SHIBUYA 90 years ago

D

SHIBUYA 90 years ago(脚本)

SHIBUYA 90 years ago

D

今すぐ読む

SHIBUYA 90 years ago
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇渋谷のスクランブル交差点
  令和元年 8月 19日 渋谷

〇病室
  渋谷〇〇病院 109病室
あすみ「・・・・・・」
花田「あすみさん。 こんな時間にどうしたのですか?」
あすみ「あら,先生。 いえね,外を眺めていたら急に昔が懐かしくなって・・・」
花田「そうでしたか。 たしか,あすみさんは子どもの時にも渋谷に住んでいたのですよね?」
あすみ「ええ――。 小学生の時ですね。 今から90年も前ですよ」
花田「90年前!?」
花田「90年前の渋谷なんて僕には想像もつきませんよ・・・」
あすみ「そうでしょうね。 多分,人生で一番ワクワクしていた時期かもしれません」
花田「一番ワクワクですか・・・」
あすみ「ええ――。 でも,その後は父親の仕事の都合で渋谷から引っ越してしまいました」
あすみ「それがまさか,病気になって渋谷に戻ってくるとはね」
花田「そうでしたか。 それで,懐かしくなって昔を思い返していたのですね」
あすみ「そうなんです。 先生は渋谷には長くいるのですか?」
花田「赴任して3年です。 私も前は田舎だったので,渋谷がワクワクするのは分かります」
あすみ「いつの時代もそうなんですね」
花田「でも,もう夜も遅いですからそろそろ休んでください」
花田「100歳の誕生日までには退院する目標があるのですから」
あすみ「そうでしたね。 では,先生おやすみなさい──」
花田「おやすみなさい──」

〇黒
  ・・・・・・

〇黒
  ・・・・・・

〇田舎の駅舎
あすみ「――!?」
あすみ「ここは・・・?」
あすみ「たしか私は病院に入院していたはず・・・」
あすみ「それにしても,なんだか体がとっても軽いわ」
あすみ「手にしわもないし―― なんだか,若返ったみたい」
あすみ「――あれ? この服って私がよく着ていたものにそっくりね」
あすみ「――!? ポケットに何か入っている・・・」
あすみ「手鏡・・・?」
あすみ「!?」
あすみ「うそ!? 私,子どもに戻ってる?」
あすみ「信じられないわ・・・ それに,ここは一体どこなの?」
あすみ「でも,不思議と見覚えがある風景ね──」
あすみ「ん・・・? あれってもしかして・・・」

〇田舎駅の改札
あすみ「やっぱり間違いない! 昔の渋谷駅だ!」
あすみ「――あら? 何か落ちてる」
あすみ「新聞・・・? えっと日付は・・・」
あすみ「昭和4年8月19日!?」
あすみ「ということは, 私が住んでいた90年前の渋谷だわ!」
あすみ「信じられない・・・ でも,これからどうすれば・・・」
あすみ「そうだ! あの頃の自宅に行ってみましょう! たしか,桜丘にあったはず」

〇木の上
あすみ「そうそう,この並木道」
あすみ「桜丘も,昔は桜の木より柳が多かったのよね」
あすみ「家までもうすぐね」

〇ボロい家の玄関
あすみ「あった!あった! うわ~懐かしい――!」
あすみ「中は入れるのかしら」
  ガチャガチャ
あすみ「あれ? 開かない・・・ みんな出かけているのかしら?」
あすみ「隣の家はどうだろう」

〇屋敷の門
あすみ「そうそう,お隣は海軍将校さんで, 立派な家だったのよね」
あすみ「そこに私と同じ年ごろの子がいて, 初めて「ケーキ」を食べたったけ」
あすみ「初めて食べたケーキは,この世の物とは思えないほどの美味しさだったわね──」
あすみ「あぁ,本当に懐かしい──」
あすみ「でも,ここも誰もいないみたい・・・ どうしましょう・・・」
あすみ「・・・・・・」
あすみ「――うん! せっかくだから,渋谷を満喫しましょう!」
あすみ「そうと決まれば,駅にいるはずのハチを見に行きましょう!」
あすみ「あの時は「駅に人だかりがあるな~」と思ってただけで,実際にハチを見なかったのよね」
あすみ「まさか,後であんな有名になるとわ思わなかった。 さっそく行きましょう!」

〇田舎駅の改札
  ざわざわ・・・
あすみ「すごい人だかり。 みんなハチを見に来ているのね」
ハチ「・・・・・・」
あすみ「あっ!本当にいたわ。 主人をずっと待っているなんて健気ね」
あすみ「まさかこの犬が,渋谷のシンボルになるなんて誰も想像してないでしょうね」
あすみ「ハチ!」
ハチ「!!」
あすみ「東京中の人があなたの味方よ!」
ハチ「ワン!」

〇田舎駅の改札
あすみ「さて,次はどうしましょう・・・」
  ざわざわ・・・
通行人A「――今日はツェッペリンが見られるかもね」
通行人B「――空飛ぶ船ってどんなだろう?」
あすみ「・・・ん? ツェッペリン?空飛ぶ船?」
あすみ「そうよ飛行船! 今日は飛行船のツェッペリン号が日本に来る日なんだわ!」
あすみ「あの時は,道玄坂の上から見たはず!」

〇空
あすみ「はぁはぁ・・・ えっと,どっちの方向だろう・・・」
あすみ「あっ!! 見えた!」
あすみ「うわ~すごく大きい──」
あすみ「・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・」
あすみ「あぁ今日は夢のような一日だった。 本当にこの時代は毎日がワクワクしていたわね」
  ・・・・み・・ん
  ・・あ・み・・ん
  ・・あすみ・・ん
  ・・あすみさん・
あすみ「――??? 誰かが私を呼んでる・・・?」

〇病室
花田「あすみさん! あすみさん!!」
あすみ「――!!??」
花田「良かった! 目が覚めて・・・」
あすみ「・・・先生? あれ・・・?」
花田「大丈夫ですか? なかなか目を開けないから心配しましたよ」
あすみ「ええ,大丈夫です──」
あすみ「・・・あの,先生。 そこの手鏡をとってくれますか」
花田「えっと・・・ はい,どうぞ」
あすみ「・・・あら お婆さんに戻ってる」
花田「何を言っているんですか・・・? もともと,お婆さんじゃないですか?」
あすみ「いやいや。 私も90年前は少女だったんですよ」
花田「そ,そうですよね・・・ 失礼しました」
花田「それにしても,すごい笑顔で眠っていましたよ。 よほど楽しい夢を見ていたのですか?」
あすみ「夢・・・?」
あすみ「――先生。 もし私が過去に戻ってきたって言ったらどうします?」
花田「えぇ!? 一応,脳の検査をするかもしれません・・・」
あすみ「フフ,冗談ですよ」
花田「まったくもう・・・」
花田「でも,今日は退院前の検査がありますからね。 それでは後ほど──」
あすみ「――先生!」
あすみ「やっぱり渋谷ってワクワクするわね!」

コメント

  • 渋谷は学生時代の思い出の街なので興味深く拝読しました。あすみさんの病室まで109号室とは、恐れ入りました。渋谷に限らず、それぞれの街のご長寿に当時の様子を聞いたら面白いでしょうね。

  • 渋谷に対するワクワク感はそのままに、なんというかグイっ!と一気に渋谷に対するイメージが広がった気がしました。この作品を読めて良かったです。

  • あたたかい優しい気持ちになりながらもノスタルジックでちょっぴり切なくもなりました。私たちは皆年を重ねて、あすみさんのようにおばあちゃんになるけれど、だれしもが昔は少女、少年。目を閉じればその景色はいつでもそこにあって、当時の想い出の場所にはいつでもいける。そういう想い出を胸に生きていくのもいいなと思いました。あすみおばあちゃん退院が楽しみですね。

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ