声優 イン ポッシブル〜アラサー女が演技未経験で声優を目指したら〜

星名 泉花

voice【12】スクラップアンドビルド。星の中のスター。(脚本)

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〇オーディション会場の入り口
石動 凛子(一次審査。 いつもと違う場所、違う時間)
石動 凛子「大丈夫よ。 たくさん練習してきたんだから」
石動 凛子「ここでバッチリ決めて二次審査へ! それがこの私の一年の集大成よ!」
  私は「言葉」に「声で返す」と決めた。
  それが私のはじまり。
  だから紫亜くんの言葉にも応えると決めた。
  でもそれはそれ。
  私は、努力して圧倒さえすれば
  年齢関係なく”一番”をとれると信じてきた。
  私は絶対に、一番をとらなきゃいけないの。
  もしかしたら、思わぬ所で買われてるなんて、
  そんな淡い期待をしてしまう
  私は前例になる。
  型を破って、年齢の関係ない
  『声優ドリーム』を勝ち取るんだから。

〇オフィスの廊下
事務局の人「1〜6番の方。 当日課題の封筒を持って着いてきてください」

〇オーディション会場
審査員「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
石動 凛子(審査、複数人なのねぇー)
審査員「では自己紹介のあと、そのまま自己PRしてください。終わりましたら、事前課題の発表をお願いします」
審査員「では・・・」
受験生「は、はい! アタシは──・・・」
石動 凛子「石動 凛子、30歳です。 私は──」
受験生「週3から働きたい。 フルタイムでがっつり働きたい。 そんなあなたにピッタリな求人を──」
石動 凛子「煌めく目元。 シャンパンゴールドに酔いしれて。 日常を華やかに彩るアイシャドウ・・・」
受験生「歌手のるんぱむみゅぱみゅぱが 農商務省特許局許可済みの歌唱曲を・・・」
石動 凛子「車掌が社食咀嚼してソシャゲー創作で上海にサンシャインして車道邪道と書道に精進したそうだ」
審査員「では当日課題としてお渡ししたプリントを見て、対話をしてください」
審査員「指示は記載の通りです。 では、はじめ!」
受験生「この箱を開けるには呪文が必要だって」
石動 凛子「呪文? 「この箱を開けられるのは正しく読めた者のみ」──って」
受験生「ここはアタシが・・・「許可局長対局部局作曲家が北極で極光に共鳴せよとホッキョクグマに極論を協議し出した今日」」
石動 凛子「そんな当てずっぽうな・・・。 「鮭が酒に酒酔いしケサケサと酒井さんが叫ぶさけ避けんとケセラセラでさけとばさーおめでとう」」
受験生「これで開くとはどういうことよ」
石動 凛子「箱は開いた、さぁ中身は──」
審査員「はい、じゃあ最後にこちらから質問します」
審査員「石動さん。 あなたは声優になったとき、自分は声優として売れると思いますか?」
石動 凛子「売れます」
石動 凛子「私の声が届くまで。 届いたその先も声を出し続けるからです」
審査員「わかりました。 ありがとうございます」
「では──」

〇説明会場(モニター無し)
小鳥遊 真緒「はい、これで全員であわせる練習は最後です」
小鳥遊 真緒「これをきっかけに これから自分がどうなりたいのか」
小鳥遊 真緒「皆さんが表現する 『声優』を楽しみにしています」
小鳥遊 真緒「おつかれさまでした!」
石動 凛子(わからない)
石動 凛子(みんな、何かしらの答えを持ってるのかな?)
  おもしろいと褒めてもらえたじゃない
廻 心春「・・・石動さん」
廻 心春「少し、お話出来ませんか? ・・・二人でお話したいです」
石動 凛子「うん。いいよ」
石動 凛子「私も廻さんと話がしたかった」

〇レトロ喫茶
「・・・・・・」
石動 凛子(よく考えたら廻さんとあまり話したことないな。やっぱりめちゃくちゃかわいい・・・)
石動 凛子(アイドル顔だよね。 正統派でいけそうだなぁ)
廻 心春「あの・・・」
石動 凛子「は、はい!」
廻 心春「石動さんは どんな声優さんになりたいんですか?」
石動 凛子「どんな?」
廻 心春「私・・・石動さんの演技が好きなんです」
石動 凛子(え、告白!?)
廻 心春「ダイナミックというか、目が離せなくなるんです! はじめて私が朗読劇を見たときに感じたワクワクにとても似てるんです!」
石動 凛子「朗読劇?」
廻 心春「私は人見知りで、あまり表に出るのが得意ではありませんでした」
廻 心春「でもある日、家族で朗読劇を聞きに行ったんです。そこで声と表情でこんなに表現が出来るんだと衝撃を受けました」
廻 心春「その朗読劇に使われた題材が、元々好きな本だったんです」
石動 凛子「あ・・・」
廻 心春「石動さんの演技は本当に全力投球で、 私もその空気に入り込んでしまいます」
廻 心春「こんなに没入感のある人ってすごいと。 声も素敵だからなおさら聞いてて心地よかった」
石動 凛子「あ、ありがとう。 廻さんみたいな子に言われると照れる・・・」
廻 心春「前から思ってましたけど、石動さんは私を化け物とでも思ってるんですか!?」
石動 凛子「い、いや。 そういうわけではなく・・・」
石動 凛子「廻さんの演技が・・・魅力的なの」
石動 凛子「まるでそこにキャラがいるかのような 立体感のある演技・・・」
廻 心春「・・・ありがとうございます」
石動 凛子(私が頑張ろうとしてもたどり着けない領域)
石動 凛子「廻さんはどうやって役作りをしているの?」
廻 心春「え?」
石動 凛子「ローズマリーもジェーンも、 そこにいるように感じたの」

〇幻想2

〇レトロ喫茶
廻 心春「・・・私、キャラじゃないですよ」
石動 凛子「え?」
廻 心春「私は観客席を裏切らないことしか出来ません」
石動 凛子(観客席?)
廻 心春「的外れな演技は、観客を失望させます。 だったら観客が求める役を再現することが 私の仕事だと思ってます」
廻 心春「だから・・・その分私の欠点もわかってます」
廻 心春「私の演技は表面だけ。 本気で役のことなんて考えてなかったんです」
廻 心春「私には石動さんほど引き込む力はない。 あの没入感は世界に入ったときに観るもの」
廻 心春「石動さんの演技が正解かはわからない。 でも石動さんの演技はいつだって全力だった」
廻 心春「私は誰かの感動になれない。 だって無難を選んできたから」
廻 心春「私なりの『解』がなかったんです」
廻 心春「間違いではないけれど正解でもない」
廻 心春「まるで声のマシーン。 私でなくても成立する『代替品』の声優です」
廻 心春「石動さんのような唯一無二じゃない」
  そっか
石動 凛子(この子の内側にこんな葛藤があったなんて 知らなかった)
石動 凛子(今更かもしれないけど、 この子はこの子で一生懸命なんだ)
石動 凛子(器用にこなして見えるからって 何も苦しみがないわけじゃない)
石動 凛子(若いと嫉妬していたけれど、 本当にあの場にいる子たちは若いんだ)
石動 凛子(七海さんも、木嶋さんも、 苦しい気持ちにつけこまれていた・・・)
石動 凛子「これから見つけていくんじゃないかな?」
石動 凛子「納得出来ないかもしれないけど、 ”無難”が廻さんにとっての 最善だったんじゃないかな?」
廻 心春「私にとっての最善?」
石動 凛子「誰かが求めるとおりに演じるって とても難しいことだと思う」
石動 凛子「それが出来てる廻さんは これからそこに自分を足していくんだよ」
石動 凛子「苦しいかもしれない」
石動 凛子「誰かと比較して比較させられて、 自分が何のために演技をして、 声優を目指すのかわからなくなるかも」
石動 凛子「それでも廻さんは進んでいく。 あなたは誰かのために 『声優』であろうとしてるんだよ」
石動 凛子「きっと私はそんなあなたに憧れて、 スターを見たんだよ」
廻 心春「スター?」
石動 凛子「あなたは誰かの憧れになる側の人よ。 そして夢を魅せる役者なんだわ」
廻 心春「で、でも私は何もない! 今回の奥さん役だって、あんな裏側までの解釈は出来なかった──!!」
石動 凛子「・・・あれにあなたの求める再現性はあった?」
廻 心春「え?」
石動 凛子(そう、あれは奥さんではない。 奥さんをベースに創造された私だけのキャラ)
石動 凛子「あなたの言葉で気づいた。 私は一度たりとも再現性のある声優でなかった」
  最低の役作りだった
石動 凛子「ありがとう」
廻 心春「・・・私、石動さんの演技が好きです」
廻 心春「大好きです。 だって、いつだって叫んでたから」
廻 心春「石動さんと同じ養成所に行けて良かった。 出会えて本当によかった」
石動 凛子「そんなセリフはまだ早いよ」
石動 凛子「そうでしょ? 若嫁さん」
廻 心春「はいっ!!」
(・・・叫んでた、か)
(本当に・・・最低なことをした)
(紫亜くん・・・)
  まだ間に合うかな?

〇女性の部屋

〇仮想空間
アナスタシア「な、なにかな? 話って・・・」
サーシャ(石動 凛子)「・・・あのね、私」
サーシャ(石動 凛子)「声優目指すの、やめようと思う」
アナスタシア「え?」
アナスタシア「な、なんで? 何があってそんな・・・」
サーシャ(石動 凛子)「あのね、アナ。 私の舞台、観に来て欲しい」
アナスタシア「・・・うん」
アナスタシア「行く! 絶対行くから!」
  ありがとう

〇女性の部屋

次のエピソード:voice【13】きこえる。私の声、あなたの言葉

コメント

  • 今回のお話もとっても面白かったです😊
    星名さんのこちらの作品、とっても読みやすいなぁって改めて感じました。
    地の文と台詞とエフェクトのバランスがとても良いですし、サクサク楽しんで読み進められます✨私好みなのかなぁ😍
    凛子ちゃんの新たな決意、応援してます❗

  • オーディションの台詞、みんな一生懸命なのに、確かに笑わせてもらいました。
    ついに心晴チャンと直接対決!
    切ない無いものねだりというか、皆、自分の葛藤と闘っていたんですね。
    女の友情、アツいです!
    心晴との素敵なエピソードが、凛子の足りない何かへの気づきになって、ラストまで無敵モードかと思いきや…え〜!!凛子〜!?

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