帰郷(脚本)
〇海
〇堤防
「キャハハハ」
〇海辺
優太「お〜い、七海 早く来いよ〜」
七海「優くん待ってよ 走るの早いってば」
「キャハハハ」
〇海辺
15年後
今井 優太「懐かしいなぁ」
甲斐 七海「そうだね」
今井 優太「子供の頃は毎日一緒に遊んでたよな」
甲斐 七海「飽きもせずにね」
今井 優太「家が一番近かったもんな」
甲斐 七海「殆ど兄妹みたいな扱いだったよね」
〇カウンター席
甲斐 七海「3年ぶりに帰ってきた気分はどう?」
今井 優太「島は変わらないよなぁ やっぱり自然は落ち着くよ」
今井 優太「空気はうまいし、伸び伸び出来るし」
甲斐 七海「そうだよね」
甲斐 七海「でも一度離れたからそう思うだけかもよ」
甲斐 七海「生活となると違う 不便も多いし、刺激だって少ない」
今井 優太「離れたからこそ良さが分かるんだ」
今井 優太「やっぱり生まれ故郷は特別だよ」
今井 優太「都会は確かに刺激もあって新鮮だったけど、最初のうちだけだったしなぁ」
甲斐 七海「・・・・・・」
甲斐 七海「ねぇ、本気なの?」
今井 優太「Uターンしてこっちに戻ること?」
甲斐 七海「東京で大企業に勤めてたんだよね それを捨てるのは勿体ないんじゃない?」
今井 優太「確かに安定した生活は出来たけど、競争ばかりで疲れたよ」
〇オフィスのフロア
上司「明後日の会議の資料が揃っていないようだが、どうなっているんだ」
今井 優太「まだ作成中でして・・・」
上司「・・・・・・」
上司「分かった 他の者に任せるからもういいよ」
今井 優太「・・・・・・」
〇カウンター席
今井 優太「俺には向いてなかったんだ 未練はないよ」
甲斐 七海「仕事はどうするの?」
今井 優太「新しく出来た観光ホテルがあるだろ そこの面接を受けようと思ってる」
甲斐 七海「そうなんだ」
今井 優太「俺が戻ると知って両親も喜んでるよ ほら、うちは姉ちゃんが2人共結婚しちゃったからさ」
今井 優太「やっぱり寂しかったみたいで」
今井 優太「・・・俺にも早く結婚してくれなんて、せっついてきて困るよ」
甲斐 七海「・・・・・・」
今井 優太「七海さ、昔言ったこと覚えてる? 子供の頃の他愛ない話なんだけど」
甲斐 七海「?」
〇海辺
七海「私、大人になったら優くんと結婚したいな」
優太「はぁ?」
優太「ば、ばっかじゃねーの!」
〇カウンター席
今井 優太「・・・・・・」
甲斐 七海「そんなの大昔の話じゃない 子供の戯言よ」
今井 優太「・・・嬉しかったんだ」
今井 優太「俺たちは最初から家族みたいなもんで、そういう関係じゃなかったけど、」
今井 優太「もし、もしも・・・俺が付き合って欲しいったら、七海はどうする?」
甲斐 七海「えっ・・・」
今井 優太「俺たち、きっと上手くやっていけると思うんだけど」
〇海
〇海辺
〇カウンター席
今井 優太「たくさんの時間を一緒に過ごしてきただろ」
今井 優太「これからもいい思い出を作っていけたらと思ってる」
甲斐 七海「・・・・・・」
〇カウンター席
甲斐 七海「ごめんなさい」
甲斐 七海「お断りします」
今井 優太「えっ! どうして!?」
甲斐 七海「どうしてって言われても困るな 逆に聞きたいくらいだよ」
甲斐 七海「泣いて喜ぶとでも思ってた?」
今井 優太「い、いや・・・」
甲斐 七海「私はいつでも帰ってこられる、故郷の一部なんかじゃないのよ」
今井 優太「そんなこと思ってないよ」
甲斐 七海「嘘よ だって一度も私に恋人がいるかを聞かなかったじゃない」
今井 優太「それは・・・」
甲斐 七海「私やっとここ島から出られるの」
甲斐 七海「あなたとここで、今までと同じ生活を続けるなんて考えたくもないわ」
今井 優太「七海・・・」
甲斐 七海「──お母さん、死んだのよ」
今井 優太「・・・いつ?」
甲斐 七海「1ヶ月前 ようやく私は自由になれた」
今井 優太「離れていても俺は七海を想ってたよ」
甲斐 七海「じゃあどうしてあのとき、私を見捨てたの」
甲斐 七海「お母さんの異常さも知ってたくせに」
甲斐 七海「それにずっと帰ってこなかったじゃない」
〇田舎町の通り
甲斐 七海「えっ、優くん、東京の学校へ行くの?」
甲斐 七海「・・・ねぇ、私も連れて行ってよ お願い、ここから逃がして」
甲斐 七海「その後は1人で何とかするから」
甲斐 七海「あのお母さんの面倒を見て、一生が終わるなんて嫌なの」
〇カウンター席
今井 優太「ごめん、俺・・・」
甲斐 七海「いいの、あなたはいつだって見たくないものは見ない人だから」
七海「じゃあね、優くん」
「さよなら」
前半ののんびりした感じと、雨が降り出して一気に不穏な雰囲気に包まれる後半の展開の演出が素晴らしくて唸りました。表面は凪いで見えても、心の奥底には荒れ狂う深海を抱えている人間の恐ろしさや哀しみが伝わりました。ラストの二人の七海からの「さよなら」が切ない。
作品の世界に一気に引き込まれてしまいました!幼い頃一緒だった2人も、成長するにつれ見ている世界も望む未来も違ってしまったのですね。平和な島での平和でない会話と、雷雨がとてもフィットしますね!