〇電車の中
　　20××年○月△日21時36分17秒、東京都全域がブラックアウトした──

〇電車の中
高木唯（うわ）
高木唯（停電・・・？）
乗客A「なになに？」
乗客B「何かあったのかな」
　　本日は、□□線をご利用いただきまして、誠にありがとうございます
　　只今停電が発生したため、電車を一時的に停車させていただいております
　　復旧まで、しばらくお待ちください
乗客C「ねえ、聞いた？停電だって」
乗客D「おい、見ろよ。ここら辺、明かりが一個もついてない」
乗客E「東京全体で停電してるらしいよ」
高木唯（え、まじか）
高木唯（早く家に帰って、明日の資料まとめなきゃいけないのに・・・）
　　大変お待たせ致しました
　　只今、一両目のお客様から順にご案内をさせていただいております
　　車掌の指示に従い、ゆっくり、焦らず前の方にお進みください──

〇東京全景
車掌「線路上を歩いて、最寄りの渋谷駅まで向かってください」
高木唯「わかりました。ありがとうございます」
高木唯「うわ、ほんとに真っ暗だ」
高木唯「線路の上を歩くなんて、生まれて初めてだな・・・」
　　しばらく歩いていると、見覚えのある建物が目に入った
高木唯「あ、あれ」
高木唯「渋谷駅だ」
高木唯「電気がないだけで、随分違って見えるんだな・・・」

〇渋谷駅前
　　渋谷駅は、電車が止まって帰れない人たちで溢れかえっていた
高木唯「はあ、やっとついた」
高木唯「早く帰らなきゃ・・・」
高木唯「タクシーは・・・」
タクシー運転手「お客さん、だからね、今は信号にも電気が来てないので、タクシーを動かすことができないんですよ」
高木唯「あ、そうか・・・」
高木唯「じゃあ、バス、もだめか。信号が止まってるんだから」
高木唯「どうしよう・・・」
　　考えている間にも、渋谷駅前は家に帰れない人たちの姿で埋まっていく
高木唯「と、とりあえず、会社には連絡した方がいいよね・・・」
高木唯「・・・仕事に支障が出ると、上司になんて言われるかわかんないし」
　　そうして、ポケットからスマートフォンを取り出そうとした、その時
通行人「わっ」
高木唯「えっ!?」
　　通行人にぶつかったはずみで、スマホを落としてしまった
通行人「す、すみません・・・」
高木唯「い、いえ、大丈夫ですから・・・」
　　そう返事をしながら、落ちたスマホを拾う
高木唯（ここじゃだめだな。ほかの人の声も入るし・・・）
高木唯（ちょっと離れたところに行こう）

〇渋谷のスクランブル交差点
　　スクランブル交差点──
高木唯「うん、ここら辺だったらいいかな・・・」
　　いつもなら人の往来が激しい交差点が、今日はほとんど通行人がいなかった
高木唯「静かだな・・・」
高木唯「電気がないだけで、こんなに違うんだ・・・」
高木唯「・・・・・・」
高木唯「当たり前だけど、電気だって誰かが働いてるおかげでみんなが使えるわけで」
高木唯「いつでもあるわけじゃないよね・・・」
高木唯「・・・本当に静か」
高木唯「あ、そうだ、電話」
高木唯「・・・・・・」
高木唯「もうちょっと後でもいいか」
　　今はまだ、この景色を眺めていたかった
高木唯「・・・電気、いつぐらいに復旧するんだろう」
　　スマホでネットニュースのアプリをタップし、一番上の記事を開く
　　──現在、職員たちが作業に取り掛かっており、電気はもうすぐ復旧する模様──
高木唯「あ、もうすぐ復旧するんだ。よかった」
高木唯「・・・こんなにも真っ暗なスクランブル交差点、もう二度と見れないだろうな」
　　スマホをポケットにしまい、近くの壁にもたれかかった
　　電気が復旧するまでに、この景色をしっかりと目に焼き付けておこうと思った
　　──数分後

〇渋谷のスクランブル交差点
高木唯「──あ、」
高木唯「点いた」
　　店の看板や、ビルのスクリーンから溢れる光が眩しい
高木唯「うん、やっぱり、暗い渋谷もいいけど、」
高木唯「明るい方がいいな」
　　いつも通りに戻っただけのはずの渋谷の街は、
　　いつもよりちょっと、魅力的に見えた
高木唯「・・・さあ、帰って資料の続きをしなきゃ」
高木唯「電車は混んでるかな、バスの方が・・・」
高木唯「・・・・・・」
高木唯「・・・今日くらいは、休んでもいいかな」
　　近くの居酒屋にでも入ってみようか
　　それとももうちょっと遠くまで歩いてみようか
高木唯「・・・歩きながら探せばいいか」
高木唯「だって、」
　　夜はまだまだ長いのだから──