俺たちゲリラ撮影隊!

武智城太郎

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〇渋谷駅前

〇渋谷駅前

〇ハチ公前
ケンジ「スタッフの人、遅いな。 とっくに集合時間すぎてるぞ」
ケンジ「こんないい加減なバイト、バックレて帰るか」
ケンジ「でもせっかく渋谷まで来たんだから、ツタヤでVHSのレア作品を借りて・・・」
ロン「すいませーん、キミはアルバイトに来てくれた人?」
ケンジ「あ、はい(て、なんで英語?)」
ボブ「ヘイ、ボーイ! 今日はヨロシクな!!」
ケンジ「ノー! 人違いです!!」
ロン「ここが、ガメラが破壊してた渋谷か~」
ケンジ「え? あの・・・」
ロン「ああ、ゴメン。 ぼくは監督兼脚本家のロンだよ。ふだんはロスで活動してるんだ」
ロン「こっちはカメラマンのボブ。元海兵隊のタフガイさ」
ロン「オヅ、クロサワ・・・日本ロケは昔からの憧れだったんだ」
ロン「今作は、絶対にぼくの代表作になるよ」
ケンジ(興味本位で応募したエキストラのバイトが、まさかハリウッド映画だったなんて・・・!)
ケンジ「あの、他のスタッフの方たちは?」
ロン「ここにいる二人だけだよ。エキストラもキミ一人だけだから」
ロン「時間がないから、さっそく撮影を始めよう!」

〇スペイン坂
ロン「ここがスペイン坂か。うん、ググルアースで見た通りいい感じだ」
ケンジ「人通りが多いですけど、撮影許可は・・・」
ロン「ないよ。そもそも許可の取り方もよくわからないし」
ケンジ「て、ゲリラ撮影!?」
リタ「ハーイ、ロン。待ってたわ。さっそく始めましょう」
ロン「ハイ、リタ。今から打ち合わせをするから、ちょっと待ってて」
ロン「映画の内容は、日本に留学したアメリカの女子高生の様々な体験を描いたものなんだ」
ロン「このシーンでは、キミには彼女に返り討ちに合う暴漢役をやってもらうよ」
ケンジ「え!? エキストラなのにそんな重要そうな役を? 俺、演技とかは・・・」
ボブ「ガッツさえあればノープロブレムだ!!」
ロン「リタはカンフーの達人だから、彼女にまかせておけばいいよ」
ロン「はい、スタート!」

〇スペイン坂
リタ「このヘンタイ!! 覚悟しなさい!!」

〇高架下
  こんな調子で、俺は様々な役をやらされたが──

〇公園通り
  なんとか撮影は順調に進んでいった。

〇ラーメン屋
  オールアップしたリタが去り、一段落ついたところで、俺たちは遅い昼食をとることにした。

〇ラーメン屋のカウンター
ロン「ヒッチコックは飛行機墜落シーンをコクピットの主観で撮ったんだよね」
ケンジ「そうそう、紙のスクリーンを破って大量の水をセットに流し込んで」
ボブ「アンビリーバボー! ロンとわたりあえるシネマフリークなんて初めて見たぜ」
  語らってみると、ロンとは似た者同士の映画オタクとわかり、すぐに意気投合した。(ちなみに俺は英語学科専攻の大学二年生)
ケンジ「そういえば、この作品の予算ってどのくらい? 独立系の製作会社なんだろ?」
ロン「雀の涙ほどさ。思うように出資者が集まらなかったから、借金したりして自分で掻き集めたよ」
ケンジ「そりゃ、大変だな」
ロン「夢のためなら、このくらいどうってことはないさ」
ロン「『市民ケーン』のオーソン・ウェルズを越えるような大監督になるという夢のためならね!」
ケンジ(天才ウェルズが目標か。なんて志が高いんだ・・・!)

〇ハチ公前
  そして俺たちは、またハチ公前に戻ってきた
ロン「いよいよ最後の撮影だ」
ボブ「スクランブル交差点で、反政府ゲリラが大暴れする最重要シーンだな」
ケンジ「それは無理! 目の前に交番もあるし」
ケンジ「地方だけど、スクランブル交差点を再現したオープンセットがあったはず。そこで・・・」
ロン「そんな作り物ダメ! フィクションであっても、ぼくの作品には渋谷の生の息吹が必要なんだ!!」
ケンジ(ロンは俺と同じ映画オタクだけど、一つだけ決定的に違う)
ケンジ(それは情熱だ)
ケンジ(映画サイトに半可通のレビューを投稿して満足してるような俺とはえらいちがいだ)
ケンジ(そんな俺だけど、今はこの男の手助けを無性にしたい!!)

〇炎
ケンジ「よし、決行だ!!」

〇渋谷の雑踏
ケンジ「うおおおーーっ!!」
ロン「イエーーイッツ!!」
  俺たちはモデルガンを手にして群衆の中に突撃し、空砲を乱射する。
  ガガガガッッ!!!!
  ガーーンッ!! ガーーンッ!!
ボブ(その調子だ!! このボブ様がすべてをカメラにおさめてやるぜ!!)
ケンジ「みんなよく聞けーー!! 今から我々が渋谷をジャックする!!」
  周囲は悲鳴が飛び交っている。
  驚いて、逃げ惑っている人さえいる。
ケンジ(すごいシーンが撮れてるぞ!! やったな、ロン!!)

〇警察署の入口
  そして、まもなく捕まった・・・

〇モヤイ像
ケンジ「はあ・・・やっと解放してくれた」
ロン「ケンジ、大丈夫かい? ケガは?」
ケンジ「説教されただけだから」
ボブ「オレたちだけ逃げてソーリー。しかし日本の警察、ヤクザより怖いの知ってまーす」
ケンジ(北野映画の影響かな?)
ボブ「取り調べで、殴られて裸に剥かれて・・・!」
ケンジ(『県警対組織暴力』か)

〇広い改札
ロン「ここでお別れだね」
ケンジ「完成を楽しみにしてるよ」
ロン「ケンジのおかげで最高の作品になりそうだ。サンダンス映画祭でグランプリを狙うつもりさ」
ボブ「ケンジ、おまえはたいしたタフガイだぜ」
  そうして嵐のように現れた二人は、風のように去っていった・・・
ケンジ「あ、バイト代もらうの忘れた!」

〇古いアパート
  それから半年後──

〇簡素な一人部屋
  週一のシナリオ教室から帰ってきたら、郵便受けに小さな荷物が入っていた。ロンからだ。
ケンジ「映画完成したんだ!!」
  さっそく観賞し、俺はその出来栄えに息を飲んだ。

〇高架下
  画面の中では、CGの超安っぽい宇宙人がリタとがっつり共演していた。
  どうやらこいつの方が主人公らしい。
  タイトルは『プロジェクトα・フロム・ワンダースペース』

〇簡素な一人部屋
ケンジ「す、すごい・・・!!」
ケンジ「ロンの奴、完全にエド・ウッドを越えたな・・・!」

コメント

  • 捕まったところで笑ってしまいました。笑
    まぁ…捕まるよね?と思って。
    読んでて楽しくなる作品でした!映画に対する情熱がすごいです!

  • 色々と日本で行ったら問題が多いかもしれませんが、映画に賭ける情熱が伝わってきました!
    けどまぁやり方が…、もう少し上手くなればより良い作品が作れそうですが笑

  • 「そして間もなく捕まった」があまりにスピーディーで笑いました😂笑
    表紙からパンチが強かったのですが、それを裏切らない濃い内容でした🙆‍♀️笑

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