君は何を見る(脚本)
〇路面電車の車内
青年「なんで俺たちってわざわざ渋谷に来るんだろうな」
電車に揺られ何駅か過ぎたころ青年は口を開く。悟りを開いたようにも聞こえる発言に隣にいた友人は「どうした」と尋ねた。
青年「片道何時間もかけて来たのに買ったのはリップ一本だけだからだよ」
友人「別にいいじゃん」
青年「良くない、こんなの地元の薬局でも買える。なんだったら電車賃の方が高いくらいだ」
そこまで聞いてようやく発言の意図を理解した。
友人「じゃあ都心価格って事で」
青年「高すぎるだろ!」
青年の返しに友人は笑う。
そして真顔に戻ると話を続けた。
友人「でも散々悩んでそれを選んだんだから良かったんじゃないか」
青年「そうかな・・・・・・」
不貞腐れたように返事をする青年を見て友人は内心渋谷に来る理由を考えた。
渋谷は流行、若者の街など呼ばれて多くの人々が集まる場所である。確かに話題の店は沢山あるが自分たちはそこが目当てではない。
正確に言うと話題の場所に向かおうとするのだがあまりの人の多さに毎回途中で断念する。
歩き疲れて休もうと思ってもカフェは常に混雑しており空いている席もない。
そして結局そこら中にあるコーヒーショップで飲物を買い、そこら中にある服屋でありふれた服を買うのだ。
確かに彼の言う通り地元でも構わない。
むしろそちらの方が落ち着けるだろうと思うがそれでも休みになると度々渋谷に訪れていた。
そこまでして来る理由とは何か。
友人は青年の顔を見る。
彼はスマホを操作してSNSを開き、お気に入りのインフルエンサーの新着投稿がないか確認をしていた。
友人「新しい投稿あった?」
青年「昨日アップしてたBBクリーム紹介を今見た。もう少し早く見ていればこれも買ってたのに」
友人「地元で買えばいいじゃん」
青年「あー・・・・・・それは」
散々地元で買えば良いと謳っていたはずの青年は口籠る。その理由を友人は知っていた。
友人「じゃあそれが渋谷に来る理由だな」
青年「はあ?」
面食らった表情を浮かべる青年を見て友人は口角をあげる。
友人「好きな事に一直線。それが渋谷に行く理由だよ」
青年はメイクが好きだった。
昔からテレビに出てくるモデルやアイドルに憧れておりいつも彼らのようになりたいと話していた。
しかし現実は厳しく男性がメイクをするのは未だ一般的ではない。
地元で化粧品を見ていると物珍しい顔で他の客から見られる事があるのを友人は知っていた。
それを無意識に自覚していたのか彼は曖昧な返事をしたのだ。
青年「・・・・・・お前よくそんな恥ずかしい事言えるよな」
友人「そう?自分を信じて努力する人間は大好きなだけだよ」
別に目的はなくてもいい。
ただそこに行くだけでなんとなく楽しくなれるし流行に乗れた気になる。
好きなものを見て、帰るのが渋谷という街なのだ。
誰も自分の事を知らない土地にいくのって、開放的な気分になれていいですよね。混雑していて気持ちが落ち着かずカフェでお茶をするのが難しくたって、その都会の雰囲気を味わいに行くのだと思います。世代、性別は違っても共感できました。
フラッと旅をしたくなる様な物語でした😌
ただ淡々と会話がされていくのが印象的で、
何気ないこんな日常もまた愛しいですね😊
誰かと買い物に行く時、確かに理由なく行くことってありますよね。
別にほしいわけじゃないけど見てみるとか、よくあります笑
そして友達に時間の無駄じゃね?とか言われることも笑