自身が拒否しているということだな」
エリシア「そんな・・・」
仮面の男「そら、その証拠が来るぞ」
エリシア「なにっ!!!」
エリシア「ア、アリエイル・・・」
エリシア「ぐあっ!!!」
エリシア「ぐぅ・・・」
エリシア「これを、アリエイルが・・・」
仮面の男「大したものだ、これだけの力を隠していた・・・いや、隠し通していたのだからな」
仮面の男「さて、「魔護神」様が覚醒したとあれば、もはや団長殿と遊んでいる必要もない」
仮面の男「この国の王の首でも取って、戦争のケリをつけに行くか・・・」
エリシア「させるか!」
エリシア「ぐあぁあああ!!!」
仮面の男「無駄だ」
エリシア「ぐ!くそぉおおお!」
エリシア「ぐっ・・・ぐぅううう・・・」
仮面の男「諦めろ、さもなくば亡骸も残らぬほど焼け崩れるぞ」
エリシア「渡さん!弟は・・・貴様等には渡さん!」
エリシア「がぁああああああああ!」
伝令兵「エリシア騎士団長殿!」
仮面の男「ち、雑魚か・・・」
伝令兵「エリシア騎士団長殿の窮地だ!すぐに助け・・・」
エリシア「来るな!誰も近付くな!」
兵士C「だ、団長殿・・・」
エリシア「お前達は陛下を護れ、そして伝えろ・・・偽りの仮面が現れたと・・・」
伝令兵「・・・団長殿」
エリシア「アリエイル・・・」
エリシア「辛かっただろう、苦しかっただろう・・・」
エリシア「自分のせいで愛する家族が傷付いたと思えば、胸を抉られる程の苦しみが有ったはずだ・・・」
エリシア「私がどれほど言葉を重ねても、その傷は癒せないかも知れない・・・」
エリシア「だが信じて欲しい・・・私も、お父様もお母様も、あなたを大切に想う家族なのだと」
エリシア「約束する、もうアナタを苦しませたりしない」
エリシア「アナタの大切な人を傷付けさせたりしない」
エリシア「アナタが嫌なら神になんて成らなくて良い」
エリシア「ただ幸せで・・・あなたが幸せでいてくれればそれで良い・・・」
エリシア「その為なら、私は何だってする」
エリシア「私は、あなたのお姉ちゃんなんだから・・・」
魔護神「・・・」
魔護神「・・・ぅ」
エリシア「ア、アリエイル?」
魔護神「・・・お・・・姉様」
仮面の男「!?」
仮面の男「まさか、目覚めるはずは・・・」
仮面の男「どこまでも邪魔をしてくれるな、エリシア・バベル」
仮面の男「やはり、先に消しておかねばならんか」
魔護神「お姉様・・・放して・・・」
エリシア「ダメだ!もう絶対に放さん!」
仮面の男「消えろ、エリシア・バベル!」